予告編には、"Based on actual events" と出てくるが、この映画で描写されているようなことは実際には起きていない。いわゆる「事実に基づいた映画」ではなく、「事実(実際の出来事)から、作家が想像力を膨らませて作り出したフィクション」である。
舞台は2006年10月のスコットランド、セント・アンドルーズ。北アイルランド自治議会(議事堂のある場所の名をとり、「ストーモント」と呼ばれる)は2002年の「ストーモントゲイト」(IRAのスパイが議会に入り込んで情報収集を行っているとして議会が停止された。しかし2005年に「スパイ」たちへの起訴が取り下げられ、そのような事実があるのかどうかさえわからなくなった)で停止され、英国(ウエストミンスター)の直轄統治 (direct rule) が行われていた。「ストーモントゲイト」後の2003年に行われた自治議会選挙では、それまで(つまり停止された議会において)ユニオニストの第一党だったUUPが第一党の座から転落し、1998年の和平合意(グッドフライデー合意、GFA)に反対してきた「過激派 hardliners」のDUPが取って代わった。ナショナリストの側でも、「IRAの政治部門」であるシン・フェイン(SF)が、それまで第一党だったGFAを主導したSDLPをしのぐ議席数を得た。「IRAによるスパイ活動」で停止した自治議会を何とか再起動させなければならないのに、「有権者の意思」に任せたら「30年以上、反IRAの急先鋒であり続けている人物の党」と「IRAの政治部門」がトップに来るという結果になってしまい、当時まだ全然不安定だった「北アイルランド和平」に携わる人々、誰もが頭を抱えた。そのまま、交渉 (talk) への努力は続けられたが、DUPとSFではそもそも話 (talk) になるはずもなく、全てが難航した。2005年7月下旬には、IRAが武装活動の停止を宣言したが(結局のところ、最大の妨げとなっていたのは「IRAがまだ存続しているのに」ということだった)、それではユニオニスト強硬派にとっては全然足らなかった。ユニオニストにとっては「IRAが消えてなくなること」こそが必要だった(まあ、どうなれば「IRAが消えてなくなった」と認められうるのかがわからないのだが……今もまたIRAと関係がないはずのSFの政治家が、IRAの死者を追悼する行事でスピーチを行って炎上中だ)。
GFAで設置されたストーモントの議会(アセンブリー)は、一般的な議会の「与党と野党」というシステムではなく、各政党の獲得議席数に応じて閣僚を割り振る「パワー・シェアリング(権力・権限の分譲)」のシステムで自治政府(北アイルランドではExectiveと呼ばれる)を構成する。「多数派」であるユニオニストが権力を独占してナショナリストを虐げてきたかつての議会(パーラメント)と自治政府による政治が武力紛争を引き起こしたので、これからはそういうふうにならないようにしようということで設計された制度だ。しかしDUPは、「IRAと権力分譲をするなどありえない」というスタンスを貫いてきた政党で、それが2003年の選挙では有権者の最大の支持を集めた。ストーモントの再起動ったって、根本的に矛盾している。
そして「北アイルランド和平」の当事者たち(北アイルランドの諸政党、英国政府、アイルランド共和国政府、米国政府を含む国際社会)による「合意の形成」へ向けた交渉は、熾烈を極めた。
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