「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2019年03月04日

ある言説や思想がトンデモであることは、それが社会的に共有されることを全然妨げない: 陰謀論についての注意喚起のために

2001年9月11日の所謂「米同時多発テロ」から17年半になろうとしているときに、今さら「911陰謀論」を自分のフィルターバブル内で見ることになるとは思っていなかった。

だが、逆に考えて、17年半も経過していれば、あのトンデモな陰謀論が「今までになかった新たな説明」みたいに見える人も、それなりに多くいるだろう。ちょうどうちら世代の人々が「アポロは月に行っていない説」など、教科書で事実として扱われていることに「疑問」を「突きつける」言説に新鮮味を覚えたのと同じように。そういうトンデモ言説の中には、南京虐殺否定論のように、一部のトンデモ界隈の外に出て書店の棚をそれなりに埋めるほどにメインストリーム化しているものもある。ホロコースト否定論をぶちかます医療関係者の発言力は、ここ数年で強まりこそすれ弱まってる気配はない(ホロコースト否定論をぶちかましても、「信頼される発言主」というステータスは揺らいでいない)。

トンデモであることは、その言説や思想が社会的に広く共有されることを、全然妨げない。

それだけに余計に、この陰謀論については、それが「トンデモ」だということを知っている者が書いておくべきだろうと思う。たとえその言説や思想そのものをストップすることができなくても(ましてや「潰す」ことなど絶対にできやしない)、それに近づいてしまった人にとって、「そっちは危険だよ」と注意を促すことくらいは、少しはできるだろう。

というわけで、先日のTwitterでの発言をここにまとめておく。


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2019年03月03日

『操られる民主主義』の原著など、ジェイミー・バートレットの電子書籍が300円台なので買うべき。(付: Amazon Kindleで洋書を買うときの注意)

ここ数年、ビッグデータだAIだフェイクニュースだっていうのと並行して、英語圏では「情報通信技術と民主主義」についての調査・検証や考察がなされていて、2018年(特に後半)は日本語の翻訳書の出版も続いた。

そのひとつがジェイミー・バートレットの『操られる民主主義: デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』(草思社)。電子書籍もあるので、書店に出向かずとも読むことができる。

操られる民主主義: デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか
ジェイミー バートレット
草思社
売り上げランキング: 32,318


本書内容より
・アンケート回答がビッグデータに吸い込まれていく
・自分が知っている以上に自分のことが知られている
・トランプの大統領選とケンブリッジ・アナリティカ
・イギリスのEU離脱、プーチンのサイバー戦の正体
・ネットは人びとの抑えられた感情を増幅していく
・怒りの共有が細分化された「部族」を生みだす
・プラットフォームを持つ企業が市場を独占する
・AIは仕事の格差を産み、社会の分断が加速する
・仮想通貨とブロックチェーンが揺るがす社会基盤

◎本書もくじより
イントロダクション テクノロジーが社会を破壊する?
第1章 新しき監視社会――データの力は自由意志をどのように操作しているのか
第2章 「部族」化する世界――つながればつながるほど、分断されていく
第3章 ビッグデータと大統領選――デジタル分析が政治のありかたを揺るがす
第4章 加速する断絶社会――AIによって社会はどうなるのか
第5章 独占される世界――ハイテク巨大企業が世界をわがものとする
第6章 暗号が自由を守る?――国家を否定する自由主義者たち
結論 ユートピアか、ディストピアか
エピローグ 民主主義を救う20のアイデア


このテーマでのバートレットの講演:



で、昨日調べものでamazon.co.jpである書籍のページを閲覧したとき、そのページの下部に、
  The People Vs Tech: How the Internet Is Killing Democracy
  Jamie Bartlett
  ¥320
と表示されているのに気付いた。というか正確には、「¥320と見えたのは見間違いで、¥1,320かな」と思ったので二度見した。

見間違いではなく、Kindle版が本当に320円だった。その場でamazonにログインしてこのKindle版を購入した(そして「デジタル積読」をまた増やしてしまった……)。


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2019年02月26日

Twitterが自動で表示してくれる「重要なツイート」が、なかなかポイントを押さえている件

Twitterでは基本的にHomeはlatest Tweetsを表示させるようにしてあるのだが、しばらくHomeを見ずにいると勝手にリセットされて、top Tweetsが表示されていることがある(スマホのアプリの場合)。

Top tweetsというのは、自分が見ていなかった間(ログインしていなかった間、アプリを立ち上げていなかった間)、自分がフォローしている人たちがツイートしたりリツイートしたりしたものの中で、システムが「重要」と判断したもののことだ。私の場合、私が寝てた間とか仕事してた8時間くらいの間になされた米英のジャーナリストや学者、活動家の発言のうち、その日の主要なトピックに関連したものが表示されていることが多い。

定番としては英国ではBrexitの話(私がTwitter見ていられる時間にうんざりするほどフォローしてるんだけど、それでもまだ見落とされるツイートが大量にある)、米国では、少し前になるが連邦政府機関閉鎖の話や国境の話が目立っていた。ほか、アフリカ特派員がツイートしているDRCなどの情勢など、ガーディアンやロイター、BBCのウェブサイトをチェックしてても目にしないようなトピック(それも6時間前にツイートされたもの)が流れてきていたりしてて、機械的処理にしては精度が高く、なかなか実用的だ。私がフォローしている人のなかには、例えば「アメリカ人の軍事系ジャーナリストで、ツイートの半分くらいは雑談やスポーツの話」という人もいるのだが、雑談やスポーツの話がtop Tweetsとして表示されることはまずなくて、そのアカウントからは地政学や国際関係についての話がtop Tweetsとして表示されている。

というわけで、(日本語で見たときにはどうなのかわからないが)英語で見る限り、Twitterはなかなかがんばっているという印象を抱いていたのだが、昨日は「なかなかがんばっている」どころか、「有能な秘書がついている」ような感覚になった。

個人的にBrexit関連に気を取られているので、米国、というか米大陸の話題はあまりよく見ていないのだが、ここ数週間でベネズエラ情勢がかなり緊迫してきていて、この数日はいよいよアレな感じになってきていることは把握している。これについてTwitterのような場で下手に発言するとロックオンされたり「CNNを信じているアホ」と罵倒されたりすることになるから、自分からツイートはほとんどしていないが、見出し程度は見ているし、ツイートされてきた報道記事のURLをクリックしたりもしてはいる。だからTwitterでは、「@nofrillsのアカウントの中の人は、ベネズエラ情勢について少しは関心がある」というくらいには把握していることだろう。私がTwitterに渡している情報(閲覧履歴など)で十分解析できる範囲で把握できることだ。

そうやってウェブサービスの運営側に自分の情報を渡した場合、少し前まではフィードバックといえば「表示される広告が『あなたの関心にあったもの』になります」とかいう程度だったのだが(しかし私のネットでの調べものは、例えば翻訳の作業で「人体の部位の名称を調べる」とかいうことがほとんどだから、それに基づいて「関心」を判断されて「膝のサポーター」のようなものの広告がガンガン表示されても、個人的な関心とは関係ないというオチがついている)、Twitterのような場ではもっとダイレクトに「自分のフィルターバブルの中に入ってくる情報で、なおかつ自分が見落としているもの」になってきている。私はFacebookは使っていないからFBのことはわからないが、FBではTwitterと同様かそれ以上に、この感じで物事が動いているだろう(しかもかなりエグいものがバンバン飛び交っていることだろう……日本語圏でも「ダ○○クト出版」なる広告主がGoogleの広告でやたらと出てきて、その陰謀論めいた文言にはうんざりさせられているのだが、FBではああいうのが普通に飛び交っているはずだ)。

ともあれ、私が「有能な秘書がついている」ような感覚になったのは、下記キャプチャにあるような一連のツイートが表示されていたことによる。Twitterでは「親ツイート」に対する反応を簡易的にまとめたような画面で表示してくれるのだが、その「親ツイート」は私にとっては観測範囲外、米共和党のマルコ・ルビオ議員の発言だ。

その発言は、現在のニュースとしてはベネズエラ情勢の文脈にあるのだが、テクストではそれが明示されていない。というか、ルビオ議員は写真をツイートしただけだ。そしてその写真に対し、私がフォローしている人たちが反応している。そこに、通例コンピューターの自動処理にはあまり期待できないような「文脈」があったので、感心してしまった。

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2018年12月31日

共訳書が出ました(ウィリアム・ブルム『アメリカ侵略全史』作品社)

10年以上前に翻訳に携わった共訳書が、今月、店頭に並びました。著者は米国人の元国務省職員でジャーナリストのウィリアム・ブルム氏、訳者は益岡賢さんと大矢健さんと私(いけだよしこ)で、原著のタイトル(原題)はKilling Hope: US Military and CIA Interventions Since World War II(直訳すると「希望を殺すこと: 第二次世界大戦以降の米軍とCIAによる介入」)、邦題は『アメリカ侵略全史』。版元は数々の重要な本を出してこられた出版社さんで、Twitterでも注目を集めている株式会社作品社さんです。

内容はタイトル通りで、全56章プラス序章や補章からなる、全部で700ページを超える分厚い本です。しかも上下二段組。原注もそのまま入れていますし、訳注もがっつり入れたので、みっちり詰まってます。むしろ、詰まりすぎ。こういうクリスマスのお菓子が中欧にあるよね、的な詰まり具合です。私の担当は中東(特にイラン、シリア……翻訳作業をしたのはイラク戦争の時期だったのですが、訳稿が塩漬けになっている間に中東の情勢がああなって、よりによって2018年、一番ホットなところじゃないですかー、的な地域。レバノンも入ってますけど)とドイツですが、本全体から見ればそれはごくごく一部にすぎず、中南米、アフリカ、アジア(東南アジア)、西ヨーロッパと満遍なく、表題の件が胸焼けするほどの密度で詰め込まれています(表題の件はペラ1枚でも胸焼けしますが)。

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装丁はソフトカバーなのですが、持った感じはハードカバー。というか辞書。出版社さんから送っていただいた出来本を受けとったとき、思わず「ぐは」と声が出たほどです。今日立ち寄った書店さんでは棚に表紙を出して並べてくださっていましたが、分厚いので2冊載せればスペースいっぱい。という具合ですから、書店でのお買い上げ、ご自宅でのお読みの際は筋肉痛にご注意ください。

ご参考までに、今年初めに出た同様のテーマの本、ジョン・ダワー『アメリカの暴力の世紀』(ハードカバー)との比較写真です。ダワーの本が理論的なまとめとすれば、ブルムのこの本は実証的というか資料を丹念に読み込み、細かく引用した検証と言えるかもしれません。

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米国の外交政策(というか国際的な軍事政策)について、私は個人的に「オバマ大統領の時代はよかった」とは思っていないのですが(やっぱドローン攻撃のこととか、ちょっとひどすぎるんですよね)、それでもトランプ大統領の今の時代……特に「イスイス団終了のお知らせだぁ、ひゃっはー。これで米軍はシリアから引き揚げますっ!」的な、あまりに単純すぎ性急すぎる判断が出てしまうという現実(そしてそれがあっというまにひょっとして取り消しになんの? とすら思ってしまうような展開を見せるという不安定で不確かな現実)の中では、「オバマは少なくともまともだった」と思ってしまうし、そう書いてしまう。その「まとも」はあくまで「ポリシーの継続性」とかいった政権運営のノーマリティという意味でしかないのですが、あまりにたびたびそう思わされることがあると、たまにオバマ前大統領のニュースがあると「オバマの時代はよかった」的なことを思ってしまいます。でもそれはイリュージョンなんです。

そういうことがわかる一冊です。

もちろん、「アメリカはこういうことをしている」は、「こういうことをしているのはアメリカだけ」という意味にはなりません(「みかんは果物である」は、「果物はみかんだけである」にはならないし、「みかんだけが果物だ」にもならない)。けれども「アメリカはこういうことをしている」ことにかわりはないわけです。そしてアメリカは実際問題として「唯一の超大国」。

まあ、この情勢下、個人的には、アメリカ以外のcovert operationの当事国についてもどんどん調査・記録が進んでほしいと思っているのですが。【続きを読む】
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2018年12月07日

フランス、ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)の抗議行動を伝える英語圏に関するメモ(含: 情報戦について)

ネット上の日本語圏ではなぜか「イエローベスト」という英語で語られたりもしているフランスの「黄色いベスト」(現地語で「ジレ・ジョーヌ gilets jaunes」)をシンボルとする大規模な抗議行動について、というかそれが英語圏でどう語られているかについて、1本ブログ記事を書こうとしていたのだが、あいにくその気力も体力も知力もないので、ツイートしたものをお手軽にまとめておこうと思う。こんな記録でも、自分のブログに何もないよりはましだ。

簡単に今回の抗議行動についてまとめておこう。抗議行動のシンボルとなっている「黄色いベスト」は車を運転する人が車に載せておくことを義務付けられているものである。車が故障した際に赤い反射材でできた三角形の表示を出すと同時に、運転者はこの黄色いベストを着用することになっている。つまりこのベストといえば「車を運転する人」の意味になる。特に「トラック運転手」とか「農業従事者」とかいった区別なく、「車を運転する人、すべて」だ。

彼らが抗議しているのは、少なくとも発端としては、政府がディーゼル燃料にかかる税金を増税し、燃料が大きく値上げされたことだ。増税は、化石燃料への課税を大きくして非化石燃料への転換を促すために行なわれたもの。依然、ディーゼル燃料への依存が高いフランスにとっては、環境負荷を小さくしていくことは大きな課題だ。そのためにマクロン大統領はエコカー購入に補助金を出すと同時に、ディーゼル燃料にかかる税金を増やすという手を打った。やりようによってはうまくいったのかもしれないが、マクロンのやり方は完全に悪手だったようで、全国的な抗議行動を引き起こした。

BBCの映像報告(BBCのナラティヴは気になるが)。車がないと生活が成り立たない人の声。「ミドルクラスが消え去って、社会は富裕層と貧困層に両極化した」。「1968年5月の再来だと言う若い人たちもいる」:


この直接行動が始まったのは11月17日(土)で、初日に死者が出たのでBBCなど英語メディアでも少し大きく報じられていたが(でもそのときには日本語での大きな報道はなかったようだし、日本語圏で事態を注視している人もあまりいなかったかもしれない)、国際的トップニュースの扱いを受けるようになったのは2週目の土曜日に「暴動」っぽい状況になったあとだった。日本語でもその段階で「デモ隊が暴徒化」というお決まりのフレーズで報じられるようになり、そうなると今度はニュースを見た人の「これはひどい」という伝言が加速する。初日に死者が出ていることも知らずにいて、「暴徒化」云々で騒げる人たちは、よほど「デモ」が嫌いなのだろうと思う。あるいはパリについて旅行雑誌の描くようなイメージで決めてかかっているか。

とはいえ私も、17日のニュース記事を見たとき、最初は「はいはい、フランスのデモ、フランスのデモ」で終わると思っていた。BBCなどにおいて、「フランスでのデモ」は一過性のニュースで終わるのが常だ(だから英語圏でも最初は扱いが大きくなかったのだと思う。道路上のバリケードに関連した事故が原因で不幸にも亡くなってしまった方々がおられるが、「国家の暴力装置」などニュースになる背景があったわけではなかった)。だから今回もまた、デモを組織している労組なり何なりが「人々の怒り」を政治家たちに見せ付けたあとで、交渉の局面に入るのだろうと思い込んでいた。それにタイミング的にBrexitをめぐるあれこれが(特に北アイルランドで)進行していたし、個人的な関心はフランスには向かなかった。

しかし翌週(24日の週末)もフランスからのニュースは続いた。シャンゼリゼがデモ隊に封鎖されるなど事態はますます激しくなり、警察によって催涙ガスやウォーターキャノンが使われた。「デモ隊(の一部)が暴徒化」という定型表現に落とし込めるようになっていたからか、日本語での報道もなされているようだった(ろくに見てないけど)。デモが暴力的になり、マクロンはそれら「暴徒」を非難するという反応を見せた。後のマリー・アントワネットである。

そのときのBBC News記事が下記。よくまとまっている。

France fuel unrest: 'Shame' on violent protesters, says Macron
25 November 2018
https://www.bbc.com/news/world-europe-46331783

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2018年12月05日

「化粧筆を贈呈」のレベルではない、バロンドール授賞式での公然たるセクシュアル・ハラスメント

フランスのサッカー誌(紙)が主催するサッカーの最優秀選手賞、バロンドール(英訳すれば「ゴールデン・ボール」)で、女性部門が今年から新設された。「女性初のバロンドール受賞者」となったアーダ・ヘーゲルベルグ(リヨン)は、男性部門受賞者のルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)、若手部門と言える「コパ・トロフィ」受賞者のキリアン・ムバッペ(エムバペ)と並んで、最高の笑顔を見せていた。

Embed from Getty Images
※ゲッティのキャプションが間違っている。 Ada Hegerbergはスウェーデンではなくノルウェーの人だ。

だが彼女は、フットボーラーとしてのこの最高の日の最高の舞台で、公然とセクハラを受けた。「黄金のサッカーボール」をかたどったトロフィーを彼女に贈呈したフランスの著名人(DJでシンガーソングライターだそうだが)が、壇上で彼女に「トゥワーキングのやり方はご存知ですか」と、へらへら笑いながら言い放った(「トゥワーク」「トゥワーキング」というのは、わかりやすく言えば「尻振りダンス」。女が男に向かって尻を突き出し、くねらせるという動作を行なう)。

瞬間、アーダ・ヘーゲルベルグは凍りついたような笑みを浮かべ、一言「ノン」と答えてその場を離れた。

右から左へ受け流した。

彼女は授賞式の前、「サッカーという男社会と女性プレイヤー」についてインタビューで語っていた。下記ガーディアンの映像は全部で1分程度だが、後半はそのインタビューの映像だ(彼女は英語で語っている)。

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2018年11月05日

米中間選挙直前、仕事の雑な詐欺師が跋扈し、ネットでは「デマ」がばら撒かれている。

11月6日の米国の中間選挙の投票を前に、ヘイト・クライムが立て続けに発生したのと同時に、ネット上の英語圏は「デタラメ」が横行し、その「デタラメ」を暴くとか潰すとかいったことが次々と行なわれて、かなりにぎやかだった(その時期、日本語圏は「渋谷のハロウィーン」とか「英雄扱い」とか「フェミがぁぁぁ」とか「移民がぁぁぁ」で盛り上がってただけかもしれないが)。

中でも「すごいな……」と唖然としたのがこれ。

MeToo便乗デマ: トランプ支持者がでっち上げた「特別検察官の疑惑」が、あまりにも雑すぎて唖然。
https://matome.naver.jp/odai/2154101196908466101

「元モサド職員が設立した調査会社」を名乗る会社(?)が、ドナルド・トランプのロシアとの関係の真相を明らかにしようとしているロバート・ムラー特別検察官(「ムラー」は日本語圏では「モラー」「マラー」などとも表記される)にセクハラ疑惑が! と言い出し、極右陰謀論者や極右の情報サイト(ヲチャは知ってると思うけど、例の「パンディット」のところね)がそれに乗っかって、ネット上でやんややんやと騒ぎ始めたが、そっこうでその「元モサド職員が設立した調査会社」に実態がないことが暴かれた、という顛末。「笑い話」としてまとめておいた。

「実態がない」ってほんとに実態がない。携帯電話のワン切りやスパムメールで行なわれる「あなたのアダルト番組の使用料金が未納になってますよ」詐欺で使われる「○○省何とかかんとか部」みたいな架空のお役所と同じくらい、実態がない。何しろ、本当にネット上にしか存在しない。サイトで「調査会社の職員」として並んでいる人々の写真は、ネット上から拾い集めたものだ。それも写真の見栄えがよい人を選んでいるのか、モデルとか俳優とかが入っている。Google画像検索ではひっかからなかったらしいが、Yandexを使えば一発でバレる嘘だったようで、間抜けすぎて実話とは思えない。昔よくあった「3バカの珍騒動」の映画みたいだ(身内で「博士」とか呼ばれて「あったまいーな、お前!」と褒められる奴がやってそう)。

「笑い話」ではあるのだが、「アミナ」こと「ダマスカスのゲイ・ガール」や、ブラジルの非実在「イケメン戦場カメラマン」や、議員をひっかけるためにネット上の美女の写真を使って「ネカマ」戦術を用いた記者のことなどを思うと、笑えない。

でもやっぱり、雑すぎて笑える。

そして、CNNなどに対し「フェイクニュース!」と叫んでいる側の連中がこういうことをやっているという事実には、やはり、笑えない。




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2018年10月30日

72時間で3件……10月の終わり、中間選挙直前の米国でばらばらに起きた憎悪犯罪

先週後半のアメリカからのニュースはめまぐるしかった。72時間の間に3件のテロ/ヘイト・クライムが、それぞれ別々に、立て続けに起きた。3件のいずれもが、ざっくり言えば「右」の側からの政治的暴力で、「同時多発」という用語は用いられていないが同時多発の状態。たぶんどれかが別のどれかを触発したとかいう関係にさえないのだろうが、ひとつのムードを共有している。

大きく取り上げられているのは3件のうち2件だ。残る1件は、タイミングのせいもあるだろうが、私も記事は1本しか見ていない(英国のメディアをチェックしているからそうなのであり、米国の報道を見てればここまで少ないということはないかもしれない)。ケンタッキー州の食料品店で51歳の白人の男が銃を乱射し、60代のアフリカ系アメリカ人男性2人が殺されたという事件で、警察が「人種が動機となった可能性がある」と見ている、という報道だった。BBC記事のタイムスタンプは27日(土)で、私がメモっているのが28日(日)夜、それっきりこの事件についての報道は目にしていない。容疑者の名前などで検索すれば続報があるだろうが、ほかの2件が大きすぎてそこまで手が回らない状態である。

「ほかの2件」のうち1件は、先週米東海岸と西海岸で相次いで爆発物(パイプボム)が送りつけられた件での容疑者の逮捕・起訴である。ボムが送りつけられたのは、昨今の「陰謀論」では主役を張っているジョージ・ソロス、「陰謀論」の世界では人を殺しまくっているということになっているクリントン夫妻、「陰謀論」の世界では「アメリカ生まれではない隠れムスリム」だったりするオバマ前大統領をはじめとする民主党の要人たちと、映画賞という場でめっちゃストレートなトランプ批判を繰り広げたロバート・デニーロが経営するレストラン、そしてCNN。最初にソロスのところの件が報じられたときには「ユナ・ボマー」とかを連想して長期化するかもと思っていたのだが、1週間もせずに容疑者は特定され逮捕された。爆発物にはイスイス団の旗をデザインしたステッカーに見えるものが貼り付けられるなど小細工がなされていたが、そんなことより指紋か何かが残っていたようで、それが手がかりになったらしい。そして逮捕された容疑者は、筋骨隆々たる50代の元ストリッパーで、数年前に破産して母親と同居しているという人物。所有する白いヴァンの窓に、ネットでしか見ないようなおどろおどろしい「トランプ支持」の図像を印刷したものをべったりと貼っていて、近所の人がいやがっている。SNS使用歴があり、アカウント閉鎖前にサルベージに成功したジャーナリストが分析したところ、ある特定の日を境に、「酒と料理と美女が好きなお気楽マッチョマン」的な投稿ばかりの状態から、急に「イスイス団をぶっ潰せ」みたいな投稿ばかりの状態に変わっているという。その変化に影響していると思われるのは……おっと、ここまでだ。

続きは下記にて。同じことをあちこちに書くのはいやなので。

中間選挙前、米国で連続テロ(爆発物送付、シナゴーグ銃撃など)。トランプは「メディアが悪い!」
https://matome.naver.jp/odai/2154083007447928801

先週立て続けに起きた3件目のテロ/ヘイト・クライムは、1つ前のエントリで書いたGabの件を引き起こした、土曜日のピッツバーグのシナゴーグ銃撃テロである。これは、日本ではどうも「過激な個人のやったこと」扱いがされているようだが(ディラン・ルーフの黒人教会襲撃のような)、より大きな《物語》の中にあることは疑いようがない。つまり「反ユダヤ主義」という《物語》だ。容疑者は「1488」という記号を、SNSの自分のページに掲げるような人物である。

ボム送付、シナゴーグ銃撃、どちらについても、トランプ本人とその政権の反応は、「陰謀論」臭がすさまじい。そしてそれが今のnormである。

その件も、上記の「まとめ」にて。


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「オルタナティヴなTwitter」として知られるGabが居場所を失った件

10月27日(土)、米ペンシルヴァニア州ピッツバーグで、安息日のシナゴーグが攻撃されるという卑劣なテロがあった。トランプ政権はこのテロについて「頭のおかしな個人がやったこと」的な誘導(ざっくり言えば)を行なっているし、今もケリーアン・「オルタナティヴなファクト」・コンウェイが「反宗教」という枠組で片付けようとしているというフィードを見たばかりだが、銃撃を行なった人物は「反ユダヤ主義」に染まり、「陰謀論」を信じ込んで、政治的な目的を持ったテロリストとして指弾すべき人物だ(順番が前後するがこの事件そのものについて詳細はこのあとで書く)。MSNBCのベン・コリンズ記者が掲示している、容疑者が投稿したミーム画像を見れば、どういう方向の「陰謀論」に染まっていたかがわかるだろう。

gaboffline4.png

11人を撃ち殺したこのテロ容疑者が公然と発言するのに使っていたSNSが、GabというSNSである。「オルタナティヴなTwitter」という位置づけのこのSNSは、2016年夏にベータ版がスタートし、2017年5月に本格サービスを開始した。「オルタナティヴなTwitter」というのは、Twitterが(不十分でかなりでたらめな面もあるとはいえ)発言の内容によってはユーザーの活動・サービスの利用を制限・停止することもあるという一方で、Gabは「言いたいことは何でも言える」状態にあるということだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Gab_(social_network)

Gabを設立したアンドルー(アンドリュー)・トーバは、「オルタナティヴ」とか「言論の自由」といった概念を、まったくの中立の観点から使っている人物ではない。「世間は左傾した大企業が牛耳っている」的な世界観の持ち主である。その「言論の自由」は(「政府による検閲が行なわれないこと」などではなく)、はっきり言えば、「陰謀論を主張する自由」であり「人種差別をする自由」である。

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2018年10月28日

「本物は言うことが違うよね」って、「本物」が「戦場が流動的」とか「最強のなんとか」とか言うか、タコ。(ある「デマ」の記録)

安田純平さん解放・帰国のニュースがあって、「ああ、よかった」と胸をなでおろしているときに、またぞろ、ネット上で拡散されているとてつもなく雑な「デマ」のことを知った。

その「デマ」をぱっと見て、「出典を確認するような検証ならネットロアさんが腕をふるってくれそうだが、これはid:hagexさんがこんなふうにつっこみながらまとめてくれるんじゃないかな」と思って、1秒もしないうちにああそうだ、あの人もういないんだ、あの人、私たちから奪われたんだということに思い至った。殺害されるっていうのはこういうことなんだよね。理不尽な暴力が原因で、あの人が新たにものを書くことは二度とないし、あの人が「ネット上のデマ」を見て分析し、ツッコミを入れることも二度とない。

その「デマ」は、安田さんの解放というタイミングで広めている連中には明らかに政治的な思惑があると思われ、つまり英語のrumourを含め「不確か・不正確な情報」を何でもかんでも「デマ」と呼ぶ日常の日本語のおかしな用語法による「デマ」ではなく、定義どおりの「デマ(デマゴギー)」だ。(関係ないけど、かっこつけて「デマ」を「デマ」という省略形を使わずに言おうとして「デマゴーグ」と言ってる人に案外よく遭遇する。著書のあるような人でも混同しているようだが、「デマゴギー」と「デマゴーグ」は、「プロパガンダ」と「プロパガンディスト」くらい、「ギター」と「ギタリスト」くらい、「キャベツ」と「キャベツ農家」くらい意味が違うので注意されたい。)

この「デマ」は、わりと早い段階で「デマである(根拠がない)」と指摘され、報道機関でもその旨報道されているが(HuffPo, 共同通信東スポなど)、2万数千回もリツイートされているそうだし、ネット上にウヨウヨしている「話題になったことをまとめるサイト」や個人ブログ、個人のFacebookなどの投稿を含めれば、「デマ」を「デマ」と指摘する報道が追いつかないくらいに広まっているだろうし、それに、それこそid:hagexさんがずっと問題視していたような、「これはデマかもしれないけど、でも、言ってることは結局は正論/いい話だからいいじゃん?」的なヌルい受容のされ方もしているだろう。そういう場合、「発言主とされている人がこんな発言はしていないにしても、言ってることは妥当」などとして、根拠のない発言が一人歩きする可能性も低くない。つまり私は頭痛がして頭が痛い。特に「反日」「国に迷惑をかけるな」とカキコしたくてウズウズしている人々(いわゆる「ネトウヨ」)の間では、これが「戦場取材の鉄則」として既成事実化されるに違いない。私はやたらと「この道はいつか来た道」と言ってみせるというパターンには鼻白む思いをしている系だが、それでもこれは明確に「この道はいつか来た道」だ(あの四字熟語の大合唱が起きたのは14年半前のことだから、知らない人、忘れている人もいるかもしれないが)。実際、東スポの記事でスマイリーキクチさんが「渡部さんご本人も否定しているし、フェイクニュースだと伝えられているのに、今もこのデマを事実と捉えて拡散している人達がいる。感情に流されて自身の非を受容しない。デマを見抜けない人より、デマを認めない人が危険なんだ」と述べていることが紹介されている。

その「デマ」は「○○氏が語った戦場取材の掟」というものだ。実在するフォトジャーナリスト(ユニークな話し方と温厚な人柄が受け、一時テレビにひっぱりだこで、しかも一般的にかなり好かれていた)の名を挙げたうえで、全8か条が箇条書きにされているのだが、そのいずれもが雑としか言いようがない。「何ですか、これは」と反応するよりないというか、「戦場が流動的なところには行かない」というのは、ええと、そこは岸田今日子が住んでる砂丘か何かなんですか。「国外の難民キャンプとかを中心に取材する」の「とか」って何ですか。あたしの素の文じゃあるまいし。だれか文章校正しろよ。

だから、これはおそらく「ネタ」なのだろうと思うし、そうである場合「ネタにマジレス」の状態になると思うが、それでも、こんなん、ほっといちゃいかんのだろうなと思うし、同時にとてつもなく頭に来るじゃん。

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2018年10月23日

「反・西洋」という密かな熱狂が、邪悪な殺人を正当化するために利用されているかもしれない。

いわゆる「欧米」圏の外での出来事について、「欧米」が批判するなり非難するなりする場合、「欧米が欧米の価値観を押し付けようとして騒いでいるだけだ」ということにしてしまえば、静かであってほしい界隈は静かになる、というのがある。(ここで私が曖昧にぼやーっと書いている理由は察していただきたい。)

私が鮮明に記憶している例は、ずーっと前、10年以上前ではないかと思うが、中央アジアやイエメンでの若年女子と、中年・老年男性の強制結婚という「習慣」について、「人権上の問題であると言う者は、『普遍的人権』という『欧米』の価値観を押し付けようとしているだけだ」という反発があったこと。あと、インドの「ブライド・バーニング」についても、パキスタンの「名誉殺人」についても、スーダンやコンゴでの「性奴隷」についても、そのような「これはこの土地の習慣だ」論を見たことがある。(それらはたまたま被害者と位置づけられる側が女性で、フェミニズム方面での指摘が盛んだったのだが、被害者は女性とは限らない。例えば性暴力は男性にも向けられている。)

実際、イスイス団が特にヤジディの女性たちにめちゃくちゃひどいことをしまくりながら世界的規模で蛮行を先導/煽動したことで、全世界が「暴力反対」みたいなムードに傾いていなかったら、たぶん今でもこのような人権侵害について「この土地のやり方」云々が主張され、それが受け入れられていたのではないかと思う。その意味でも、今年のノーベル平和賞で性暴力に対する活動をしてきたヤジディの活動家、ナディア・ムラドさんと、とコンゴ(DRC)の医師、ドニ・ムクウェゲさんが受賞者となったことには大きな意義があると思うが、それですら、「ノーベル賞なんて欧米の云々」という発言を生じさせるだけの界隈もあるだろう。

そもそもその「欧米」とは厳密に何なのか、ということはひとまず措いておこう。通例、日本語で「欧米」といえば英語のthe Westのことなので、そう考えておく。

そのthe Westに対する反感、というかthe Westを敵視する主義主張のことを、Occidentalism(オクシデンタリズム)という。下記引用の (i) の意味。

Occidentalism refers to and identifies representations of the Western world (the Occident) in two ways:
(i) as dehumanizing stereotypes of the Western world ...
(ii) as ideological representations of the West ...

https://en.wikipedia.org/wiki/Occidentalism
※引用に際して読みやすくなるよう書式に手を加えた。


2006年と少し前の本だが、イアン・ブルマの本が新書になっている(アヴィシャイ・マルガリートとの共著)。

反西洋思想 (新潮新書)
反西洋思想 (新潮新書)


オクシデンタリズムは「欧米」の中に生じることもある。例えば、昨今の新自由主義社会での格差拡大などを身近に見て「西洋的な価値基準が絶対的に善というわけではない」と考えるところから、自分が属し、根ざしている社会そのものに疑問を抱くということがある。非常に大雑把にいえば、そういったベースの上では、「西洋でないもの」は「とりあえず無条件で受け入れるべきもの」となるし、「西洋的なもの」は「とりあえず否定すべきもの」となる。G7のような場についての報道で、日本の首相は(西洋の首相ではないということだけで)とりあえず無条件で肯定的な光のもとに置かれる、という状況は確実に存在する。たとえトランプとマブダチであることをアピールしまくっているような人物であっても、トランプが厳しく批判されている場面で「中立の人物」として解説される、といったことが実際にある(今年のG7サミットでのメルケルとトランプの写真についてるキャプションで見た。どのメディアで見たのかを忘れてしまったので、ソースが今探し出せないのだが……)。

マーティン・スコセッシの映画『沈黙』は、私が見た限り英語圏の一般メディアでは「よくわからないけど仏教を貶めてない?」という方向で不評だったのだが、それは「日本」という「非西洋」の残虐性がそのままむき出しに描かれていたためだったようだ。英語圏の人たちは、研究者やよほどのオタクでもない限り、日本にキリスト教徒迫害の史実があることなど知らないから、あの映画が「仏教批判」に見えるのだろう。そしてもちろん、「スコセッシの宗教臭い映画」を「見る価値なし」と一蹴する彼ら・彼女らは、あの映画が日本人作家である遠藤周作の小説をほとんどそのまんま映像化したものであることを知らない。

沈黙 -サイレンス-(字幕版)
沈黙 -サイレンス-(字幕版)

『沈黙』を「仏教批判映画」と位置づけた彼ら・彼女らの中にあるのは、「自分がよく知らないもの」に対する遠慮というか、ある意味での思慮深さと寛容だろう。そしてそういう思慮深さと寛容は、「僕は関係ないけど、あの人たちにも思想の自由・発言の権利はあると思うよ」「その発言の内容が変ならそれに対する批判が出てくるし、その発言はまともに受け取られることはないはずだ」といった形で、所謂「イスラム過激派」に場を与えたことは事実だ。少なくとも、(アメリカではどうか知らないが)イギリスではそうだった。

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2018年10月21日

10年以上前に書いた文と、トラックバックと、はてなダイアリーについて: 「検証可能」ではなくなるということ

『新潮45』の廃刊を受けて、高橋源一郎さんが書いた文章が、先日、はてなブックマークでおおいに話題になっていた。現時点(10月21日夜)でブクマ数1200件を超えている。

その文章は、どうか各自ご自身で読んで、感想があれば(私にぶつけずに)ご自身でアウトプットして消化していただきたいのだが、私自身は非常にひっかかるものを感じながら読んだし、一読して違和感以外の何ものでもないもの(なのに、別の何かに偽装されているもの)を喉元に詰まらされた感じがした。口に入れれば口の中の水分を全部持っていくカステラ的なおやつを、お茶も水もなく出されて、「どう、美味しいでしょう」という圧力を感じているという感覚だ。これは「志の高い若者が挫折し、ダークサイドに落ちた」という《物語》なのか? Facebookに就職したニック・クレッグのように? (クレッグのことはまた改めて書く)

中でも、最も大きな「?」が頭の上に浮かんだ箇所がここだ。

「LGBTという概念について私は詳細を知らないし、馬鹿らしくて詳細など知るつもりもないが、性の平等化を盾にとったポストマルクス主義の変種に違いあるまい」というのも類を見ない発想だ。他の雑誌でも「詳細を知らないが」と前置きして書いているのを見かけるので、あえて「知らない」ままで書くのがお好きな方のようだ。おそらく、その方がフレッシュな気持ちで書けるからだろう。とにかく、小川さんに「事実と違う」と指摘するのは意味がないのではあるまいか。だって「知らない」っていってるんだから。しかし、これ、いい作戦かもしれない。おれも、「詳細を知らないし、馬鹿らしくて詳細を知るつもりもない」と前置きして書くことにしようかな。それで文句をつけられたら、「おれの文章をきちんと読め! 知らないっていってるだろ」といえばいいわけだ。でも、それでは、「新潮45」を読むような善男善女の読者はびっくりしたと思う。ふつうは、ある程度、意味を知って書いているはず、と思いこんでいるからね。

--- 高橋源一郎、『「文藝評論家」小川榮太郎氏の全著作を読んでおれは泣いた』
http://kangaeruhito.jp/articles/-/2641


ブコメに書いたんだけど、「『……性の平等化を盾にとったポストマルクス主義の変種に違いあるまい』というのも類を見ない発想だ」というところで「?」となった。その「類」、けっこうよく見るんですけど……っていう感じ。それもネット上の特殊なところで見るわけではなく、書店の書棚なんかで。

高橋さんのこの記述自体が、この記述において述べられている「詳細を知らないし、馬鹿らしくて詳細を知るつもりもない」的な開き直りの構造になっているから、意図的なことなのかもしれないなと思うけれども、ともあれ、問題はLGBTQなどの用語で表されている「性的アイデンティティの多様化」(というか「男か女かの二分法を超えたアイデンティティ」)について、「マルクス主義がぁぁぁ」「サヨクがぁぁぁ」と叫んで「伝統の解体」だの「社会の破壊」だのをもくろむ陰謀だと主張する向きは、かなり前から、けっこうそこらへんにごろごろしているということだ(私個人が直接観測できる範囲では、LGBTQについて「伝統の解体」だの「社会の破壊」だのという結論を自分の中で導き出し終わっている人が、「では、それはなぜなのか」という理由を求めていった先が「サヨクがぁぁ」言説だった、ということがある。そういう場合は左翼でない/右翼の/マルクス主義の影響を受けていないゲイライツ活動家の実例をひとつふたつ示せば話は終わると思うが)。

そういうトンデモな主張について、私は以前このブログで書いている。私のそのブログ記事の前段階にあったのは、荻上チキさんの「トラカレ」の記事で、今回、高橋さんの文章に対するはてブのコメント欄には、それが読めるURLを貼っておいた。

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2018年09月26日

"dehumanize", "less than human" と「人間以下」: Twitter社のブログと翻訳ギャップ

「なぜそういう反応が?」――26日午後、「人間以下」というフレーズがTwitter上ので話題になっているのを見てみたら、私にはイマイチわからない光景が展開されていた。どうやらTwitter社が規約を改定する方針を示したようだが、日本語圏で起きていることは意味が取れない。ギャグというかボケているのかもしれないが、おもしろくないし笑えない(重複表現)。こういう場合、疑うべきは「文化の違い」で、このケースもまたそのようだった。私は生まれも育ちも日本で母語は日本語で日本のパスポートを持っているのであらゆる点で日本人だし日本の文化にどっぷりつかっているはずだが、ネット上の日本語圏とはいろいろと分かち合えていないのだから(例えば漫画には興味がないのでその話題はわからないし、90年代からネットを使っているが「テキストサイト」とかはほとんど知らない。ちなみに生魚が嫌いで寿司は食べられず、村上春樹も読んでいなくてジャパニメーションとかちょっとかんべんしてくださいっていう感じで、つまり西洋のインテリや日本通が「日本人」と聞いて思い浮かべる人物像ともかけ離れているので、挨拶後のスモールトークの段階での「気まずい沈黙」の経験は多い)。

そういう場合、私は私にわかる圏で、その言葉をめぐって何が起きているのかを把握すればよいだけだ。そのときのメモが私にしては多くのretweetsをいただいていたので、こちらにも投稿しておこうと思う。

そもそもその話題のフレーズ「人間以下」とは何なのか。いや、「以下」だとか「未満」だとかじゃなく(それ、この文脈ではかなりどうでもいいことです。揚げ足取り)、社会科学系としてはUntermenschを連想せざるを得ないじゃないっすか。Twitterがついにネオナチ(ヒトラーとナチズムの信奉者)を直接標的にしたのか?
Untermensch (... underman, sub-man, subhuman; plural: Untermenschen) is a term that became infamous when the Nazis used it to describe non-Aryan "inferior people" often referred to as "the masses from the East", that is Jews, Roma, and Slavs – mainly ethnic Poles, Serbs, and later also Russians. The term was also applied to most Blacks, and persons of color, with some particular exceptions, such as the Japanese. Jewish people were to be exterminated in the Holocaust, along with Romani people, and the physically and mentally disabled. ...These concepts were an important part of the Nazi racial policy.

Etymology
Although usually incorrectly considered to have been coined by the Nazis, the term "under man" was first used by American author and Klansman Lothrop Stoddard in the title of his 1922 book The Revolt Against Civilization: The Menace of the Under-man. It was later adopted by the Nazis from that book's German version Der Kulturumsturz: Die Drohung des Untermenschen (1925).


ナチスがその政策において用いたこの "Untermensch" という用語は、上述の通り、英語では "subhuman", "under-man" と表される。その英語の用語の意味を英語で解説すると、 "less than human" となる。今回「人間以下」(少し後に「人間未満」に改訳されたらしい)として日本語圏でぶんぶん飛び交っているのは、この "less than human" を直訳したフレーズであるようだ。

……と、話はここでは終わらない。どうやら今話題の "less than human" は、ナチスも採用した人種主義思想の用語という文脈にあるものではないらしい、ということに気付くまでには、ほんの2秒程度しかかからなかった。「人間以下」というフレーズだけでおちゃらけている(&自分たちがそもそもTwitterが何を言っているのかを理解していないということを把握せずに、何かを生産的な形で考察しているつもりになっている)日本語圏を一歩出てみたら、それは明白なことだった。

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2018年05月09日

「ずっと一緒にいようねと言ったのに」という歌で、アイルランドがユーロヴィジョンに勝ち残る。

何年ぶりだろうか。毎年恒例、広域欧州+αの国別対抗歌合戦ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト (#Eurovison) のセミ・ファイナル(と呼ばれる予選ラウンド)を、アイルランド(以下「あたしのアイルランド」)が勝ち抜けて、5月12日(日本時間では13日未明あたり)に行われるグランド・ファイナルにコマを進めた。

今年のあたしのアイルランドの代表はRyan O'Shaughnessyというアコギ1本持って歌うシンガー・ソングライターで、曲はTogether. 歌詞はこちら(折りたたまれているのをクリックで表示させてください)。



※なお、Ryan O'Shaughnessyには「ライアン・オショーネシー」というカタカナが当てられているし、そう聞こえる場合もあるのだが、本人の発音(リンク先冒頭)ではghを発音していて「オショーフネシー」というように聞こえる。この辺はアイルランド島の中でも地域差などがあるのかもしれない。

「何年ぶりだろうか」と思って検索すると、すぐにIreland in the Eurovision Song Contestというページが見つかるのが、英語圏の情報の分厚さである。前回、あたしのアイルランドがグランド・ファイナルに進んだのは2013年、Ryan Dolanという歌手の "Only Love Survives" という曲だ(曲名自体がものすごいユーロヴィジョン的)。



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2018年05月05日

バスク武装組織ETAの解体(北アイルランド和平関係者が式典に出席)

バスクのETAが解体したということを、5月4日に日本語圏のニュースで知った。英語圏では月初には既に伝えられていたようだが、私は気づかなかった。英語圏の報道は相変わらずトランプがどうのこうのというゴシップめいた記事満載で(今月に入ってからは、大統領選前に「トランプはすっごい最高に健康、めっちゃ健康すげぇ」みたいな医師の診断書が出ていたが、それはトランプ自身が口述筆記させたものだった、新たに弁護士になったルディ・ジュリアーニが、ストーミー・ダニエルズへの口止め料についてトランプの説明と矛盾することを言っているとかいうので大騒ぎ。今日もまたNRAの集まりで「ロンドンはナイフ殺人がすごいですよ、まるで戦場」とか言ってるっていうのでトップニュース。ばかばかしい)、いきおい、ニュースチェックが雑になってしまう。さらに、こういうどうでもいいゴシップ(に見えるけど、トランプの方針の一部……「常にニュースになっていること」自体が目的だから)に、天変地異系ニュースなどに比べれば緊急性は劣るがニュースとしては比較的重要なトピックが、埋もれるか流されるかしているので、「報道機関のサイトのトップページを見て、その日のニュースをチェックする」というやり方では見落としが多くなってしまって困る。かといってTwitterではどうしてもアメリカのユーザーが多いから話題も「アメリカ」寄りになりすぎて、実際には「米国内では重大なニュースなのかもしれないけど、うーん……」というものを「普遍的重大ニュース」と誤認してしまうこともあり、いろいろと悩ましい。

ともあれ、ETAである。

テロ組織「バスク祖国と自由」解体宣言 800人超殺害
パリ=疋田多揚2018年5月4日21時25分
https://www.asahi.com/articles/ASL545GVQL54UHBI01M.html
 半世紀にわたりスペイン・バスク地方の分離独立を主張してテロを重ねてきた武装組織「バスク祖国と自由」(ETA)が3日、組織を完全に解体したという「最終声明」を出した。

 ……

 ETAは、スペイン北部からフランス南部に広がるバスク地方の独立を求める組織。1959年に結成され、68年からテロを始めた。政治家や警官、市民ら800人超の命を奪ったテロ組織だが、近年は当局による摘発強化で弱体化が進み、11年には武装闘争の最終的な停止を宣言。先月には地元紙に、これまでのテロの犠牲者に謝罪する声明を寄せ、解体は間近とみられていた。


50年も武装活動を行ってきたETAによる死者数が「800人超」というのを「案外少ない」と感じてしまうのは、昨今の所謂イスラム過激派の異様な殺戮が当たり前になってしまったせいではなく、北アイルランド紛争の約30年間にIRA (PIRA) が1705人も殺害していることと、無意識に比較してしまうからだ(ちなみにロイヤリスト側は諸組織合計して1027人を殺している。英当局と警察は、UDRも入れて361人)。当事者にとっては、そんなことはどうでもいいことで、私のような完全な部外者が「少ない」という馬鹿げた感想を漏らすことも、耐え難いことだろう。

だが、バスクの和平プロセスには、一足先に和平プロセスを開始した北アイルランドの当事者たちが深く関わってきたのであり、ここで北アイルランドと比較してしまうことは「無関係なものを持ち込んでいる」と非難されるべきことでもない。というか、和平プロセス以前にいわゆる「武装闘争」の時代から、IRAとETA(およびそれぞれの政治組織)は強く結びついてきた(「共闘」の関係にあった)。

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2018年02月17日

フロリダ州の高校銃撃事件容疑者が白人至上主義団体に所属していたという事実は、確認できていない(活動家のホラにAPが釣られた模様)

APが釣られるとさすがに影響がものすごく大きいようなので、取り急ぎ、メモ程度のことを書いておく。結論だけ先に書くと、「フロリダの高校銃撃犯が、現地の極右団体に所属していたという話は、団体を率いる活動家のフカシで、でたらめ」ということだ。ニコラス・クルスが白人至上主義団体にいたという事実は確認されていない。(そういう思想を持っていたことは否定されていない。ただ、団体への所属という事実はないと思われる。)

以下、詳細。

2月14日、バレンタインデーの米国からのニュースは、米国らしく血まみれだった。メリーランド州フォート・ミードにあるNSA本部ではゲートのところで銃撃・発砲があったと伝えられた。3人が負傷しており1人が逮捕されたという話で、ゲートの脇の不思議な位置に、フロントグラスに銃弾の痕が見て取れる車があって、捜査当局者がお仕事中という空からの写真・映像が配信されてきたが、それはそれっきり沙汰止みとなっていた(たぶん、何があったか明らかにされることなく、忘却されるだけだろう)。死者が出たというニュースは見ていない。

そのNSAのニュースの続報に何となく注意を向けていたときに流れてきたのが、「米フロリダ州の学校で銃撃事件が発生」というヘッドラインだった。

アメリカの学校で銃撃事件が発生したというヘッドラインを見ても、私はいちいち反応しない――そのくらいしょっちゅう起きているし、サンディフック小学校でのあのめちゃくちゃな銃撃事件のあとでも特に何も変わらなかったんだから、アメリカ合衆国はあの問題に対処できない(対処できるシステムを備えていない)としか考えられないし、そう結論してしまっているからだ(服部君、ごめんなさい)。BBC Newsのトップでも発生を報じていたが、「またか」的なことでもニュースバリューはあるしね……。

しかし、今回フロリダ州のパークランドという名の町で起きた学校銃撃事件の詳細が流れてきたときには、さすがに目がさめた。「死者少なくとも15人」という速報(元のTweetの時刻は日本時間で15日の朝7時50分、R/Tの時刻は朝8時過ぎ)などだ。そのときにはもう初報から何時間も経過していて、Twitterはすでに人々の「声」で埋まっていた。そのいくつかはR/Tしたし、Twilogで(元のツイートが削除などされない限りは)いつでも閲覧できるのでそちらをご確認いただきたい(中には、「バレンタインデーですね。大切なあの人に銃を贈りましょう」という販売店の宣伝ツイートをNRAがR/Tしていたが、高校銃撃事件発生でR/Tを取り消した」という報告などもある)。ここではこの事件そのものについて書くことは目的ではない。

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2017年12月17日

《記憶》と《記録》。反共作戦のためラオスに介入したCIAの一員だった父親の真実を、ジャーナリストとなった息子が知るとき

BBC Newsのサイトでこんな記事を読んだ。

大学に進む前の夏のことだ。古いボルボに乗って、父と私はドライブに出かけた。父と私だけというのは、それまでなかったことだ。シートベルトを着用し、車を発進させた。砂利道には砂埃が舞った。

信号待ちで停車中、「ピーター、そろそろお父さんたちの仕事のことを伝えておこうと思う」と父はハンドルを指でこつこつと叩きながら言った。信号が青になり、車は大通りに出た。

「スパイなんだ」

父は真顔で冗談を言う人だった。しかし、いつもの冗談にしては非常にわざとらしいし、それに面白くも何ともない。日常の買い物をするショッピングセンターと電柱がひしめき合っているような郊外地の街を抜けながら、父は私に、もう40年近く、密かにCIAの仕事をしてきたのだと語った。

父はなーんちゃってと言うわけでもなく、沈黙が重苦しくなってきて、ああ、これは冗談じゃないんだ、と私は思った。

「母さんは知ってるの」と私は尋ねた。

「ああ、母さんか。母さんも、同じ仕事だ」と父は言った。

(親がCIAの秘密工作員だったというと)人からよく「おかしいなと思ったことは何もなかったんですか」と訊かれる。なかったですね。兄弟たちも私も、何も疑わしいと思わなかった。

両親は国務省で書類仕事にいそしむ役人なのだと思っていたが、実際のところ、仕事の内容がどういうものかはよく知らなかった。だいたい、成長過程にある子供にとって親がやってることといえば、耐え難いほど凡庸なことに決まっている。実はそうではないのだということに気づくには、もう少し大人になる必要がある。

1960年代、米軍兵士たちがC-130からベトナムの地に降り立っていたころ、CIAはラオスで極秘戦争を戦っていた。冷戦の最盛期で、CIAは私の父と工作員の一団を、ラオスの高地に住むモン族 (Hmong) に武器を与え訓練を施すために、送り込んだ。その目的は共産主義勢力パテート・ラーオと北ベトナムとの戦いだ。

CIAがモン族を強化していたのか、それともモン族を雇用していたのかははっきりとは判断しがたい。事態が過去となった今では、双方ともが、彼らのためになるよう協力していたのだと考えているようだ。

しかし、CIAの人々の多くは、モン族のレジスタンスは敗北するに決まっていると認識していた。ウシアブの群れが水牛を倒そうとするようなものだと。ベトナム戦争が終わったあと、CIAは突然ラオスから撤退し、それによりモン族の人々は、数千人単位で、ひょっとしたら数万人単位で脱出せざるを得なくなった。

これが、父にとって、中央情報局(CIA)での最初のミッションだった。

My father fought the CIA's secret war in Laos
http://www.bbc.com/news/world-us-canada-42314701
(英→日、拙訳)


2人きりのドライブで息子のピーターに事実を告げた数年後、父親のアランは他界した。死の床で彼は息子に向かい、ラオスでやったことを誇りに思っていると告げた。

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2017年12月16日

「はいはい陰謀論陰謀論」では終わらなくなったこの世界に――映画『 #否定と肯定 (Denial)』

ほぼ満席の映画館。大きなスクリーンに靴の山が映し出される。展示室の、ガラスの向こうの、くちゃくちゃになった古い汚い靴の山。この靴を履いていた人たちは、ほとんど口にすることもできないようなむごたらしい殺され方をした。アウシュヴィッツ・ビルケナウ収容所。スクリーンの中でその「聖地」を訪れている人々の目的は「巡礼」ではない。「実証」だ。しかしそれは否応なしに感情を揺さぶる。祈りの歌が口をついて出る。雪が舞い落ちるなか、デボラ・リップシュタットは祈りを声に出している。学者が、歴史学者が祈っている。

映画Denialを見てきた。邦題は『否定と肯定』。映画を見る前は、原題にない「と肯定」に「正直、それどうなの」と思っていた。議論にならないことを議論にする(何かを「否定」してみせることで、「何かを『肯定』している人々」を現前させ、それを「論敵」とする)のが連中の手口。Denialという原題の映画に、「否定論」の隆盛っぷりが、それこそ議論の余地もないほどになっている日本語圏で、原題にはない「と肯定」を付け加えて公開することで、連中の手口に乗ってしまっている(もっとはっきり言えば加担している)のではないか、と思ったのだ。が、映画を見て私は納得した(納得しない人もいると思う)。とても密度の高い、テンポの速いシーンで、セリフを聞くことでいっぱいいっぱいになってしまったのだが(字幕を追ってもいっぱいいっぱいになっていたと思う)、「と肯定」については、映画の中でリップシュタットと弁護団との議論のシーンで語られていた。確かにそれは、リップシュタットと彼女の弁護団があのばかばかしい、なおかつ戦いづらい裁判を、英国の法廷という戦いづらい場で戦う上で、必要とされた議論だった(何よりこの映画は「法廷ドラマ」だ)。

そしてそれは、映画館入り口脇に貼られていたポスターが言うような「ナチスによる大量虐殺は、真実か虚構か」という議論ではなかった。話をそこに持っていくこと――話をすりかえることが、否定論者(歴史修正主義者)の目的だ。

denial-poster.jpg

「大量虐殺(ホロコースト)は真実か、それとも虚構か」という《ことば》を現実世界に持ち込んでリアルなものにしようとするということを、彼らdenialists(否定論者たち)はやってきたし(映画冒頭で示されている通り)、今でもやっている。その二項対立自体が「虚構」である、というのがまっとうな態度だし、リップシュタットのような学者はそういう態度を当然取っているのだが(つまり否定論者のことは最初から相手にしていない。完全に無視する)、否定論者たちは、無視されること自体を「私たちは正しいということを示すもの」として喧伝し、そして多くの賛同者・支持者を獲得する。このあたりは、各種陰謀論やホメオパシーを含む疑似科学の論者がとる論法と同じパターンだ。

彼ら(映画の中では「ダヴィデとゴリアテ」の「ダヴィデ」に自分をなぞらえているデイヴィッド・アーヴィングひとりだけだが、アーヴィングの発言はツンデル、ロイヒターという否定論者の発言とつながっている。詳細はウィキペディア日本語版の「ロイヒター・レポート」の項を参照。何を見ても「日本は、日本は」と言わなければ気がすまない人はホロコースト否定論の原稿が掲載されたあとで廃刊された「マルコポーロ」に絡んで石田勇治先生が述べていることがウィキペディア日本語版に引用されているのでそれを参照すれば、ある程度気が済むと思う)が、なぜ「ガス室」に異様なこだわりを見せるのか、私は正確には知らない。ガス室があろうとなかろうと(←「なかった」と言っているわけでも、「なかった」という言い分をまっとうなものとして受け取っているわけでもない。念のため)、食事も乏しく伝染病が蔓延する劣悪な環境の中、強制労働に従事させられた人々が――それも当時の概念での「人種」や「思想信条」によりゲシュタポに逮捕されて連行されてきた人々が――何百万人という単位で命を奪われ、焼かれてきたのだ。「ガス室」だけを問題とするのは、ちょっと不適切なアナロジーかもしれないが、シリア内戦において政権側が自国民の上に使ったクラスター爆弾や樽爆弾のことを問わずに化学兵器だけ問題にするようなこと、広島・長崎に投下された原爆だけを問題とし、東京・大阪・名古屋はもちろん日本各地の大都市・都市に雨あられと投下された焼夷弾はスルーするようなことだ。つまり、お笑いのツッコミ的に言えば「そこかい!」、「否定するのなら、否定すべきはそれだけじゃないだろ」ということ。しかし、どうやら彼らにとって「ガス室」の《物語性》は、何か特別なものだ。彼らの考え方では、世界を思うがままにしようとする闇の勢力は、「ガス室などというとんでもない物語(フィクション、神話)」を真実として人々に信じさせることによって、人々を「思考停止」に追いやり、自身の支配を確実にしようとしている、ということになっているようだ。(そしてそのような情報操作にやられず、真相に気づいている自分たちはすごい、という《信念》もそういうところから生まれる。)

いや、そればかりではない。その「ガス室神話」を打ち砕くことによって、より大きな何かを成し遂げることができるという突破口的な存在なのだ。そこが崩せれば、すべてが崩せる、というようなシンボル。

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2017年10月29日

英国からシリアに行ってイスイス団に加わったと思われる白人青年がクルド人地域で起訴されたが、英国政府は本音としては「殺害」方針支持に傾いていることだろう

「ジハーディ・ジャック」が起訴されたという報道が、10月28日、メディアに出ている

「ジハーディ・ジャック」と呼ばれているのはジャック・レッツという名の英国人の青年だ。現在21歳の彼は、まだティーンエイジャーだったころ、2014年にヨルダン経由でシリアのイスイス団支配地域に入った。「Aレベル」取得を断念して(「Aレベル」は日本の制度でいうとおおむね「高卒の資格」と「センター試験」を兼ね備えたものなので、「高校を中退」のような感じ)英国を発った彼は、「何が起きているのか、この目で見たかったからシリアに行った」ということを述べているようだが、実際のところはそうではなくイスイス団に加わるためにシリアに行ったのだろうという疑いがある。彼の「起訴」はその疑いについてのものである。

さて、その裁判だが、彼の出身地である英国で行われるわけではない。シリアで行われる。しかし「シリア」といってもダマスカスの中央政府の統治下ではない。北部のクルド人支配域だ。

シリア北部のクルド人支配域は、今もなお公式にはシリアの一部(つまりダマスカスの統治下)であるのかもしれないが、実態としては「自治区・自治領」になっている(英語では "de facto autonomous region" ということになる)。なぜそうなったかを簡単に振り返っておくと、だいたいこういう感じ――2011年2月から3月にかけてシリアで民主化要求運動(拷問の廃止など人権運動を中心としていた点では、エジプトの「革命」の過程とよく似ていた)が起こり、政権側がそれを武力で鎮圧したことで「平和的な改革要求」という道が閉ざされ、シリアは「内戦」の状況に陥った。アサド政権の軍や民兵と、反政権の諸勢力(民主化要求運動からイスラム主義まで幅広い政治・思想的バックグラウンドを有していたが「アサド政権反対」という点で英語圏報道では一様に "rebels" と称されていた諸勢力)が戦闘を重ね、非戦闘員が暮らす市街地に政権側が空から攻撃を行なってクラスター爆弾や即製の「たる爆弾」を投下して多大な犠牲者を出し、さらにはいわゆる「アルカイダ系」のサラフィー・ジハード主義の集団が「シリアの政治」という枠組みを超えた「イスラムの国を作る」とかいう主張を掲げて民主化要求運動が主導した「革命」に便乗し、さらにそれを乗っ取る形で我が物顔をするようになるという、シリアの内戦化・内戦の激化の過程で、アサド政権があまり注意を払っていそうになかったのが北部のクルド人の多い地域だった。比較的早い段階からこの地域の動向に注目していた英語圏のジャーナリストを私はTwitterでフォローしていたのだが、そういう人でもない限りは、大手メディアや国連のような機関の中の人たちを含めて大半は、「シリア情勢」といえば「アサド政権は(も、エジプトのムバラク政権やリビアのカダフィ政権のように)崩壊するのか」ということ、および「アルカイダ(後にイスイス団となった集団も含む)にどう対処すべきか」と「アサド政権の非人道行為・戦争犯罪行為にどう対処すべきか」ということに意識が向いていた。BBCのような国際メディアの人も、ワシントンDCのシンクタンクの人も、北部のクルド情勢についてはあまり注目していなかったのだ。そういう状況下、2013年11月に「シリア北部民主連邦 (the Democratic Federation of Northern Syria: DFNS)」(通称Rojava)の設立が宣言された。英語版ウィキペディアにマップがあるのだが、DRNSは、シリアとトルコの国境線に沿った地域を、地中海に面した西部のごくわずかな部分を除いてだーーっと支配下に置いている(マップでオレンジ色になっているアレッポ県北部はどうなんすかね)。このRojavaについて説明することはここでの本題ではない。詳細は2017年7月に勝又郁子さんが書かれた詳しい記事が、シノドスに出ているのでそれをご参照いただきたい(が、「バランス」という点では別の視点からの記事も参照する必要があると思う。例えば「アラブ人への差別」についてなど、一方のスポークスマンの発言だけで事実を決め込まない程度に慎重を期す必要があることは多い)。

さて、2014年に英国からヨルダン経由でシリアに入った英国人青年、「ジハーディ・ジャック」ことジャック・レッツが2017年10月に起訴されたのは、このRojava (DFNS) でのことだ。そのことを報じるBBC記事には次のようにある。

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posted by nofrills at 23:36 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月18日

イスイス団が、勝手に「首都」としていた都市ラッカから、放逐された。

湯川さん、後藤さん、終わりましたよ。おふたりが他の人質と一緒に拘束されていた都市、イスイス団が勝手に「首都」としてきたラッカから、イスイス団がほぼ放逐されました。米軍の作戦担当スポークスマンによると、まだ完全に一掃されたわけではなく、残党がまだ少し市内に残っているようですが(完全にいなくなったという確認が取れていない)、米国が支援するクルド人などによる部隊、SDFがラッカでの戦闘の終了を宣言しました。正式な制圧宣言もほどなく出されるようです。

Raqqa: IS 'capital' falls to US-backed Syrian forces
http://www.bbc.com/news/world-middle-east-41646802

A US-backed alliance of Syrian Kurdish and Arab fighters says it has taken full control of so-called Islamic State's one-time "capital" of Raqqa.

Syrian Democratic Forces (SDF) spokesman Talal Sello said the fighting was over after a five-month assault.

Clearing operations were now under way to uncover any jihadist sleeper cells and remove landmines, he added.

An official statement declaring victory in the city and the end of three years of IS rule is expected to be made soon.


bbcnews17oct2017-min.png

以下、Twitterのログの貼り付け。Seesaaで提供されている簡易的な埋め込み機能を使うので、ちょっと読みづらい部分もあると思うが、ご容赦いただきたい。
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posted by nofrills at 00:49 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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