唐突だけど、この本、おもしろいんだよ。もう品切れだから古書でしか入手できないかもしれないけど。私は新潮文庫で持ってたけど、元は毎日新聞社の単行本だったのか……へー。お役所で使われる「整備」(「法律を整備する」、「パソコンを整備する」など)のような「一般社会とは違う意味」の言語を「整備語」と呼び、なぜあれらの英訳はやっかいなのかを爆笑しながら真面目に考察する本。ジャーゴン(閉じた範囲だけで使われる用語)はジャーゴンである以上、外部から見たら摩訶不思議なものだけど、一般社会に向けて開かれているはずの言語までもジャーゴンでがんじがらめになっている(中の人たちもそのジャーゴンじゃないと思考できない)というのは、爆笑はできるけど、笑えないことだ。
さて、過日、このような記事が話題になった。
【スクープ】「首相官邸前デモの参加者数、実は警視庁は発表していなかった」という謎
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120707-00000301-alterna-soci書き出し部分:
今年3月から毎週金曜日、首相官邸前で開かれる「原発再稼働反対」デモの参加者数について、大手メディアが引用している「警視庁発表」の数字が実は存在しないことが明らかになった。
警視庁広報課は「各紙が持つ独自のルートで調べているのではないか」との見解を明らかにしたが、警視庁が発表していない数字を「警視庁発表」としたり、その数字の根拠が全く不明であるなど、報道モラルを大きく問われる事態に発展しそうだ。
(さらに、この記事へのツッコミで、“実は「大手メディア」は「警視庁発表」の数字を「引用」などしていない”という事実が明らかになるなど、わけのわからない事態は拡大の一途をたどりそうだ。)
私も当該の件(6日の官邸前抗議行動)について「警視庁発表」という文字列を見ている。あとで自分の履歴を調べたら朝日新聞の見出しだった―― "原発抗議行動、人数どっち? 主催者と警視庁発表に大差"。

※この記事の見出しは現在は修正されている。このエントリの末尾参照のこと。
この記事、記事本文では「警視庁調べ」という表現がなされているが、読者としては、見出しでバーンと「警視庁発表」とインプットされている。それに、こんなテクストは(申し訳ないけど)丁寧には読まない。関心のあり方や度合にもよるだろうが、ウェブ版にあるテクストの分量なら4秒か5秒で目を走らせて、要旨を把握したら終わりだ(実際、7日に誰かのTwかRTで見出しを見てURLをクリックしたときは、「朝日もこの件を書いているのだな」と確認した程度でブラウザを閉じた)。
だから、《見出しでは大きく「警視庁発表」と書かれているが、本文での文言は「警視庁調べ」であって「警視庁発表」ではない》ということになど、ほとんど気づかない。気づいたとしても「表現が違っている」と思うだろう。
そもそも、デモの人数についての「警察発表」は一種の《成句》で(「主催者発表」と対になっている)、多くの人にとって「所謂“けーさつはっぴょう”」という認識は自分の中にあっても、それが一体何なのかは突き詰めて考えない、という語だ。([比喩]居酒屋でししゃもを頼むときに、それが本当のシシャモなのか代替魚のカラフトシシャモなのかを考える、というタイプの人[/比喩]は、こういう適当な態度は取らないかもしれない。)
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posted by nofrills at 20:01
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