「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2019年03月04日

ある言説や思想がトンデモであることは、それが社会的に共有されることを全然妨げない: 陰謀論についての注意喚起のために

2001年9月11日の所謂「米同時多発テロ」から17年半になろうとしているときに、今さら「911陰謀論」を自分のフィルターバブル内で見ることになるとは思っていなかった。

だが、逆に考えて、17年半も経過していれば、あのトンデモな陰謀論が「今までになかった新たな説明」みたいに見える人も、それなりに多くいるだろう。ちょうどうちら世代の人々が「アポロは月に行っていない説」など、教科書で事実として扱われていることに「疑問」を「突きつける」言説に新鮮味を覚えたのと同じように。そういうトンデモ言説の中には、南京虐殺否定論のように、一部のトンデモ界隈の外に出て書店の棚をそれなりに埋めるほどにメインストリーム化しているものもある。ホロコースト否定論をぶちかます医療関係者の発言力は、ここ数年で強まりこそすれ弱まってる気配はない(ホロコースト否定論をぶちかましても、「信頼される発言主」というステータスは揺らいでいない)。

トンデモであることは、その言説や思想が社会的に広く共有されることを、全然妨げない。

それだけに余計に、この陰謀論については、それが「トンデモ」だということを知っている者が書いておくべきだろうと思う。たとえその言説や思想そのものをストップすることができなくても(ましてや「潰す」ことなど絶対にできやしない)、それに近づいてしまった人にとって、「そっちは危険だよ」と注意を促すことくらいは、少しはできるだろう。

というわけで、先日のTwitterでの発言をここにまとめておく。




「とりんちさん」=@TrinityNYCさん。在米35年で元バンクアナリストという方だ。

発端はこれ。

ここでは映像はエンベッドしないように設定してあるが(当ブログを入り口に陰謀論にはまる人を出したくないので)、ここで「山田山男」なるTwitterユーザーがとりんちさんに見せているのは、YouTubeにアップされた「911陰謀論」を唱える、うんざりするほど多くある映像のひとつで、「科学的証拠」「飛行機などなかった」と銘打たれている。(呆)

tondemo.png

YouTubeのページを参照したところ、この映像は2013年にアップロードされている(こんな映像でもこんなに再生数はあるし、チャンネル登録数もこんなにあるのだから、いやになるよね)。アップロード主は、チャンネルの「概要」を見てもよくわからないのだが、宗教系の人のようだ。キリスト教の何かの映像がトップに置かれていて、過去にアップロードされたビデオでは「悪魔がなんちゃら」とか「地球が侵略される」とか「惑星の配列が」とかいうものがごろごろ出てくるのと、災害や異常気象について何かわめいているらしいことが確認できるが、私が個人的に毒電波を浴びていられる時間は3分なので、ろくに見ないまま切り上げた。

tondemo2.png

このアップ主が映像の中の人(映像でしゃべってる人)と同じなのかどうかはわからないのだが(同じならそう名乗るだろうから、たぶんどっかで「拾ってきた」映像を第三者が勝手にアップしているのだと思うが)、映像の左肩に示されている文字列(URL)を手がかりに映像の中の人のところに行ってみると、要するに「個人放送局」状態になっていて「国家による隠蔽」だとか「捏造されたテロ」だとか「ニュー・ワールド・オーダー」だとか「UFO」だとか、まあそういう感じ。ちなみにアメリカの人じゃなくてイギリスの人だから、Brexitの話なんかもしてるみたい。殺されたジョー・コックス議員が引き合いに出されたりしているのがすごいいや。

で、その「個人放送局」のカテゴリのひとつになってる「9/11」のページを見てみるとこんなふうになってる(「バーミンガム6」をこの文脈で見せられると頭が痛くなってくる):

tondemo3.png

※画像は一部加工してある。

ここでフッターに入ってる広告はトップページにも入ってて、これがもうお約束の「代替医療」系の販売業者。その業者のページを見てみると、ウェールズの会社だ。この会社と映像製作者の関係はわからない。ただの広告主なのかもしれないし、もっと深い関係があるのかもしれないが、そこまでは調べていない。

まあそんな感じのサイト。何か特別な知見がありそうな感じはしない。そういうところが作ってる「911陰謀論」のビデオ(既存の映像を継ぎ合わせて自分の主張を述べるようなビデオ)を、こんなカジュアルに人に伝えちゃったりしちゃったりする?

それも、それを送りつけてる相手は、当時ニューヨークの金融街で働いてた人だよ?

こういうことについての配慮というか感覚のなさが、「911陰謀論」を信じている「ネットde真実」派、英語でいうTruther(←リンク先注意。ウィキペディアだけど)の特徴といえば特徴だけど、それにしたって、あんまりじゃないか。

とりんちさんは、ファーストハンドであのテロを体験させられたニューヨーカーのひとりだ。





こういうところに、何ら悪意なく、彼らTruthersは彼らの信じる「真実」(つまり「あなたがたの言っているようなことは起きていなかった」という「否定論」)をぶっこんでいく。それを体験し、それを生き、生き抜いた人々に対して!

少しは考えたらどうなのかと思うが、そういうことを考えるという発想がないのだろう。

「陰謀論」を信じる、または楽しむ人々の間でそういうことを言い合うのならよい……いや、「よい」というより、誰にも口出しする権利はないだろう。しかしその界隈の外では、それは「とてもセンシティブなこと」なのだということくらいは了解し、その上で行動すべきではないか。

(この「とてもセンシティブなこと」についての無遠慮さというものは、女の子が変に紅潮してとろんとした顔をし、はちきれんばかりのブラウスなどで異様な形状の乳房が強調されたマンガなどの絵についての「表現規制反対」みたいなものにも当てはまる。どんだけ狭い世界しか見てないんだろうと思うけどね。)





私自身はアメリカには縁がなく、2001年9月11日は東京の自宅で夜のNHKニュースを見ていて、目の前で展開していることにあっけに取られ、90年代のロンドンなどでのIRAのテロを思い出し、また1995年の東京でのオウム真理教による地下鉄サリン事件を思い出しなどして、WTCに職場があった知人の安否を心配していたくらいで(その知人はオフィスに不在で難を逃れたと、数日後に彼女が運営していた個人サイトで告知していた)、直接の経験はない。そして、誰かに宛てたわけではない文章(当時自分が運営していた個人サイト内)で「大変なことが起きたが、これでようやく、IRAを支援してきた米東海岸も『テロ』というものがどういうものか、わかっただろう」というような、冷淡できついことを書いていた(この感情は、イングランドではかなりの範囲で共有されていたものだ。個人的に話をした人々の言葉にリンクすることはできないが、当時のBBC記事にはリンクできるのでしておこう)。

だが、繰り返すが、それは私の個人的な感興ではあっても、誰か個人に宛てた言葉ではない。アメリカの人と直接やり取りをするときには、何よりもまず、"Hope your family and friends are all well" だ。そしてその気持ちは、何年経っても変わらない――実際に言語化するかどうかは別として、特にあのときにニューヨークにいた人には常に、その気持ちを抱き続けている。彼ら・彼女らが「あの日あの時どこにいて何をしていたか、決して忘れることはない」と語るとき、うちら外部の人間はそれをただの言葉として聞いているわけではないし、それは米同時多発テロに際してのアメリカの人々にだけ当てはまるのではなく、1972年1月30日のデリーの人々にも、2015年11月13日のパリの人々にも当てはまる。もちろん、2011年3月11日の私たちにも。

相手が2011年9月11日にニューヨークにいたことなど知らない? ではその場合、相手がどういう人なのかもわからないのに、あなたは陰謀論を投げつけるのだろうか。少なくとも、陰謀論が「特殊なもの」だってことくらいは、わかってるのではないか? それなのに?

いや、たぶん本人はそういうことは(本当の意味では)わかっていない。だから当事者に否定論を投げつけるなどという無遠慮なことができるのだ。

そういうことをする本人に対し、外部から何かできることがあるかというと、たぶんないだろう。でも、そうやってまき散らかされた陰謀論の言説にかぶれてしまう可能性がある人たちに、注意を喚起することはできるはずだ。

というか、そのくらいしかできることはない。

だから、「911陰謀論」の最盛期から盛りをすぎたころ、ネット上に存在した「陰謀論に対する反論(ツッコミ)」を、2019年の今、また再掲しておこう。

まずはハンドル「msq」氏のサイト。ウェブ・アーカイブでしか見られないが:


今どきのネットユーザーはこういう作りのサイトの見方がわからないかもしれないが、下線が引かれてリンクになっているところをクリック(タップ)して奥へと読み進め、読み終わったら「戻る」ボタンで元の目次に戻ってくればよい。

どこから読んだらいいのかわからない人は、このサイトで最初にアップされた文章、「『911 IN PLANE SITE』について」を読めばよい。2004年初出だからもう15年近く前だが、ここで否定されているようなことが今でももっともらしく流通しているということがわかるだろう。

続いて、2007年に書かれた、マット・タイッビによる論考(というかかなりのおちゃらけ)の日本語訳(どっかの弁護士がTwitterでわめいていた言葉を使うと「無断翻訳」)。


タイッビはここで、ブッシュ大統領、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官という当時の政権トップによる「密談」を想像し(今読むと、この中ではブッシュがまともに見えるというのはどういうことw)、それを引き取って次のように続けている。
何を言いたいかわかったろう。こういうたわごとはまったく意味を成さないのだ。独裁的権力を握る言い訳が必要なだけなら、なぜシャンクスヴィルの飛行機墜落を偽装する? 爆弾を使うなら、なぜハイジャックを偽装する? なぜリモートコントロールされた飛行機を使う? もし政府機関全部が悪巧みに加担しているなら、なんでいちいちこんなひどい手間をかける? 1年後、この攻撃に責任があると(誤った)非難すらされていない国と戦争するためにか? 〈9/11の真実〉の言い伝えでこうした点が探られているのを自分は見たことがない。というのも、彼らが描く“陰謀”は何から何までありえなさすぎて、ザッカー兄弟の映画でもなければ不可能だからだ。思いつきとしては信じがたいほどバカげており、無意味にこみ入っていて、細部はやりすぎなのに、完璧に実行され、具体的な証拠は何一つ残らず、数万の人間が彼らの役割について秘密を永遠に守る、なんてのは。

https://web.archive.org/web/20190303143415/http://d.hatena.ne.jp/Gomadintime/20070920















アレックス・ジョーンズについては、日本でもネットと人間についての論考などが広く読まれているジョン・ロンソンの下記の電子書籍の最初の数ページを読むといい。Kindle Unlimitedに入っているが、単独で買っても200円だし、その価値は十分にある。英語としては別に難しくない。というか特に集中しなくても読めるし単語も難しくない。




アレックス・ジョーンズはアメリカでは「サバイバリスト」の潮流の中に位置づけられるが、この人物が喧伝しているような陰謀論(「911陰謀論」を含む)は、日本では別の文脈で受け入れられている。というか、「911陰謀論」は単独で存在しているのではなく、より広範な「陰謀論」のネットワークにつながっている。








なお、ネット上の日本語圏というところは、私の経験則によると↓↓こういう↓↓ところ。つまり、ジョーンズの言説を「陰謀論」と位置づけると反感を買う。


逆に言えばジョーンズの主張に引かれてしまう人は、異論・反論のない世界に囲い込まれちゃうのだろうと思う。マルチ商法のセミナーみたいな感じで……すごい危険。巻き込まれないように。特にすごいカジュアルな感じで「でもさ、ほんとは飛行機が突入して倒壊したんじゃなかったんだよ」などと言ってくる人とは、なるべく関わらないほうがいい。こういうのは、どんなに自分は大丈夫と思っていても、取り込まれるときはあっという間に取り込まれ、どんどん遠くに行ってしまう。













「陰謀論」というものは消えるものではない。潰せるものでもない。アメリカ合衆国にとって「陰謀論」は常にそこにあり、国の歴史の一部となってきたものだと、田中聡『陰謀論の正体!』(幻冬舎新書)は説明している。

 20世紀初めのアメリカで、巨大シンジケートが、毎年、何千人もの白人女性を集めては性奴隷にしているという噂が拡がっていたという。シカゴ検察局の創設者が、その組織のことを、「見えない政府」と言えるほどの力を持っていて、町々はもちろん、政府をも背後から見えない力でコントロールしている、と著書に書いた。
 もちろん実際には、そんなに大規模で強力な組織など存在しなかった。しかし、この本の影響は議会にも及び、1910年のマン法の成立をうながす。州境を超えての売春を連邦犯罪とする法律で、正式名を「白色奴隷取引法」といった。
 その二年前にはFBIの前身となる捜査機関が誕生していたが、この法律ができたことで、一気に予算と権限とが拡大する。……
 ……
 幻の売春シンジケートをめぐる陰謀論が、FBIを大きくし、変質もさせたのである。FBIが次に大発展の機会を得たのは、ポン引きの陰謀から共産主義者の陰謀に対する捜査へと職域を拡げたときだった。
 つまりFBIは、陰謀論を糧に成長してきた組織だった。
 多くの論者が指摘しているが、アメリカ合衆国そのものが、入植時代からずっと、たえず何者かを陰謀を企む敵とみなすことで、人々がまとまって行動をしてきた国だった。敵は、先住民やイギリス王室、イルミナティ、フリーメーソン、カトリック、共産主義者などさまざまだ。
 ……
 陰謀論は権力者の側にとって価値あるものだった。陰謀を怖れるのも陰謀するのも、そして陰謀論を怖れるのも利用するのも、おおむねは力を持っている側の人間だった。

――田中聡『陰謀論の正体!』(幻冬舎新書、2014年)


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なお、アレックス・ジョーンズとは別の筋で「サンディフック小学校銃撃事件などなかった」説を唱え、事件で殺された人々のご遺族に嫌がらせを続けている人物については下記参照。


※この記事は

2019年03月04日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 00:45 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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