以下は相互に関連性のない3つの事件についてのメモである(相互の関連性を勝手に読み取って陰謀論を唱えたり、私がこれらが関連していると主張したりしていると解釈したりはしないでください)。
■アマル・アルシュテイウィさん(9歳)
9歳の女子はカナダのカルガリー市で自殺した。背景には学校でのいじめがあったと考えられ、保護者は学校の教諭に相談したというが、市教育委員会は「いじめを示すものは何もない」と述べ、警察も「捜査が行えるほどの証拠がない」と言っている――日本でもよくある話だ。
これに「ひどい」と憤ると、きっと弁護士先生が信じたがいような上から目線で「現地の法律を見たのですか?」とか「もっと勉強しましょう」などと言ってくださることだろう。
だがこのケースを「学校でのいじめって、どこも同じだね〜」で済ませないものにしているのは、自殺した9歳のアマル・アルシュテイウィさんは、難民だったということだ。3年前、彼女の一家はシリアの戦乱を逃れ、難民としてカナダに定住している。そしてアマルさんはクラスメイトたちから身体的暴力を受け、言葉での暴力も受けていたことを両親に相談していた。
9-yr-old girl flees Syria as refugee. 💔
— Simran Jeet Singh (@SikhProf) April 16, 2019
Family settles in Canada.
Classmates: "No one will ever love you. Just go and kill yourself."
So she does. 💔
Rest in peace, Amal Alshteiwi.
So sorry that we failed you. 💔https://t.co/wMyJje06uk
私がこの「地獄」を知ったのは、Middle East Eye (MEE) が1分にまとめた映像を通じてである。自由になる時間が1分ある人は見てみてほしい。
This 9-year-old Syrian refugee took her own life after being bullied at school in Canada pic.twitter.com/zgUuAs5R1a
— Middle East Eye (@MiddleEastEye) April 17, 2019
9歳のアマル・アルシュテイウィさんの家族はシリアの戦乱を逃れ、難民としてカナダのカルガリーで暮らすようになった。しかしアマルさんは学校でいじめられ暴言を吐かれ、ついには自ら命を絶った(9歳で!)。カルガリー市教育委員会は「いじめの証拠はない」などと述べており……という映像報告。1分 https://t.co/lUzWXBgBTd
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
映像の中に出てくるガーディアンの記事は下記。イングランド北部ハダースフィールドでの出来事だ。
Family of bullied Syrian boy forced to move after threats
Nazia Parveen, North of England correspondent
Sun 3 Feb 2019 16.05 GMT
https://www.theguardian.com/uk-news/2019/feb/03/family-of-bullied-syrian-schoolboy-forced-to-move-after-threats
シリア難民のジャマル少年が通う学校での激しいいじめを記録した映像がネットで話題になり、その後、いじめ被害者の家族が「危害を加えてやる」という脅迫の対象となり(文がわかりづらいかもしれないが、被害者がいることが明らかになって、そのコミュニティの、いわば「和」が乱されるようなことになった場合、被害者が暴言や脅迫の対象となることはよくある。日本に限ったことではない)、一家は定住先のハダーズフィールドから出ていくことを余儀なくされたという。いじめの映像からいじめの容疑者(16歳男子)が特定され、警察が話を聞くなどはしたが、それっきりで法廷沙汰にはまだなっていないという。たぶんこのままフェードアウトするだろう。
以前オンライン・レンタルで見た『レッド・ライディングI: 1974』という映画をうっすらと思い出す。この映画もイングランド北部が舞台で、そこで起きていることを明らかにしてしまった存在(新聞記者)が主人公のドラマだが、要は「闇は闇のままにしておけ」ということをめぐる話だった。ちなみにこの映画、最初の方で「ジプシー」への言及が出てくるのだが、日本語字幕では「政治的に正しく」されて「ロマ」と訳出されていた。これは史実に照らして間違いで、イングランドで「ジプシー」と呼ばれてきたのはアイリッシュの非定住民(アイリッシュ・トラヴェラー)だ。だからイングランドの(ある程度歴史的な)物語に「ジプシー」が出てきたときに現在の基準で「政治的に正しく」した用語の「ロマ」を使うと、歴史的な正しさが深刻に損なわれてしまう。
レッド・ライディングDVD-BOX
閑話休題。MEEのまとめたビデオの終盤には、スカーフを着用した女子が、トイレの中で、ブロンドの女子にぼこぼこに殴りつけられる様子を記録したものと思われる映像が使われている。9歳のアマル・アルテュテイウィさんが自ら命を絶ったのはカナダでのことだったが、同様の「シリア難民いじめ」は米国でも英国でも報告されている、という。
こういう暴力のビデオを見ても、これが「悪いこと」というか「すべきではないこと」と受け取られないことも多いだろう。英国では2016年6月のEUレファレンダム以降、「外国人」と見られると「で、いつ国に帰るの?」と言われるようになったとも報告されている。そういうのが当たり前になってしまっているところには、この映像は「確かに暴力は悪いかしれんけど、本質的にはこれの何が悪いのか、わからん」とかいうものになっているんではないかと思う。特に「イスイス団はもういない」と喧伝されたあとでは、「シリアはもう安全なんだから帰れば?」とか思ってる人が多いだろう。そもそも「シリア内戦」は「シリア対イスイス団」の構造ではない、ということすらめんどくさがって把握したがらないような人々が、「有権者」として国のかたちを決めていく人々の無視できない程度に大きな割合を占めているのだろうし。
■ヌスラト・ジャハン・ラフィさん(19歳)
鮮やかな紅色のスカーフに真っ赤な口紅。意志の強そうな目をしたその若い女性の顔写真に、"Burned to death for reporting sexual harassment" という見出しが添えられているのを見て、最初は「ああ、また名誉殺人か」と思った。性犯罪被害にあった女性がそのことを公言し、それによって「家族の名誉が傷つけられた」として家族内の年長の男たちに殺されたのだろう、と。
そうではなかった。この女性の家族は、彼女が性的な被害にあったことを明らかにするのを支援した。(立派な家族だが、「保守派」からは「西洋かぶれ」云々と指弾されるだろう。パキスタンで女子教育の必要性を訴えていたマララ・ユスフザイさんに対する銃撃を正当化した連中が、マララさんを支えてきたお父さんに対してしたようなことが、またあるのだろう。)
「名誉殺人」は地獄だ。しかし、この鮮やかな紅色のスカーフを身に着けた女性の記事に書かれていた地獄は、それとは違う地獄だった。彼女の名前はヌスラト・ジャハン・ラフィ。19歳で、バングラデシュの保守的な小さな町で、マドラサ(宗教学校)に通う学生だった。
Nusrat Jahan Rafi: Burned to death for reporting sexual harassment https://t.co/7VPHxuQv8u バングラデシュ。マドラサで学ぶ19歳のヌスラト・ジャハン・ラフィさんは、校長に校長室に呼び出されて痴漢行為を受けたと明らかにしたばかりでなく、家族の支援も受けて警察に届け出た。そこからが地獄
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
警察署で彼女が被害の詳細を語るのを、担当の警察官が自分のスマホで録画。その映像の中で彼女は手で顔を隠そうとしているが、警察官は「大したことない」と言ってその手を除けるようにと言った。その映像が後に、地元メディアに流された。彼女の被害届を受けて校長は逮捕された。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
保守的な小さな町でのことで、男子学生2人の主導で校長の身柄を解放せよと要求する抗議行動が行われた。やがて町の人々は性被害者であるヌスラトをそしり始めた。家族は身の危険を案じたが、被害を受けてから11日後、彼女は期末試験を受けるため登校した。付き添った兄は校内への立ち入りを阻止された
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
その兄は「自分が阻止されていなかったら、このようなことは妹の身の上には起こらなかっただろう」と述べている。後でヌスラトさんが語ったところによると、彼女は女子生徒の1人によって「友達が屋上でボコられてるよ」と言われ、屋上に連れていかれた。屋上にはブルカを来た4〜5人が待ち構えており…
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
…ヌスラトさんに「校長に対する告訴を取り下げろ」と迫った。これを拒んだ彼女は、灯油をかけられて火をつけられた。全身に80%の火傷を負った彼女は地元の病院では治療できず、首都の医大病院に搬送された。自分は死ぬかもしれないと思った彼女は、その救急車の中で、証言を兄のスマホで録音した。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
ヌスラトさん殺害事件を調べている警察の捜査課長は、犯人たちは「ヌスラトさんの自殺に見せかけようとした」が、犯人たちが現場から逃げたあとでヌスラトさんが救出され、証言を語り残すまでは生きていたので、犯人たちの目論見は潰えたのだと語っている。この捜査課長は犯人を男と見ている。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
4月6日に火をつけられたヌスラトさんは、10日に病院で息を引き取った。その間、彼女の容態は連日バングラデシュで大ニュースとして取り上げられ、彼女の葬儀には何千という人々が集まった。警察は15人を逮捕(うち7人が殺害に関与の疑い)。その中に校長解放デモを組織した男の学生2人も含まれている。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
校長は性犯罪の届けで身柄拘束されたままで、ヌスラトさんの被害聞き取りをスマホで録画した警官は更迭。首相はご遺族に「事件に関係した者は全員、法の裁きを受けさせる」と約束し、彼女の死はバングラデシュの人々の怒り(事件そのものへの、そして性犯罪被害者の扱いへの)を引き起こしている。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
https://t.co/7VPHxuQv8u "Many girls don't protest out of fear after such incidents. Burqas, even dresses made of iron cannot stop rapists," said Anowar Sheikh on BBC Bengali's Facebook page.
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
↑「あのようなことが起きた後では、多くの女子が、恐ろしい目にあいたくないから、抗議に参加していない。ブルカも、鉄でできたドレスでも、レイプ犯を止めることはできない」というBBCベンガル語サービスに対するFBでのリプライの紹介。
https://t.co/7VPHxuQv8u "I wanted a daughter my whole life, but now I am afraid. Giving birth to a daughter in this country means a life of fear and worry," wrote Lopa Hossain in her Facebook post.
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
↑「私はずっと女の子が欲しいと思っていましたが、今では恐れを抱いています。この国で女の子を産むことは、その子に恐怖と不安の一生を送らせることと同義です」というFBの投稿の紹介。
https://t.co/7VPHxuQv8u 'Now people are asking: Why did Nusrat's case only get attention after she was attacked?' 声を上げた性犯罪被害者が残忍な形で殺されてようやく世間の注目が集まった。性犯罪そのものも、それについて声を上げたことも、こんなふうな注目を集めはしなかったのに。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) April 18, 2019
■ソル・ペイス(18歳)
今週、米国で「学校銃撃の犯行予告」がなされ、多くの学校が休校になるなど、大混乱が生じていたそうだ。
私がそのことを知ったのは、その「犯行予告」の主が自分で自分を撃って死亡し、それにより脅威がなくなったとFBIと地元警察が発表した、という英BBC Newsの記事によってだった。そしてそれを読んで、「ああ、あの事件から20年か」と思った。
記事はこちら:
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-47969359
その「犯行予告」の主は18歳のソル・ペイス、フロリダ州マイアミの高校の生徒だった。彼女は月曜日の夜にマイアミからコロラド州デンヴァーに飛行機で向かい、到着後すぐにパンプ・アクションのショットガンと銃弾を合法的に購入した。
今週末で発生から20年となるコロンバイン高校銃撃事件に心酔していたというソル・ペイスは、コロラド州にある同高校やその周辺の学校を襲うと予告していたため、広範囲での捜索が行われていた。
その彼女が、まだシーズン前でオープンしていないリゾート地で自分で自分の頭を撃って死んだ。そのニュースを見て即座に思い浮かんだのが、コロンバイン高校銃撃事件の銃撃犯2人の片割れ、ディラン・クレボルドのお母さん、スー・クレボルドさんの手記だった。
息子が殺人犯になった――コロンバイン高校銃乱射事件・加害生徒の母の告白 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズII-16)
スー・クレボルドさんは息子とその友人のエリック・ハリスがやったことを「銃犯罪」として見ているというより、少なくとも息子のディランについては「自殺志願者が他者を巻き込んだ」として見ているようだ。
そして今回、コロンバイン高校銃撃事件に心酔してノートにあれこれ書いたりサイトを作ったりしていた少女が、事件を再び起こすような言動をとった挙句、ひとりで自殺した。コロンバイン高校銃撃犯の2人は、実像とはちょっと違うふうにいわば「神格化」された存在として崇拝されており、お手軽なまとめ記事を読むと、ソル・ペイスもまたそのような崇拝者のひとりだったのかもしれない。興味本位のタブロイド記事を興味本位にまとめたものだから、どの程度あてになるのかはわからないが、少なくとも、ソル・ペイスは(語られている)エリック・ハリスとディラン・クレボルドに共感していたことは確かだろう。
18歳の子が、コロンバイン高校銃撃事件にはまるなんて、どんな地獄だろう。生まれる2年前の大量殺人事件にはまるなんて。
100+ schools shut down today bc of a threat. Sol Pais was found dead but conversation can NOT end. CO Students have been compromised again. If nothing changes neither will this. The importance of mental heath & gun violence needs to be taken seriously nationwide THIS IS AN ISSUE!
— alli paez (@allipaezz) April 17, 2019
なお、本稿における「地獄」は宗教的な意味ではなく、一般的な文脈で「あまりにもひどい状況・状態」を言うのに用いられる用法として使っている。こういった用語のところで変に深読みして、当方が書いてもいないことを勝手に読み取って、それを広めたりしないでいただけるとありがたいと思う。
※この記事は
2019年04月18日
にアップロードしました。
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