「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2019年04月18日

彼女たちの地獄

たまたまタイミングが重なっただけだが、今日目にするニュースは若い女性たちの「地獄」の話がずらりと並んでいて気が滅入る。画面の中に、9歳の女子が自殺し、18歳の女子が自殺し、19歳の女子が焼き殺されたという文字情報が連なっている。

以下は相互に関連性のない3つの事件についてのメモである(相互の関連性を勝手に読み取って陰謀論を唱えたり、私がこれらが関連していると主張したりしていると解釈したりはしないでください)。

■アマル・アルシュテイウィさん(9歳)
9歳の女子はカナダのカルガリー市で自殺した。背景には学校でのいじめがあったと考えられ、保護者は学校の教諭に相談したというが、市教育委員会は「いじめを示すものは何もない」と述べ、警察も「捜査が行えるほどの証拠がない」と言っている――日本でもよくある話だ。

これに「ひどい」と憤ると、きっと弁護士先生が信じたがいような上から目線で「現地の法律を見たのですか?」とか「もっと勉強しましょう」などと言ってくださることだろう。

だがこのケースを「学校でのいじめって、どこも同じだね〜」で済ませないものにしているのは、自殺した9歳のアマル・アルシュテイウィさんは、難民だったということだ。3年前、彼女の一家はシリアの戦乱を逃れ、難民としてカナダに定住している。そしてアマルさんはクラスメイトたちから身体的暴力を受け、言葉での暴力も受けていたことを両親に相談していた。




私がこの「地獄」を知ったのは、Middle East Eye (MEE) が1分にまとめた映像を通じてである。自由になる時間が1分ある人は見てみてほしい。




映像の中に出てくるガーディアンの記事は下記。イングランド北部ハダースフィールドでの出来事だ。

Family of bullied Syrian boy forced to move after threats
Nazia Parveen, North of England correspondent
Sun 3 Feb 2019 16.05 GMT
https://www.theguardian.com/uk-news/2019/feb/03/family-of-bullied-syrian-schoolboy-forced-to-move-after-threats

シリア難民のジャマル少年が通う学校での激しいいじめを記録した映像がネットで話題になり、その後、いじめ被害者の家族が「危害を加えてやる」という脅迫の対象となり(文がわかりづらいかもしれないが、被害者がいることが明らかになって、そのコミュニティの、いわば「和」が乱されるようなことになった場合、被害者が暴言や脅迫の対象となることはよくある。日本に限ったことではない)、一家は定住先のハダーズフィールドから出ていくことを余儀なくされたという。いじめの映像からいじめの容疑者(16歳男子)が特定され、警察が話を聞くなどはしたが、それっきりで法廷沙汰にはまだなっていないという。たぶんこのままフェードアウトするだろう。

以前オンライン・レンタルで見た『レッド・ライディングI: 1974』という映画をうっすらと思い出す。この映画もイングランド北部が舞台で、そこで起きていることを明らかにしてしまった存在(新聞記者)が主人公のドラマだが、要は「闇は闇のままにしておけ」ということをめぐる話だった。ちなみにこの映画、最初の方で「ジプシー」への言及が出てくるのだが、日本語字幕では「政治的に正しく」されて「ロマ」と訳出されていた。これは史実に照らして間違いで、イングランドで「ジプシー」と呼ばれてきたのはアイリッシュの非定住民(アイリッシュ・トラヴェラー)だ。だからイングランドの(ある程度歴史的な)物語に「ジプシー」が出てきたときに現在の基準で「政治的に正しく」した用語の「ロマ」を使うと、歴史的な正しさが深刻に損なわれてしまう。

レッド・ライディングDVD-BOX
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閑話休題。MEEのまとめたビデオの終盤には、スカーフを着用した女子が、トイレの中で、ブロンドの女子にぼこぼこに殴りつけられる様子を記録したものと思われる映像が使われている。9歳のアマル・アルテュテイウィさんが自ら命を絶ったのはカナダでのことだったが、同様の「シリア難民いじめ」は米国でも英国でも報告されている、という。

meevid17ap.jpg


こういう暴力のビデオを見ても、これが「悪いこと」というか「すべきではないこと」と受け取られないことも多いだろう。英国では2016年6月のEUレファレンダム以降、「外国人」と見られると「で、いつ国に帰るの?」と言われるようになったとも報告されている。そういうのが当たり前になってしまっているところには、この映像は「確かに暴力は悪いかしれんけど、本質的にはこれの何が悪いのか、わからん」とかいうものになっているんではないかと思う。特に「イスイス団はもういない」と喧伝されたあとでは、「シリアはもう安全なんだから帰れば?」とか思ってる人が多いだろう。そもそも「シリア内戦」は「シリア対イスイス団」の構造ではない、ということすらめんどくさがって把握したがらないような人々が、「有権者」として国のかたちを決めていく人々の無視できない程度に大きな割合を占めているのだろうし。


■ヌスラト・ジャハン・ラフィさん(19歳)
bbcsidebar18ap.jpg鮮やかな紅色のスカーフに真っ赤な口紅。意志の強そうな目をしたその若い女性の顔写真に、"Burned to death for reporting sexual harassment" という見出しが添えられているのを見て、最初は「ああ、また名誉殺人か」と思った。性犯罪被害にあった女性がそのことを公言し、それによって「家族の名誉が傷つけられた」として家族内の年長の男たちに殺されたのだろう、と。

そうではなかった。この女性の家族は、彼女が性的な被害にあったことを明らかにするのを支援した。(立派な家族だが、「保守派」からは「西洋かぶれ」云々と指弾されるだろう。パキスタンで女子教育の必要性を訴えていたマララ・ユスフザイさんに対する銃撃を正当化した連中が、マララさんを支えてきたお父さんに対してしたようなことが、またあるのだろう。)

「名誉殺人」は地獄だ。しかし、この鮮やかな紅色のスカーフを身に着けた女性の記事に書かれていた地獄は、それとは違う地獄だった。彼女の名前はヌスラト・ジャハン・ラフィ。19歳で、バングラデシュの保守的な小さな町で、マドラサ(宗教学校)に通う学生だった。












↑「あのようなことが起きた後では、多くの女子が、恐ろしい目にあいたくないから、抗議に参加していない。ブルカも、鉄でできたドレスでも、レイプ犯を止めることはできない」というBBCベンガル語サービスに対するFBでのリプライの紹介。


↑「私はずっと女の子が欲しいと思っていましたが、今では恐れを抱いています。この国で女の子を産むことは、その子に恐怖と不安の一生を送らせることと同義です」というFBの投稿の紹介。




■ソル・ペイス(18歳)
今週、米国で「学校銃撃の犯行予告」がなされ、多くの学校が休校になるなど、大混乱が生じていたそうだ。

私がそのことを知ったのは、その「犯行予告」の主が自分で自分を撃って死亡し、それにより脅威がなくなったとFBIと地元警察が発表した、という英BBC Newsの記事によってだった。そしてそれを読んで、「ああ、あの事件から20年か」と思った。

記事はこちら:
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-47969359

その「犯行予告」の主は18歳のソル・ペイス、フロリダ州マイアミの高校の生徒だった。彼女は月曜日の夜にマイアミからコロラド州デンヴァーに飛行機で向かい、到着後すぐにパンプ・アクションのショットガンと銃弾を合法的に購入した。

今週末で発生から20年となるコロンバイン高校銃撃事件に心酔していたというソル・ペイスは、コロラド州にある同高校やその周辺の学校を襲うと予告していたため、広範囲での捜索が行われていた。

その彼女が、まだシーズン前でオープンしていないリゾート地で自分で自分の頭を撃って死んだ。そのニュースを見て即座に思い浮かんだのが、コロンバイン高校銃撃事件の銃撃犯2人の片割れ、ディラン・クレボルドのお母さん、スー・クレボルドさんの手記だった。

息子が殺人犯になった――コロンバイン高校銃乱射事件・加害生徒の母の告白 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズII-16)
息子が殺人犯になった――コロンバイン高校銃乱射事件・加害生徒の母の告白 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズII-16)

スー・クレボルドさんは息子とその友人のエリック・ハリスがやったことを「銃犯罪」として見ているというより、少なくとも息子のディランについては「自殺志願者が他者を巻き込んだ」として見ているようだ。

そして今回、コロンバイン高校銃撃事件に心酔してノートにあれこれ書いたりサイトを作ったりしていた少女が、事件を再び起こすような言動をとった挙句、ひとりで自殺した。コロンバイン高校銃撃犯の2人は、実像とはちょっと違うふうにいわば「神格化」された存在として崇拝されており、お手軽なまとめ記事を読むと、ソル・ペイスもまたそのような崇拝者のひとりだったのかもしれない。興味本位のタブロイド記事を興味本位にまとめたものだから、どの程度あてになるのかはわからないが、少なくとも、ソル・ペイスは(語られている)エリック・ハリスとディラン・クレボルドに共感していたことは確かだろう。

18歳の子が、コロンバイン高校銃撃事件にはまるなんて、どんな地獄だろう。生まれる2年前の大量殺人事件にはまるなんて。








なお、本稿における「地獄」は宗教的な意味ではなく、一般的な文脈で「あまりにもひどい状況・状態」を言うのに用いられる用法として使っている。こういった用語のところで変に深読みして、当方が書いてもいないことを勝手に読み取って、それを広めたりしないでいただけるとありがたいと思う。

※この記事は

2019年04月18日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 23:56 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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