Top tweetsというのは、自分が見ていなかった間(ログインしていなかった間、アプリを立ち上げていなかった間)、自分がフォローしている人たちがツイートしたりリツイートしたりしたものの中で、システムが「重要」と判断したもののことだ。私の場合、私が寝てた間とか仕事してた8時間くらいの間になされた米英のジャーナリストや学者、活動家の発言のうち、その日の主要なトピックに関連したものが表示されていることが多い。
定番としては英国ではBrexitの話(私がTwitter見ていられる時間にうんざりするほどフォローしてるんだけど、それでもまだ見落とされるツイートが大量にある)、米国では、少し前になるが連邦政府機関閉鎖の話や国境の話が目立っていた。ほか、アフリカ特派員がツイートしているDRCなどの情勢など、ガーディアンやロイター、BBCのウェブサイトをチェックしてても目にしないようなトピック(それも6時間前にツイートされたもの)が流れてきていたりしてて、機械的処理にしては精度が高く、なかなか実用的だ。私がフォローしている人のなかには、例えば「アメリカ人の軍事系ジャーナリストで、ツイートの半分くらいは雑談やスポーツの話」という人もいるのだが、雑談やスポーツの話がtop Tweetsとして表示されることはまずなくて、そのアカウントからは地政学や国際関係についての話がtop Tweetsとして表示されている。
というわけで、(日本語で見たときにはどうなのかわからないが)英語で見る限り、Twitterはなかなかがんばっているという印象を抱いていたのだが、昨日は「なかなかがんばっている」どころか、「有能な秘書がついている」ような感覚になった。
個人的にBrexit関連に気を取られているので、米国、というか米大陸の話題はあまりよく見ていないのだが、ここ数週間でベネズエラ情勢がかなり緊迫してきていて、この数日はいよいよアレな感じになってきていることは把握している。これについてTwitterのような場で下手に発言するとロックオンされたり「CNNを信じているアホ」と罵倒されたりすることになるから、自分からツイートはほとんどしていないが、見出し程度は見ているし、ツイートされてきた報道記事のURLをクリックしたりもしてはいる。だからTwitterでは、「@nofrillsのアカウントの中の人は、ベネズエラ情勢について少しは関心がある」というくらいには把握していることだろう。私がTwitterに渡している情報(閲覧履歴など)で十分解析できる範囲で把握できることだ。
そうやってウェブサービスの運営側に自分の情報を渡した場合、少し前まではフィードバックといえば「表示される広告が『あなたの関心にあったもの』になります」とかいう程度だったのだが(しかし私のネットでの調べものは、例えば翻訳の作業で「人体の部位の名称を調べる」とかいうことがほとんどだから、それに基づいて「関心」を判断されて「膝のサポーター」のようなものの広告がガンガン表示されても、個人的な関心とは関係ないというオチがついている)、Twitterのような場ではもっとダイレクトに「自分のフィルターバブルの中に入ってくる情報で、なおかつ自分が見落としているもの」になってきている。私はFacebookは使っていないからFBのことはわからないが、FBではTwitterと同様かそれ以上に、この感じで物事が動いているだろう(しかもかなりエグいものがバンバン飛び交っていることだろう……日本語圏でも「ダ○○クト出版」なる広告主がGoogleの広告でやたらと出てきて、その陰謀論めいた文言にはうんざりさせられているのだが、FBではああいうのが普通に飛び交っているはずだ)。
ともあれ、私が「有能な秘書がついている」ような感覚になったのは、下記キャプチャにあるような一連のツイートが表示されていたことによる。Twitterでは「親ツイート」に対する反応を簡易的にまとめたような画面で表示してくれるのだが、その「親ツイート」は私にとっては観測範囲外、米共和党のマルコ・ルビオ議員の発言だ。
その発言は、現在のニュースとしてはベネズエラ情勢の文脈にあるのだが、テクストではそれが明示されていない。というか、ルビオ議員は写真をツイートしただけだ。そしてその写真に対し、私がフォローしている人たちが反応している。そこに、通例コンピューターの自動処理にはあまり期待できないような「文脈」があったので、感心してしまった。
下記画面を見たあとで確認してみたところ、ルビオ議員は、2枚の写真をツイートしていた。1枚は「リビアの独裁者」。もう1枚は「民衆にボコられるリビアの独裁者」。ルビオ議員が言葉を使わずに言わんとしたことは、「ベネズエラの独裁者もこうなる」ということだ。25年前ならルーマニアのチャウシェスクが持ち出されていただろう。
これに対し、私がフォローしているジャーナリストたちが一斉にツッコミを入れているのが、Top Tweetsとして表示されていた。これによって、私が見ていないところでどういう潮流になっているのか、どういう感じで物事が進められようとしている(と人々が認識している)のかが感知できた。
ダン・コーエンは、現在はロシアのRTの記者だが、私がフォローしたときはパレスチナのために活動していた。グレッグ・カールストロムは2011年の所謂「アラブの春」を伝えたジャーナリストのひとり。ダン・マーフィーも中東に詳しいジャーナリスト(ボストンのメディアの記者)。スペンサー・アッカーマンは軍事系に強いジャーナリストで、「アラブの春」のときは分析記事を書いていた。ジュリア・C・ハーレーも中東専門家。彼らは8年前(2011年)の今ごろは、リビア情勢について多くを語っていた人々だ(ただしダン・コーエンは例外かもしれない。彼は当時パレスチナにいてパレスチナの情勢をツイートしていたはずだ)。
Twitterは過去何年分もの彼らの発言と私の行動(閲覧履歴など)をデータとして持っているから、こういう表示ができるのだろう。
ソーシャルメディアでは、こうやって表示されるものが偏っていたら、その偏りがそのまま見える世界を規定してしまうから、これだけを情報源とするのではなく、ロイターやブルームバーグといった通信社や、ガーディアンやBBCのような報道機関も併せて見るようにして、自分で手動(人力)で変な偏りがあれば修正していくようにする必要はあるだろうが、それを考えたって、こういう形で情報を得ることができるということは、便利でよいことだと思う。
ただし問題は、その「偏り」は、基本的に、私に見える世界をあまりにも狭めすぎているということだ。それについてどこまで自覚的でいられるか。(Twitter上での「偏り」に懐疑を抱かず無批判でいたら、なおかつTwitterだけで情勢を把握しているつもりになってたら、私はきっと今頃、「Brexitは中止になるに違いない」と考えているだろう。Brexitに関してはそのくらい、Twitter上で私に見える世界は偏っている。)
Twitter homeでlatestではなくtop tweetsが表示されるようにして放置しておいたら、観測範囲外のことがかなり整理されて並べられていて、これは有能な秘書がいる気分。トピックと発言者が完璧にうまく調和している。文脈がある情報処理。 pic.twitter.com/GFTBHHKKCq
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) February 25, 2019
ベネズエラ情勢について言えば、ジュリア・C・ハーレーが述べているように、「米国が支援するレジーム・チェンジはうまく行かない」ことを前提としなければならない(熱に浮かされて「人道支援だ」と叫んで介入することは避けねばならない)。同時に、マルコ・ルビオのように「米国が介入し、リビアは独裁者を除去することができました。めでたしめでたし」で話が終わっている人がかなりたくさんいるのだろう(その人たちはその人たちのフィルターバブルの中で生きているからそういう認識になる)ということも知っておかねばならないのだろう。
Ah yes, because Libya is SO stable now. Come on. Think long term and think strategically. This isn’t partisan. US backed regime change doesn’t work. Name one place where it has worked well in the last quarter century. https://t.co/KRuBQ3fGs1
— Julia C. Hurley (@JuliaCHurley) February 24, 2019
I’m sick of this quick fix attitude that destroys the lives of those in the countries where we negatively intervene. There is a role for the US to play but the short term thinking that it’s so easy to just flip from an autocratic regime over to democracy is dumb.
— Julia C. Hurley (@JuliaCHurley) February 24, 2019
何かを語るとき、語らねばならない立場に置かれたときに、それについて詳しく(正確に)知ろうとする必要性を感じない人々というのはいるものだし、それ以前に人間には「思い込み」というものもある――ただ、他国に介入しようとしている政治家が、リビアを成功例と認識しているというのは「思い込み」では済まされないような、恐るべき怠慢だが。
https://t.co/921i7j0Veb 子供・学生ならともかく、また自分の専門分野外の用語なら誰だって知らない・読めないのがデフォとして、政治家が行政用語を知らないとか、言葉で他者に働きかけるのが仕事の人が一般常識レベルの言葉を知らないというのは、それを学習する必要性なくここまできた人ということ
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) February 25, 2019
「学習する必要性がなかった人」というか「必要性を感じたことがなかった人」の恐ろしさは、今のBrexitに絡む英国の保守党政治家たちの言動に報道で接していると、こちらの感覚が麻痺するくらいリアルですよ。「英国って島国だったんだ」と言うBrexit大臣とか、NIの宗派分断を知らないNI大臣とか。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) February 25, 2019
(10年ほど前の「麻生支持熱」は、典型的なポピュリズムでしたよね。「マンガ好き」とか持ち上げられて、秋葉原で演説して、マスコミが批判すればネットでわっと擁護の声が沸き起こり、批判者には「左翼」のレッテルが貼り付けられる……Brexitのときのナイジェル・「伝統的エールとパブ大好き」・ファラージに通じるものがある)
それと、ベネズエラについて言えば、「アメリカの介入を支持しないならば、マドゥロを支持すべきである」という阿呆な二分法が横行していて、それは完全に5年ほど前のHands Off Syria運動(英国ではStop the War Coalitionが主導)のコピーにしか見えないのだけど、その点、下記も参照。
The alt-left is denouncing Bernie's foreign policy advisor for tweeting this principled progressive position on #Venezuela. He's being denounced as a war monger even though the statement clearly says "no Trump...no war". Which suggests their real issue is with the "no Maduro" bit https://t.co/0nFDWZrRAX
— Idrees Ahmad (@im_PULSE) February 24, 2019
The term "alt-left" however has been appropriated by the right, so a more accurate description is the "authoritarian left". The characteristics are described here: https://t.co/CLWoV4J9tY
— Idrees Ahmad (@im_PULSE) February 24, 2019
【追記@3月11日】
上で「Twitterが自動で表示する重要な話題は、米国の話題に偏っている(かもしれない)」というニュアンスのことを書いているが、今日2019年3月11日にそこで表示されていたのは英国の話題だった。Brexit支持陣営というかBrexit過激派の国会議員がまいているデマ(悪意ある誤情報)について、ジャーナリストがツッコミを入れている。
このデマ、実にひどい。あまりに雑すぎる。でも「EU残留派のエリートがBrexitの邪魔をしている」と憤慨していて、ネットで流れてくる話についていちいちファクトチェックなんかしない人たちの間では、かなり広まるだろう。こういうツッコミが表示されるのは、元々そういう話について懐疑的なスタンスの人に限られているだろうし。
This is a Member of Parliament disseminating a lie. And then - rather than apologising - pretending that the fact it’s a lie is immaterial.
— Caroline Dodds Pennock (@carolinepennock) March 10, 2019
Don’t you think wilfully misleading the public is wrong, @EstherMcVey1? Or is lying for propaganda purposes government policy now? pic.twitter.com/R3o3tk35aC
「フェイクニュース」以前に、高度に情報化された今の世の中はpost-truthなのだ。「情報化社会」云々が輝いて聞こえていた時代はこんなことになるとは予想もされていなかっただろうけれども。
※この記事は
2019年02月26日
にアップロードしました。
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