大きく取り上げられているのは3件のうち2件だ。残る1件は、タイミングのせいもあるだろうが、私も記事は1本しか見ていない(英国のメディアをチェックしているからそうなのであり、米国の報道を見てればここまで少ないということはないかもしれない)。ケンタッキー州の食料品店で51歳の白人の男が銃を乱射し、60代のアフリカ系アメリカ人男性2人が殺されたという事件で、警察が「人種が動機となった可能性がある」と見ている、という報道だった。BBC記事のタイムスタンプは27日(土)で、私がメモっているのが28日(日)夜、それっきりこの事件についての報道は目にしていない。容疑者の名前などで検索すれば続報があるだろうが、ほかの2件が大きすぎてそこまで手が回らない状態である。
「ほかの2件」のうち1件は、先週米東海岸と西海岸で相次いで爆発物(パイプボム)が送りつけられた件での容疑者の逮捕・起訴である。ボムが送りつけられたのは、昨今の「陰謀論」では主役を張っているジョージ・ソロス、「陰謀論」の世界では人を殺しまくっているということになっているクリントン夫妻、「陰謀論」の世界では「アメリカ生まれではない隠れムスリム」だったりするオバマ前大統領をはじめとする民主党の要人たちと、映画賞という場でめっちゃストレートなトランプ批判を繰り広げたロバート・デニーロが経営するレストラン、そしてCNN。最初にソロスのところの件が報じられたときには「ユナ・ボマー」とかを連想して長期化するかもと思っていたのだが、1週間もせずに容疑者は特定され逮捕された。爆発物にはイスイス団の旗をデザインしたステッカーに見えるものが貼り付けられるなど小細工がなされていたが、そんなことより指紋か何かが残っていたようで、それが手がかりになったらしい。そして逮捕された容疑者は、筋骨隆々たる50代の元ストリッパーで、数年前に破産して母親と同居しているという人物。所有する白いヴァンの窓に、ネットでしか見ないようなおどろおどろしい「トランプ支持」の図像を印刷したものをべったりと貼っていて、近所の人がいやがっている。SNS使用歴があり、アカウント閉鎖前にサルベージに成功したジャーナリストが分析したところ、ある特定の日を境に、「酒と料理と美女が好きなお気楽マッチョマン」的な投稿ばかりの状態から、急に「イスイス団をぶっ潰せ」みたいな投稿ばかりの状態に変わっているという。その変化に影響していると思われるのは……おっと、ここまでだ。
続きは下記にて。同じことをあちこちに書くのはいやなので。
中間選挙前、米国で連続テロ(爆発物送付、シナゴーグ銃撃など)。トランプは「メディアが悪い!」
https://matome.naver.jp/odai/2154083007447928801
先週立て続けに起きた3件目のテロ/ヘイト・クライムは、1つ前のエントリで書いたGabの件を引き起こした、土曜日のピッツバーグのシナゴーグ銃撃テロである。これは、日本ではどうも「過激な個人のやったこと」扱いがされているようだが(ディラン・ルーフの黒人教会襲撃のような)、より大きな《物語》の中にあることは疑いようがない。つまり「反ユダヤ主義」という《物語》だ。容疑者は「1488」という記号を、SNSの自分のページに掲げるような人物である。
ボム送付、シナゴーグ銃撃、どちらについても、トランプ本人とその政権の反応は、「陰謀論」臭がすさまじい。そしてそれが今のnormである。
その件も、上記の「まとめ」にて。
"72 hours in America"
— Kyle Blaine (@kyletblaine) October 28, 2018
The CNN homepage this morning. pic.twitter.com/WHQa2pQPjF
72 hours in America: Three hate-filled crimes. Three hate-filled suspects. Soon Americans will be forming caravans and heading to Canada. I hope we aren’t met by the Canadian Armed Forces pic.twitter.com/dFGkfuA7hJ
— Stone Cold (@stonecold2050) October 29, 2018
特に3件目、つまりシナゴーグ銃撃のロバート・バウアーズには、英国で2016年6月のEU離脱可否レファレンダム直前に起きたジョー・コックス議員殺害の実行者、トマス・メアと重なる部分を、非常に多く感じている。中年の、誰にも気づかれていないネオナチ、白人優越主義者。
ああいう人々は、そのテロ行為によって、他の人々を変えることができる。
ピッツバーグからはこんな反応が出ている。
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-46012740
One student, 15-year-old Sophia Levin, stood in front of the crowd and declared: "I am a different Jew today than I was yesterday."
"Yesterday being Jewish was just being a part of the Jewish community. Hearing about anti-Semitic [events] was something you heard about other places. But this is Squirrel Hill, and that didn't affect us here," she told them.
Emily and Rebecca both agree the experience has changed how they view their Jewish identity.
ホワイト・ナショナリストたちはこういう反応を、「ユダヤ人か、アメリカ人か」という二項対立で語ろうとするだろう。「アメリカ人でないのなら出て行け」と。
彼らの中では、「ユダヤ人(ユダヤ教徒)であり、アメリカ人である」ことは、「猫好きであり、アメリカ人である」ことと同様に両立するものではないのだから。
今起きているのは、そういう人たちが「革命」を起こそうとしているということである。
@getongab Gab is more than a social platform. It's a REVOLUTION!! The leftist social media is trying to silence us. WE SAY NO!!! 🇺🇸🇺🇸🇺🇸 #MAGA 🇺🇸🇺🇸🇺🇸 pic.twitter.com/0qpY1pnoQO
— The Teutonic Plague (@KaiserOfGames) March 2, 2018
こんな「革命」ごっこなど、本気で取り合う必要はないし、私も本気にしてここに貼り付けているわけではない。けれども、この人たちが「革命」を真剣に考えているということは、事実として認識しておく必要があると思っている。砂糖を固めて何かを希釈した水をしみこませた錠剤のほうが薬よりも効くと真剣に思っている人たちがいるということを、事実として認識しておく必要があるのと同様に。
ここでは、こういうふうにして発話される「革命 (revolution)」が、何度も重ねて発話されるうちに、ただの言葉ではなく何か実態をともなったものとしてイメージされていく。そのイメージは、現実に行動する力を持った人間を、変えていく。「俺の持っている銃を、そのために使うべきじゃないか?」「俺のライセンスで、いざと言うときのために、銃をもっと買っておくべきじゃないか?」
※この記事は
2018年10月30日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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