「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2018年12月05日

「化粧筆を贈呈」のレベルではない、バロンドール授賞式での公然たるセクシュアル・ハラスメント

フランスのサッカー誌(紙)が主催するサッカーの最優秀選手賞、バロンドール(英訳すれば「ゴールデン・ボール」)で、女性部門が今年から新設された。「女性初のバロンドール受賞者」となったアーダ・ヘーゲルベルグ(リヨン)は、男性部門受賞者のルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)、若手部門と言える「コパ・トロフィ」受賞者のキリアン・ムバッペ(エムバペ)と並んで、最高の笑顔を見せていた。

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※ゲッティのキャプションが間違っている。 Ada Hegerbergはスウェーデンではなくノルウェーの人だ。

だが彼女は、フットボーラーとしてのこの最高の日の最高の舞台で、公然とセクハラを受けた。「黄金のサッカーボール」をかたどったトロフィーを彼女に贈呈したフランスの著名人(DJでシンガーソングライターだそうだが)が、壇上で彼女に「トゥワーキングのやり方はご存知ですか」と、へらへら笑いながら言い放った(「トゥワーク」「トゥワーキング」というのは、わかりやすく言えば「尻振りダンス」。女が男に向かって尻を突き出し、くねらせるという動作を行なう)。

瞬間、アーダ・ヘーゲルベルグは凍りついたような笑みを浮かべ、一言「ノン」と答えてその場を離れた。

右から左へ受け流した。

彼女は授賞式の前、「サッカーという男社会と女性プレイヤー」についてインタビューで語っていた。下記ガーディアンの映像は全部で1分程度だが、後半はそのインタビューの映像だ(彼女は英語で語っている)。






DJ氏はアーダ・ヘーゲルベルグの前にトロフィーを受け取ったキリアン・ムバッペに対しても「Drakeで踊ろう」的なことをやって、そして盛大にスベっている。下記映像の後半参照。しかしムバッペに踊らせたのを「スベった」と思っていなかったようで、ヘーゲルベルグにもその「踊り」のネタをふったようだ。で、その「踊り」が「トゥワーキング」である必然性は? 単にお前の頭の中にある「女の踊り」がそれだ、というだけだろ、っていう。これは笑いとして最低の類の笑いだ。



ムバッペの映像もヘーゲルベルグの映像も、この式典の音楽担当であるDJ氏が「どうよ、俺の冴え渡るセンス」的に場を盛り上げようとしたが、ことごとく滑った……ように見える。失敗した歌番組の司会みたいな感じだが、歌番組じゃなくてバロンドールなわけよ、これ。一時はFIFAとくっついてた国際的な賞なのに、なんでこんな内輪ノリなことになったのか。取材班は現地に飛……ばない。でもDJ氏はヘーゲルベルグと一緒に月に飛ぼうとしたみたい。
After Ms. Hegerber dismissed the twerking comment, Frank Sinatra’s “Fly Me to the Moon” began to play, and she and Mr. Solveig slow-danced briefly.

https://www.nytimes.com/2018/12/03/sports/soccer/ada-hegerberg-ballon-dor.html?smid=tw-nytimes&smtyp=cur


シナトラの『私を月に連れてって』を踊る前に壇上でアーダ・ヘーゲルベルグに「トゥワーキングできます?」と訊いた失礼極まりないDJ氏は、「ジョークを意図していた」「ジョークだということはアーダにも伝わっていた」と言い訳した上で、「気分を害された方には申し訳ない」的な謝罪をしている。

なるほど、「ジョーク」。このDJ氏は、男の受賞者に賞を贈呈するときにも、その類の性的な「ジョーク」をぶちかます下品な人物なのだろう。(・_・)

ムバッペにそういう無茶ぶりをしなかったのは、ムバッペがまだ21歳にもなってないからだろうね。 (・_・)

授賞式の締めくくりの集合写真(上でエンベッドしたもの)を見る限り、アーダ・ヘーゲルベルグ自身は、自分のやってきたこと、積み重ねてきた努力が評価され、「バロンドール」という最高の栄誉を手にしたという喜びを、知性に欠けたプレゼンターの愚かな「ジョーク(自称)」によって台無しにさせてはいないようだし、実際に「気にしていない」と発言しているが(NYT)、こういう振る舞いがあれば、当人よりむしろ観客がブーイングを浴びせるのは自然なことで(日本で澤さんたちになぜか「化粧筆」が贈られたときのことを思い起こそう)、Twitterでのこの件についての発言は、ブーイングの言葉に満ちていた。多くの人が、DJ氏の言動にまゆをひそめていた。それはヘーゲルベルグのために怒っているという反応というより、社会的にacceptableでないものを見たときの反応だった。

私はこの事態を知ったとき、それらのブーイングの言葉をいくつか(いくつも)retweetしたが、それは「これはひどい」ということを繰り返し言いたかったからではなく、どういう言葉が使われているか(どういう人がどういう言葉でブーイングしているか)に関心があったからである。(私のretweetの半分くらいは、そういう「言語的な関心」によるものだ。発言の内容そのものではなく、そういう内容を表現したい場合にどういう単語やフレーズが使われているかに関心があってのことだ。)

アメリカのスポーツ・ジャーナリスト、グラント・ウォールさんはDJ氏の言動について "absolute trash" と述べ、日々女性スポーツ選手たちがこのような "crap" に対処しているのだと強調している。



北アイルランド、南ベルファストの政党PBP (People Before Profit) のアカウントは、DJ氏のことを "an absolute idiot", "disgraceful" と切り捨てている。



サッカーブログ運営者のショーン・ウォーカーさんは、DJ氏が偉大なプレイヤーであるヘーゲルベルグに意味もなく恥ずかしい思いをさせようとしていたのかということを容赦なく述べ "disgusting" と吐き捨てている。



女性フットボーラー(元)のフランシス・シルヴァさんは、何が起きたかを時系列で整理したうえで、DJ氏に対し「Fワード」を投げている。



ガーディアンなどで書いているヴァン・バダムさんは、「おもしろくもないくせに単にそういうことになってるからというだけで大舞台に立てるような人物が、ありとあらゆるステージで、ありとあらゆる場で、ありとあらゆる機会をとらえて、女性をくだらない存在に貶めるのだ」と舌鋒鋭い。




詳細なプロフィールが記載されていないのでどういう方なのかはわからないが、Twittererのグレイアム・セイヤーズさんは非常に強い言葉を使って、DJ氏を非難している。



ほか、Twitterでは見ていないが、NYTの記事より:
“This is an absolute joke,” Lindsey Horan, a United States women’s team midfielder who was one of the finalists for the women’s Ballon d’Or, tweeted in response to Mr. Solveig’s comment. She offered her support for Ms. Hegerberg: “Congrats and you do not deserve this.”

Andy Murray, the tennis star, also condemned the comment in a post on Instagram. “To everyone who thinks people are overreacting and it was just a joke.. It wasn’t,” he wrote. “I’ve been involved in sport my whole life and the level of sexism is unreal.”

https://www.nytimes.com/2018/12/03/sports/soccer/ada-hegerberg-ballon-dor.html?smid=tw-nytimes&smtyp=cur


DJ氏の「謝罪」を受けて、フランシス・シルヴァさん:




私のツイート。私がアーダの立場だったら、 "Excuse me? Are you insane?" くらいは言っちゃってたと思うが、"Non" の一言で済ませた彼女は大人だと思う。


↑このBBCのTwitter cardの写真はシナトラのFly Me To The Moonを踊っているときのものだが、DJ氏はアーダの手を取っている。でもアーダの方の体の構え方が微妙で笑える。あのドレスを着てるときに知らない男の人とペアダンスってのはちょっと……だよね……授賞式の演出考えたの、誰なんだろう。




"It's Cold Outside" という冬の歌(クリスマスの時期によく歌われる)のことは、数日前にニュースになっていたので知った。






バロンドール授賞式でのDJ氏の「ジョーク」のようなものは、これからもすぐにはなくなりはしないだろう。だから女性たちがああいうのを受け流す、スルーすることは、これからも要求されるだろう(そしてその場では流せても、自宅に帰ったあとで、あるいはふと1人になったときに、途方もなくやり場のない悔しさに飲み込まれることがあっても、耐えなければならないのだ。誰かに言っても「実害がないんだから、そのくらいガマンしろよ」的にあしらわれるのが関の山だし)。

けれども今回、アーダ・ヘーゲルベルグに対するあの失礼な言動に対し、「これはひどい」という声がたくさん、目に見える形で生じていたことは、明日の、来週の、来月の、来年の私たちを、少し楽にしてくれるのではないかと思う。

だがその希望すら、バックラッシュに覆い隠されるのがこのクソみたいな世の中だ(←地獄注意)。

アーダ・ヘーゲルベルグのスピーチ。


(なお、日本のスポーツ新聞だったら、あるいは英国のデイリー・メイルだったら、授賞式でのヘーゲルベルグの衣装は「胸元ざっくり」とか書き立てられていただろうが、私の観測範囲の英語圏ではそのような文言は見ていない。)



追記: あれが「ジョーク」として成立するとしたら、「下ネタも通じる親しい間柄」でのことだろう(それでも公の晴れがましい場でそういう下品な「ジョーク」は問題視されるはず。いつぞや、アカデミー賞か何かで親しい間柄で「浮浪者か」的なジョークが出て問題視されたことがあったが)。そうでないのにDJ氏はそれをぶちかました。実際、あの発言はバロンドール受賞者を凍りつかせただけでなく、会場を凍らせただけで、「ジョーク」とは受け取られなかったようだ。




ただこの「バロンドール」の授賞式、隅から隅まで内輪ノリのように見える。受賞スピーチのときにヘーゲルベルグが挙げた人名(オランピック・リヨンの関係者)に対してブーイングが起きて、司会者が制止している。何だかね。


※この記事は

2018年12月05日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 08:00 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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