「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2019年03月17日

変化したアイルランド、首相が男性パートナー同伴で外交

今日、3月17日はセント・パトリックス・デイ(アイルランドの守護聖人、聖パトリックの亡くなった日)で、アイルランドの祝日。世界各地がシンボルカラーの緑に染まるのは、ここ20年くらいの間にアイルランドがプロモーションを成功させたためだが、元々この「3月17日の緑祭り」はアイルランドが発祥というより在外アイルランド人、特に北米の人々が始めたものだ(ソース)。

アイルランドと北米の縁は深い。映画でもその《物語》に関するものは非常にたくさんある。『タイタニック』や『ギャング・オヴ・ニューヨーク』のような歴史大作もあれば、『ブルックリン』のような一人の女性の人生と内面をじっくり描いたものもある。私は今日は10年以上ぶりにジム・シェリダンの『イン・アメリカ』を見た。天使のような子供から目が離せない、センチメンタルなメロドラマ(とてもよく作られている)。



一方、コンピューターの画面の中は通常運転で、ニュージーランドで発生したモスク襲撃テロに関連して極右がなんちゃらといったフィードがあふれていて、アイルランドはBrexitの話とラグビーのSix Nationsの話(25-0だったのに最後に意地を見せてトライを決めて25-7にするあたり、アイルランドらしいと思った)のフィードがたくさんあるが、中には、一部Brexitと関連して、セント・パトリックス・デイでの訪米外交のフィードもあった。

セント・パトリックス・デイでの訪米外交はアイルランド共和国の政治トップだけでなく、北アイルランドの政治トップも行なっており、Brexitがあの状況のなか、DUPのアーリーン・フォスターはワシントンDCから写真をフィードしてきたりしている。

一方、アイルランド共和国はレオ・ヴァラドカー(ヴァラッカー)首相がDCに行っている。彼はアイルランド生まれのアイルランド人だがお父さんがインド出身の医師で(だからアイルランドの白人優越主義者には嫌われているし、「移民」呼ばわりもされている)、アイルランド初の人種的マイノリティの首相なのだが、それ以上に彼が注目されているのは、ゲイであることをオープンにしているうえで与党党首に選出され、首相となったということだ。

同性カップルが珍しくなくなった現在では、外交行事では「男の首相とファーストレディ」や「女の首相とファースト・ハズバンド」というのが慣習だった場面で、「男の首相とファースト・ハズバンド」「女の首相とファーストレディ」ということになることもある。昨年はヴァラドカー首相は確か外交的な場には単独で出席し、カジュアルな場でだけパートナー(男性の医師)を伴っていたと思うが(要確認)、今年はパートナー同伴で外交行事をこなしている。

中でも注目され、ウェブで実況中継のようになっていたのが、現政権の中でもものすごい保守派として知られるペンス副大統領のもとを訪問したときのことだ。







(♪カーモン・ベイビィ・アメリカ、ドリームの見方をインスパイア♪みたいなことを言ってる)




ヴァラッカー首相はこの訪問でペンス副大統領の考え方が変わるとは思っていないと述べている。




それでも彼は「変化したアイルランド」を体現したような存在である――その政策への賛否はアイルランド共和国内にはもちろんあるのだけど、それは普通に政策への賛否で、セクシャリティや肌の色についてのものではない。婚姻の平等を実現し(つまり同性結婚を合法化し)、妊娠中絶を合法化したアイルランドは、ほんの少し前まで、非常に保守的なカトリック教会が人々の日常生活の隅々まで規定しているような宗教保守国家だった。西欧なのに性描写に関して小説など書物の検閲もある国だった。あと、誰も気にしてなかったようだが、去年の11月まで宗教冒涜罪があったのだ(サウジアラビアとかパキスタンの話じゃない。アイルランドだ)。

このことについて、英BBC Newsnightがアイルランドの財務大臣にインタビューをしている。これがとてもよかった。



最初のセクションで、大臣は次のように述べている。
We're a country that have managed to deal with matters that have been very divisive and difficult in our society in a really inclusive way over the last number of years. Whether it be the decision that the people of Ireland recently made in relation to the eighth amendment, the section of our constitution in relation to the availability of abortion in our country. Whether it be how we managed this glorious debate in relation to marriage equality and the care and the love that was expressed in our country, during that campaign. What the Taoiseach has done is articulate his personal identity in a way that reflects the change that my country has gone through. He has made the point that he represents a country in which all are intrinsically equal and then he expressed that the view in a way that was respectful but also clear. He talked about our equality whether it be in front of a constitution or in front of God and said it's on that basis he offers his views to America.


そして、ペンス副大統領との会談をヴァラドカー首相はどう受け止めているかということについてのやり取りをはさんで、最後に「アイルランドはこう変わった」ということを次のように言葉にしている。
We all have people we care, we all have people who we love, and that care and that love is equal, regardless who you offer it to. And that's the kind of dialogue and the kind of process and democracy that my country went through and became after many years in which these were difficult matters for us to deal with. And the Taoiseach found a very clear way of giving voice to that spirit and that tone that's in my country.


映画『イン・アメリカ』で、主人公一家が暮らすことになったニューヨークのヘルズ・キッチンのぼろアパートの住民に、ドアに「入るな」と大きく書いている画家のマテオという登場人物がいる。外界から自分を切り離していた彼は、ふとしたきっかけで一家の子供たちと知り合ったのがきっかけで、一家の部屋に出入りするようになる。一方、主人公一家の父親、ジョニーも心に重たいものを抱えていて、あるときマテオに対する不満が爆発してしまう。マテオの部屋に乗り込んだジョニーは「うちの妻に惚れてんのか?」と詰め寄る。
Johnny: Are you in love with her?

Mateo: No... I'm in love with you. And I'm in love with your beautiful woman. And I'm in love with your kids. And I'm even in love with your unborn child. I'm even in love with your anger! I'm in love with anything that lives!


ジム・シェリダンの諸作品を貫くのはこれだよなあと今回この映画を見て思ったし、これがアイルランドを貫く何かだよなあとも思った。あの緑はそのシンボルなのかもしれない。セント・パトリックス・デイの外交行事で人々が胸に飾っているカイワレダイコンの束みたいなのはアイルランドのシンボルであるシャムロックで、これはどこにでも生えてくる。だからこそ聖パトリックは布教するときにこの植物を使って三位一体を説明したのだろう。

イン・アメリカ/三つの小さな願いごと (字幕版)
イン・アメリカ/三つの小さな願いごと (字幕版)


※この記事は

2019年03月17日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 23:58 | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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