「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2017年07月31日

これは「炎上狙い」の「逆張り」か――サンデー・タイムズが提供した、あからさまな性差別・反ユダヤ主義言説の居場所

アイルランドの大手新聞で論説記事(コラム)を書いている書き手に、ケヴィン・マイアーズという人がいる。個人的には、「この人の書いたものは基本的に読まない」と決めている書き手だ。名前を知ったのがいつだったか、そのきっかけは具体的に何だったかはもう覚えていないが、ベルファスト・テレグラフ(北アイルランド拠点のこの媒体は、アイルランド共和国の大手紙のひとち、アイリッシュ・インディペンデントの系列で、論説などはアイリッシュ・インディのものが掲載されていることがよくある)に掲載されていた北アイルランド紛争絡みの文章だった。アイルランドには(英国と同じく)「IRA憎し」でナショナリスト・コミュニティについての偏見を隠そうともしない書き手がいるが、マイアーズはそのひとりだ。

マイアーズは、ウィキペディアによると(彼はウィキペディアに項目が立てられるような「ジャーナリスト」なのだ)、1947年にイングランドのレスターで、アイリッシュの移民の家に生まれ、1969年にアイルランドのダブリンにあるユニヴァーシティ・コレッジ・ダブリン(元々はアングロ・アイリッシュ、つまり英国系プロテスタントの名門校)を卒業してアイルランドの公共放送RTEのジャーナリストとなり、北アイルランド紛争が最も激しかった時期を北アイルランドの記者として過ごした。後にその時代のことを "Watching the Door: A Memoir, 1971–1978" という回想録にまとめているが、私は未読である。

1990年代にはRTEでクイズ番組の司会者となり、近年はラジオ局での仕事が多いようだが、それと並行してアイルランドの大手新聞に論説記事を書いてきた。

アイルランドの大手新聞だけではない。今検索してみたら、英国のカトリックの新聞『カトリック・ヘラルド』にもマイアーズのページがある。(今はウィキペディアから消されているが、編集合戦になる前の版によると、マイアーズはイングランドでカトリックの学校に通っている。)
http://www.catholicherald.co.uk/author/kevin-myers/

7月30日(日)、そのマイアーズの名前が、TwitterのUKのTrends欄トップにあった。キャプチャを取るのを忘れていたが、現地昼にはTwitterが大変な騒ぎになっていたようだった。




マイアーズがいわゆる「炎上」の状態になったのは、この日のアイルランドのサンデー・タイムズと英国のサンデー・タイムズのウェブサイトに掲載されたコラムが原因だった(アイルランドのサンデー・タイムズは、英国のサンデー・タイムズのアイルランド版で、紙面での内容は完全に同じではない)。コラムの話題は「BBCのギャラ」。7月25日ごろから、英国では「BBCに出ているTVパーソナリティやニュースキャスターのギャラ」、特に「あからさまな男女格差」が大いに話題になり(BBCは一般の人々から強制的に徴収する「ライセンス料」で成り立っているので、そういった情報開示はするのが当たり前。NHKはそういうことをする覚悟あるんですよね、もちろん)、マイアーズもそれに乗っかったわけだ。個人的には、ライセンス料を払っているわけでもないアイルランド共和国の人々にとっては、せいぜいが「ほー、リネカーは高給取りだな!」といった茶飲み話になる程度のことで、マイアーズがアイルランドのサンデー・タイムズでなぜそのことを書いているのか、そこからして意味がよくわからないのだが、たぶんよい「ネタ」だったということだろう。そういう題材でマイアーズがどういうことを書いていたかというと、次の抜粋にある通りである。


サンデー・タイムズはお金を払って購読していないとウェブでも記事が閲覧できないのだが、マイアーズの問題の文章は、読んだ人がこのように「これはひどい」と言って「さらす」ことをしたくなるような文章で、このキャプチャが瞬く間にSNS上のアイルランドと英国で拡散(上記ツイート主は英国のFT記者で、彼が参照先にしているのも英国のNew Statesmanで書くなどしているジャーナリストだ)、その結果、アイルランドの新聞の書き手であるマイアーズがUKのTrendsでトップになるほどの炎上ということになった。

個人的には「炎上」という日本語の俗語は濫用されすぎていると思うのだが、今回は実にこの表現がしっくりくる状況だ。

例えばガーディアンで論説を書いてるマリーナ・ハイドはこう反応している。「これはひどい。こんなのが新聞に掲載されたなんて、びっくりですね。でも実際にそういうことになっているということが示唆するものは大きい」。


インディペンデントのディナ・リックマンは紙版を入手し、問題の箇所を抜粋して「こんなタイトルのコラムで、内容がこれ以上ひどくなれないくらいにひどい」とツイートしている。


FTのニューズ・エディターのピーター・スピーゲルは、「タイムズ(のブランドの新聞)が、こんな内容のコラムを掲載するなんて。2017年に」と驚き呆れている。


用語法がすさまじいということに注目した投稿もある。



炎上したコラムで、マイアーズが何を書いていたかは、ここではいちいち日本語化して再生産することはしない。上記のキャプチャをご確認いただきたい。これが「反ユダヤ主義」に読めない人は、文章の読み方をイチから学びなおしたほうがよいのではないかというくらいに教科書的な反ユダヤ主義だし、その論の前提にあるのが、「反ユダヤ主義の文章がサンデー・タイムズという名門に掲載されていること」の衝撃が大きくて語り忘れる人もいるかもしれないし、実際女性はこういうのいちいち相手にしてたらやってらんないんだよねということで見過ごす人もいるかもしれないが、ひどい女性蔑視・性差別だ。

「炎上」状態になってほどなく、サンデー・タイムズは問題のコラムをウェブから削除した。


むろん、これは「記事を削除」で終わるような性質の話ではない。「来週も彼の文章はサンデー・タイムズに掲載されるのかな」という@henrymanceのツイートの言葉は、「クビになるんじゃないのか」ということを示唆している。

そして実際にマイヤーズはサンデー・タイムズをクビになり、そのことがBBC News UKのトップページでも記事になっていた。


クビになった経緯(編集長コメントなど)は、上記BBC記事をご参照いただきたい。これはエディターの責任問題に発展しても何もおかしくない。マイアーズのひどい差別言辞を投げつけられた2人のBBC女性ジャーナリストの1人は、月曜日に「なぜ誰も気づかずに紙面掲載までいったのか」という疑問を呈している。


ここ数年、英国では「政治家の反ユダヤ主義疑惑」が常にメディアの追及対象となっていた。といっても、保守党の政治家がつつかれることは稀で、対象は常に労働党の政治家だ。だがメディアのそういう動きは純粋な人種主義反対によるものというより政治的なもので、デイリー・メイル(1930年代にナチズムを支持した新聞だが)やデイリー・エクスプレスのような媒体によって「お前は反ユダヤ主義者だろう」という前提でつつかれたのは、ジェレミー・コービンやダイアン・アボットなど労働党左派の政治家たちだった(それもこの6月の総選挙でコービンがある程度の結果を出し、テリーザ・メイが失笑ものの結果しか出せなかったあとで終わりつつあるが)。メイルなど、2015年総選挙に際して、反ユダヤ主義スレスレで、当時の労働党党首エド・ミリバンドに対する個人攻撃を展開してきたのだが(彼の父親ラルフ・ミリバンドは第二次大戦で大陸から脱出してきた亡命ユダヤ人なのだが、そのラルフについて「英国を裏切ったスパイ」呼ばわりをした。もちろん事実無根どころか事実は反対で、ラルフは英軍に協力した亡命者の1人だった)、そんなことなどころっと忘れて「コービンは反ユダヤ主義者か」みたいなことを書きたてていた。そういうときに、よりによってサンデー・タイムズのような媒体が、マイヤーズのようなあからさまな反ユダヤ主義者に書く場を与えているということが明らかになり、みなさん、びっくりして椅子から落ちたわけだ。サンデー・タイムズはもちろん、過去に反ユダヤ主義を厳しく批判している。



※@alexvtunzelmannのツイートのリンク先はベルファスト・テレグラフ(BT)だが、マイアーズによるこのコラムはBTの系列紙であるアイリッシュ・インディペンデントのコラムである。詳細後述。


このように、問題のコラムについてTwitterが大騒ぎになりつつあったころ、今回のみならず以前からマイアーズの文章に接してきたアイルランド&英国の人々が、「あー、あの人は……」みたいな反応というか解説をTwitterに書き込んでいた。

「ケヴィン・マイアーズは何十年にもわたって質が悪く内容もひどい意見を開陳してきたのだが、常に全国紙という場で発言できる立場にあり続けている」


「アングロ・アイリッシュで(原文ママ。ここは私には事実確認が取れない)、反ユダヤ主義者のケヴィン・マイアーズが、今もまだひどいことを発言して金を稼いでいるなんてね」


「ケヴィン・マイアーズは、2008年に、『アフリカが誰かにもたらしたものといえば【あまりにひどいので日本語化しません。原文を見ればわかりますよね】だけだ』というコラムを書いているのだが、それでも今なお、コラムニストとしてやっていけている」


「ブリテンのまっとうな市民のみなさん、ケヴィン・マイアーズをご紹介しましょう。ホロコースト否定論者にして反ユダヤ主義の上から目線の白人男性です」として添付されているキャプチャは、2009年にアイリッシュ・インディペンデントに掲載されたとんでもない一文(上述の@alexvtunzelmannのツイートにあるBTのリンクと同一)。この文章は、今回(2017年7月)の炎上後にようやく削除されたそうだ。(日本人としては「お前はマルコなんとかという雑誌の書き手か」と思ってしまうが、マルコなんとかのほうがまだアカデミックな装いをしていたよね。これはむしろネット掲示板の「すとーむなんちゃら」的だ。)


この論説記事は、今回の炎上のあとでようやく削除された。(アイリッシュ・インディから削除されても、BTにはまだ残っていたりもするかもしれない。)


一方で「マイヤーズは反ユダヤ主義なのではなく、逆張りでああだこうだと言っているだけのいやな奴だ」という意見もある。






ロンドンのジャーナリスト、ポドレイグ・レイディさんはブログにまとめている。

真顔で読むのが大変だな、これは。
I’m not, to be clear, suggesting that Myers drinks, or drank while writing this column. I have no idea of his habits and I care less. But what we have here is a particular style of conservative contrarian. It is not the tight-lipped fury of a Melanie Philips, or the nostalgic despair of a Peter Hitchens. It is more a lazy lashing out, combined with an entirely unjustified intellectual arrogance.

I can already hear Myers justification of his comments. He (unlike those who criticise him) has traveled the world and met people of all different faiths and none. He has many Jewish friends and acquaintances. And in fact, most of them are well off, and prudent with money. And since when was saying a group was financially savvy an insult anyway? Perhaps the spendthrift Irish could learn something from the Jews.

This will all come couched in a truth-to-power spiel. And he’ll probably “point out” that it's ironic that those in Irish society decrying his “supposed anti-Semitism” have never had a good word to say about the state of Israel.

Myers has form, if not necessarily in anti-Semitism, then certainly in dreary controversy. I recall a column at the height of the expositions about institutional child abuse in Ireland, claiming that beatings at his British public school never did him any harm...

(あー、あったあった、そういう騒動。当時、実際「虐待虐待と騒ぐ連中は賠償金が目的なのだろう」といった言説は、あることはあったよね。そういうところに居場所を見つけたのがマイヤーズのような卑劣な書き手)

レイディさんのブログには、このあと、アイリッシュ・タイムズとマイヤーズの事例から、マイヤーズが「あえて問題発言をする書き手」として雇われていたという事実を指摘する。
Kennedy (引用注: 当時のアイリッシュ・タイムズ編集長) claimed that Myers article showed “The mindset which sees innocent children as bastards still exists in 2005, unfortunately, and I felt it should be revealed." But she then went on to say that she regretted the publication of the column and apologised "for the offence caused to hundreds of women and children, to many readers of this newspaper.”

This is the problem when someone is hired *in order* to be controversial. Inevitably, the controversialist will go too far beyond most people deem acceptable: it is quite simply the nature of the job. And with that, everyone involved in putting the paper together has the same problem. From subeditor to editor, every week the call must be made on whether the resident controversialist has been not controversial enough, too controversial, or just-the-right-amount of controversial.


※アイリッシュ・タイムズの件に関しては下記参照。


レイディさんの上記の指摘と同様のことを、ティム・ブラニガンさんが言っている。


一方で、北アイルランド(バリミナ)出身で、人が人である前にプロテスタントかカトリックであるような環境にうんざりして若いときにイングランドに渡ったリチャード・シーモアさん(ブログLenin's Tomb主宰)は、ストレートに怒り、ストレートに解説している。(なお、アイリッシュ・インディペンデントの記事削除の時期について、シーモアさんのツイートは少しわかりづらいが、同紙が問題の記事を削除したのは、今回の「BBCのギャラ」についての文章が炎上したあとである。)













個人的には、アイリッシュ・タイムズのケネディの「編集者として、あえてトンデモ言説を掲載すること」という言い訳よりも、シーモアさんが指摘している「読者にとって、ああいうものが書かれていること、発言されていること、それらの発言主がメディア・セレブリティとなっていること」のほうが重要だと思う。現実にそこらへんにごろごろ転がっている過激派、例えばトミー・ロビンソンやアンジェム・チョーダリのような発言者は、「全部わかってるけど、意図的にやばい発言をしている」わけではないのだ。そういう発言者に場を与える編集者がいかに「全部わかってるけど、意図的にやばい発言をする人物に場を与えているのだ」と言い張ろうとも。

……という騒動で、たぶんまだ先はあると思う。

いずれにせよ、多くの場合「海外」や「欧米」なるざっくりしすぎたタームで「海外では差別発言は取り締りの対象だ」だの、「欧米のメインストリームではPCでない言説は存在しない」だのといった不正確情報が《イメージ》を形作っている日本語圏で、ケヴィン・マイアーズのような書き手が現に存在していることをはっきり示しておくことは、無駄ではないだろう。2017年のこの現実では米大統領とホワイトハウスがああなのだから、もはや言うまでもないことになっているかもしれないが。





クロウリーさんのスレッド(抜粋)。







クロウリーさんの至言。「自由な言論について話すのと同じくらい高い頻度で、責任ある言論について話すべきかもしれない」。


北アイルランドのような社会で、ラジオのジャーナリストとして人々の言葉に日々向き合っているクロウリーさんから、こういう言葉が出るということ。

※この記事は

2017年07月31日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 19:30 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼















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