「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2017年07月01日

北アイルランドのエクストリーム交渉が期限をぶっち切って絶賛継続中

そして締切日の29日は、何も進展なく、過ぎていき……「こっからですよ、こっから!」と頭の中で松木さんが絶叫している北アイルランド・ウォッチャーのみなさん、おはようございます。かの地の国技、「エクストリーム交渉」は、案の定、延長戦に入っています。山場は週明け。今週末は各メディアに「ありうるシナリオ」についての解説記事が出ると思われます……etc, etc.

というわけで、日本語圏ではあの本にもこの本にも「Brexitという結論を受けて北アイルランドでは英国からの分離を求める声が起こり云々」とかいう不正確なことが書いてある状態で、世間の標準が「一般人は北アイルランドのことなんか正確に把握してなくていいんです」であることを思い知らされて、精神的に15年もののビニール傘(うちに実在)のような状態の今日このごろ(「ナショナリスト」が「北アイルランドの英国からの分離」を求めているのは、Brexitなんか関係なく、ずーっと昔から、つまり北アイルランド成立時からだ!)、日本語圏の報道は見ないようにしているので日本語圏で報道されているのかどうか知らないが、北アイルランドでは国技、すなわち「エクストリーム交渉」が絶賛開催中である。しかも今回はあらかじめケツカッチンだったにもかかわらず、絶賛延長戦になだれ込みこのままだとPK戦かという気配だが、「エクストリーム交渉」にPK戦があれば、あの点もこの点も決着などとうについている(と思われる)わけで、要するに、先が読めない。

その状態を、BBC Newsは楽しんですらいるようで、毎度のことながら、記事の写真のセレクトが楽しい♪

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※この写真の銅像はストーモントの議事堂前に立ってるエドワード・カーソンの像。カーソンは「アルスター」における「反アイルランド主義」とでも呼ぶべきものの指導者。

上記記事、さらに、時間が進み事態の進展(あるいは進展の欠落)に伴って同じURLでアップデートされたあとに加わったビデオも楽しい♪ 記事のページの一番上にエンベッドされているので、2分強の時間がある方は、ぜひとも見ていただきたい♪♪♪ エンベッド・プレイヤーの止め絵がファンフェアで、 "The Stormont Merry-go-round." というキャプションがついているので、「ああ、ついにエクストリーム交渉の長期化と予期せぬ外部要因のせいで、BBC News Northern Irelandの中の人たちが壊れたんだ……」と思ったけど、ビデオを再生してみれば何のことはない、仮に壊れていたとしても、壊れながら建設しまくっているようで、さすがエクストリーム交渉の本場のジャーナリストたちは違う。 (・_・)

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このビデオ、出だしはこうだ――ファンフェアの車の遊具(バンパーカー)で遊ぶ人々の映像に、「DUPとシン・フェインは、衝突しあって何ヶ月も費やしてきた」だの、「パワー・シェアリング(の自治政府)を再発進させようという交渉が続けられ」だのと、「誰がうまいこと言えと……」という文章がかぶせられ、衝突して止まってしまう映像に「今回はどうやら停止することになりそうだ」。

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そしてぐるぐる回る空中ブランコの遊具(止め絵の写真)にかぶせて「この先どうなるかは微妙なバランスの上に」と述べ、そこから流れるように「このファンフェアに遊びに来ている人々はいらいらしながらそれを見ている」とつないで、市民インタビュー(「政治家は投票してくれと言うのに、いざ投票の結果議員になると仕事をしないで交渉ばかりしている」というのが北アイルランドでは「市民の不満」として定番化している)。

続けて、保守党とDUPとのディールでDUPがもぎ取ってきた£1bnの補助金は「経済面では厳しい状況に置かれてきたこの北アイルランドで、果たして使われることがあるのかどうか」と述べる流れの中で、このファンフェアがどこに設置されているかが明かされる……東ベルファストの、H & Wのクレーンのところだ。「ロイヤリストのハートランド」だ。

そのあとは、ストーモント城の前庭での交渉当事者それぞれの記者会見の映像。ぼちぼちぼちぼちと細かな音を立てて降る雨、携帯電話を使いながらストーモント城の窓から外を見るワイシャツ姿の人物(シン・フェインのマーティン・オミュラーじゃないかな)、正面玄関の階段をのぼり城の中に入っていく人々(DUP、エドウィン・プーツら)……「DUPはシン・フェインの要求にgive inすることを拒んでいます」――それ、言い換えれば "no surrender" じゃないっすか――、「アイルランド語(を公用語化する)法導入という要求に」――言語法のことは約20年前のGFAに盛り込まれ、それからすったもんだした挙句、10年も前に決着ついてたんじゃなかったっすか、「導入する」ということで――、などなどとぶつぶつ言いながら映像を見ていくと、シン・フェインの代表者(コナー・マーフィー。記者会見にミシェル・オニールの姿がない)が「平等が交渉の前提」など、エクストリーム交渉がこうなったときのいつもの語彙、いつものフレーズで発言し、「ボールはDUPのコートにある」という趣旨の発言(つまりシン・フェインはDUPをただ待っていると……これもいつものことですな)。

このあと、「どちらの側も、この交渉で折れた側とは見られたくない」というナレーションでこの映像はまとめに入るのだが、ここの映像が……これは真顔無理。

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人類誕生以前から存在するミニオンたちは、最強最悪の主に仕えることを生きがいとし、地球史の中でティラノサウルス、原始人、エジプトのファラオ、吸血鬼、ナポレオンといった様々な悪党に仕えてきた。だがミニオンたちの主となった者は皆、彼らが起こしたアクシデントに巻き込まれ、ことごとく死んでしまっていた。仕えるべき主を失った彼らは氷の洞窟内に居場所を移し、新しい生活を始めようとするものの、主のいない生活にやる気をなくしていた。

――ミニオンズ(日本語版ウィキペディア)


ここでインタビューに応じているのは白髪の男性。「シン・フェインは要求が多すぎる」云々。続いてシカゴ・ブルズの帽子をかぶった若い男性。「自分、アイルランド語はぺらぺらなんですけど、アイルランド語への扱い方はほんとどうかと思いますね」

そして、最後はナレーションは非常に深刻な見通しを示しているのだが、ここでもミニオンズ。さっきの射的ゲームでゲットに成功した子たちがラフな感じで持ち歩いている。

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北アイルランドでテレビのニュースで見てた人たちは一斉に "Muppets!" とか "Useless なんとか!" ってつぶやいたと思う。

このように重なり合いながら少しずつズレていく意味をぎゅっと圧縮したような2分間、成分が濃すぎて涙目だ。 (;▽;)

BBC NIにはかつて、The Folks on the Hillという風刺番組があった(ラジオで2001年、テレビで2004年開始。2011年に中の人が病気に倒れて終了した)。タイトルのthe Hillはストーモントのことで、つまり「自治議会・自治政府の人々」。基本的に、かつてブリテンのITVが制作していたSpitting Imageと同じような「政治家をおちょくる番組」だ。ただし、Spitting Imageは実際に人形を動かしていた一方で、The Folks on the HillはCGだ。

YouTubeに1本、クリップがある。約10年前のものだ。Godfatherの音楽が流れる中、どこぞのギャングランド(笑)で、どっかから分捕ってきた£50bnについて各「ファミリー」のドンたちが話し合う。ここで話し合っているドンたちの中で今も同じ立場にいるのはジェリー・アダムズだけだが、それぞれ北アイルランドの主要政党のトップとその右腕たち。ロンドンの「ドン・ゴードン」はゴードン・ブラウン。


で、これ、10年も経ってメンツは変わったけど、今も基本的に同じことをやってると思うんだ。

今回、今のストーモントでのエクストリーム交渉とは別に、DUPがロンドンのダウニング・ストリートでやってたエクストリーム交渉(2週間なので全然「エクストリーム」ではないかもしれない)で、DUPは£1bnを英国政府からもぎ取ってきたのだが、元々はその倍額を要求していたらしい。




テリーザ・メイはそれを半額にすることに成功したのだから、内心「うまくいった」と思っているだろう。しかし、そうやって英国政府が予算を割いて抱き込んだDUPは、保守党の緊縮財政政策(つまりNHSのカット、警察のカット、消防のカットetc)に賛成するわけで、北アイルランドの「ドン」たちが「よっしゃ、£1bn来た」と思っている(に違いない)一方で、ブリテンの有権者は「メイが隠し持ってた『カネのなる木』は、本来はNHSや警察に使われるべきものだったのに、NHSにはカネを出さないという政策に賛成するDUPが北アイルランドに持ってったのかよ」と怒っている(に違いない。というかそういう発言はいくつかTwitterで見た)。

実際、メイは下院でファースト・レスポンダー(消防、救急隊)や警察に感謝し、その尽力を讃えながら、彼らの昇給はなしという方針だ。






それに加えて、英国政府は予想外なことに、人工妊娠中絶が合法化されていない(違法である)北アイルランドの女性たちがブリテン島に行って中絶手術を受ける場合の費用をNHSで負担するとまで言い出した。これこそ北アイルランドの自治(いわば「内政」)の問題ではないか。ストーモントが認めさえすれば、NHSでの中絶手術は北アイルランドで行なえるはずだ。しかしDUPはDUPである限り中絶手術を認めるわけにはいかないし、カトリックの側も同じだ(労働党と組んでる「プログレッシヴ」なはずのSDLPだって中絶には反対している)。「そんな連中と組むのか」と突き上げを食らっている保守党が何とか編み出した苦肉の策が、NI女性の中絶手術の費用を出すということなのだろう。だがこれは間違いなく、ブリテンの有権者の怒りを買う。「女性の自己決定権を認めようとしない北アイルランドの頑迷な宗教保守どもの尻拭いを、なぜ関係のないわれわれが?」と。









実際に保守党内からこんな反応が出ている。



このように、次から次へと予想されていなかった要素が絡んできて、ドタバタはドタドタバタバタになる。そしてエクストリーム交渉は続くが、進まない。ウィーン会議か。




なお、いつものエクストリーム交渉では、「パレード」と「過去(北アイルランド紛争のレガシー)」で行き詰るのだが、今回は言語法(アイルランド語の公用語化)だ。各メディアで解説記事が出ている。BBCはこれ。私はまだ読んでないけど、写真見ただけで「なるほど」と思った。2016年のBrexit後のムードの変化(&「統一アイルランド」のためのシン・フェインなどのキャンペーン)で、ユニオニストが「統一アイルランド、絶対阻止!」というモードに入ってるんだろう。それはただの「アイルランド嫌い」ではないけれど、「アイルランド嫌い(アイルランドらしいものにはとにかく反対する)」が「アルスター」のユニオニストの間には深く刻み込まれていることもまた見落とせない。





※この本で「アランス語」と表記されているのは「アルスター・スコッツ」のこと。Languageなのかdialectなのかで議論があって、北アイルランドのユニオニストは「これはlanguageである」と主張しているけど(そしてその主張をそのまま合意の条文に入れさせることに成功している)、ウィキペディアではScotsのdialect扱いだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Ulster_Scots_dialects





……というわけで、もろもろ、月曜日だ。日本時間では月曜の夜から火曜の早朝にかけて。

既にしばらく前から、いや〜なフラグが立ってるんすけどね。つまり「ダイレクト・ルール(直轄統治)」のフラグが。ジェイミー・ブライソンが浮かれてたのを見かけたので、彼のTLをあちら界隈のリプライ込みで見ると、いろいろ生々しいんじゃないかと(私はそんなことをしたら完全にヘコんでしまうと思うので、見ないようにしてる)。

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※この記事は

2017年07月01日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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