そのエディンバラ公について、日本時間で4日の昼間、ネット上で「死亡説」が流れるということがあった。発端は、英国で草木も眠る丑三つ時にバッキンガム宮殿のスタッフ全員が呼び集められたと報じられたことにあったのだが、その時間帯は英国ではほぼみんな寝ているのでいろいろと制御弁が利かなかったようで、ただでさえ細かいところがわかっていないアメリカの人々の間で「推測 speculation」が一気に「事実っぽいこと」として広まったようだ。その上、ソースを示さずに「英国のメディアによると」などとTwitterに書き込む輩も出現し、さらに王室情報専門のニュースサイト(っぽいところ)が「フランスのメディアが死亡を報じた」と、これまたソースも示さずに記事を出して(すぐに削除されたようだ)、アクセスが殺到してサイトが落ちるくらいにまでなってたそうだ。
その経緯をあとから参照できるようにまとめておいた。
エディンバラ公、公務から引退……のはずが、ネット上に「お悔やみ」とフェイク・ニュースが飛び交う事態に
https://matome.naver.jp/odai/2149390455690544501
おりしも、数日前は「世界報道デー」で、例年のごとく、報道が危機的なことになっている国へ関心を向けるよう促す記事などがTwitterにはたくさんフィードされていたが(今年はトルコがその筆頭だった……ほんの数年前まで「EU加盟」の可能性がかなり現実的だったあのトルコが、ついに)、それに加え、米大統領自ら陰謀論にはまりまくっているという考えがたい状況下にある現在の「報道(と一般の人々が思っているもの)」の抱えている問題点や、ネットで「報道(に見えるもの)」に接するときの注意点がわかりやすくまとめられたフィードもいくつかあった(後述)。
ネット、特にソーシャルメディアという「個人の意見や感想、感情の吐露」が、文脈なく、少ない文字数で流れてくる場では、誰にも何の悪意もなくても、「無根拠な情報」が「情報」としてひとり歩きすることがある。アーセナルのサポが「来シーズンこそはアーセナルがリーグ優勝するに違いない!」というつもりで、その文脈が共有されている人々だけに向けていろいろ省略して「アーセナル優勝!」と書いたものが、遠く離れたところで、イングランドのサッカーに興味はないけれど、友人が熱心なファンなのでチームの名前だけは知っているというような人の目に入って、「そういえば『アーセナル優勝』ってさっきネットで見たよ」というふうに伝言され、それが「『アーセナル優勝』だって」となっていく、というようなことはありうる。誰も「ニセ情報」をばらまくつもりがなくても、「ネットで見たよ」ってだけできわめてカジュアルな感じで「誤情報」が広まる。そこにガチで「ニセ情報」をばらまこうとするデマ屋も入ってくることがあるし、本当に実に混沌としていて、いろいろやりづらくなって、息苦しくなってきたと思う。
息苦しくなってきたんだけど、まだ、個人個人でそれを打開しようと思えば方法はある。「すべてが信じられない」わけではない。「すべてが信じられると思うわけにはいかない」だけで、「信じることができないもの(誤情報・ニセ情報と思われるもの)」をふるいにかけて取り去ることは、個人個人でできるのだ。
あんまり「誤情報・ニセ情報」ばかりに接していると、普段自分と接点のない人の言うことはすべて「誤情報・ニセ情報」ではないかと疑ってかかるという心理状態になってしまうかもしれないが(「ニセ科学批判」界隈、「歴史修正主義批判」界隈でそういうのを目にするし、私自身も変なふうにレッテルを貼られたことがある)、そういう極端なバイアスに陥らないためにも、下記のようなことは心がけておくのがよいのではないかと思う。
欧州議会がまとめた、「フェイク・ニュース」に釣られないために気をつけておくべきポイント5点:
Don’t want to be misinformed? On #WorldPressFreedomDay, check out our guide on how to spot fake news 📱 pic.twitter.com/wvhrBbdip5
— European Parliament (@Europarl_EN) May 3, 2017
ファクトチェック屋のFirst Draftによる整理:
7 Types of Mis- and Disinformation
1のSatire or Parodyは、The Onionや「虚構新聞」のようなもの。笑って済ませて、気に入ったら投げ銭をすればいい。(どこにも悪意はないが、読者が努めて釣られないようにしなければならないので、「余計な手間をかけさせるな」と怒る真面目な人もいる。)
2のMisleading Contentは、特定の方向に話を誘導することを目的としてデータとか事実を変なふうに提示すること。「キレる若者の凶行に見る、少年犯罪の増加」みたいなの(実際には「少年犯罪が増加している」という事実はないのに、そのように思い込ませるように数字を織り込んだ文を書くことは可能)。
3のImposter Contentは、有名な報道機関を騙ること。「BBCによると……」と書いているが、BBCにそのような報道はない、といった事例。日本語圏では「2ちゃんの釣り」などでよくあるのかもしれない。エディンバラ公の「死亡説」ではこのパターンのとても雑なものがいくつかあった(「多くの英メディアが報じている」、「フランスのメディアが報じている」)。
4のManipulated Contentは、真正な情報が、人々を欺くよう、都合よく使われている事例。「このジュースで、レタス1個分の食物繊維が摂取できます」の類か(「レタス1つ分の食物繊維」では1日の必要量に全然足らないし、そのくらいの食物繊維が摂りたければ、切り干し大根の煮物の小鉢でいいじゃん)。
5のFalse Contextは、真正な情報が誤った文脈で持ち出されること。最近では、アメリカの極右が騒いでいる「スウェーデンではイスラムが云々」っていう話でこういうのに接した(4との合わせ技だけど)。
6のFalse Connectionは、記事の見出し、写真のキャプション、記事に使われる写真がおかしいというもの。これは、マイルドなものなら、一般の大手メディアも情報操作のときに使ってるくらいありふれた手法だけど、FakeNewsにまでなるようなのはほんとにデタラメ。結婚のお祝いで踊っている人々の写真に「攻撃の成功を喜ぶ人々」とキャプションをつけるだけで立派なデマになるというように、お手軽で効果が高い。
7のFabricated Contentは、人を欺くことを意図して作られたデタラメ、でっち上げの情報。「東京都内が停電したときに、新宿にあるバーバリーの店舗で……」っていうのとか。(日本語ではこういうのが特に「デマ」と呼ばれることが多いかも。)
※この記事は
2017年05月06日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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