このレスボス島訪問の少し前にキリスト教の東西の教会の対話が行われ、訪問は「東」の教会のトップと一緒に行われたということも、特筆に価するだろう。特に今回のアイルランド訪問で、プレスビテリアン、メソジストなどプロテスタントの教派のトップがダブリン城(「城」という名称だが、機能としては「会館」である)でのイベントへの招待を受けるという形で、教派の垣根が取り払われたことを見ると、フランシスコさんはのちのちまで語り継がれる存在になるだろうけど、その注目ポイントの一つは「宗派間の対話の促進」に置かれるだろうと思ったりもする。
閑話休題。ここで書いておきたいのは難民のことだ。
今回のアイルランド訪問に際し、空港に到着した教皇はサイモン・コヴニー外務大臣とそのご家族をはじめとするアイルランドの人々の出迎えを受けたあと、大統領官邸でのレセプションを受けた。
ちなみに大統領はあの見た目がかわいいマイケル・D・ヒギンズ大統領だが、この方もフランシスコ教皇と共通する部分の多い人道主義者である。下記のスライドショーはGetty Imagesでエンベッドできるようになっている写真から5点選んだが、お2人が並ぶとまるで映画に出てくる「善の長老たち」みたいだ。
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ともあれ、アイルランドに外国の国家元首などが訪問するとこのように大統領官邸でレセプションがあり、そこではアイルランドの軍隊(といってもアイルランドは中立国だし、戦闘機など攻撃能力は持っていない。国連PKOで活躍している)を前に閲兵が行われるのだが、今回の教皇訪問ではその軍隊が陸軍ではなく海軍だった。上記スライドショーの2枚目から4枚目で確認できる通りである。
ここで海軍を持ってきたのは、「難民」が理由だという。アイリッシュ・タイムズの記事より:
He was greeted by the President Michael D Higgins and his wife Sabina in front of a guard of honour made up of members of the Irish naval service. They were chosen to reflect the importance of the naval service in the ongoing Mediterranean operation aimed at disrupting the activities of people smugglers and assisting migrants to prevent loss of life at sea.
https://www.irishtimes.com/news/social-affairs/religion-and-beliefs/papal-visit/syrian-family-of-asylum-seekers-meet-pope-francis-at-%C3%A1ras-an-uachtar%C3%A1in-1.3607785
つまり、アフリカ北岸から欧州を目指して地中海を渡ろうとする人々が海に飲まれて犠牲となることを防ぐための活動において海軍が重要な役割を果たすので、海軍が選ばれたというのだ。アイルランドの大統領は儀礼的な存在で政治には関与しないが、ヒギンズ大統領はこうすることで海軍を讃えると同時に、教皇と世界に対し、「やれることをやっていきましょう」というメッセージを送っているのだろう。
そして、大統領官邸でのレセプションではゲストが記念植樹をするのが慣わしなのだが(アイリッシュ・タイムズ記事によると、1853年から続いているのだとか)、その植樹のセレモニーにたずさわっていたのが、シリアから逃れてきたハッスーンさんたちの家族だった。
一家は男性2人、女性2人と幼い子供3人の7人。一番下の子は1歳だという。
The Hassoun family, who are asylum seekers from Syria, arrive for tree planting ceremony with #PopeFrancis pic.twitter.com/UzUlIngRHH
— Nicole Gernon (@nicole_gernon) August 25, 2018
The Hassoun family from Syria who will meet @Pontifex and President Higgins following their meeting. #popeinireland pic.twitter.com/iZSq17K0ef
— Will Goodbody (@willgoodbody) August 25, 2018
The Pope meeting the Hassoun family. #PopeinIreland pic.twitter.com/kWbJozDe3b
— Will Goodbody (@willgoodbody) August 25, 2018
#PopeFrancis meets the Hassoun family from #Syria with young Lana, Aala and baby Tala .@PresidentIRL #migrants #Refugees #asylumseekers #PopeInIreland #PápaInÉirinn #WMOF2018 pic.twitter.com/C7xXHmOfX4
— Brian Kerrigan (@peterhenry9) August 25, 2018
President and Sabina Higgins introduced Pope Francis to Mr. Saif Eddin Hassoun and his family.
— President of Ireland (@PresidentIRL) August 25, 2018
The family, originally from Syria, are in Ireland as one of four serious medical cases the Health Service Executive accepts for treatment each year. pic.twitter.com/ANSO9aqPrs
大統領府のツイートによると、一家は医療を受けるために受け入れられているとのこと。生きるために、アイルランドに来た人たちだ。
そして大統領官邸のこのレセプションには、キャサリン・ザッポウン児童・青少年問題担当大臣の姿もあった。上にエンベッドしたGettyのスライドショーの5枚目で教皇の手をとっている女性だ。
アイルランドでの同性結婚合法化(婚姻の平等の実現)を、「個人の生活スタイル」だの「趣味」だのといったものではなく「社会全体で実現に向けて議論すべきもの」とした人々のひとりが、彼女である。女性をパートナーとしカナダで結婚していた彼女は、その婚姻関係がアイルランドで認められないことについて法廷にうって出た――必ずしもロマンあふれる理由からではない。財産とか税金といった、極めて実務的なことが理由だ。「男女カップルでは認められている税控除が認められないのはおかしい」とか、「私が死んだあと、彼女に相続の権利がないなんて」とかいったことだ。最終的に婚姻の平等を実現させたレファレンダム(2015年)の実に9年前、2006年のことだった。
https://en.wikipedia.org/wiki/Same-sex_marriage_in_the_Republic_of_Ireland
https://en.wikipedia.org/wiki/Zappone_v._Revenue_Commissioners
Before Marriage Equality
— RTÉ Archives (@RTEArchives) March 10, 2016
Katherine Zappone and Anne Louise Gilligan #OnThisDay 2006
Watch: https://t.co/zSrXp5rm7a pic.twitter.com/7wraUwROq1
レファレンダムの結果が出たあの日、結果が発表されたダブリン城で、彼女は長年のパートナー、アン・ルイーズ・ギリガンさんとともに喜びを爆発させていた。その写真は、全世界に配信された。
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ダブリン生まれのギリガンさんは修道女になるために勉強を重ねた人だ。米国で勉強しているときにザッポウンさん(米国生まれで、1995年にアイルランドの市民権取得)と出会い、運命が変わった。アイルランドに戻ったあとは教育の専門家としてダブリンの若者たちの就職支援活動を行ない、成果を出していた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Ann_Louise_Gilligan
ギリガンさんは2017年6月、脳出血を起こし、帰らぬ人となった。
#BREAKING Minister Katherine Zappone 'heartbroken' at death of wife Anne Louise Gilligan https://t.co/saN8sRxAd1 pic.twitter.com/Mb7bu9Fk3h
— Independent.ie (@Independent_ie) June 15, 2017
We would like to extend our condolences to Min. Zappone on the loss of her wife, Dr Anne Louise Gilligan. A phenomenal educator, may she RIP pic.twitter.com/85DB9Y3s2n
— DCU Young Fine Gael (@DcuYfg) June 15, 2017
ギリガンさんが急な病に倒れていなければ、大臣のパートナーとしてレセプションに出席していたかもしれないんだな、と思ったとき、またもや改めてアイルランドの変化の度合いに息を呑むことになった。
しかしまあ、教皇ご本人が同性愛者を排除しないという姿勢を明示してきたという流れはあるにせよ、すごくドラスティックなことじゃないですか、これは。首相(選挙で第一党となった政党のトップ……って書いて思い出したけど、今のアイルランドのこの政権、「選挙で第一党となった」といってもアレなんだった。その話は別の機会に)がゲイ男性で、大統領官邸のレセプションに出席した閣僚がゲイ女性。首相は動かせないとして、ザッポウン大臣は、レセプションに出席するメンバーに選ばないということもありえたはず。ヴァチカンに気を使うなら別の閣僚を出席させていたのではないか、と思うと、しびれる。
そして土曜日、大統領官邸でのレセプションから、ダブリン城でのスピーチを経て、1日の締めくくりに行われたクローク・パークでのイベント会場から、BBC News NIがこのようなツイートをしていた。
Marie Lindsay is from St Mary's College in Derry and she's at Croke Park to support her student Janda Hassan, who is originally from Syria and spoke at Croke Park tonight. #PopeInIreland pic.twitter.com/jSQCsIJWCL
— BBC News NI (@BBCNewsNI) August 25, 2018
デリーの学校のリンゼイ先生が「うちの生徒がこんなに大勢の人の前で!」と興奮気味に話している映像だ。彼女の生徒はジャンダ・ハッサン。シリアからの難民だ。
リンゼイ先生いわく、「ジャンダが2年前にうちの学校に来たときには、英語は一言もできなかったんです。そのジャンダが、今日ここで、グローバル・ファミリーについての文章を読みあげるんです!」
2 yrs ago @stmarysderry family welcomed Janda & her sister Iya. On Sat night Janda will speak about #TheGlobalFamily @WMOF2018 @CrokePark Concert. @AndreaBocelli @thepriests @iamNATHANCARTER @Riverdance Moyà Brennan and Daniel O’Donnell are lucky to share stage with her 💙 pic.twitter.com/X3r6NIljuR
— Maria G Lindsay (@mariemccolgan) August 23, 2018
Not the first time today but my heart is melting 💙 @CrokePark @WMOF2018 @Pontifex #PopeinIreland #PapainEirinn pic.twitter.com/wNCmbv1ZzK
— Maria G Lindsay (@mariemccolgan) August 25, 2018
先生のツイートより、ジャンダの雄姿:
9. Janda reads a powerful message about the #GlobalFamily and @Pontifex watches and listens intently to her. #StMarysFamily #PopeInIreland #WMF2018 #ProudPrincipal #yesterdayin10tweets pic.twitter.com/xu2SbG16Ll
— Maria G Lindsay (@mariemccolgan) August 26, 2018
So proud of Janda @stmarysderry who read so eloquently @CrokePark @WMOF2018 this evening. #SuperProud #StMary's #Family #Inspiring #YoungWoman #PopeinIreland 💙 @michaelafound 🌹 pic.twitter.com/aotuCYgZqi
— Roisin Rice (@rricecutter) August 25, 2018
クローク・パークでのイベントを締めくくったアンドレア・ボッチェリのステージの写真と、イベント後のジャンダたち生徒とリンゼイ先生。
10. @AndreaBocelli singing #Nessundorma was one of a few things that made me cry yesterday. Seeing Janda and Rachel after the concert was another. #grateful #privileged #humbled #happy #PopeInIreland #WMF2018 #yesterdayin10tweets pic.twitter.com/xVzjIHIzmf
— Maria G Lindsay (@mariemccolgan) August 26, 2018
シリアから脱出した難民の中にはキリスト教徒も多い。クローク・パークの群集の中には、そういった人もいたかもしれない。
「希望を、失わないでください」――ローマ教皇とコンスタンティノープル総主教のレスボス島訪問
https://matome.naver.jp/odai/2146080101371550601
アイルランド共和国の同性結婚合法化…「他の誰かの幸せ」と「国の制度」と「価値観」と。
https://matome.naver.jp/odai/2143256986079242401
※この記事は
2018年08月26日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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