Twitter上で、街で何かが「起きている」と伝えられている場合(そしてそれが現在進行中である場合)、何が起きているのかはさらにTwitterで調べる(というか、Twitterを見てみる)ことが当たり前になっている。1人しか言っていなければ、その人の違いか、いたずらか、意図的に流す虚偽(日本語でいう「デマ」)か何かだろう。しかし同じ内容の報告をしている人が複数いたら実際に起きているのだろう――という目安が、Twitter利用者には既にそなわっている。だから金曜日の夕方のロンドンについても、いつもと同じようにして、「確認」をした。何人もが、何かが「起きている」ことを伝えていた。
これらを確認し、私は次のように書いて投稿した。
今、ロンドンのオックスフォード・ストリートが大変なことになってる。ロンドン滞在中の方、今日はオックスフォード・ストリートはもちろんSOHOとかシャフツベリー・アヴェニューとかには行かないほうがいいかもしれないです。 #oxfordstreet
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
このツイートは「何が起きていたのか」、つまり「何も起きていなかった nothing was happening」ことが警察によって確認されたことを私がツイートしたあともRTされていたので、いったんは誤情報拡散を阻止するために消そうかなと思ったのだが、混乱があったことの記録は記録だし、当方はこのツイートにぶら下げる形で状況をアップデートしているので、このツイートだけを見てパニくってしまう人がいるとしてもそこまでこちらが面倒を見る必要はないと判断し、消すことはしなかった。
ロンドンのオックスフォード・ストリートのエリアから、何人もが、何かが「起きている」ことを伝えていたとき(そのうちの2件を私は翻訳ツイートしていた。これとこれだ。後者は事態が落ち着いたあと、元のツイート主がツイートを削除している)、ニュースをチェックするために開いている画面では、エジプトのシナイ半島北部で金曜礼拝中のモスクが襲撃された事件の死者数が、どんどん増加していた。私が最初に見たときは「数十人 dozens」だったのが、すぐに「85人」になり、数分で100人を超えた。最終的には300人を超えるというめちゃくちゃな攻撃だ。シナイ半島でのその攻撃は、「今日が金曜日である」ことを改めて思い起こさせるものだった。
そして、クリスマス・ショッピングのシーズンに入り、電飾が灯されて賑わっている英国随一の商業地区は、支配域が地図上から完全に消滅しつつあるイスイス団が、本体からの指示であれ、支持者や共感者の独自の行動であれ、自分たちがまだ存在していることを示すのにうってつけなエリアだと私は思った。つまり、2015年11月13日のパリのようなことが行なわれないとも限らない。ロンドンでは1983年に、クリスマスのための買い物で賑わうデパートが車爆弾で攻撃されるということが実際にあったのだ。私の頭蓋骨の中で、連想は悪いほうへ、悪いほうへとつながっていく。"What if..." が "if..." になり、仮定法は直説法で上書きされる。
決して大げさに想像していたわけではない。警察も動いていた。地下鉄駅は閉鎖されていた。
Police called at 16:38 to a number of reports of shots fired on #OxfordStreet & underground at Oxford Circus tube station. Police have responded as if the incident is terrorist related. Armed and unarmed officers are on scene and dealing along with colleagues from @BTP
— Metropolitan Police (@metpoliceuk) November 24, 2017
If you are on #OxfordStreet go into a building and stay inside until further direction. Avoid travelling to the Oxford Street area. At this stage police have not located any causalities.
— Metropolitan Police (@metpoliceuk) November 24, 2017
Bond Street Station closed to prevent overcrowding. All trains not stopping and paper tickets will be accepted on local buses
— TfL Travel Alerts (@TfLTravelAlerts) November 24, 2017
Please continue to avoid the Oxford Street and Regent Street area. If you are in the area, go into a building and stay inside until further notice.
— BTP (@BTP) November 24, 2017
Oxford Circus and Bond Street Tube remain shut @metpoliceuk @TfL
https://t.co/ivo3RcrgR7 英交通警察のツイート。「Oxford StreetとRegent Streetの一帯には引き続き近づかないようにしてください。当該のエリアにいる人は、どこか建物の中に避難し、指示があるまで建物内に留まってください。Oxford Circus駅、Bond Street駅は引き続き閉鎖しています」
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
We were called at 1643 to an incident at Oxford Circus tube. Three fire engines & 15 firefighters are in attendance. Please avoid the area. Follow @BTP & @metpoliceuk for more information #OxfordStreet
— London Fire Brigade (@LondonFire) November 24, 2017
https://t.co/J9b7DISayt ロンドン消防当局のツイート。「16時43分に地下鉄Oxford Circus駅でインシデント発生とのことで連絡が入りました。消防車3台、消防士15人が現場に出ています。この地域には近づかないようにしてください。詳細は警察のアカウントでご確認を」
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
Reports of shots fired at London's Oxford Circus and police responding "as if terror related" - no casualties seen https://t.co/kXwOWWb5kn
— BBC Breaking News (@BBCBreaking) November 24, 2017
Oxford Circus: armed London police respond to reports of gunfire https://t.co/w3hVrfj3Pv
— The Guardian (@guardian) November 24, 2017
Press follow now for the latest on the incident in London's Oxford Circus. https://t.co/3xVqmh0vAg
— Twitter Moments (@TwitterMoments) November 24, 2017
それに、旅行や出張でロンドンに行っていて、この騒ぎに巻き込まれている人もいるだろう。
TwitterのTrends: https://t.co/TL0Lu4khvchttps://t.co/b9gbHo32Ob
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
ロンドン、この地域のホテルに泊まっている旅行中の方(土地勘のない方)は、今ホテルにいるなら部屋に留まったほうがよいです。外出中ならしばらくホテルに戻ろうとしないほうがよいです。 pic.twitter.com/yDOhrRjXEO
現地、今夕方5時くらいですね(時差9時間)。この時期、5時だと東京でも真っ暗ですが、ロンドンだと完全に夜っていう感じですね。(午後2時すぎには暗くなってくるのが冬の英国)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
https://t.co/VPjMaLvtKU 場所はこのあたりです。ロンドン#OxfordStreet #carnabystreet Oxford Circus London #London
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
Stay safe, everyone. pic.twitter.com/uNEHCKJYrT
こういうとき、暴力ももちろん怖いんですが、生じた混乱に乗じるスリや窃盗犯が必ず出るので、注意してください。貴重品が入っているなら、バッグはファスナーは全部締めて体の前に回し、人ごみでもファスナーの位置が人に触られないように手でカバーして歩いてください。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
ロンドンでボムスケアの混乱が起きたときに、片方の肩にかけて体の横に持っていたリュックが開けられていたことがあります。全然気づかなかった。ボムスケアじゃなくても横断歩道の人ごみで一瞬でやられたこともあります。中には本やビスケットしか入ってなかったので被害はなかったけど。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
警察も消防も現場に出ているし、報道機関も現場のことをすぐに確認できる状況にある(ロンドン市内でも、例えばウリッチの英軍施設前で英兵が襲われるなどということがあった場合は取材陣が現場に到着するまでタイムラグがあり、「現場を目撃した一般市民」のツイートやビデオなど「市民ジャーナリズム」が記者の報告の代わりになっていたが、オックスフォード・ストリートではそういうタイムラグもほとんど生じない)。ほんの少し待っていれば、実際に何が起きているのかわかるだろう。
だが、ほんの少し待ってわかってきたのは、「実際には、何も起きていない(のではないか)」ということだった。
Police remain on scene in #OxfordStreet Oxford Circus - no evidence of shots... https://t.co/WaRB3WcdPC pic.twitter.com/CaxU0Fo3fh
— Metropolitan Police (@metpoliceuk) November 24, 2017
https://t.co/hwWk6lTW5m ロンドン警察(スコットランドヤード)のツイートでプレスリリースにリンク。"To date police have not located any trace of any suspects, evidence of shots fired or casualties." 現状、警察は容疑者の痕跡や発砲があったとの証拠、被害者は一切確認していない。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
実際には何も起きていないところでパニックだけが発生したのかもしれない。車のドアを閉める音やバックファイア音がきっかけでこういうパニックが起きることがないわけではない。そうであっても現場の混乱は実際に起きているわけで。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
LATEST: London police say no evidence of shots fired in Oxford Circus area, have not located any trace of a suspect. Read more: https://t.co/vJJ0kwHt8U pic.twitter.com/wtBYfLJ5lG
— Reuters Top News (@Reuters) November 24, 2017
Incident at #OxfordStreet Oxford Circus has been stood down https://t.co/J3LOdcu5E6 pic.twitter.com/CdSORQn8xg
— Metropolitan Police (@metpoliceuk) November 24, 2017
Our response on #OxfordStreet has now been stood down. If you sought shelter in a building please now leave, and follow the direction of police officers on the ground if you need assistance
— Metropolitan Police (@metpoliceuk) November 24, 2017
https://t.co/lfvyNaKctB 今から数分前に、警察がロックダウンを解除しました。つまり「異状なし」です。ロンドン、オックスフォード・ストリート #OxfordStreet #oxfordcircus #carnabystreet #London #ロンドン
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
We have not located any trace of suspects, evidence of shots fired or casualties. Officers still on scene. If you are in a building stay there, if you are on the street in #OxfordStreet leave the area. Officers continue to search the area. More updates as soon as we have them
— Metropolitan Police (@metpoliceuk) November 24, 2017
https://t.co/lfvyNaKctB ロンドン警察のツイート「#OxfordStreet での警察の対応は終了しました。建物内に退避している方は、もう外に出てください。必要な場合は現場にいる警官の指示をあおいでください」 #ロンドン #London #OxfordStreet #oxfordcircus #carnabystreet
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
At about 16:38 we started to receive numerous 999 calls reporting shots fired in a number of locations on #OxfordStreet & at Oxford Circus tube station. Given the nature of the info received we responded as if the incident was terrorism, including the deployment of armed officers
— Metropolitan Police (@metpoliceuk) November 24, 2017
Additional officers remain on duty in the West End to reassure the public. We thank the public for their patience and assistance during our response. If you see anything suspicious dial 999 immediately #OxfordStreet
— Metropolitan Police (@metpoliceuk) November 24, 2017
A big thank you for bearing with us whilst we and @metpoliceuk responded to #OxfordCircus.
— BTP (@BTP) November 24, 2017
Armed officers were quickly on scene, no evidence of gunfire found. The area was searched swiftly and we are working to lift cordons and reopen stations.
何でもなくてよかったです。(2015年11月13日のパリのことなどが思い出され、同時に90年代に自分自身が経験したボムスケアのことが思い出されて、ちょっと苦しかったです)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
Oxford Circus reopening, with the occassion marked by dozens of smokers trapped in the Argyll Arms pub for an hour rushing outside for a fag. pic.twitter.com/9UCFpyLKDa
— Jim Waterson (@jimwaterson) November 24, 2017
Best moment from last night’s incident at Oxford Circus - BBC colleague texted wife to say going for a pint til all clear. Her reply- is that safe? Him- well it’s only two units of alcohol
— Rory Cellan-Jones (@ruskin147) November 25, 2017
「ロックダウンが解除された瞬間に外に出てきて一服する喫煙者たち」(英国は自宅などプライベートな場所でない限り屋内完全禁煙。レストランもパブも完全禁煙で、喫煙したい人は外に出て一服する)とか、「事態が落ち着くまでパブで一杯やってるわと自宅に連絡を入れて、安全なのかと訊かれたら、『だって2ユニットだよ』と返したBBCの人」(飲酒運転にならない程度にしておくから安全だよ、ということだと思う)とかいうのはクスリと笑わせてくれるが、そのような笑いがあったことは、何でもないことでパニックが生じたことをカバーするものではないし、ましてや報道機関がパニクっていたことはスルーなどできない。
Police are investigating circumstances behind the panic at #OxfordCircus
— The Telegraph (@Telegraph) November 24, 2017
"Officers were called to Oxford Circus station following reports of gunfire on the westbound Central Line platform. Passengers at the station then self-evacuated the station" https://t.co/hn7nFcLcwV pic.twitter.com/ejy3Hb5sTn
Twitter上ではこのエリアにいた人々だけでなく、英国内外の大勢の一般の人々も、報道機関の一部も、「実際に何が起きているのかがはっきりするのを待とう」というよりは、明確にパニクっていた。上記デイリー・テレグラフはそういう「パニクったメディア」のひとつだ。ただ、あの媒体のリアルタイムでのフィードは私はなるべく見ないようにしているので(アクセス稼ぎのセンセーショナリズムが目立つのと、Brexit以降そもそもあの媒体を見なくなった)、ハッシュタグの画面にたまたま表示されていたものしか見ておらず、リアルタイムでどのくらいの熱量だったかは自分ではわからない。私が見かけたものから判断すれば、ずっと見てたら、多分、こっちがパニクっていたんじゃないかと思う。
翌日には、このパニックを引き起こしたのは、地下鉄オックスフォード・サーカス駅のプラットフォームでのケンカだったことが判明した。
BBC News - Oxford Circus: Platform 'altercation' caused tube panic https://t.co/PpW1IvVQDe 金曜日ロンドンで発生した集団パニック、地下鉄Oxford Circus駅のホームで男2人がケンカになったときの音が原因で引き起こされたという警察の見解。人々が駅から退避する際に16人が負傷している。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 25, 2017
その後の報道によると、彼らケンカの当事者2人は警察に出頭したそうだ。警察としては、あれほどのパニックが生じたことについて正確で詳細な記録を作っておかねばならないのは当然で、この2人が警察には絶対関わろうとしないというタイプの人でなかったことは不幸中の幸いだろう。
さて、この件でデイリー・テレグラフも相当パニクっていたが、パニックの煽動にかけてはデイリー・メイルの右に出る媒体はないだろう。しかもメイルは、本当にいろいろと雑だ。
TOTALLY UNCONFIRMED Mail Online report that a lorry crashed in Oxford Circus is based on a tweet from 14 NOVEMBER pic.twitter.com/PyE87O1qpm
— Matthew Champion (@matthewchampion) November 24, 2017
just to reiterate, the Mail Online report saying that a lorry hit people near Oxford Circus is based on a two-week old tweet pic.twitter.com/ILYKqamyLz
— Matthew Champion (@matthewchampion) November 24, 2017
On the front page snippet too pic.twitter.com/M20wEP1PUv
— Aidan Warner (@ncvoaidan) November 24, 2017
https://t.co/Xy3YUeSeQ6 デイリー・メイルが古い(2週間前の)ツイートに基づいてデマを流しているっぽいので、気をつけてください。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
このように、デイリー・メイルは、パニックが発生しているまさにそのときに、#OxfordCircusか#OxfordStreetのハッシュタグ画面でおそらく上位に表示されていたツイートに基づいて「トラックが歩道に突っ込んだ」という情報を流していた。しかしそれは、事態が進行している11月24日のツイートではなく、11月14日のツイートだった。メイルのジャーナリスト(笑)は、Twitterの個別ツイートの投稿日時を確認するということすらしないらしい。デイリー・メイルのジャーナリスト(笑)にツイートを整理してもらうより、TogetterやらNAVERやらで「まとめ」を作るほうがまだ正確性が期待できるわけだ(TogetterにせよNAVERまとめにせよ、「投稿日時順にソートする」という機能が備わっていて、時系列から外れたものは編集段階で簡単に除外することができるようになっている)。
やがて、デイリー・メイルはこの間違いに気づいて、「トラックが歩道に」云々の記述を、ツイートも含め、削除した。
the Mail Online have deleted all mention of a lorry from their Oxford Circus story
— Matthew Champion (@matthewchampion) November 24, 2017
This is why social media is not a good tool for new or researching anything.
— Philip Lane (@Re1axinmood) November 24, 2017
Absolutely shameful of the Daily Hate. My only surprise is that they didn't blame a Muslim driver. Note to self: check Trump's tweets to see if he has...
— Christine Deudney (@Pops_Mum) November 24, 2017
Daily Mail reported (and now deleted) false rumours about the ongoing Oxford Circus incident based on a tweet that’s OVER A WEEK OLD pic.twitter.com/iHpO3SDWZi
— Tom Phillips (@flashboy) November 24, 2017
As a newspaper the Daily Mail is like the person who screams "fire" in a crowded theatre after seeing the flash of a torchlight. #oxfordstreet https://t.co/xuFiAhfYLs
— Harry Leslie Smith (@Harryslaststand) November 24, 2017
I screenshot this as I knew it would be @DailyMailUK reporting false news on Oxford Circus. They’ve already deleted it as the information was unfounded. Absolutely disgusting journalism. Just stop pic.twitter.com/3yzsN98JFe
— Grace ✨ (@gracemilyy) November 24, 2017
CONFIRMED !!!
— 🅢🅗🅐🅖🅖🅨 (@ShaGGy_Uk) November 24, 2017
The only confirmed news regarding #OxfordStreet #oxfordcircus is that the @DailyMailUK reported FAKE news then deleted it. pic.twitter.com/znPWhdnBY2
#oxfordstreet the @DailyMailUK have already deleted this tweet about a lorry ploughing into pedestrians. Disgraceful scaremongering. @mrjamesob pic.twitter.com/qGLkHwcEmD
— Joanne Hall (@pinkbicyclegirl) November 24, 2017
メイルのていたらくを指摘しているひとりのMatthew ChampionさんはBuzzFeed UKのジャーナリストで、BuzzFeed UKでは即座にこの件について記事化していた。
Big shout out to MailOnline suggesting the Oxford Circus incident, of which we know very little, could involve a lorry based on a tweet from last week. https://t.co/ckCsncrWLP
— Jim Waterson (@jimwaterson) November 24, 2017
2週間前、ビルの窓清掃の人が歩道に転落して流血&そばにトラックが停まっていたということが起きた。それを目撃した人が「トラックの脇で人が血を流して倒れている」とツイートした。そのツイートを今日、OxfordStreetのハッシュタグから発見したデイリー・メイルが今回のものと決め付けて記事化…続
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
続…そのメイルの記事が1000回以上シェアされるという惨事。教訓としては「Twitterでニュースを追うときは、かならずそのツイートの投稿日時を確認しましょう」ということ。(それ以前の教訓としては、「メイルの速報記事なんかシェアしてんじゃないよ、このタコ」。)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
(何度か書いてはいますが、デイリー・メイルでもまっとうな報道がないわけではありません。ないわけではないけれど、とても少ない。速報はますます精度が低い。政治ニュースなどはマニピュレーションがひどすぎる。というわけで、普通に考えて、メイルのアカウントはフォローする価値はありません)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) November 24, 2017
Don’t buy hate. Don’t buy lies. Don’t buy The Daily Mail. #OxfordStreet pic.twitter.com/x8Vi151O21
— Boosejew (@EojSewob) November 24, 2017
それと、私はこのとき、BBC Newsのサイトでエジプトでのテロ攻撃がトップニュースになっていたのをフォローしていたのだが、下記の人はそれとは異なる現実を経験していたようだ。タブロイド(と、たぶんデイリー・テレグラフ)ではこういうことになっていたのだろう。
Right, so lemme get this straight, basically nothing happened in Oxford Circus, but it makes headlines and over 200 Muslims died in a terror attack and no one's taking any notice #oxfordcircus #oxfordstreet #Egypt #EgyptAttack
— Henrietta Alonso (@Henrietta_Alons) November 24, 2017
その中でもとりわけひどかったのがデイリー・メイル、ということだ。英国内でテロが起きれば即座に閲覧数が伸びるのだから、そりゃ力も入るだろう。
むろん、「テロだ、テロだ、テロが起きたぞぉぉぉ! 俺は正しかっただろぉぉぉ!」と(密かに)歓喜していたのは、デイリー・メイルだけではない。
It appears that Tommy Robinson has deleted these tweets concerning the incident at Oxford Circus and #oxfordstreet: pic.twitter.com/Fcl1D3AXxx
— Steve Rose (@steveplrose) November 24, 2017
Tommy Robinson tweeted this (now deleted) when the panic was at its highest at Oxford Circus. Its almost like he is disappointed nobody was hurt pic.twitter.com/kewAkf7hjR
— The Pileus (@thepileus) November 24, 2017
The only terrorism around Oxford Circus today is that of people terrorising by tweeting false reports. Poor little Tommy Robinscum bought a train ticket from Luton to 'report' on it and everything
— Will Black (@WillBlackWriter) November 24, 2017
Twitterでは、トミー・ロビンソン(芸名)のようなスケアモンガーを嘲笑する人々が、ロビンソンと同様の(あるいは彼以上の)スケアモンガーであるケイティ・ホプキンスについて「ケイティ・ホプキンスはどうしてんの?」という内容の発言をしているのがたくさん確認できるが、それはもうエンベッドしなくてもよいだろう(正直、見るのも疲れる)。
メイルやロビンソンがやったような、「何もわかっていない段階で結論に飛びつく」ようなことは、何のプラスにもならない。
I'm watching live scenes of calm + control at Oxford Circus but several online news outlets are trying their darnedest to paint a picture of carnage. It's unhelpful +, frankly, disgusting. Thanks goodness for those on scene who're safe + delivering accurate coverage.#OxfordStreet
— Chimurenga (@KeloidKrown) November 24, 2017
そうであるばかりか、ちゃんとTwitterを見れば、メイルの飛ばしたデマが出回っている一方で、現場から冷静な現状把握(つまり「何もわかっていない」ということ)のツイートがなされていたことがわかる。私自身、リアルタイムではこのようなツイートは見なかったのだが、それはそのときこういった発言は、ハッシュタグやワード検索の画面で上位に表示されていなかったからだ。というか上位に表示されていたのは、本稿冒頭でキャプチャで示したような「現場からの報告」ばかりだった。だから「何が起きているのかはわからないが、何かが起きているようだ」と結論したのだ。
#oxfordstreet there's an incident taking place. However, there are conflicting reports. This person says there was a gang fight involving 20 or so people. Whereas others have mentioned a bomb or someone with a gun. #WaitForTheFacts pic.twitter.com/lQYGsxlwxT
— AntoineSpeaks blog (@AntoineSpeaksOn) November 24, 2017
Police just briefed us that there has been a fight / incident on the tube and it’s not safe to be allowed outside yet #oxfordstreet
— Chris Jackson (@ChrisJack_Getty) November 24, 2017
If you are on #OxfordStreet go into a building and stay inside until further direction. Avoid travelling to the Oxford Street area. At this stage police have not located any causalities.
— Metropolitan Police (@metpoliceuk) November 24, 2017
実際に地下鉄駅のホームで何があったのかというと、こういうことのようだ。つまり発端は「男2人がケンカになり、人々がその場を離れようとした」。それが「蝶のはばたき」となったわけだ。
the platform i was on at oxford circus was evacuated because of a fight that broke out involving lots of crying & screaming so police had to get involved & do an emergency evacuation which caused major panic & due to 1000's of people evacuating it caused more fear above ground(1)
— Annabel👼 (@TheGirlAnnabel) November 24, 2017
which then turned into a stampede in rush hour on black friday leaving oxford circus therefore terrifying the street and then rumours as usual spread and caused even more fear. avoid the area to be safe but it wasn't bombs or guns at all (2)
— Annabel👼 (@TheGirlAnnabel) November 24, 2017
I was on central line platform at #OxfordCircus at 4:35pm when a man 5ft from me bumped into another man on the overcrowded platform. They exchanged words then a punch to the gut. Then a full out fight. People were trying to break it up. Cont. next tweet.
— Regan Warner (@reganwarner) November 24, 2017
#oxfordcircus story cont. Lots of yelling. People were running away, a woman fainted, children were scared and crying. The emergency button was pressed. The fight was broken up and the parties walked in opposite directions. Announcement to evacuate the station. I jumped on train.
— Regan Warner (@reganwarner) November 24, 2017
そこにどこからか「銃撃音」という言葉が付け加わった。おそらくそのように聞こえる音がしたことは事実なのだろう。それにロンドン、銃撃はありえないことではない。英国は銃規制は厳しいが(日本とだいたい同じ)、ロンドンの西部や東部や北部や南部では少年ギャングが銃を持って歩いているし銃撃事件も時々起こる(しかしオックスフォード・ストリートのような中心部では銃犯罪はまず起きないのだが)。
Apparently reports of gunshots were a false alarm and rumours of a gunman active was believed to have spread panic and evacuation, police still yet to find evidence of terror related acts in Oxford Circus, Twitter has a serious problem with spreading misinformation #OxfordStreet
— Jack Walker (@JackTheFact29) November 24, 2017
If there was no attack in Oxford Circus. What does this say about our current climate? Are we living in constant fear? #oxfordstreet
— Human Skeptic (@Skeptic_Human) November 24, 2017
確かにJack Walkerさんの言う通り、「Twitterには誤情報を拡散するという点で深刻な問題がある」。第一に、下記の通り、実際に現場で言われていることが「誤情報」である場合、TwitterのようなSNSであれ、テキストメッセージのような個と個のやり取りであれ、その「誤情報」が拡散されることは止めようがない。とりわけ「テロ攻撃」のような深刻な事態に際している(と思い込んでいる)場合、携帯電話を持っている人はその場で家族に連絡して、自分が把握している範囲での現実を伝えるだろう……その「現実」が「事実」なのかどうかは問える状況にはない。混乱の現場のただなかで私たちにできるのは「みんながそう言っている/そう思っている」ことを確認することくらいで、それが正しいのかどうかは確認のしようがない。ましてや警察が(説明のための単純化という過程を経ているにせよ)そう言っていた場合は。
Having missed calls from my mum and then seeing this text 😩 never felt a feeling like it can’t imagine how scared everyone must be #OxfordStreet pic.twitter.com/qKzQRUe9TT
— Casey-Rae (@CaseyRaeSmith) November 24, 2017
I have an inbox full of journalists asking for phone interviews. I can’t take calls right now. I think it’s a bit off key to be doing media in the middle of a packed shop full of scared people. I’ll continue to tweet. #OxfordCircus #OxfordStreet #shooting
— GrEG Owen (@Greg0wen) November 24, 2017
Latest update from the police “we can’t give you specifics. But there’s been shots fired and explosives. So please stay in the shop and move to the back” #oxfordcircus #oxfordstreet #london
— GrEG Owen (@Greg0wen) November 24, 2017
第二に、これは、現在私たちが接する情報を左右しているアルゴリズムというものの特性だが、Twitterの表示順を決めているアルゴリズムは「みんなが関心のあること」に傾いており、「みんなが聞きたいこと」に傾いている。上のほうにあるのは、人々が「知りたいこと」ではなく「聞きたいこと」だ。「健康に良い食べ物とは何か」という議題ではなく、「ナッツは健康に良い」という結論だ。
その特性(特徴)は、@jackは「アルゴリズムで何とか解消すべき」とかいうふうに考えているかもしれないが、解消などできるものではない。TwitterだけでなくGoogleなんかもそうなってる。集合的なフィルターバブルとでもいうべきものは、確実に存在している。そしてそれはコンピューターの世界だから生じていることではない。人間の認知システムそのものがそうなってる。
うちらユーザーにできることといえば、その特性を把握し、「Twitterってのはそういうものだ」と前提して使うことだ。そのための訓練・教育がますます必要になっていると思う。「AIがすべてを解決する」とかいう夢物語でなく。(うちらが学生のころ、「バイテク〔バイオ・テクノロジー〕がすべてを解決する」と喧伝されていた。「クリーンエネルギー」がもてはやされたこともあった。今の「AI」はそういうものにすぎない。)
Just as an idea, guys, unless you know something for sure, how about keeping quiet. #oxfordstreet
— Andrew Mueller (@andrew_mueller) November 24, 2017
Don’t know what’s going on in #oxfordstreet but stay inside and safe everyone :(
— quisha (@quisharose) November 24, 2017
There are a lot of people in Oxford Circus right now, please don't retweet any rumours from unofficial sources #oxfordstreet
— Megan Townsend (@mmtowns) November 24, 2017
There seems to be an incident at #oxfordstreet. Please do not jump to any kind of conclusion regarding motivation or identity until it is confirmed by an official source.
— Oliver Burke (@ol1burke) November 24, 2017
Thank You
#OxfordStreet incident according to twitter so far is a shooting, smoke in station, fight on platform, a customer incident and a terrorist attack. Shut up Twitter.
— barbara (@thatgeordiegirl) November 24, 2017
This is modern Britain now. “Never mind my kids running off in a potential terror scene at Oxford Circus, I just need to film anything without even looking, this could get me some followers and retweets”. #oxfordstreet pic.twitter.com/IbLenNjJ0c
— Moody Gooner (@MoodyGooner) November 24, 2017
それから、「テロに屈さない」という言説、「テロは私たちを変えることはできない」という決意表明の言説が、もうその力を失いつつあるということは、今回、記録しておきたい。地下鉄駅のホームでのケンカが、武装警察が出動しての地上のショッピングエリアの大規模なロックダウンにつながったという事実は、事実として認識され、何らかの意味づけをされる必要があることだ。
I’d bet any money that the incident at Oxford Circus is nothing, but it just goes to show how terrorism has actually effected us. Stop saying ‘we are not scared’. Incidents over the last couple of months have proved that people are! #oxfordstreet
— MaxC 🇬🇧 (@MGOUFC) November 24, 2017
Please, please no one ever try and tell me ‘we won’t let terrorism change us’ ever again. Hundreds of people just evacuated Oxford Circus screaming for no reason. It has influenced us, it has changed us. #oxfordstreet
— MaxC 🇬🇧 (@MGOUFC) November 24, 2017
さて、このパニックが発生している間、TwitterのTrendsにOlly Mursという名前が入っていた。全然興味のない分野なので私は名前しか知らないが、テレビのオーディション番組出身の男性歌手だ(→日本語ウィキペディア)。
https://twitter.com/search?q=%22Olly%20Murs%22&src=tren
彼はパニック発生時にオックスフォード・ストリートのエリアにいて、建物内にいた大勢の中の1人だった。そして彼は、Twitterユーザーなら誰でもやるだろうなということをした……自分がいる場所(セルフリッジズ)からの実況ツイートだ。
彼のこの実況ツイートが「パニックを引き起こした」として叩かれている。それはもちろん、彼が「普段からバカにされている軽薄なポップスター」だからという理由もあるし、彼の楽曲の歌詞とひっかけた遊び(日本語でいう「いじり」)もあるみたいだが、とにかくこの「叩き」は壮絶で、あのピアース・モーガン(私はブロックしているので奴の発言は見えないのだが)が絡んでいっているという。
BBCのRadio 4でも「オリー・マーズのパニクったツイート」のことを取り上げていたようだ(その一方で、初期段階にデマを拡散しまくったデイリー・メイルのことはスルー。Radio 4までこれとは、BBCの終わりっぷりがほんとにハンパない)。私の目に入った範囲で(つまり私のフィルターバブルの中で)「銃撃があった」と大騒ぎしていた認証マークつきのアカウントはデイリー・メイルだ。オリー・マーズじゃない。
#r4today blames @ollyofficial for "causing panic" in Oxford Circus but not @dailymailUK. pic.twitter.com/aA7GZiAqyL
— derry (@DERCONOMY) November 25, 2017
Bit rich from @DailyMailUK having a pop at @ollyofficial despite their own premature reporting during last night's events. pic.twitter.com/nST0mq31KN
— Stephen James Clark (@JustSteveUK) November 25, 2017
On the left, the @DailyMailUK are throwing Olly Murs under the bus for the #oxfordstreet confusion.
— Andrew Raeburn (@andrew_raeburn) November 24, 2017
On the right is how the Mail chose originally to "inform" people. pic.twitter.com/6QWKGcXGTg
オリー・マーズについてのこの「叩き」っぷり、「さらしあげ」っぷり(→Twitterでも確認できる)は異常だという声を上げている人たちも、もちろんいる。例えば、昨年ネオナチに殺害されたジョー・コックス議員の夫のブレンダン・コックスさん。
I’ve never heard of Olly Murs but it strikes me he was just scared,as many of us wld be if told there was an attack.Mocking him is a bit odd
— Brendan Cox (@MrBrendanCox) November 25, 2017
どなたなのか存じませんが13kもフォロワーがいるジェイ・キャリントンさん。「オリー・マーズに浴びせられている暴言の量がすごいことになっているが、うちの兄を含め大勢が、オックスフォード・サーカスで銃撃音のような音を耳にしていたことは事実だ。狂乱状態はオリー・マーズのツイートの前には引き起こされていた。彼は、他の人たちと同じように、自分が目撃していたことを述べていただけだ」
It's disgusting the amount of abuse Olly Murs is receiving, many people, including my brother, also heard what sounded something very similar to gunfire at Oxford Circus. The hysteria was caused prior his tweet, he simply said what he was witnessing like others
— Jay Carrington (@PookiepopBlog) November 24, 2017
この「オリー・マーズいじり」は、デイリー・メイルが自身の代わりに矢面に立たせているように見える。ひょっとしたら、事務所とメイルが話をつけて、メイルはオリー・マーズのことを積極的に取り上げる代わりに、今回は笑いものとしてさらしあげにするということにしているのかもしれない(←私が単にそういうこともありえなくないなと思っただけで、別に根拠はないです)。ピアース・モーガンがいちいち絡んでいったというのもうさんくさい。
そんなことをしたって、メイルが11月14日のツイートを元に、11月24日に「トラックが歩道に突入」と書きたてた事実は消えはしないけどね。
The situation at Oxford Circus should teach us all a lesson that Tommy Robinson, Olly Murs and the Daily Mail are not reliable sources to get our Breaking News from!
— The Pileus (@thepileus) November 24, 2017
Panic - The Smiths from Larry Darrell on Vimeo.
Could life ever be sane again?
https://genius.com/The-smiths-panic-lyrics
※この記事は
2017年11月27日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
- 英国での新型コロナワクチン認可と接種開始、そして誤情報・偽情報について。おまけに..
- 英ボリス・ジョンソン首相、集中治療室へ #新型コロナウイルス
- "Come together as a nation by staying ap..
- 欧州議会の議場で歌われたのは「別れの歌」ではない。「友情の歌」である―−Auld..
- 【訃報】テリー・ジョーンズ
- 英国の「二大政党制」の終わりは、「第三極の台頭」ではなく「一党優位政党制」を意味..
- ロンドン・ブリッジでまたテロ攻撃――テロリストとして有罪になっている人物が、なぜ..
- 「ハロルド・ウィルソンは欧州について中立だった」という言説
- 欧州大陸から来たコンテナと、39人の中国人とされた人々と、アイルランドのトラック..
- 英国で学位を取得した人の残留許可期間が2年になる(テリーザ・メイ内相の「改革」で..