「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2017年11月27日

あるパニックと、パニック煽動報道(2017年11月24日のロンドン)

金曜日の夕方のロンドンで、それは「起きている」とTwitterでは伝えられていた。

Twitter上で、街で何かが「起きている」と伝えられている場合(そしてそれが現在進行中である場合)、何が起きているのかはさらにTwitterで調べる(というか、Twitterを見てみる)ことが当たり前になっている。1人しか言っていなければ、その人の違いか、いたずらか、意図的に流す虚偽(日本語でいう「デマ」)か何かだろう。しかし同じ内容の報告をしている人が複数いたら実際に起きているのだろう――という目安が、Twitter利用者には既にそなわっている。だから金曜日の夕方のロンドンについても、いつもと同じようにして、「確認」をした。何人もが、何かが「起きている」ことを伝えていた。

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これらを確認し、私は次のように書いて投稿した。




このツイートは「何が起きていたのか」、つまり「何も起きていなかった nothing was happening」ことが警察によって確認されたことを私がツイートしたあともRTされていたので、いったんは誤情報拡散を阻止するために消そうかなと思ったのだが、混乱があったことの記録は記録だし、当方はこのツイートにぶら下げる形で状況をアップデートしているので、このツイートだけを見てパニくってしまう人がいるとしてもそこまでこちらが面倒を見る必要はないと判断し、消すことはしなかった。

ロンドンのオックスフォード・ストリートのエリアから、何人もが、何かが「起きている」ことを伝えていたとき(そのうちの2件を私は翻訳ツイートしていた。これこれだ。後者は事態が落ち着いたあと、元のツイート主がツイートを削除している)、ニュースをチェックするために開いている画面では、エジプトのシナイ半島北部で金曜礼拝中のモスクが襲撃された事件の死者数が、どんどん増加していた。私が最初に見たときは「数十人 dozens」だったのが、すぐに「85人」になり、数分で100人を超えた。最終的には300人を超えるというめちゃくちゃな攻撃だ。シナイ半島でのその攻撃は、「今日が金曜日である」ことを改めて思い起こさせるものだった。

そして、クリスマス・ショッピングのシーズンに入り、電飾が灯されて賑わっている英国随一の商業地区は、支配域が地図上から完全に消滅しつつあるイスイス団が、本体からの指示であれ、支持者や共感者の独自の行動であれ、自分たちがまだ存在していることを示すのにうってつけなエリアだと私は思った。つまり、2015年11月13日のパリのようなことが行なわれないとも限らない。ロンドンでは1983年に、クリスマスのための買い物で賑わうデパートが車爆弾で攻撃されるということが実際にあったのだ。私の頭蓋骨の中で、連想は悪いほうへ、悪いほうへとつながっていく。"What if..." が "if..." になり、仮定法は直説法で上書きされる。

決して大げさに想像していたわけではない。警察も動いていた。地下鉄駅は閉鎖されていた。












それに、旅行や出張でロンドンに行っていて、この騒ぎに巻き込まれている人もいるだろう。







警察も消防も現場に出ているし、報道機関も現場のことをすぐに確認できる状況にある(ロンドン市内でも、例えばウリッチの英軍施設前で英兵が襲われるなどということがあった場合は取材陣が現場に到着するまでタイムラグがあり、「現場を目撃した一般市民」のツイートやビデオなど「市民ジャーナリズム」が記者の報告の代わりになっていたが、オックスフォード・ストリートではそういうタイムラグもほとんど生じない)。ほんの少し待っていれば、実際に何が起きているのかわかるだろう。

だが、ほんの少し待ってわかってきたのは、「実際には、何も起きていない(のではないか)」ということだった。
















「ロックダウンが解除された瞬間に外に出てきて一服する喫煙者たち」(英国は自宅などプライベートな場所でない限り屋内完全禁煙。レストランもパブも完全禁煙で、喫煙したい人は外に出て一服する)とか、「事態が落ち着くまでパブで一杯やってるわと自宅に連絡を入れて、安全なのかと訊かれたら、『だって2ユニットだよ』と返したBBCの人」(飲酒運転にならない程度にしておくから安全だよ、ということだと思う)とかいうのはクスリと笑わせてくれるが、そのような笑いがあったことは、何でもないことでパニックが生じたことをカバーするものではないし、ましてや報道機関がパニクっていたことはスルーなどできない。


Twitter上ではこのエリアにいた人々だけでなく、英国内外の大勢の一般の人々も、報道機関の一部も、「実際に何が起きているのかがはっきりするのを待とう」というよりは、明確にパニクっていた。上記デイリー・テレグラフはそういう「パニクったメディア」のひとつだ。ただ、あの媒体のリアルタイムでのフィードは私はなるべく見ないようにしているので(アクセス稼ぎのセンセーショナリズムが目立つのと、Brexit以降そもそもあの媒体を見なくなった)、ハッシュタグの画面にたまたま表示されていたものしか見ておらず、リアルタイムでどのくらいの熱量だったかは自分ではわからない。私が見かけたものから判断すれば、ずっと見てたら、多分、こっちがパニクっていたんじゃないかと思う。

翌日には、このパニックを引き起こしたのは、地下鉄オックスフォード・サーカス駅のプラットフォームでのケンカだったことが判明した。


その後の報道によると、彼らケンカの当事者2人は警察に出頭したそうだ。警察としては、あれほどのパニックが生じたことについて正確で詳細な記録を作っておかねばならないのは当然で、この2人が警察には絶対関わろうとしないというタイプの人でなかったことは不幸中の幸いだろう。

さて、この件でデイリー・テレグラフも相当パニクっていたが、パニックの煽動にかけてはデイリー・メイルの右に出る媒体はないだろう。しかもメイルは、本当にいろいろと雑だ。





このように、デイリー・メイルは、パニックが発生しているまさにそのときに、#OxfordCircusか#OxfordStreetのハッシュタグ画面でおそらく上位に表示されていたツイートに基づいて「トラックが歩道に突っ込んだ」という情報を流していた。しかしそれは、事態が進行している11月24日のツイートではなく、11月14日のツイートだった。メイルのジャーナリスト(笑)は、Twitterの個別ツイートの投稿日時を確認するということすらしないらしい。デイリー・メイルのジャーナリスト(笑)にツイートを整理してもらうより、TogetterやらNAVERやらで「まとめ」を作るほうがまだ正確性が期待できるわけだ(TogetterにせよNAVERまとめにせよ、「投稿日時順にソートする」という機能が備わっていて、時系列から外れたものは編集段階で簡単に除外することができるようになっている)。

やがて、デイリー・メイルはこの間違いに気づいて、「トラックが歩道に」云々の記述を、ツイートも含め、削除した。









メイルのていたらくを指摘しているひとりのMatthew ChampionさんはBuzzFeed UKのジャーナリストで、BuzzFeed UKでは即座にこの件について記事化していた。






それと、私はこのとき、BBC Newsのサイトでエジプトでのテロ攻撃がトップニュースになっていたのをフォローしていたのだが、下記の人はそれとは異なる現実を経験していたようだ。タブロイド(と、たぶんデイリー・テレグラフ)ではこういうことになっていたのだろう。


その中でもとりわけひどかったのがデイリー・メイル、ということだ。英国内でテロが起きれば即座に閲覧数が伸びるのだから、そりゃ力も入るだろう。

むろん、「テロだ、テロだ、テロが起きたぞぉぉぉ! 俺は正しかっただろぉぉぉ!」と(密かに)歓喜していたのは、デイリー・メイルだけではない。




Twitterでは、トミー・ロビンソン(芸名)のようなスケアモンガーを嘲笑する人々が、ロビンソンと同様の(あるいは彼以上の)スケアモンガーであるケイティ・ホプキンスについて「ケイティ・ホプキンスはどうしてんの?」という内容の発言をしているのがたくさん確認できるが、それはもうエンベッドしなくてもよいだろう(正直、見るのも疲れる)。

メイルやロビンソンがやったような、「何もわかっていない段階で結論に飛びつく」ようなことは、何のプラスにもならない。


そうであるばかりか、ちゃんとTwitterを見れば、メイルの飛ばしたデマが出回っている一方で、現場から冷静な現状把握(つまり「何もわかっていない」ということ)のツイートがなされていたことがわかる。私自身、リアルタイムではこのようなツイートは見なかったのだが、それはそのときこういった発言は、ハッシュタグやワード検索の画面で上位に表示されていなかったからだ。というか上位に表示されていたのは、本稿冒頭でキャプチャで示したような「現場からの報告」ばかりだった。だから「何が起きているのかはわからないが、何かが起きているようだ」と結論したのだ。




実際に地下鉄駅のホームで何があったのかというと、こういうことのようだ。つまり発端は「男2人がケンカになり、人々がその場を離れようとした」。それが「蝶のはばたき」となったわけだ。





そこにどこからか「銃撃音」という言葉が付け加わった。おそらくそのように聞こえる音がしたことは事実なのだろう。それにロンドン、銃撃はありえないことではない。英国は銃規制は厳しいが(日本とだいたい同じ)、ロンドンの西部や東部や北部や南部では少年ギャングが銃を持って歩いているし銃撃事件も時々起こる(しかしオックスフォード・ストリートのような中心部では銃犯罪はまず起きないのだが)。


確かにJack Walkerさんの言う通り、「Twitterには誤情報を拡散するという点で深刻な問題がある」。第一に、下記の通り、実際に現場で言われていることが「誤情報」である場合、TwitterのようなSNSであれ、テキストメッセージのような個と個のやり取りであれ、その「誤情報」が拡散されることは止めようがない。とりわけ「テロ攻撃」のような深刻な事態に際している(と思い込んでいる)場合、携帯電話を持っている人はその場で家族に連絡して、自分が把握している範囲での現実を伝えるだろう……その「現実」が「事実」なのかどうかは問える状況にはない。混乱の現場のただなかで私たちにできるのは「みんながそう言っている/そう思っている」ことを確認することくらいで、それが正しいのかどうかは確認のしようがない。ましてや警察が(説明のための単純化という過程を経ているにせよ)そう言っていた場合は。




第二に、これは、現在私たちが接する情報を左右しているアルゴリズムというものの特性だが、Twitterの表示順を決めているアルゴリズムは「みんなが関心のあること」に傾いており、「みんなが聞きたいこと」に傾いている。上のほうにあるのは、人々が「知りたいこと」ではなく「聞きたいこと」だ。「健康に良い食べ物とは何か」という議題ではなく、「ナッツは健康に良い」という結論だ。

その特性(特徴)は、@jackは「アルゴリズムで何とか解消すべき」とかいうふうに考えているかもしれないが、解消などできるものではない。TwitterだけでなくGoogleなんかもそうなってる。集合的なフィルターバブルとでもいうべきものは、確実に存在している。そしてそれはコンピューターの世界だから生じていることではない。人間の認知システムそのものがそうなってる。

うちらユーザーにできることといえば、その特性を把握し、「Twitterってのはそういうものだ」と前提して使うことだ。そのための訓練・教育がますます必要になっていると思う。「AIがすべてを解決する」とかいう夢物語でなく。(うちらが学生のころ、「バイテク〔バイオ・テクノロジー〕がすべてを解決する」と喧伝されていた。「クリーンエネルギー」がもてはやされたこともあった。今の「AI」はそういうものにすぎない。)








それから、「テロに屈さない」という言説、「テロは私たちを変えることはできない」という決意表明の言説が、もうその力を失いつつあるということは、今回、記録しておきたい。地下鉄駅のホームでのケンカが、武装警察が出動しての地上のショッピングエリアの大規模なロックダウンにつながったという事実は、事実として認識され、何らかの意味づけをされる必要があることだ。





さて、このパニックが発生している間、TwitterのTrendsにOlly Mursという名前が入っていた。全然興味のない分野なので私は名前しか知らないが、テレビのオーディション番組出身の男性歌手だ(→日本語ウィキペディア)。
https://twitter.com/search?q=%22Olly%20Murs%22&src=tren

彼はパニック発生時にオックスフォード・ストリートのエリアにいて、建物内にいた大勢の中の1人だった。そして彼は、Twitterユーザーなら誰でもやるだろうなということをした……自分がいる場所(セルフリッジズ)からの実況ツイートだ。

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彼のこの実況ツイートが「パニックを引き起こした」として叩かれている。それはもちろん、彼が「普段からバカにされている軽薄なポップスター」だからという理由もあるし、彼の楽曲の歌詞とひっかけた遊び(日本語でいう「いじり」)もあるみたいだが、とにかくこの「叩き」は壮絶で、あのピアース・モーガン(私はブロックしているので奴の発言は見えないのだが)が絡んでいっているという。

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BBCのRadio 4でも「オリー・マーズのパニクったツイート」のことを取り上げていたようだ(その一方で、初期段階にデマを拡散しまくったデイリー・メイルのことはスルー。Radio 4までこれとは、BBCの終わりっぷりがほんとにハンパない)。私の目に入った範囲で(つまり私のフィルターバブルの中で)「銃撃があった」と大騒ぎしていた認証マークつきのアカウントはデイリー・メイルだ。オリー・マーズじゃない。




オリー・マーズについてのこの「叩き」っぷり、「さらしあげ」っぷり(→Twitterでも確認できる)は異常だという声を上げている人たちも、もちろんいる。例えば、昨年ネオナチに殺害されたジョー・コックス議員の夫のブレンダン・コックスさん。


どなたなのか存じませんが13kもフォロワーがいるジェイ・キャリントンさん。「オリー・マーズに浴びせられている暴言の量がすごいことになっているが、うちの兄を含め大勢が、オックスフォード・サーカスで銃撃音のような音を耳にしていたことは事実だ。狂乱状態はオリー・マーズのツイートの前には引き起こされていた。彼は、他の人たちと同じように、自分が目撃していたことを述べていただけだ」


この「オリー・マーズいじり」は、デイリー・メイルが自身の代わりに矢面に立たせているように見える。ひょっとしたら、事務所とメイルが話をつけて、メイルはオリー・マーズのことを積極的に取り上げる代わりに、今回は笑いものとしてさらしあげにするということにしているのかもしれない(←私が単にそういうこともありえなくないなと思っただけで、別に根拠はないです)。ピアース・モーガンがいちいち絡んでいったというのもうさんくさい。

そんなことをしたって、メイルが11月14日のツイートを元に、11月24日に「トラックが歩道に突入」と書きたてた事実は消えはしないけどね。






Panic - The Smiths from Larry Darrell on Vimeo.



Could life ever be sane again?
https://genius.com/The-smiths-panic-lyrics

※この記事は

2017年11月27日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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