「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2020年06月14日

アベノマスクが届いたので、糸をほどいて解体してみた。 #abenomask #abenomasks

5月下旬のある日、そろそろ一時のマスク不足も解消しつつあるかな、という感じが強まっていたころに、東京都23区内在住の私の家の郵便受けにも通称「アベノマスク」が届いていた。その前の週に「特別定額給付金」(例の10万円)の申込書類は届いていて、「もうアベノマスクは届かないのではないか」と思っていたのだが、届けられた。

要らないのに。

顔の下半分を全体的に覆える大きさもないような、ほぼ何のフィルターにもならない布でできた「給食マスク」は、単に物理的に役に立たないのだから、いらないのに。

国費から、何百億円だかかけた上に、追加検品で何億円だかかけて届けられた「やってる感」マスク。花粉症でマスクを着け慣れている人々が大半の巷からみれば、粗野で粗雑で奇妙で奇矯としか言いようのないマスク姿を衆目にさらしている政治家たちのコスプレでもしろというのだろうか。


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ともあれ、先日、その「アベノマスク」を、よく切れる糸切りばさみと顕微鏡を持っているすばらしい友人と一緒に解体し(糸をほどいて展開)、顕微鏡やルーペで観察した。本稿はその記録・報告を目的とするものである。

結論から言えば、虫は入っていなかったが、正体・出自不明の繊維片は、マスクの布の繊維に絡みつくようにして、入っていた。つまり俗に言う「ゴミノマスク」だった。注意深く見れば、目視でもわかるレベルの混入もあった(が、視力0.5の人が普通のオフィスや倉庫の照明のもとで作業していたら見えないかもしれない。視力1.0でも目が疲れていれば見えないかもしれない)。

「ゴミノマスク」なんていうと「大げさな」と非難されるかもしれない。確かに、タオルとかハンカチのような身に着けるものではないもの、あるいは身に着けるものでも完全に外用のもの(衣類やヘアゴムのようなもの)ならばああいう繊維片(ゴミ)の混入は全然問題にならないだろうが、マスクは衛生用品だ。Tシャツやヘアゴムと同等の基準でみるわけにはいかない。その繊維片が、縫製作業に当たった人の服の繊維なのか、縫製に使ったミシンについていたものなのか、縫製工場で空気中を舞っていたものなのか、床に落としてしまったのを拾い上げてパンパンとはたいたあとに残ったものなのか、梱包作業のときに混入したものなのか、そういったことは一切わからない。そういうものが、繊維の中に入り込んでいた。それは事実である。

以下、記録を目的とするので、とても長いということをお断りしておく。

前置き

「国」(つまり政府)はこれにどのくらいのカネをかけたのか(新聞報道)
ウェブ検索をして新聞報道を拾い、この「アベノマスク」にどのくらいのお金がかかっているのかをまとめておこう。以下、引用文中の強調は引用者による。また、私のフィルターバブル内で見ているので、検索結果が毎日新聞に偏っていることをお断りしておく。

政府が配布を進める布マスクは、配送費や印刷費などにも多額の税金が投入されている。中でも気になるのが検品費用とされる8億円だ。政府は「当初から予定していた」と説明するが、契約書や関係者の話をたどると、カビなどの不良品が大量に発覚したことから、慌てて検品を依頼した疑いが出てきている。さらに契約条件にも不可解な点が……。【上東麻子、山口朋辰/統合デジタル取材センター】

 政府はこれまで、全戸向けの半分にあたる6500万枚と妊婦・介護施設など向け2000万枚の計8500万枚を8億円かけて、検品している。菅義偉官房長官は15日の記者会見で、「マスク配布事業にあたり、当初から計上した予算の中で対応するもの」と説明。「当初から配布前のマスクの最終チェックを行うことになっており、予算を追加的に投入するものではないと聞いております」と述べた。

 布マスク配布までの流れを確認しよう。メーカーや商社は海外から布マスクを調達、国内に搬送し、妊婦・介護施設など向けは直接、市町村に届け、全戸向けは大日本印刷(本社・東京都新宿区)でのパッキング作業を経て各家庭に届けられている。

 大日本印刷広報部によると4月初旬、政府側から打診され、4月中旬までに作業を始めた。契約した業務内容は、個包装されたマスクを2枚1組にして「3つの密を避けましょう!」と書かれた水色のチラシとともに袋に入れ、指定された郵便局に送ること。「数量の確認をして、作業中に気づけば不良品を避けるが、検査作業としては請け負っていない」という。……

大日本印刷(DNP)は本社は新宿区だが、印刷工場や作業所は赤羽などの郊外部にある。私も「誰でもできる作業です」的な日払いバイト(日雇い派遣)で工場の作業に行ったことがあるが、実際、印刷・製本の工程についての基礎的な研修などはなく、その日いきなり来たド素人がその場で指示され、手本を見せられて単純作業を行う。作業内容は、機械相手でいわゆる「コツがいるもの」もあれば、数えて積み上げるとかいった本当に単純なものもある。作業に当たる人(バイト、派遣)は継続性は前提されておらず、その日に言われた作業をするだけだ。なので、もしそういう体制でパッキング作業が行われているのだとしたら、誰がどう見ても明らかに変なもの(印刷物なら、折れているもの、破れているもの)ははじけるが、ちょっと専門的な範囲のこと(ちょっと印刷がずれてるとか)は、ザルみたいな素通しになるだろう。「チラシとマスク2枚がちゃんと入っているかどうか確認してください」という作業なら、マスクが1枚だけとか3枚入っているとかいうものははじけるし、チラシが折れていたり破れていたりすればはじけるが、たぶんそういうことしかチェックできない。中に入っているマスクが明らかに汚い場合は気づくだろうが、ルーペを使わないと見えない繊維片だの虫の卵だのの混入には気づかないだろう。


 菅義偉官房長官は1日の記者会見で、政府による全世帯向け布マスクの配布について、1億3000万枚の調達や配送などの事業費の総額が約260億円に上ると明らかにした。……
 菅氏は業者との契約額について「調達費として184億円、配送費などは76億円と見込んでいる」と説明した。配布した布マスクを寄贈する例が相次いでいることについて「それぞれのご家族で決めていただくわけだが、何回も洗濯して使用可能なので、ぜひそういう方向で使っていただければと思う」と述べた。
 政府は当初、世帯向け布マスク配布の関連事業費を466億円と見込んでいた。【秋山信一】

お金としては、つまり、少なくとも260億円、それに含まれるのか別なのかはよくわからないが(この政府がそういうことを記録しているとか、証明書つきで公開できるとは私は思っていない)全戸向けの半分を含む配布物の検品に8億円がかけられている。これをざっくり270億円と見て、5月27日付の記述の「全戸向けの半分にあたる6500万枚と妊婦・介護施設など向け2000万枚」から割り出した枚数(6500万×2+2000万=1億5千万)で割ると、1枚当たり180円かな。2枚で360円。チラシやビニール袋で400円。

5月29日には、ダイソーで2枚100円(+税)で、似たようなマスク売ってたんだけど。

2020年5月29日には、ダイソーで、2枚100円(+税)で、「アベノマスク」と似たようなマスクを売っていた。

私の手元に「アベノマスク」が届いたタイミングについて
うちの郵便受けに「アベノマスク」が入れられていた5月下旬、あのしょーもない愚策を引き起こしたとされる「マスク不足」は過去のものになりつつあることは明らかだった。

山手線の外側の住宅密集地であるこのエリアでは、駅前のエスニック系料理店がスパイスや調味料を買っているルートから買い付けたと思われる30枚だか50枚だかの箱入りマスクを店先に机を出して積み上げて、1箱3000円台で売っていたのだが、うちの郵便受けに「アベノマスク」が届けられたときにはもう、それらの不思議と学園祭めいた光景は見られなくなっていた。ドラッグストアではまだマスクの棚は空っぽで、「次の入荷は未定」という貼り紙がしてあったし、花粉症用のユニチャームのマスクなどを置いていたスーパーでは、入荷の見込みがないので問い合わせないでほしいということを伝える貼り紙がしてあったが、道端には2月ごろのような「ポイ捨てマスク」が見られるようになっていた。

そもそもうちの場合、マスクは、新型コロナウイルスが出てくる前にダイソーで買ってあった不織布マスク(30枚入りで100円+税)がまだある。私は喉が弱く、秋・冬はちょっと乾燥するとすぐに喉をやられてしまうので、非常用持ち出し袋に30枚入りのをばこっと箱ごと入れてあったのだ。以前は、不織布のマスクが洗えるとは思っていなかったし、マスクのようなものを(包帯のように)洗って再利用するという発想もなかったのだが、今回のウイルス禍で洗うことを覚え、以来、マスクはほとんど減らなくなった。裁縫は小学校6年生レベルのスキルしかなく、ミシンも使えないが、ハンドメイドが得意な方々がネットで公開している手作り布マスクの作り方を見て、「布マスクなら、いざとなればその辺の布で作れるな」と準備めいたことだけはしている。ウェス(雑巾)にしようと適当に裂いて紙袋に突っ込んであったダメになった布団カバーの、ダメになっていない部分のしっかりした布を塩素の漂白剤できれいにしておいたり(布団カバーは綿100%で目の詰まったしっかりした布だから、本当は雑巾にするのはもったいないんだなということがわかった)、ゴムはヘアゴムだと固くて痛いから、これもまたダメになった靴下の上の方を輪切りにして使えばいいかな、などと考えたり……。

それよりスカーフをアラブ人みたいに巻く技能に磨きをかけたほうがいいのかな、とか。

いずれにせよ、顔の下半分を全体的に覆える大きさもないような「給食マスク」はいらない。今時、もらっても困るような代物だ。安倍氏だの麻生氏だのといった方々は、身近には花粉症でマスクが欠かせないという人もいないのだろう。けっこうなご身分である。

本編

さて、というわけで5月下旬にうちの郵便受けに放り込まれていた「アベノマスク」。そのときにはもう、カビやら虫やらの混入の話は当然聞いていたので、「何が入っているかわからないもの」として扱った。
 厚労省側は「異物の混入あるいは汚れ、ほつれ、あるいはいわゆる黄ばみ」などが指摘されたケースが「約10%」にのぼっていると答弁。福島氏が「汚れ」の中にカビも含まれているのかとただすと、同省は「カビ自身が確認されたもの、あるいはカビ様のもので今現在原因を分析しているもの、それぞれございます」と回答した。

 現在は目視による検品のほか、カビの発生の原因となる水分等の重みがないか、チェックしていると報告を受けているとした。

メーカの検品は当然として、国でも検品を業者に委託しているとし、費用を「約8億円」と明かした。

郵便受けから取り出すときは素手で触らないよう、バッグの中に入っていたコンビニのレジ袋を裏返して手を突っ込んで、「アベノマスク」の包みをつかみ、そのままその袋の中に入れて取り出し、玄関のフックにその袋のままひっかけておいた。その時の写真を撮っていなかったのは記録としては失敗だった。
解体
6月上旬の風の強い日の午後4時すぎから、カフェの屋外テラス席で友人と一緒に「アベノマスク」の解体作業を行った。以下、その様子の実録である。いつも使っているコンパクト・デジタルカメラで記録していたのだが、夕刻で実は光量が少なくなっていて、そういうことにはやけに忠実なカメラなので写真が全体的に暗い。補正はしたが、雑なので見づらいところもあるかと思う。あと、ときどきピントが合ってない写真がある。ご容赦いただきたい。

以下、画像はクリックで大きく表示される。

■チラシの日本語がいろいろおかしい: 
まず、外観。玄関先のレジ袋をそのままバッグに入れてきたのを取り出してカフェのテーブルに置いたところ。これが大日本印刷で印刷された「水色のチラシ」だ(「水色」というより「青」だが)。

「アベノマスク」の外観、表の側。

文面は: 
みなさまへ
 原価の情勢を踏まえ、現下の情勢を踏まえ、新型コロナウイルスに関する緊急事態制限が出されました。
 感染が拡大する可能性があることから、みなさまには、不要不急の外出を避けるようお願いします。
 人と人との接触を7割から8割削減することで、感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。どうしても外出する必要がある場合には、既に自分は感染者かもしれないという意識をもっていただき、症状がない人でもマスクを着用するとともに、「3つの密(密閉、密集、密接)」を避ける行動の徹底をお願いします。
 この旅、感染拡大防止を図るため、一住所当たり2枚の布マスクを配布いたします。十分な量でないことは承知しておりますが使い捨てではなく、洗剤を使って洗うことで、何度も再利用可能ですので、ご活用ください。
いきなりの「現下の情勢」である(普段使わなさすぎて変換できない)。自己陶酔もたいがいにしろと言いたくなるような大仰な言葉遣いだが、一応もろもろ文章というものを見ることを仕事としている立場から言わせていただくと、どっから突っ込んだらいいかわからないクオリティの文面である。言ってることは伝わらなくはないのだが、大げさに、権威性をまとった書き方をしようとして、盛大に滑っている。ていうか言葉としての論理性がないので、知性というものが感じられない。「これ、翻訳しろって言われたらどうします?」という性質の文章である。これ、だれがやっても、英文にしたら原文とかけ離れた知的な文面にしかならないと思う。そうやって無意識裡に盛り盛りに盛られたものが「海外」から見る日本を形作っているのだが。

ともあれ、「現下の情勢」とか言われたら、こういう画像が欲しくなるじゃないっすか。誰かこの形でずーっと下まで撮影してみるとヒマつぶしにはなるかもしれないよ。

「現下の情勢を踏まえ」を映画のテロップのようにした写真。


このパッケージをひっくり返すと、じゃーん、マスク2枚とのご対面〜。

パッケージの反対側、マスクが2枚入っているのが見える側の写真。

■マスクの外観や表示: 
いよいよ、外側のビニール袋をペリペリっと開けて、中身を取り出す。見たところ、目視で確認できるような異物の混入はなさそうだった。(だがそれは、単によく見ていなかっただけなのだが。)

そのあとも目を皿にしてチェックしてみたが、素材も表示されていなければ、このマスクを作ったのがどこのどういう企業かという表示もなかったし、どこで製造されたのかもわからなかった。Made in Japanなのか、Made in Thailandなのかといったことすらわからないマスク。しかもやたらと分厚くて、どこに何が潜んでいるかわかったものではない。洗濯などで濡らしたら、湿度の高い日本の梅雨時に、雑菌が繁殖する前にしっかり乾くのかどうかも不安。これを呼吸器にダイレクトに当てることができますか。私は体質的に呼吸器が弱いので無理です。傷のない皮膚の外側、例えば湿布を貼った上からギプスをするときの当て布なら何とか……。

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DNPが印刷したチラシの反対側の面。これがよく見る「3密」の概念図みたいなもので、私も友人も英語圏のいろいろなものを見ているが、こういうものは日本だけですよねーという概念である。そもそも「多数が集まる密集場所」にパチンコ屋が該当して満員電車が該当しないことについての論理的・科学的な説明というのはなされているのだろうか(感覚的な説明ではなく)、など疑問は尽きない。

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■チラシに印刷されている文面の日本語のクオリティ: 
このチラシ(「チラシ」といってもかなり厚手のしっかりした紙を使っている)、一見A5版のペラ1枚だが、実際にはA4判が2つ折りになったもので、中面は下記のようになっている。

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ここでまた、日本語を見る匠の目はごまかされなかった……。左側の「このマスクは洗っていただくことで再利用できます」の妙な敬語も腰が抜けるようなクオリティだし(「洗うことで」でよい。というか「洗えば」だ)、それに右側のここ……。

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「人込みの多い場所」……orz

そうじゃなくて、日本語としては、「人の多い場所」か「人込み」である。あるいは、意味がちょっと変わってしまうが、「人で混雑していることが多い場所」。

これ、厚生労働省の官僚が書いたのかな。それにしては知性がゼロすぎる。外注しているのだとしたら、どこが受注してこんな文面を作成したのか。そして、こんなものに一体、税金がどのくらい注ぎ込まれたのだろう。

カフェのテーブルを挟んでああだこうだ言いながらためつすがめつしていたのだが、このあたりで「こんな」とか「そんな」とかいう言葉遣いが激化してきた。私の頭の中ではRATMのギターがザックザックと刻み始めていた。Burn, burn, yes, you're gonna burn! である。

ただし使われているフォントは評価できる。逆に言えば、フォントがしっかりしているのでちゃんとした文に見えてしまうのだが。

■マスクの大きさ: 
「アベノマスク」の大きさはこう。一番左がアベノマスク、真ん中がダイソーの30枚100円のマスク、右がその外箱。横幅が全然足りていないことが一目瞭然だろう。

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写真を撮っていないのだが、ダイソーのこのマスクはプリーツが入っていて、大きさはプリーツを畳んだ状態で私が測って18cm × 9.5cmである(パッケージには「約17.5cm × 9.5cm」とある)。一方「アベノマスク」は、下記のように、約13.5cm × 9.5cmだ。幅が5センチも狭い。

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■マスクの仕立て具合: 
ではいよいよマスクを袋から取り出して、解体していこう。

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このあと、縫い目をほどいて解体してみてわかったのだが、このマスク、片側だけ幅1センチくらいにわたって、布の重なりが足りていない。あとから確認してみたところ、うちの郵便受けに放り込まれていた2枚ともそうだったので、たまたまの不良品というわけではない。これをうまく撮れている写真がなかったので雑な図で説明すると次のような感じ: 

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この薄い方の辺を上(鼻側)にするのか、下(アゴ側)にするのかもわからない。30枚100円でもノーズワイヤー入りがデフォという現代のクオリティから見れば実に前近代的なこの「昭和のマスク」、私は見るのも触るのも小学校の給食のとき以来だから、小学校の給食のときのマスクが1センチ布の重なりが薄かったのかどうかなども覚えていない。私は中学になるとマスクというものをしなくなったのだが、ツッパリ/不良/ヤンキーの人たちはマスクしてたから、ひょっとしたら三原じゅん子先輩をはじめ、お詳しい方が政治家のお歴々の中におられるのかもしれない。

さて、カフェの私たちはいよいよ解体作業に取り掛かろうとしていた。縫い目が著しく変とかいうことはないし、すぐにほつれてしまいそうとかいったこともないが、あまり丁寧な仕事ではない。普通に路面店を構えている大手ショップだったら「B品」扱いになるかもしれない。通販で安い服を買ったときに縫い代がこうなっていたら、レビューで★を1つ減らすだろうというレベルだ。返品はしないが、次はその店では買わないかもしれない。

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「タダでもらったものに、文句を言うな」という人もいるかもしれない。だがこれは「タダ」ではない。私たちが望んでもいないのに、政権と政府が、税金を使って、何百億円というお金をかけて、一方的に恩着せがましく送り付けてきたものだ。1枚当たり180円かかっている。「お気持ちだけ……」という話ではない。「どうせならそのお金を食費・光熱費として支給してくれませんかね。元は税金なのだから」というレベルの話だ。

しかもその発注の背景は不透明極まりなく、実績のない、実体もあるのかどうかわからないような会社が受注していたりする。その過程でいったいどこにどのくらいの金額が費やされ、どのくらいが「中抜き」されたことやら。

福島の無名会社「アベノマスク4億円受注」の謎
脱税事件で執行猶予中の社長が取材に答えた
岩澤 倫彦 : ジャーナリスト
2020/04/30 11:00
最大の疑問は、安倍政権の目玉政策である布マスクの納入を、なぜ無名の会社が担当することになったのかという点。樋山社長は次のように答えた。

「私の会社では、海外から燃料用の木質ペレットを輸入する仕事がメインです。その関係で、ベトナムのマスクを製造している工場を知っていた。東日本大震災のときから、復興関連事業で福島県と山形県とお付き合いがあったので、もしあれでしたらマスクを調達しますよというお話がスタートしたんですね」
――それが、なぜ政府とつながったのか?

「山形県と福島県に話をしたところ、欲しいと言われて、調達の運びになりました。その後、国で一括でやるということにシフトしたんです」

――国との具体的な契約内容は?

「布マスク350万枚を約4億円で受けました。すべて納入済みです」

――衛生面で不良品が出ているが、どのように管理していたのか?

「うちのマスクは1枚も不良品は出ておりません。それからほかのところは納入に遅れが起きたり納期を守らなかったりしていますが、うちは納期を全部守って、1枚も不良は出ていません。うちのマスクは、コロナの問題が起きる前に、通常1枚300円から500円。高いものだと1000円を超えて取引されている品質のものです。……
 ……
マスクの専門業社ではない会社が、なぜ納入業者として選ばれたのか聞くと─―。

「緊急だからでしょ、それでは」

吐き捨てるように言い放って、彼は電話を切った。

強烈な違和感が残り、4月27日午後、私はユースビオのある福島市に向かうことにした。

東日本大震災のときから交流のある福島県庁の幹部に、ユースビオ社について聞いたところ、こんな答えが返ってきた。

「今回の報道で初めて知った。地元でも無名の会社。通常は実績のまったくない専門外の業者を、県が国に紹介するなどありえない。だが、今回は緊急事態という建前があるので、政治力で決まった可能性はある」

閑話休題。いよいよ解体作業だ。縫い目はしっかりしていてまっすぐだし、ミシンはちゃんと使える人が縫っているのだろう。素材の表示はどこにもないが、手触りで判断して布は綿100%で、糸は強いからポリエステルのようだ。つまり、何の変哲もない感じ。

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■何かついてたかも……: 
解体作業中は、大物(髪の毛や虫)がどこかに混入していたらどうしようと緊張していたし、仕立て具合とか素材とかに気が向いていて気が付いていなかったが、あとから写真を見るとこの時点で既に何かついているのがわかる。といっても、ここはカフェのテラス席で、この日はわりと強い風が吹いていたし、私たちも素手で触っていたので、元からの混入ではなくここでついてしまったゴミかもしれない。写真の解像度が十分細かくないので(反省)、そこまでは残念ながら確認できない。

既に上でアップしてある写真だが、ピンク色で囲んだところに何かある。

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さらにここにも。(この写真は、糸がポリエステルっぽいのがよくわかると思う。)

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■というわけでほどき終わった: 
ああだこうだ言いながら解体作業は滞りなく進んだ。

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どうでもいいが、ここまでサクサクとほどけたのは、友人の持っている高品質な糸切りばさみのおかげである。やはり道具はよいものを持つべきである。私はといえば、裁縫道具は数年前に間違って捨ててしまったので、とりあえず間に合わせで買った100均の針と糸でしのいでいる状態。100均の糸切りばさみは金と資源の無駄になることはわかっているので、景品でもらった未使用のトラベル用品セットの中にあった眉毛切りのはさみを糸切りばさみにしているが(先が細いので)、取れたボタンを付け直したりちょっと繕い物をしたり、トートバッグの中にポケットを縫い付けたりする程度しか裁縫道具を使わないので、それで何とかなっている。だが、少しでもちゃんと裁縫や今回のような逆裁縫のようなことをしようとしたら、眉毛切りのはさみでは効率が悪い。

というわけでほどき終わったものがこちら。これはフルサイズで写真上げておきますね。こちらからどうぞ。

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ノーズワイヤーとかも入ってないし、本当に大きな布を畳んで両端を縫ってゴム紐を通しただけ。技術的には、小学生の家庭科の課題で作れる程度。料理でいえば粉ふきいもで作るポテトサラダくらいなものだ。

写真だと白飛びしてしまっていて構造が分かりづらいが、下図のような15層の構造になっている(ネットでは解体せずに見えるところだけ数えて「5層」と言っている人がけっこういる)。65cm × 27cmの大きな布を、縦に3つ折り、横に5つ折りにしてある。

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次の写真で、上の方で述べた「謎の1センチの空き」が確認できるだろう。無理がかかるレベルで分厚いから、こうしておかないと、縫ったときにズレるとか端がもこもこになるとかいった事情があるのかもしれない。いずれにせよ、それって21世紀の衛生用品の品質管理なのか、という気がするのだが。

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■素材の布は「ガーゼ」……?:
素材の布はこんな感じ。ペラペラのすっかすか。新品で糊が利いてる状態だからシャキっとしてるけど、一度洗ったらくたっとなると思う。くたっとなると、こういう目の粗い布は、ふんわり柔らかくなるというより、だらっとして清潔感がなくなるんだよね。

素材的にけっこう織りムラがあるので、空気を通したときのランダム化は……あるのかなあ。

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「っていうかこれ、ガーゼ?」
「ガーゼ……じゃないっすよねー」
「さらし……?」
「……かも」
「これ、そもそも何に使う布なんですかね。どこに使いどころが」
「ペラペラすぎて台布巾にもならない」
「蒸し器で使うとか」
「骨折したときのギプスの当て布ってこうですよね」

■斜めってた: 
というところで解体はここで終わるのだが、途中で気になってしょうがなかったのが、ナナメってたことだ。出来上がりはちゃんと長方形になっていたので、マスクの出来上がり線に沿って折り目を付ける折り畳みのときに斜めになっているのだろう。ひょっとしたらこれは布の性質による工夫なのかもしれないが(斜めにしたほうが型崩れがしにくい、とか)、こんなタイプの原始的なマスクはここ何十年も見たことも触ったこともないし、ましてや解体したこともないので、よくわからない。

下記の写真で、折り目と布がまっすぐでないことがわかるだろう。最初は布の裁断が斜めなのかと思ったが、長さを図るとちゃんと長方形の布だったので、折り方だけが斜めになっていたということになる。

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あと、解体しながら、「これって第一次世界大戦時(スペイン風邪のパンデミック時。約100年前)の従軍看護師のマスクっていう感じ」などと言い合っていたのだが、帰宅してから検索してみたら、約100年前の衛生マスクはもっとしっかり広く顔面を覆っていた。

A Red Cross nurse wearing a face mask, c. 1918 Getty
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Women working for the Red Cross make masks during the pandemic flu in 1918.
Bettmann Archive/Getty Images
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Women wearing surgical masks during influenza epidemic, Brisbane 1919
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顕微鏡・ルーペでの観察
さて、こうして解体したマスクを、次に顕微鏡やルーペで観察することになるのだが、今日はそこまで行き着くことができなかった。それについてはまた改めて。

結論としては、正体不明の繊維片がけっこうあちこちに絡みついていたということは、本稿の最初の方で述べた通りである。

※この記事は

2020年06月14日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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