その「辞めた」という宣言を、テリーザ・メイがEUとの間でやっとのことで合意し、英国会に持ち帰った離脱プランに関する討議の初日(予想されていた以上の、すさまじい荒れ具合を見せている)にぶつけてくるあたり、おぬしもワルよのう……なんだけど、ナイジェル・ファラージがどんなことを画策してきたところで、今さら驚くには値しない。ああ、そうですか、という程度だ。
しかし、UKIPと手を切ることにした理由が、UKIPの現在のリーダーシップが、「トミー・ロビンソン」という活動家名で知られるEDL創設者(実名はスティーヴン・ヤクスレイ=レノン)を党に招じ入れ、彼の「反イスラム」のレトリックを党のレトリックとしようとしていることだ、という辺り、「驚く」とかじゃなくて何というか、ただ呆れて言葉を失うよりなくなってしまい、逆に言葉が大量に噴出するという感覚だ。
ともあれ、この件を私が知ったのはロイターの速報で、そのあとでガーディアンの記事を読んだのだが、ロイター記事とガーディアン記事が「ナイジェル・ファラージとは誰か」という点においてまるで違うので、それをここに書きとめておこうと思う。
なお、英国の報道機関は「保守党支持」とか「労働党支持」といった政治的なスタンスがはっきりしているのが常で、「中立」というか「不偏不党」の立場からの報道といえばBBC、というのがお約束であるが、ことBrexitに関しては、BBCは完全に「Brexit支持」のスタンスで、とうてい「中立」とは言えない。
ロイターなど経済系のメディア・通信社は「EU離脱しないほうがいい」という基調はあるにせよ(ビジネス界と同様に)、BBCよりはよほど「中立」の視点に近いと感じられる。
だが、そのロイター、ナイジェル・ファラージが欧州議会議員(MEP)であることを完全にスルーしている。それどころか「活動家」扱いで、いやあ、ここまで思い切ってしまっていいのなかと不安になるほどだ(不安になるのは、私が英メディア全体的に見られる異様な「ファラージ上げ」に慣れすぎているからだろう)。
Brexit campaigner Nigel Farage quits UK Independence Party
DECEMBER 5, 2018 / 3:15 AM
https://uk.reuters.com/article/uk-britain-eu-farage/brexit-campaigner-nigel-farage-quits-uk-independence-party-idUKKBN1O32D0
Brexit campaigner Nigel Farage said on Tuesday he was leaving the United Kingdom Independence Party which he used to pressure the ruling Conservative Party into gambling on a Brexit referendum.
Farage, as UKIP leader, put pressure on former Prime Minister David Cameron to promise an EU referendum and then helped lead the successful campaign to leave the bloc.
But after stepping down as UKIP leader following the referendum, Farage has been critical of the party which he cast as disorganised and poorly led.
“I am leaving UKIP today,” Farage said. “There is a huge space for a Brexit party in British politics, but it wont be filled by UKIP.”
Farage criticised a decision by the current leader, Gerard Batten, to appoint far-right activist Tommy Robinson as an adviser. ...
デイヴィッド・キャメロンが(愚かにも)EU離脱可否を問うレファレンダムを実施するということを2015年総選挙で公約に掲げた経緯は私は記憶していないが(2015年当時、その報道は見たことは確かだが、「あの英国人がEU離脱などというドラスティックな変化を選択するはずがない」と思っていたので、読んだだけでほとんど注意は払っていなかった)、UKIPという党とナイジェル・ファラージのような人物が保守党の外からプレッシャーをかけたせいというより、保守党内部のEU懐疑派をキャメロンは無視できなかったからではなかったか。その点、ロイター記事のこのナラティヴには、ひっかかりを覚える。
それに、ファラージがMEPであることをここまですっぱりと無視してよいとは思えない。
ロイター記事を一読してそういう「感想」を頭の中で整理し終えたときに読んだのが、ガーディアンの記事だ。
Nigel Farage quits Ukip over its anti-Muslim 'fixation'
Tue 4 Dec 2018 18.48 GMT
https://www.theguardian.com/politics/2018/dec/04/nigel-farage-quits-ukip-over-fixation-anti-muslim-policies
Nigel Farage has quit Ukip after 25 years, saying the party he led to its greatest election successes was now unrecognisable because of the “fixation” with the anti-Muslim policies of its leader, Gerard Batten.
Farage, who took Ukip to third place by number of votes in the 2015 election and significantly shaped the ground for the Brexit referendum, said he was dismayed by Batten’s policies and his decision to appoint the far-right campaigner Tommy Robinson as an adviser.
Writing in the Daily Telegraph, Farage condemned Batten’s decision to throw Ukip’s support behind an anti-Brexit demonstration in London on Sunday organised by Robinson and his associates, saying it was likely to “inspire violence and thuggish behaviour”.
“My heart sinks as I reflect on the idea that they may be seen by some as representative of the cause for which I have campaigned for so much of my adult life,” wrote Farage, who regularly contributes a column to the newspaper. “The very idea of Tommy Robinson being at the centre of the Brexit debate is too awful to contemplate.
“And so, with a heavy heart, and after all my years of devotion to the party, I am leaving Ukip today. There is a huge space for a Brexit party in British politics, but it won’t be filled by Ukip.”
このような導入部(ガーディアン記事原文には細かくリンクが入ってるので、記事原文をご参照ください)に続き、ガーディアン記事では、英語記事ライティングの流儀としてはしごくまっとうな関係詞節による挿入を駆使しつつ、ファラージが「下院議員に7回立候補して7回落選している」とか、「いまだにMEPを続けている」とかいったことを述べ、UKIPが「反イスラム」という毒薬を美味しく食ってることを説明している。
UKIPの「反イスラム」性なんて、何を今さら、という話だけどね。
UKIPは、2016年7月にファラージが党首を辞めたあとは凋落の一途をたどり、ごく短期間の間に党首が何度も変わっているが、その有為転変のなか、「反イスラム」の活動家のなかでも最も過激な部類に入るアン・マリー・ウォーターズが党首選に立候補したこともあった(落選はしたが)。UKIPの党員の中には、そういう思想を抱いている人々が無視できないくらいに多くいるということだ。
現在のUKIP党首であるクリス・バッテンという人は、「反イスラム」を党に受け入れることにためらいがないようだが、ガーディアンの記事では、今回のこの流れでUKIPを離脱する党員がそれなりにいるだろうという感触だ。
UKIPを離れたファラージは、「Brexitで必要とされている党」を自身で立ち上げるんだろうか……ということについては、ガーディアン記事では触れられていない。UKIPからの分派というと、ロバート・キルロイ=シルクのVeritasというのがあった(短命に終わった)。TwitterではUKIPpersは「クリス・バッテンが党首になってUKIPは党勢を回復している」と主張しているのを見るが、それってガチの極右(BNPとかNFとかEDLとかEDとか)からの流入がそれなりの規模で起きているってことっすよね。
いずれにせよHe must be happy, he must be happy...
なお、本稿、対訳をつけていないことで「不親切」との言説がまたばらまかれるかもしれませんが、無視します。なお、ファラージがUKIP党首を辞めたときの記録に関し、下記のようなことを言われましたが、「翻訳なし」というのは事実無根です。
リンク先のページをご覧になった上でのご発言でしょうか? RT @tokio555: 翻訳なし。不親切。RT @hashimoto_tokyo: …ナイジェル、UKIP党首辞めるってよ https://t.co/h5AEgjoLtx pic.twitter.com/ChjQREKOFS
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) July 4, 2016
こういうのに貼りつかれるかと思えば、どっかで知らない弁護士が「無断翻訳がぁぁぁ」と吠えている。さて、うちらはどうすりゃいいんでしょうね。
※この記事は
2018年12月06日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【todays news from ukの最新記事】
- 英国での新型コロナワクチン認可と接種開始、そして誤情報・偽情報について。おまけに..
- 英ボリス・ジョンソン首相、集中治療室へ #新型コロナウイルス
- "Come together as a nation by staying ap..
- 欧州議会の議場で歌われたのは「別れの歌」ではない。「友情の歌」である―−Auld..
- 【訃報】テリー・ジョーンズ
- 英国の「二大政党制」の終わりは、「第三極の台頭」ではなく「一党優位政党制」を意味..
- ロンドン・ブリッジでまたテロ攻撃――テロリストとして有罪になっている人物が、なぜ..
- 「ハロルド・ウィルソンは欧州について中立だった」という言説
- 欧州大陸から来たコンテナと、39人の中国人とされた人々と、アイルランドのトラック..
- 英国で学位を取得した人の残留許可期間が2年になる(テリーザ・メイ内相の「改革」で..