さて、そんな中でも唯一、ある程度は書いているのが北アイルランド関連だ。といっても、マーティン・マクギネスの政界引退というドでかい話題があったから書いているのであり、それがなかったらどうだったか、わからないが。
そして本日(29日)のニュース。ガーディアン/オブザーヴァー(ガーディアンの日曜)のインターナショナル版のトップページで、久々にNorthern Irelandの文字を見たと思ったら、こんな話だ。
Troubles inquiry focusing too much on police and army, says James Brokenshire
https://www.theguardian.com/uk-news/2017/jan/29/troubles-inquiry-focusing-too-much-on-police-and-army-says-james-brokenshire
記事自体はPress Association(通信社)の配信記事で、これを「インターナショナル版のトップページ」に持ってくる編集判断は、なかなかすごいと思う。
※画像クリックで原寸表示。なお、キャプチャ取得時になぜかまたガーディアンのフォントが読み込まれない症状が再発しているのでフォントがおかしい。また、キャプチャ取得のソフトウェアの動作の具合によって、一部つぶれている部分がある(上段のトランプ政権に関するニュースの部分)。
この記事は、英国政府のジェイムズ・ブロークンシャーNI大臣がサンデー・テレグラフに寄稿したものを抜粋し、その背景を簡単に解説するもの。1〜2分もあれば読める分量だ。
一部抜粋。ほんとはGFAがどうのこうのということを書くべきなのだろうが、その体力がない。もう疲れたよ。「こういうときは "disproportionate" という単語も抵抗なく使われるんだな」(イスラエルによるガザ爆撃などは、誰がどう見てもdisproportionateなのに、その単語を使うと「偏っている」と指弾される)という、他人にとってはどうでもいいようなことくらいしか言葉にならない。
The Northern Ireland secretary has said investigations into killings during the Troubles are “disproportionately” focusing on members of the police and army.
...
The Police Service of Northern Ireland’s legacy investigation branch is investigating more than 3,200 killings in the province between 1969 and 2004.
Numerous former soldiers are facing prosecution for killings, including Dennis Hutchings, 75, from Cornwall, who has been charged with the attempted murder of a man with learning difficulties in 1974.
https://www.theguardian.com/uk-news/2017/jan/29/troubles-inquiry-focusing-too-much-on-police-and-army-says-james-brokenshire
一応、サンデー・テレグラフの文章そのもののリンク:
We must not allow the past to be rewritten in Northern Ireland
http://www.telegraph.co.uk/news/2017/01/28/must-not-allow-past-rewritten-northern-ireland/
※「プレミアム」コンテントなので、閲覧は要登録(1週間に1本は無料で読める)。
メイ首相とブロークンシャー大臣が月曜、ダブリン(アイルランド共和国政府)を訪問するのを前に、Brexitとアイルランド(コモン・トラベル・エリア)のことについての記述で始まる文章で、まあ、こりゃ全文読まにゃならんかもだ、という印象だが、今はとてもだるい。Brexitの話で始め、the Troublesと呼ばれた「過去」における、英国の治安当局が加害者となった出来事(英国政府が直視すべき「国家による暴力」、「白色テロ」)に対する法的な追究は、「バランスの欠けたもの disproportionate」だと主張する方向に展開し、着地点が(見出し・標題にある通り)「過去の書き換えを許さない」ということであるような文章は(英国、というか英国のエスタブリッシュメントは「歴史は勝者が書く」ということを完全に内面化しきっているということ、こないだ書いたよね。あるいは書くだけ書いてアップしていないかもしれないが、過去ログをあさって確認する体力もない)、こういうふうにだるいときに読めるシロモノではない。私にはあの人たちのそういうロジックについていく体力がない。Slugger O'Tooleでも見れば、あるいはTwitter上の論理的なユニオニストの人々の発言でも見れば、適切なガイダンスが提供されているかもしれないが、いずれにせよ無理は無理だ。
ところでガーディアン/オブザーヴァーの記事の下部、機械的に抽出されて提示される「関連する記事」のコーナー。ブロークンシャー大臣のブロークンなロジックである可能性が高い発言はとても読める気がしないが、ここにある記事群は、寝て起きてお茶でも飲めば読めるだろう。

Troubles inquiry focusing too much on police and army, says James Brokenshire | UK news | The Guardian via kwout
※このキャプチャ画像はクリッカブル。
読みたい記事があれば見出しクリックで記事に飛べます。
あ、ひとつ注意点。このキャプチャ画像内、左上の「IRAの停戦後何年も、英軍はシン・フェインをスパイしていたと兵士が主張」という記事についている写真は、「IRA(つまりProvisional IRA)」のものではなく「Real IRA」のもの。「IRA」と「Real IRA」は敵対関係にあるので一緒にしないようご注意ください。なお、記事にはIRAというかシン・フェインもReal IRAも、両方出てきます。Real IRAについて英国政府機関(情報部)がどこまで、何を知っていたのかっていうのは、「30年(20年)ルール」の期限を迎えてもたぶん「国家安全保障にかかわる問題である」という理由で開示されないんじゃないかな……。
「過去の書き換え」ねえ。何をしたら「書き換え」ることになるんだろうね。
「あれは "戦争" だった」というIRAの認識を認めることか。
英軍兵士が、北アイルランドの非武装の民間人(「カトリック」)を(多くの場合は面白半分で)銃撃したことを認めることか。それが「違法行為」であったことを司法の場で問うことか。
Unlawful killingは、いつ、どのような状況で、正式に "unlawful" と認められるのか。
「そのころは紛争が本当にひどくて……デリーはno-go area(ナショナリストのコミュニティがバリケードを築いて、英軍・警察が入ってこられないようにしていた地域。その中で「警察」としてロイヤリストの攻撃を未然に防ぐために検問を実施するなどしていたのがIRA)があり、ブラディ・サンデーの衝撃も冷めやらぬときでした。気持ちの良い、晴れた午後でした。学校が終わって、サッカー場を抜けて走って……軍の監視塔の脇で、兵士がゴム弾を発砲し、それが顔面にまともに当たって、私は視力を失いました」。
……
ムーアさんの顔面を撃ち、視力を奪ったのは、イネスさんだった。「あのときに、将来どうなるかが見えていたら、私はあんなことはしなかっただろう」、「私には、彼の視力を取り戻してやることはできない。自分のしたことの結果を変えることはできない」と語るイネスさん
……
ムーアさんはシリアスな話を始める。「撃たれたことで苦しんだのは私ひとりだけではありません。」
ダライ・ラマをはさんで向こう側に座っているイネスさんが「私が撃った」という内容の話を始める。「あの日のあのような状況下では、ラバー弾を撃つことがごく当たり前 normal の対処法でした」。
……
イネスさんは語る。"There was nothing normal whatsoever in the outcome. The outcome was simply tragic, and very quickly I was made aware that I had blinded a small boy of ten. I was absolutely shocked, apalled, devastated..."
――2010年11月21日 ドキュメンタリー『ダライ・ラマのヒーロー』
http://nofrills.seesaa.net/article/170134677.html
イネスさんのような元英軍人は、元英軍人の主流派ではない。それに仮にムーアさんのケースのように「10歳の少年が、英軍の暴力(発砲)によって失明した」ことがunlawfulとして受け入れられたとして、では「20歳の青年が、英軍に対し攻撃を仕掛けていると誤認され、英軍の暴力(発砲)によって落命した」場合はどうか。さらに、「英軍が発砲して殺してしまったので、青年が英軍に対し攻撃を仕掛けていると誤認されたことにした」場合はどうか。そして、IRA戦闘員に対するtargeted killingの場合はどうか。
IRA戦闘員に対するtargeted killingがunlawfulとなるなら、アルカイダ戦闘員に対するそれはどうなるのか。イスイス団戦闘員に対するそれはどうなるのか。etc, etc...
噴出しているのは、歴史のヘドロだ。
History says, Don't hope
On this side of the grave,
But then, once in a lifetime
The longed-for tidal wave
Of justice can rise up
And hope and history rhyme.
So hope for a great sea-change
on the far side of revenge.
Believe that a further shore
is reachable from here.
Believe in miracles
and cures and healing wells.
-- Seamus Heaney, The Cure at Troy
※この記事は
2017年01月30日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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