「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2017年07月05日

UEFAチャンピオンズリーグ予選で、ベルファストのリンフィールドとグラスゴーのセルティックが対戦する。

UEFAはたぶん気にかけてもいなかったのだろう。気にかけていれば、別組になるようにしたんじゃないか(例えば「スペインとジブラルタル」のように)とも思うが、代表ではなくクラブの大会だからそういう配慮がなされることもあらかじめないのか。ということは、今までUEFAチャンピオンズ・リーグ(以下「CL」)において、この組み合わせにならなかったのは、偶然なのだろうか。

とにかく、すさまじいことになった。

CLは、スペインやドイツ、イタリア、イングランド、フランスなど各国リーグの上位チーム、つまり強豪がひしめき合うグループステージの前に、予選が行なわれる。UEFAランキングで上位に入らない国のリーグの優勝チーム同士がホームとアウェイで試合を行ない、出場枠を争う。予選は6月末から開始され、まずは1回戦で10チームが競い合い、勝ち残った5チームが、1つ上のランクのリーグ優勝チームが待ち構える2回戦に進む。今年の日程は、1回戦がファーストレッグが6月27・28日、セカンドレッグが7月4・5日で、2回戦はファーストレッグが7月11・12日、セカンドレッグが7月18・19日である。

bonfire12thjuly.jpg2回戦はファーストレッグが7月11・12日である――大事なことなので二度言いました。

北アイルランドに関心がある人で、この日付にピンとこない人はいないだろう。むしろ、この日程で、ただでさえナショナリズムが燃え盛るスポーツの試合(「外国」のチームとの試合……北アイルランドは単独の「国」ではなく、その「ナショナリズム」、すなわち「アルスター・ナショナリズム」は一筋縄ではいかないのだが)を行なうなど、怖いものなさすぎだろ (^^;) と思うだろう。

北アイルランドはUEFAランキング(2017年6月6日)で、全54協会のうち47位。北アイルランドのリーグ優勝チーム(NIのサッカーリーグは改組改編が相次いでいるのでやたらとややこしく見えるが)は、CLでは予選1回戦から戦うことになる。そしてその1回戦を勝ち上がった次にあるのが、11th night12thに行なわれる2回戦のファーストレッグだ。

これだけでも (^^;) だが、今年はそれでは終わらない。

今年CLに行った北アイルランドのリーグ優勝チーム(2016-17シーズン)は、リンフィールドFCである。ホーム・グラウンドのウィンザー・パークは、北アイルランド代表のホームでもある。サッカーというスポーツ自体が北アイルランドではあらかじめ「政治的」にもなりうるのだが(サッカーのルールブックは「英国生まれ」だ、ということで抵抗感を持つ人々もいる)、リンフィールドの「セクタリアニズム」は、何を前にしても「サッカーと政治は別ですヨ」と涼しい顔をしたがる人でも無視することは難しいくらいのものだ。あまりよい記述ではないのだが(「中立的」であろうとして軸がぶれてしまっている)ウィキペディアから。原典にはソースが付記されているので、詳しくは原典をご参照いただきたい。
Linfield are generally regarded as a 'Protestant club' and draw the vast majority of their support from one side of the community. However, the squad itself is one of the most diverse in the Irish League. The club has also been regarded as sectarian in the past, both in respect of its alleged employment policy and of the behaviour of its fans. This sectarian reputation is partly the result of the actions of fans who have a history of occasional anti-Catholic behaviour ranging from sectarian chanting on the terraces to outright violence. Part of the problem has been attributed to Windsor Park's location in a part of Belfast that is predominantly Protestant.

https://en.wikipedia.org/wiki/Linfield_F.C.#Sectarianism_and_violence


「ファンの行為 the behaviour of its fans」には、物を投げるなどの暴力的行為のほか、セクタリアニズム丸出しのお歌を歌う、などといったことが含まれる。「セクタリアニズム丸出しのお歌」というのは、グラスゴーの「オールドファーム」でも歌われているのだが、要するに「カトリックに対するプロテスタントの優位」をまくし立てるような歌、「カトリック」を罵倒するような歌である(が、オレンジ・オーダーの中の人は問題のお歌が「セクタリアニズム」のお歌であるという事実すら認めようとしていない。すさまじいdenialismだ)。

そんなお歌でも、「そこにプロテスタントしかいない」場合には、仲間内の結束のシンボルになる程度かもしれない。だが実際にはああいうお歌は、「相手に対する優位」を言うため、要するに「挑発」するための道具のひとつだ。

そういう道具を持ったチームが、「アルスター・ナショナリズム」(その主要な成分は「カトリックに対するプロテスタントの優越」の意識である)が燃え盛る7月11日か12日に試合をする……しかもホーム(ベルファストのウィンザー・パーク)で。

というか、7月11日と12日こそ、「カトリックに対するプロテスタントの優越」の誇示の日だ。

The Twelfth... originated during the late 18th century in Ulster. It celebrates the Glorious Revolution (1688) and victory of Protestant king William of Orange over Catholic king James II at the Battle of the Boyne (1690)

https://en.wikipedia.org/wiki/The_Twelfth


こんな日に、ベルファストの「プロテスタント」のめっちゃ濃い地域でめっちゃ濃いチームが、「外国」のチームを迎えうつのだ。おー、相手がカトリック系だったらかわいそうねー……というだけなら、まだ笑い話で済むかもしれない。だが、今回は笑い話にできるだけの神経を持ってる人はまずいないだろう。

だって2回戦ファーストレッグでベルファストに乗り込むのは、スコットランド・プレミアリーグの優勝チーム、グラスゴーのセルティックFCなので。

CLの予選でこの日程でこういう組み合わせになる可能性が高いとわかったのは、予選1回戦&2回戦の組み合わせ抽選会が行なわれた6月19日だったが、あまりのことに、Linfieldなどという全然強豪ではないチームの名が、Twitter (UK) でTrendsに入ったほどだった。CLの予選などに注意を払っていなかった私にはまったくの不意打ちだった(今年はCLは、まあ別に……ですけどね、どのみち)。
http://twilog.org/nofrills/date-170619




















そして7月4日の予選1回戦の試合の結果、2回戦ファーストレッグではベルファストでリンフィールドとセルティックが対戦することが決まったのだが、チームのほうでは早くも6月25日の段階で、対応を考えていた。つまり、セルティックはベルファストにサポーターを連れて行かない(アウェイ戦のチケットを出さない)。


Celtic have confirmed they will not take supporters to Belfast - should they face Linfield in a Champions League qualifier.

Linfield face SP La Fiorita of San Marino in the second qualifying round, with the winners facing Celtic.

However, the first leg was due to be played on 12 July at the height of the marching season in Northern Ireland.

Citing safety concerns, Celtic said: "No tickets will be available for Celtic supporters for the match."

Uefa has confirmed that a potential Linfield v Celtic match would be on Friday, 14 July. The dates for the second qualifying round ties are 11/12 July and 18/19 July.

With Celtic away from home for the first leg, the potential Linfield clash sparked security concerns.

http://www.bbc.com/sport/football/40387363


「UEFAに電話して、セルティックは7月12日にリンフィールド(ベルファスト)にファンを連れて行けないが、その理由は1690年の戦闘だと告げることになった人の立場になってみよう」



確かにヨーロッパで「昔の戦争や対立」を理由に観客を入れないとか連れて行かないとか、試合日程を考慮しなければならないとかいうことをやってたら、欧州での国際試合自体ほとんど不可能になるわけで、やっぱり「北アイルランド問題」ってアレですよねー、と思わざるを得ない。ジブラルタルにせよ、アルメニアとアゼルバイジャン(ナゴルノ=カラバフ)にせよ、あるいは今年からUEFAに加わったコソヴォにせよ、「17世紀の戦争が今なお深刻な対立を引き起こしているため」という理由で引き離しという配慮が為されているわけではない。

そしてそんなことのために大切な試合を見に行けないセルティックのサポーターたちのフラストレーションは、大変に大きい。






むろん、セルティックのサポーターの中にも過激なセクタリアニズムに駆られている人たちもいる。リンフィールドのサポーターの側(グラスゴーのレンジャーズFCサポ界隈を含む)では、それを理由に何かを正当化しようとしている人たちもいる。

ああ、またあの、「こちらばかり責めるのは不公平だ、あっちにも問題がある」というwhatabouteryだ。

北アイルランドですべてを停滞させてしまう、あのwhatabouteryだ。

そして現実に、北アイルランドが2017年7月に直面しているのは、そのwhatabouteryのマインドと、「プロテスタント」の側の「包囲の心理」による事態の停滞と紛糾だ。




なお、最終的には、リンフィールドとセルティックの試合の日程はUEFA規定の7月11日(火)でも12日(水)でもなく、14日(金)に繰り延べされている。




Linfield will host Celtic in their first leg on Friday 14 July.

...

Security concerns around the tie led to agreement that any potential first leg between the clubs at Windsor Park would be moved from the normal midweek slot to the Friday because of the clash with the 12th of July marches in Northern Ireland.

Celtic also announced they would not take supporters to Belfast because of safety worries.

http://www.bbc.com/sport/football/40484191


試合としてはおもしろいだろう。ちなみに、リンフィールドの監督は、10年ほど前にNI代表でゴールを量産していたストライカーのデイヴィッド・ヒーリーだし、セルティックは北アイルランド出身のブレンダン・ロジャーズが監督だ。「7月のパレード・シーズン」であるという理由で見に行けないセルティックのサポーターには気の毒なことだ。


17世紀が21世紀の邪魔をしているというこの現実。これが「北アイルランド*問題*」。


※この記事は

2017年07月05日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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