とにかく、すさまじいことになった。
CLは、スペインやドイツ、イタリア、イングランド、フランスなど各国リーグの上位チーム、つまり強豪がひしめき合うグループステージの前に、予選が行なわれる。UEFAランキングで上位に入らない国のリーグの優勝チーム同士がホームとアウェイで試合を行ない、出場枠を争う。予選は6月末から開始され、まずは1回戦で10チームが競い合い、勝ち残った5チームが、1つ上のランクのリーグ優勝チームが待ち構える2回戦に進む。今年の日程は、1回戦がファーストレッグが6月27・28日、セカンドレッグが7月4・5日で、2回戦はファーストレッグが7月11・12日、セカンドレッグが7月18・19日である。

北アイルランドに関心がある人で、この日付にピンとこない人はいないだろう。むしろ、この日程で、ただでさえナショナリズムが燃え盛るスポーツの試合(「外国」のチームとの試合……北アイルランドは単独の「国」ではなく、その「ナショナリズム」、すなわち「アルスター・ナショナリズム」は一筋縄ではいかないのだが)を行なうなど、怖いものなさすぎだろ (^^;) と思うだろう。
北アイルランドはUEFAランキング(2017年6月6日)で、全54協会のうち47位。北アイルランドのリーグ優勝チーム(NIのサッカーリーグは改組改編が相次いでいるのでやたらとややこしく見えるが)は、CLでは予選1回戦から戦うことになる。そしてその1回戦を勝ち上がった次にあるのが、11th nightか12thに行なわれる2回戦のファーストレッグだ。
これだけでも (^^;) だが、今年はそれでは終わらない。
今年CLに行った北アイルランドのリーグ優勝チーム(2016-17シーズン)は、リンフィールドFCである。ホーム・グラウンドのウィンザー・パークは、北アイルランド代表のホームでもある。サッカーというスポーツ自体が北アイルランドではあらかじめ「政治的」にもなりうるのだが(サッカーのルールブックは「英国生まれ」だ、ということで抵抗感を持つ人々もいる)、リンフィールドの「セクタリアニズム」は、何を前にしても「サッカーと政治は別ですヨ」と涼しい顔をしたがる人でも無視することは難しいくらいのものだ。あまりよい記述ではないのだが(「中立的」であろうとして軸がぶれてしまっている)ウィキペディアから。原典にはソースが付記されているので、詳しくは原典をご参照いただきたい。
Linfield are generally regarded as a 'Protestant club' and draw the vast majority of their support from one side of the community. However, the squad itself is one of the most diverse in the Irish League. The club has also been regarded as sectarian in the past, both in respect of its alleged employment policy and of the behaviour of its fans. This sectarian reputation is partly the result of the actions of fans who have a history of occasional anti-Catholic behaviour ranging from sectarian chanting on the terraces to outright violence. Part of the problem has been attributed to Windsor Park's location in a part of Belfast that is predominantly Protestant.
https://en.wikipedia.org/wiki/Linfield_F.C.#Sectarianism_and_violence
「ファンの行為 the behaviour of its fans」には、物を投げるなどの暴力的行為のほか、セクタリアニズム丸出しのお歌を歌う、などといったことが含まれる。「セクタリアニズム丸出しのお歌」というのは、グラスゴーの「オールドファーム」でも歌われているのだが、要するに「カトリックに対するプロテスタントの優位」をまくし立てるような歌、「カトリック」を罵倒するような歌である(が、オレンジ・オーダーの中の人は問題のお歌が「セクタリアニズム」のお歌であるという事実すら認めようとしていない。すさまじいdenialismだ)。
そんなお歌でも、「そこにプロテスタントしかいない」場合には、仲間内の結束のシンボルになる程度かもしれない。だが実際にはああいうお歌は、「相手に対する優位」を言うため、要するに「挑発」するための道具のひとつだ。
そういう道具を持ったチームが、「アルスター・ナショナリズム」(その主要な成分は「カトリックに対するプロテスタントの優越」の意識である)が燃え盛る7月11日か12日に試合をする……しかもホーム(ベルファストのウィンザー・パーク)で。
というか、7月11日と12日こそ、「カトリックに対するプロテスタントの優越」の誇示の日だ。
The Twelfth... originated during the late 18th century in Ulster. It celebrates the Glorious Revolution (1688) and victory of Protestant king William of Orange over Catholic king James II at the Battle of the Boyne (1690)
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Twelfth
こんな日に、ベルファストの「プロテスタント」のめっちゃ濃い地域でめっちゃ濃いチームが、「外国」のチームを迎えうつのだ。おー、相手がカトリック系だったらかわいそうねー……というだけなら、まだ笑い話で済むかもしれない。だが、今回は笑い話にできるだけの神経を持ってる人はまずいないだろう。
だって2回戦ファーストレッグでベルファストに乗り込むのは、スコットランド・プレミアリーグの優勝チーム、グラスゴーのセルティックFCなので。
CLの予選でこの日程でこういう組み合わせになる可能性が高いとわかったのは、予選1回戦&2回戦の組み合わせ抽選会が行なわれた6月19日だったが、あまりのことに、Linfieldなどという全然強豪ではないチームの名が、Twitter (UK) でTrendsに入ったほどだった。CLの予選などに注意を払っていなかった私にはまったくの不意打ちだった(今年はCLは、まあ別に……ですけどね、どのみち)。
http://twilog.org/nofrills/date-170619
LinfieldなんてなんでTrendsに入ってるのと思ったら、ナナメ上ですごいことになってる……くじ運すごすぎる。 https://t.co/U7aYWxdKQ6
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
#CelticFC will face either Linfield FC or SP LA Fiorita in the #UCL Second Qualifying Round. Ticket and date information to follow. pic.twitter.com/IAQtPQrDgV
— Celtic Football Club (@celticfc) June 19, 2017
Celtic could play their first CL game of the season at Linfield, on the 12th July. pic.twitter.com/b7I4CKRMYY
— Paddy Power (@paddypower) June 19, 2017
https://t.co/6sg7HIAdZw ネタ発言じゃない。ほんとにありうる。 "The first leg for Celtic will either be 11/12 July" via https://t.co/tD0yWATS5L (・_・)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
15時間前(CL組み合わせ抽選の前)、「もしうちらがリンフィールド引き当てたら、フォールズ・ロードを裸で走る。そんなことは100万年たってもありえないけどね」って発言しちゃってた若い女子がいて、RTがものすごく多い。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
(・_・) めったな発言しちゃいけません。
https://t.co/FUdIy8T4i0 うわぁ……「バンドも出てきて大歓迎」って (^^;)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
笑えないというか、私は笑えるけどRTはちょっとできないようなジョークがセルティック・サイドから…… (^^;)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
そういえば2016年の大晦日に、グラスゴーでオールドファームだったんだよね。そのときに「冗談はほどほどに」と言われていたんだけど、7月12日にベルファストでリンフィールド対セルティックなんてことになったら、「冗談」のレベルではなく…… (・_・)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
THIS -> Old Firm match to be held on Hogmanay, SPFL confirms https://t.co/XHMaTkA8uN 14 Sept 2016
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
And https://t.co/xWy9N1lPkv 31 Dec 2016
最近、北アイルランドからニュースに乗って飛んでくる成分がほんとに濃いので困る。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
BREAKING: If Linfield meet Celtic in Champions League at Windsor Park, the game will NOT be played on JULY 12. Both clubs have ruled it out!
— Steven Beacom (@StevenBeacom5) June 19, 2017
https://t.co/Zq0tCxUG5Z 「両クラブとも12日の試合はないと言明」っつったって、日程的に12日じゃなければ11日なんでしょ。全然変わらないと思うんだ。 (・_・)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
God forbid people could be adults about a game of football. England can play Argentina, North can play South Korea but oh not not these sods
— Steven Gray (@histevegray) June 20, 2017
「11日だとむしろ悪い」とか、「日付関係ない。いずれにせよ7月にそんな組み合わせでやればカオス」とか、いろんな意見があって参考になる。 (・_・)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
まあでも、12日にやったらたぶん警察が手一杯になって大変なことになる。
If things with the Tories & the DUP keep up this Celtic - Linfield game could be like that Dinamo Zagreb game that kicked off the Balkan war
— Calum Gordon (@calumTRC) June 19, 2017
PRT, 「バルカン紛争を引き起こしたディナモ・ザグレブとレッドスター・ベオグラードの試合」を引き合いに出された日には、「警察が手一杯になるくらいなら……」と思えてくるから、いろいろとおそろしい。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
これ→ https://t.co/fSGbS3x5jn
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) June 19, 2017
1990年ディナモ・ザグレブ対レッドスター・ベオグラード戦での暴動
そして7月4日の予選1回戦の試合の結果、2回戦ファーストレッグではベルファストでリンフィールドとセルティックが対戦することが決まったのだが、チームのほうでは早くも6月25日の段階で、対応を考えていた。つまり、セルティックはベルファストにサポーターを連れて行かない(アウェイ戦のチケットを出さない)。
Celtic will not take supporters to Belfast - should they face Linfield in a Champions League qualifier.
— BBC Sports (@BBCSportsHD) June 25, 2017
More: https://t.co/kQUZhERYkS pic.twitter.com/DJuVnb6V2r
Celtic have confirmed they will not take supporters to Belfast - should they face Linfield in a Champions League qualifier.
Linfield face SP La Fiorita of San Marino in the second qualifying round, with the winners facing Celtic.
However, the first leg was due to be played on 12 July at the height of the marching season in Northern Ireland.
Citing safety concerns, Celtic said: "No tickets will be available for Celtic supporters for the match."
Uefa has confirmed that a potential Linfield v Celtic match would be on Friday, 14 July. The dates for the second qualifying round ties are 11/12 July and 18/19 July.
With Celtic away from home for the first leg, the potential Linfield clash sparked security concerns.
http://www.bbc.com/sport/football/40387363
「UEFAに電話して、セルティックは7月12日にリンフィールド(ベルファスト)にファンを連れて行けないが、その理由は1690年の戦闘だと告げることになった人の立場になってみよう」
Imagine being the person who had to phone UEFA to say Celtic won't take fans to Linfield on 12 July because of a battle that happened in1690 https://t.co/TgoaxPcy7i
— Wayne Fawcett (@waynefawcett) June 25, 2017
Linfield couldn't play on the 11th because their fans/players/officials are busy burning catholic effigies
— John Stevens (@pzj_1872) June 25, 2017
Half of Blues team are catholic pic.twitter.com/k8rxyLPon8
確かにヨーロッパで「昔の戦争や対立」を理由に観客を入れないとか連れて行かないとか、試合日程を考慮しなければならないとかいうことをやってたら、欧州での国際試合自体ほとんど不可能になるわけで、やっぱり「北アイルランド問題」ってアレですよねー、と思わざるを得ない。ジブラルタルにせよ、アルメニアとアゼルバイジャン(ナゴルノ=カラバフ)にせよ、あるいは今年からUEFAに加わったコソヴォにせよ、「17世紀の戦争が今なお深刻な対立を引き起こしているため」という理由で引き離しという配慮が為されているわけではない。
そしてそんなことのために大切な試合を見に行けないセルティックのサポーターたちのフラストレーションは、大変に大きい。
The Linfield Decision Panders To Bigotry And Drags UEFA To The 17th Century https://t.co/rQEHMJITuK
— Tam (@TamMcKenna1888) June 25, 2017
Football not on the intended UEFA dates because of a backward sectarian community indulging in a sectarian parade is NOTHING #justsaying
— The Huddle 🍀 (@letsdothehuddle) June 25, 2017
Yes. The club promoted this culture by playing the Billy boys over the tannoy & accommodating sectarian Flute bands on the pitch.
— The Huddle 🍀 (@letsdothehuddle) June 25, 2017
The lads who follow linfield 🔴⚪️🔵 #linfieldaway #ChampionsLeague pic.twitter.com/Zwl5oxYsNV
— Raven LSC (@RavenLSC) July 3, 2017
むろん、セルティックのサポーターの中にも過激なセクタリアニズムに駆られている人たちもいる。リンフィールドのサポーターの側(グラスゴーのレンジャーズFCサポ界隈を含む)では、それを理由に何かを正当化しようとしている人たちもいる。
ああ、またあの、「こちらばかり責めるのは不公平だ、あっちにも問題がある」というwhatabouteryだ。
北アイルランドですべてを停滞させてしまう、あのwhatabouteryだ。
そして現実に、北アイルランドが2017年7月に直面しているのは、そのwhatabouteryのマインドと、「プロテスタント」の側の「包囲の心理」による事態の停滞と紛糾だ。
Does anyone know what’s going on? https://t.co/rDX4ObpKbm
— Slugger O'Toole (@SluggerOToole) July 4, 2017
Northern Ireland powersharing talks to be 'suspended over summer'https://t.co/zG346bC7vL pic.twitter.com/ZNpidOFz61
— The Irish News (@irish_news) July 4, 2017
なお、最終的には、リンフィールドとセルティックの試合の日程はUEFA規定の7月11日(火)でも12日(水)でもなく、14日(金)に繰り延べされている。
It should be some tie!
— BBC Sport (@BBCSport) July 4, 2017
It's going to be Linfield v Celtic in the Champions League.
More: https://t.co/hMrbfyanW9 pic.twitter.com/s0w9OT23kJ
Linfield will host Celtic in their first leg on Friday 14 July.
...
Security concerns around the tie led to agreement that any potential first leg between the clubs at Windsor Park would be moved from the normal midweek slot to the Friday because of the clash with the 12th of July marches in Northern Ireland.
Celtic also announced they would not take supporters to Belfast because of safety worries.
http://www.bbc.com/sport/football/40484191
試合としてはおもしろいだろう。ちなみに、リンフィールドの監督は、10年ほど前にNI代表でゴールを量産していたストライカーのデイヴィッド・ヒーリーだし、セルティックは北アイルランド出身のブレンダン・ロジャーズが監督だ。「7月のパレード・シーズン」であるという理由で見に行けないセルティックのサポーターには気の毒なことだ。
It's on... Linfield will play Celtic in the Champions League....Healy v Rodgers, Killyleagh v Carnlough, Blues v Bhoys...should be fun!
— Steven Beacom (@StevenBeacom5) July 4, 2017
17世紀が21世紀の邪魔をしているというこの現実。これが「北アイルランド*問題*」。
※この記事は
2017年07月05日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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