「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2018年12月07日

フランス、ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)の抗議行動を伝える英語圏に関するメモ(含: 情報戦について)

ネット上の日本語圏ではなぜか「イエローベスト」という英語で語られたりもしているフランスの「黄色いベスト」(現地語で「ジレ・ジョーヌ gilets jaunes」)をシンボルとする大規模な抗議行動について、というかそれが英語圏でどう語られているかについて、1本ブログ記事を書こうとしていたのだが、あいにくその気力も体力も知力もないので、ツイートしたものをお手軽にまとめておこうと思う。こんな記録でも、自分のブログに何もないよりはましだ。

簡単に今回の抗議行動についてまとめておこう。抗議行動のシンボルとなっている「黄色いベスト」は車を運転する人が車に載せておくことを義務付けられているものである。車が故障した際に赤い反射材でできた三角形の表示を出すと同時に、運転者はこの黄色いベストを着用することになっている。つまりこのベストといえば「車を運転する人」の意味になる。特に「トラック運転手」とか「農業従事者」とかいった区別なく、「車を運転する人、すべて」だ。

彼らが抗議しているのは、少なくとも発端としては、政府がディーゼル燃料にかかる税金を増税し、燃料が大きく値上げされたことだ。増税は、化石燃料への課税を大きくして非化石燃料への転換を促すために行なわれたもの。依然、ディーゼル燃料への依存が高いフランスにとっては、環境負荷を小さくしていくことは大きな課題だ。そのためにマクロン大統領はエコカー購入に補助金を出すと同時に、ディーゼル燃料にかかる税金を増やすという手を打った。やりようによってはうまくいったのかもしれないが、マクロンのやり方は完全に悪手だったようで、全国的な抗議行動を引き起こした。

BBCの映像報告(BBCのナラティヴは気になるが)。車がないと生活が成り立たない人の声。「ミドルクラスが消え去って、社会は富裕層と貧困層に両極化した」。「1968年5月の再来だと言う若い人たちもいる」:


この直接行動が始まったのは11月17日(土)で、初日に死者が出たのでBBCなど英語メディアでも少し大きく報じられていたが(でもそのときには日本語での大きな報道はなかったようだし、日本語圏で事態を注視している人もあまりいなかったかもしれない)、国際的トップニュースの扱いを受けるようになったのは2週目の土曜日に「暴動」っぽい状況になったあとだった。日本語でもその段階で「デモ隊が暴徒化」というお決まりのフレーズで報じられるようになり、そうなると今度はニュースを見た人の「これはひどい」という伝言が加速する。初日に死者が出ていることも知らずにいて、「暴徒化」云々で騒げる人たちは、よほど「デモ」が嫌いなのだろうと思う。あるいはパリについて旅行雑誌の描くようなイメージで決めてかかっているか。

とはいえ私も、17日のニュース記事を見たとき、最初は「はいはい、フランスのデモ、フランスのデモ」で終わると思っていた。BBCなどにおいて、「フランスでのデモ」は一過性のニュースで終わるのが常だ(だから英語圏でも最初は扱いが大きくなかったのだと思う。道路上のバリケードに関連した事故が原因で不幸にも亡くなってしまった方々がおられるが、「国家の暴力装置」などニュースになる背景があったわけではなかった)。だから今回もまた、デモを組織している労組なり何なりが「人々の怒り」を政治家たちに見せ付けたあとで、交渉の局面に入るのだろうと思い込んでいた。それにタイミング的にBrexitをめぐるあれこれが(特に北アイルランドで)進行していたし、個人的な関心はフランスには向かなかった。

しかし翌週(24日の週末)もフランスからのニュースは続いた。シャンゼリゼがデモ隊に封鎖されるなど事態はますます激しくなり、警察によって催涙ガスやウォーターキャノンが使われた。「デモ隊(の一部)が暴徒化」という定型表現に落とし込めるようになっていたからか、日本語での報道もなされているようだった(ろくに見てないけど)。デモが暴力的になり、マクロンはそれら「暴徒」を非難するという反応を見せた。後のマリー・アントワネットである。

そのときのBBC News記事が下記。よくまとまっている。

France fuel unrest: 'Shame' on violent protesters, says Macron
25 November 2018
https://www.bbc.com/news/world-europe-46331783






そして3週目となった12月1日(土)の週末は、さらにまた激しくなり、アルゼンチンで開催されていたG20からフランスに戻ったマクロンは、空港からそのまま大荒れのシャンゼリゼに直行したらしい。その後は報道が分厚くなった(が、私はあまり見ていない)。デモ隊の側と政府の交渉が開始されるという風向きになったが、それもデモ隊側の中の過激派が「政府と交渉なんかする奴はぶっ○す」と言い出すなどしたために中止になったと報じられた。





そしてこのころ、英語圏の記事のナラティヴに違和感を覚えるようになった。「マクロンの改革路線対抵抗勢力」という、日本人のうちらとしては「小泉劇場」でおなじみの図式化が目立つように思えてきたのだ。




だが、いくらなんでも「フランス人は環境問題を軽視している」とは言えない。だからこれは「環境保護主義対国民の生活が第一主義」であるとは言えないはずだ。しかし、そのようなナラティヴも実際に出ていた。「エリートは環境保護をうたい、庶民は生活苦にあえぐ」という《物語》……違和感MAXである。

環境保護が「庶民の生活」と対立するものであるかのように語るこの《物語》は、ヨーロッパ的というよりは、アメリカ的だ。古くはジョージ・W・ブッシュ(ダブヤ)の京都議定書離脱、現在進行形ではトランプとパリ協定のあれこれ……。英語で非英語圏に政治的な影響力を及ぼそうとしたケースといえば、2017年大統領選挙のときの「ルペン推しの愛国者たち(ただし英語でしかツイートできないへっぽこ愛国者たち)」が思い起こされた。






そして2018年12月、催涙ガスの煙の向こうの凱旋門という、まるで映画の中のような写真を横目にTwitterを見てみると、英国の極右(ある意味)セレブリティであるケイティ・ホプキンスが、フランスの抗議行動について「わが友たちよ、いいぞ、もっとやれ」的にはしゃいでいるのが目に入った。

が、タイミング的に12月3日(月)から始まる週が英国の下院でBrexitに関する最も大きな動きが始まる(始まった)週なので、フランスのことは別に気にしていなかった。風邪も引いてるし。(ちなみに4日のログ5日のログ6日のログ

さらに6日は英国で極右テロ組織ナショナル・アクションとつながっていて、さらに過激な連中が当局によって逮捕されたというニュースがあったりした(人を殺したり爆弾作ったりしてるアメリカの「アトムワッフェン・ディヴィジョン」と関係しているらしい)。

そのすき間に入り込むように流れてきたのが、これだ。




「ジレ・ジョーヌ」のデモは参加者数は減っているかもしれないが、内容はますます先鋭化し過激化している。今週末はフランス当局はさらに大きな暴動が警戒されている。




そんなニュースを見ていたときに見かけたのが、フランスのセキュリティ・リサーチャー、エリオットさんの連ツイだ。彼は「ジレ・ジョーヌ」というフランス語のハッシュタグを使い、英語でなされているツイートを分析した。





(・_・) 盆と正月が一緒に来たようなプロフィールだ(違

QAnonは日本でも「Q」として大手新聞がしっかり報じていたと思うが、エリオットさんが下記で参照しているのはBBCの記事。QAnonは、一言でいえば「ネットに散りばめられた極秘の暗号メッセージによって、真実を知ってしまった俺たち」という感じ。

そういうことは遊びとしてやってる分にはおもしろいのだが、各種陰謀論と同じく、遊びのつもりで始めて本気で信じ込んでしまう人も多そうだ。

WWG1WGAはそのQAnonの人々が掲げる標語で、Where We Go One We Go Allの頭文字略語。「全員で向かうところは1つ」みたいな意味。この言葉を「Q」の形に配置したプラカードが、下記BBC記事についてる写真で確認できる。




QAnonについての解説はここまでで、エリオットさんは「ジレ・ジョーヌ」のハッシュタグの英語ツイートの拡散源となっている @abrahamekris について、さらに調査を進めている。






このようにがんがん掘り進めていたエリオットさんは、当該アカウントからブロックされてしまった。



エリオットさんをブロックした当該アカウントの発言は、Breibartの記事に引用されている。



CNNのギリシャ語版でも(Twitter見てると、ギリシャも今、ちょっと荒れ気味みたいですよ。警察の暴力でデモの少年が殺されてから10年)。



エリオットさんは当該アカウントのツイートの間隔に注目。等間隔でツイートしているということは自動投稿だろう。そしてこのアカウントが活発になったのは、11月26日以降(ジレ・ジョーヌの抗議行動2週目の週末が明けた月曜日から)。




こういうのが気になるのは、フランスのこの抗議行動に関して、ネット上ではおかしなことが起きているからだ。






というわけで。





と、ここまで「インターネットの使用上の注意」のようなことばかり長々と並んでいるが、もちろんネットには有用な記事もたくさん出ている。




この記事、大学入試を控えて、練習のため、長文多読素材を探している方にもおすすめ。少々わからないところがあってもとにかく読み進めるという練習にはとてもよいと思います。

France protests: Will the environment be the true victim of the fuel-tax riots?
https://www.bbc.com/news/world-europe-46439469
The protests are, in some ways, surprising. The French, in overwhelming numbers, believe in man-made climate change.

According to a study released earlier this year by the European Social Survey, almost 94% of French citizens believe climate change is at least partly caused by human activity, with 73.7% believing the impacts will be bad.

In comparison, 91% of British people believe climate change is partially caused by human activity, and just 66% believe the impact will be negative. Meanwhile, a report by the University of Michigan's Center for Local, State, and Urban Policy notes only 60% of Americans believe climate change is happening and humans are playing a part.

France's fuel tax aims to encourage motorists to use their cars less or switch to electric versions.

The tax would also raise €34bn ($39bn; £30bn), although according to news agency Reuters, just €7.2bn will go towards the environment.

So why fight against a policy designed to combat carbon emissions?

Many argue the people out on the streets are not protesting against the ecological aim of the tax. It has become much more than that in the weeks since it began.

"Clearly the reason the yellow vests began to demonstrate was the so-called carbon or fuel tax," François Gemenne, a lecturer in environmental geopolitics at Paris's SciencesPo university, explained.

"But I'm not sure this [postponing the tax] will calm them down - most of them are just against tax."

Indeed, one of the leading members of the yellow vests - or "gilet jaunes" - appeared to almost echo these words.

"The measures announced today do not satisfy us at all - for the simple reason they don't go far enough," Benjamin Cauchy told the BBC's Chris Bockman in Toulouse.

"The French people want a complete political transformation. They want to change the way things have been for the last 30 years. We're sick and tired of taxes being raised and the quality of public services going down."

つまり「単に税金というもの(の現状)に反対している」人々(リバタリアン)にとって、「ディーゼル税の増税を延期する」という政府の方針は、答えにはならない、という。

これが単に「環境保護主義対温暖化否定論」の対立ならば、話はもっと単純だったかもしれないが(アメリカではそうなるだろう)、対立軸はそこにはなく、環境保護主義の立場からもマクロンには批判が起きている。「環境保護主義者がマクロンを支持している」という提示のしかたは、少なくとも、とても不誠実だ。
But, environmentalists warn, this wider campaign against tax could end up harming the advances made towards a greener society.

"It is not by turning our backs on ecology that we will emerge from the political crisis we are experiencing," French political party Europe Ecologie Les Verts warned in a statement.

"Ecology must not become the atoning victim of this government's bad choices."


さらにこの記事で注目したいのは:
In fact, the protests are widely believed to be a result of how the tax was created, not why.

"The decision of the French prime minister... shows the government has done things upside down, and put the cart before the horse," the World Wildlife Fund's (WWF) Pierre Cannet told people gathered for the COP 24 talks.

"The carbon tax must be accompanied by a process, a process that is more consensual and as inclusive as possible."

Mr Gemenne agrees, pointing to the way the Paris accord was reached three years ago: with everyone's co-operation.

"It really kind of triggered this anger because it was [perceived as being] unfair, rather than being discussed collectively," he said.

"Macron needs to apply the same ideas as COP 21 in 2015, the same bottom-up recipe. But he is a very top-down president."


というわけで、こう思う。




それからもう1つ、現在フランスのこの抗議行動について語られる中で露呈しているのが、エマニュエル・マクロンに関する歴史修正(「歴史」と言うほど枯れていないが)だ。これはよくある類の歴史修正で、個人の無意識の記憶の改竄に近いものかもしれないが、やっぱりBBCの報道記事のナラティヴなどはどっか奇妙に感じられるのだ。だって問題はマクロンが信奉している新自由主義でしょ(英国は保守党の前政権がそれを突き詰めすぎてとてもおかしなことになっている)。



※ツイートにキャプチャ画像つけ損なった。これ。
【画像】




この記事、ほんといいからみんな読んで。

Macron’s politics look to Blair and Clinton. The backlash was inevitable
Larry Elliott, Thu 6 Dec 2018 06.00 GMT
https://www.theguardian.com/commentisfree/2018/dec/06/macron-clinton-blair-backlash

There is no little irony in the fact that the man who was seen as the answer to populism has provoked the most high-profile demonstration of populist rage Europe has yet seen. When he arrived at the Elysée Palace, Macron was hailed as a new breed of politician but he was really the past, not the future: the last technocratic centrist in the tradition of Bill Clinton, Tony Blair and Gerhard Schröder.

Angela Merkel’s predecessor as German chancellor was the real role model for Macron, because it was Schröder who pushed through tough labour market and welfare reforms in the early 2000s designed to make Europe’s biggest economy more competitive. The reforms worked, but only after a fashion. Germany has low unemployment and runs a huge trade surplus, but does because German workers have accepted wage cuts and reduced spending power.

Macron thought the same recipe would work in France, but although he saw off Marine Le Pen easily enough in the presidential runoff, his underlying support was always weak. France chooses its leader in a two-stage process: a first round with multiple candidates and a second round when the two candidates with the highest number of votes go head to head. There is a saying that France chooses in the first round and eliminates in the second, and barely more than one in four of those who voted in round one wanted Macron.

Nonetheless, the new president thought he had a powerful mandate for structural reform. He cut taxes for the rich, made it easier for companies to hire and fire, and took on the rail unions. It was only a matter of time before the backlash began.


マクロンの新自由主義思想は、2017年の大統領選挙の第1回投票でメランションを支持した人たちの少なくとも一部に、決選投票を棄権させた。マクロンの「改革」を支持しないことを、ルペンの当選を阻止することよりも優先する人々がいたのだ。#SansMoiLe7Mai(決選投票の5月7日は私抜きで)というハッシュタグもあった。大統領選挙のときのツイートから。



マクロン本人は、いったんエリゼー宮に入ったら、こういうことは忘れてしまったのだろう。

そして「フランス政治」について語る人たちも、そういう細部は忘れてしまっているのだろう。

そしてそういうふうにして生じた隙間に、扇動者や陰謀論者が足場を見つけることもあるんじゃないかと思う。

あと、個人的には、マクロンの頭には "It is feasible – indeed, desirable – to use the tax system to tackle climate change, but only if the hit to living standards is fully offset by cuts in other taxes." というシンプルなことさえなかったのかなあという疑問がある。そういうことが頭にないと、政治家は務まらないのではないかと。



追記: 「ネオリベ」、「格差社会」を問題視するという視点から書かれているに違いない記事のご紹介(私はまだ読めていない)。Verso Booksは左派出版社 (New Left Reviewの人たちが立ち上げた出版社)。



Verso Booksは年末恒例全部半額セール中(紙の本も電子書籍も)。紙の本を買うと電子書籍がタダでDLできるから、紙の本は人に貸したり譲ったりして、自分は電子書籍を常に参照可能、ということもできる。
https://www.versobooks.com/blogs/4130-50-off-all-our-books

ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』の版元がここです。
https://www.versobooks.com/authors/79-benedict-anderson

あとオーウェン・ジョーンズとかもあるよ。

※この記事は

2018年12月07日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 08:00 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼