内容はタイトル通りで、全56章プラス序章や補章からなる、全部で700ページを超える分厚い本です。しかも上下二段組。原注もそのまま入れていますし、訳注もがっつり入れたので、みっちり詰まってます。むしろ、詰まりすぎ。こういうクリスマスのお菓子が中欧にあるよね、的な詰まり具合です。私の担当は中東(特にイラン、シリア……翻訳作業をしたのはイラク戦争の時期だったのですが、訳稿が塩漬けになっている間に中東の情勢がああなって、よりによって2018年、一番ホットなところじゃないですかー、的な地域。レバノンも入ってますけど)とドイツですが、本全体から見ればそれはごくごく一部にすぎず、中南米、アフリカ、アジア(東南アジア)、西ヨーロッパと満遍なく、表題の件が胸焼けするほどの密度で詰め込まれています(表題の件はペラ1枚でも胸焼けしますが)。
装丁はソフトカバーなのですが、持った感じはハードカバー。というか辞書。出版社さんから送っていただいた出来本を受けとったとき、思わず「ぐは」と声が出たほどです。今日立ち寄った書店さんでは棚に表紙を出して並べてくださっていましたが、分厚いので2冊載せればスペースいっぱい。という具合ですから、書店でのお買い上げ、ご自宅でのお読みの際は筋肉痛にご注意ください。
ご参考までに、今年初めに出た同様のテーマの本、ジョン・ダワー『アメリカの暴力の世紀』(ハードカバー)との比較写真です。ダワーの本が理論的なまとめとすれば、ブルムのこの本は実証的というか資料を丹念に読み込み、細かく引用した検証と言えるかもしれません。
米国の外交政策(というか国際的な軍事政策)について、私は個人的に「オバマ大統領の時代はよかった」とは思っていないのですが(やっぱドローン攻撃のこととか、ちょっとひどすぎるんですよね)、それでもトランプ大統領の今の時代……特に「イスイス団終了のお知らせだぁ、ひゃっはー。これで米軍はシリアから引き揚げますっ!」的な、あまりに単純すぎ性急すぎる判断が出てしまうという現実(そしてそれがあっというまにひょっとして取り消しになんの? とすら思ってしまうような展開を見せるという不安定で不確かな現実)の中では、「オバマは少なくともまともだった」と思ってしまうし、そう書いてしまう。その「まとも」はあくまで「ポリシーの継続性」とかいった政権運営のノーマリティという意味でしかないのですが、あまりにたびたびそう思わされることがあると、たまにオバマ前大統領のニュースがあると「オバマの時代はよかった」的なことを思ってしまいます。でもそれはイリュージョンなんです。
そういうことがわかる一冊です。
もちろん、「アメリカはこういうことをしている」は、「こういうことをしているのはアメリカだけ」という意味にはなりません(「みかんは果物である」は、「果物はみかんだけである」にはならないし、「みかんだけが果物だ」にもならない)。けれども「アメリカはこういうことをしている」ことにかわりはないわけです。そしてアメリカは実際問題として「唯一の超大国」。
まあ、この情勢下、個人的には、アメリカ以外のcovert operationの当事国についてもどんどん調査・記録が進んでほしいと思っているのですが。原著の出版は2003年、まさにイラク戦争の時期(ウィキリークス以前、エドワード・スノーデン以前)で、その後に明らかになったことはこの本には含まれていません。著者のWilliam Blum氏(正しくは「ブラム」と読むらしい)は、残念なことに2018年12月初めに85歳で永眠され、ご本人によるこの本のアップデートは望むべくもなくなりましたが、こういった記録・分析(特に公的文書に基づいた記録・分析)の仕事は世代を超えて継続されていくと信じています。
https://en.wikipedia.org/wiki/William_Blum
いきなり買うのはためらわれるような価格の本であろうと思いますが、書店で見かけられたらぜひお手に取ってみてください。
アメリカ侵略全史: 第2次大戦後の米軍・CIAによる軍事介入・政治工作・テロ・暗殺
「おこたでみかんに紅白」の時間帯も終わりに差し掛かるころになってようやくブログ更新の時間を作れました。もっと早くにブログなどに書いていてしかるべきだったのですが、とにかくてんてこ舞いだったため遅くなりました。大変失礼いたしました。関係各位のみなさまへの個別のご連絡はこれから書きます。お待ち下さいませ。
除夜の鐘が聞こえてくる……
※この記事は
2018年12月31日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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