「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2016年08月03日

ふつうじゃない。(米大統領選、というか共和党)

米大統領選に関しては、少なからぬ人が、もう口にする言葉も失っている。

先週金曜日、民主党の党大会でスピーチを行ない、常套句でいう「全米が涙した」状態を現実のものとした人がいる。いや、「人たち」がいる。大切な息子を、イラク戦争で戦死という形で失ったカーン夫妻だ。アメリカにとっては「国を守って戦って死んだ」軍人の親である。

そのカーン夫妻に、信じがたいことに、共和党の候補者となったドナルド・トランプは、敬意のひとかけらも見せず、ただ侮辱をしてみせた。発端は、カーンさんのスピーチで「ドナルド・トランプは国のために何も犠牲にしていない」というようなことを言われてカチンときたことらしい。実に子供じみているが、子供じみたことをすることによって注目が集まり、票がかせげるということに気づいた人物なので、今後も同じような、到底大人とはいえないふるまいをし続けるだろう。(トランプと兵役についても、報道記事が出始めているが。)

トランプの侮辱に、カーンさんは反論した。「ステージには夫婦揃って立っていたのに、しゃべったのは男だけ。女の人はしゃべることを許されてないんですかね」というあまりにひどい発言に、息子を亡くした母親であるガザラ・カーンさんは、「私がしゃべらなかった理由」を説明した。ワシントン・ポストがその反論の場を提供した。

一連の経緯は下記にまとめてある。カギは「イスラム教」だ(カーンさんたちはイスラム教徒である)。
http://matome.naver.jp/odai/2147011961211761301

この「戦死者家族への侮辱」というとんでもない事態を受けて、オンライン・メディア、Vox.comの創設者であるエズラ・クラインさんが、「あまりのことに、私は言葉を失ってしまいました I'm speechless」と書く代わりに、どうspeechlessなのかを説明した長文記事を書いている。
http://www.vox.com/2016/7/30/12332922/donald-trump-khan-muslim

この記事に、次のようにある。
This isn't partisan. This isn't left versus right. Mitt Romney never would have said this. John McCain never would have said this. George W. Bush never would have said this. John Kerry never would have said this. This is what I mean when I write that the 2016 election isn't simply Democrat versus Republican, but normal versus abnormal.


これは、「民主党の党大会でのスピーチは、共和党の人たちはけなす」という党派的な問題ではないと述べ、クラインさんは「2016年の選挙は、単純に民主党対共和党という選挙ではない。ノーマル対アブノーマルの選挙だ」として、7月28日付の記事にリンクしている。
http://www.vox.com/2016/7/28/12281222/trump-clinton-conventions

The conventions showed that this is something different. This campaign is not merely a choice between the Democratic and Republican parties, but between a normal political party and an abnormal one.

The Democratic Party’s convention was a normal political party’s convention.The party nominated Hillary Clinton, a longtime party member with deep experience in government. ...

The Republican Party’s convention was not a normal political party’s convention. The party nominated Donald Trump, a new member with literally no experience in government. ...

The Republican Party’s two living presidents, George W. Bush and George H.W. Bush, declined to endorse Trump or attend the convention. The party’s previous two presidential nominees, Mitt Romney and John McCain, declined to endorse Trump or attend the convention. The assembled speakers − including Chris Christie, a prospective attorney general − argued that the other party’s nominee was a criminal who should be thrown in jail.

Even the normal parts of the convention felt abnormal. The prospective first lady’s speech included a passage plagiarized from the Democratic Party’s first lady. Trump counterprogrammed the first night of his own convention by doing a phone interview with Fox News and an hour-long discussion with the Golf Channel. He distracted from his running mate’s acceptance speech by telling the New York Times he would not automatically honor America’s commitments under the NATO treaty. Trump’s speech was enthusiastically endorsed by David Duke, the former grand wizard of the Ku Klux Klan.

http://www.vox.com/2016/7/28/12281222/trump-clinton-conventions

※原文には細かくリンクがはられているので、原文をご参照いただきたい。

共和党は乗っ取られてしまった。それも、ただ「乗っ取られてしまった」だけではない(2016年を生きている日本人は、大政党が少数者にあっさりと乗っ取られることに驚くほどナイーヴではいられない)。政治家としての経験などない、詐欺ビジネスに手を染めていたような人物に乗っ取られてしまった。

米共和党でのドナルド・トランプ支持の「草の根」パワーと、英労働党のジェレミー・コービン支持のそれとを比較することもできよう。コービンも、2015年秋の党首選の際に新たに党首選投票資格を得た大勢の「新党員」によって、党首として選出された。国会議員の間ではコービン支持者などほとんどおらず、そのため、コービンが党首になって以降の労働党は党内政治(コービンおろし)にかまけてばかりで、野党として最も重要な仕事をしていない。EUレファレンダムで保守党の「離脱」派があれこれ嘘を並べ立てていたことについて追及すべきときに、労働党所属の国会議員たちは自党の党首をおろすことに全力を傾けていた。結果は「労働党の緩慢な自殺」だ。もう、労働党をまともに受け取る人は、党員だけになっているだろう。

しかし、ジェレミー・コービンは党首選でいきなり現れたわけではない。党外の誰かによって運び込まれ、担がれたみこしではない。労働党所属の国会議員として30年以上のキャリアを有する超ベテランだ。これまでも、労働党左派は必ず誰か1人を党首選の候補に立てていたが、2015年はそれがコービンだった。そして起きたのが、あの、自称「ピープル・パワー」の運動だった。

米共和党のドナルド・トランプは、それとはまるで違う。政治的発言はしてきたが、政治家だったことなど一度もない人物だし、その「政治的発言」も「キャラの濃い人がものすごいことを言ってる」という性質のものだった。「オバマの出生証明書」の騒動を思い出せばいい。

私は個人的には、アメリカの政治は、ぶっちゃけ「関心がない」といってよいレベルだ。あまり何も知らないと困るので、一通りのことはフォローしているが、別に関心はない。だから、トランプが「乗っ取った」顛末を見ても感情的にはならない。

だが、熱心にアメリカの政治をフォローしている人や、アメリカが好きな人、特に「リンカーンの党」たる共和党のファンの人には、ほんと、たまらないだろう。

(「リンカーンの党」たる共和党が好きな人には、レーガンで耐え難いようなショックを受けた人もいたというが。)

ドナルド・トランプの「政策」とやらは、大衆ウケのする断片のつぎはぎで、ちぐはぐだ。「偉大なアメリカ」を叫びつつ、「移民は入れない」と言い、「NATOなんぞどうでもいい」と怪気炎をあげる。

理性のある大人が誰も言わなかったことを言ってみせるだけの簡単なお仕事で、コンベンション・ホールを埋めた自称「マジョリティ」の人々が沸く。

共和党内での候補者選定(予備選)が始まったとき、少なからぬ人たちが「ドナルド・トランプはトリックスター」と見ていた。「移民を入れるな」、「メキシコ国境に壁を作れ」といった極論をブチあげることで、共和党内部での議論の軸を極右の方向に動かすのが仕事で、その役割を終えたら、適当なところで選挙から撤退するのだろう、と。私もそう思っていた。

だが、そのような「極右の主張のメインストリーム化」(その点については、下記のツイートを参照)が終わったあとも、トランプは撤退しなかった。





そして出てきた「NATOなんかどうでもいい」的な発言。

その前にも「問題発言」はあった。

















さて、先ほどリンクしたNAVERまとめのページは、ドナルド・トランプを風刺するハッシュタグをまとめたものである。正確に言うと、戦死した軍人のカーンさんのご両親のスピーチに対するトランプの発言についてページを作ろうとして、やる前からうんざりしてしまったので放置していたアイディアに、「風刺、ユーモア」という助け舟を得て形にしたものだ。

もしもあの映画がドナルド・トランプだったら……(英語圏大喜利系ハッシュタグ)
http://matome.naver.jp/odai/2147011961211761301


この大喜利でもけっこう「ロシア」への言及があるが、それは上記のような文脈があってものである。



ロシアが出してくる情報について「アメリカの情報へのオルタナティヴ」と見る人は、日本語圏にも多い。しかし、それは幻覚、あるいは錯視である。ロシアはロシアの強い思惑があって情報を流しているのだが、それは基本的に「アメリカは敵」という前提に立ったものである。冷戦時代を経験している人なら、ざっくりと「エリツィン政権下でのムードは過去の話で、21世紀のロシアとアメリカの関係は、あのころに戻った」とイメージするのがわかりやすいだろう。冷戦を知らない人は「ロシアは、単なるひとつの国」と思っているかもしれないが、ロシアという国のトップは、ロシアをそういう「単なるひとつの国」に過ぎないような存在にすることを許していない。

確かに「アメリカの情報」に対する「オルタナティヴ」は必要だ。だが、それは、ロシアの出してくる情報ではない。

何かの言説があった場合、それへのオルタナティヴとは「別の光を当てるもの」のことであり、「敵視」ではないし、ましてや「まったくのデタラメ」や「トンデモ」ではない。

でもロシアの出してくる情報って、わざわざ探さなくても既にそこにあって、お手軽に「オルタナティヴ」として飛びつける。だからウケる。そういうことだよね(そうとでも思わないと、例えばゼロ・ヘッジのようなものが一定の影響力を持ちながら存続している事情がわからない)。

エズラ・クラインさんの文章から:
http://www.vox.com/2016/7/28/12281222/trump-clinton-conventions
Ted Cruz called Trump a "pathological liar," "utterly amoral," and "a narcissist at a level I don't think this country's ever seen."

Rick Perry said Trump’s candidacy was "a cancer on conservatism, and it must be clearly diagnosed, excised, and discarded."

National Review, the flagship journal of American conservatism, said Trump "is a menace to American conservatism."

Rand Paul said Trump is "a delusional narcissist and an orange-faced windbag. A speck of dirt is way more qualified to be president."

A list like this could go on, and on, and on. But here’s the point: These aren’t normal political condemnations. This isn’t normal political language. Republicans know they’ve nominated a dangerous man. They tried to warn their voters in the strongest terms possible that Trump is unqualified, untrustworthy, and amoral.


90年代に『普通じゃない』っていう映画があった。原題なんだっけと確認してみると、"A Life Less Ordinary" だった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%AE%E9%80%9A%E3%81%98%E3%82%83%E3%81%AA%E3%81%84

フィクションですら、less ordinaryというような言葉遣いが「普通」だ。

※この記事は

2016年08月03日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 01:30 | TrackBack(0) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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