「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2017年04月25日

【フランス大統領選】「フェイク・ニュース!」と叫ぶなら、今だ――ハッシュタグの大量投稿は、誰によるものだったのか。

_95761439_french_election_624_vwithre.pngフランス大統領選挙の第一回投票が23日(日)に行なわれた。決戦投票に進む2人は誰かという点での結果が出るにはあまり時間はかからなかった。事前に言われていた通り、En Marche! という新政党を立ち上げたエマニュエル・マクロンが第1位で、得票率は開票率97%の段階で23.8%、2位がFN (国民戦線)のマリーヌ・ルペンで、得票率は21.5%。あとはこの段階での脱落候補で、共和党(UMPが改組・改称した政党)のフランソワ・フィヨン元首相が19.9%で3位、ベテラン左翼政治家のジャン=リュック・メランションが19.6%、現在政権を担っている社会党のベノワ・アモンが6.4%で、フランスは二大政党のどちらの候補も決選投票に進めなかった。(以上、数値のソースはBBCのこの記事。右のキャプチャ画像も同じ)

FTはこれについて「第1回投票の結果は、1958年にシャルル・ド・ゴールが確立したフランスの政治システムが受けている打撃を象徴している。ほぼ60年を経て初めて、左派と右派の二大政党の候補者がいずれも大統領選の決選投票に進めない結果となった。第5共和制の政党政治の既成勢力が私たちの眼前で瓦解した」とまとめている。「有権者の10人に4人以上がルペン氏か急進左派のメランション氏を支持した……2012年大統領選の第1回投票では、この2人の合計得票率は29%にすぎなかった」という事実に注目する同紙記事は、今回の選挙は「伝統的な左右の対立軸でおおむね政治が認識され、争われてきたフランスにとって……未知の領域」であると述べている。注目すべきはそのことだろう。英国もまた「(政権交代を前提とした)二大政党制」がこの先も続いていくのかどうかは、極めて不透明な状態だ(日本と同様の「与党の一強状態が長く続く」状態になるのではないかと思う)。

BBCは、まともな「報道」系の分析記事として読む気がしないようなぺらっぺらの内容だが(少し前のBuzzFeedや、今のHeavy.comのような「チェックすべき情報のまとめ」記事レベル)、サイドバーなどに表示されて多くの読者を誘導している記事が、"The left is in ruins" とことさらに書き立てている。確かにThe left *establishment*はin ruinsだが(英労働党のエリートさんたちと同じく)、この記事は、「左翼の瓦解」と叫びながら、左翼票を(社会党支持層の中からも)持っていったと思われるメランションについて言及すらしていない(彼もまた、今回の大統領選で「大躍進」を遂げたことは事実だというのに)。そして(あえて「左右」で語るなら)左翼より、ルペンのようなものに代表されようとしているthe rightのほうがよほど深刻な状態にあるのだが、この記事はそういうことはスルーしている。むしろ、BBCの「ルペン推し」は投票前も投票後も全然変わっていない。この記事でも、ルペンは笑顔を浮かべて支持者のセルフィにおさまるというフレンドリーな写真で紹介されている。一方で、決選投票で彼女と対決するマクロンは、警察官とボディーガードと思われる人々に回りを固められて手を振っているという「権威」っぽい写真だ。実際、彼は超エリートさんだが、マクロンを「新星」ではなく「権威」とみなす言説は、ネット上できぃきぃ喚いているアンチ・エスタブリッシュメントのトランプ支持の英語話者の間で相当広く見られる。というわけで、どうもBBCは「極右の台頭」という《物語》を語ることに本気で取り組んでいるとしか思えず、残念極まりない。

前項で述べたように、英国のメディアは多くの場合、投票日前の世論調査でトップとなり、実際の投票結果でもトップだったエマニュエル・マクロン(どうでもいいがフランス語なので、語強勢は後ろの音節に来る。つまり「"マ" クロン」という読み方ではなく、「マク "ロ" ン」である)を、大統領選前の報道ではほぼずっとほとんど無視していた。誰もが見る場所で「フランス大統領選」の話題で出されているのはマリーヌ・ルペンの名前と顔写真、あるいは妻への不正な金銭支給による公金横領の疑いがかかっているフランソワ・フィヨンの名前と顔写真で(まあ、フィヨンに関する記事は訴追に関するものなど、「政治ニュース」ではなく「事件報道」だったが)、トップランナーのマクロンのそれではなかった。第一回投票が終わり、マクロンがトップだという事実が誰の目にも明らかな形で確定した現在は、選挙前のこの笑止千万な状況は終わるかもしれないが、BBCを見ていると、まだこれからも続く可能性も高いなと思う。むしろ、「本当の勝負はこっから」ということで、ますます「ルペン、ルペン」という騒ぎが大きくなるかもしれない。前項で見た通り、ナイジェル・ファラージがマクロンがEU支持であることをTwitterという場でいじりだしているわけで、ファラージが騒げば英メディアは(ガーディアンとインディペンデントを除いて)それになびく。というか、メディアがこれからどう動くかを先頭に立って知らせてくれるのがファラージ、ということになってしまっているのが昨今だ。

英語圏がどんだけ大騒ぎしようと、フランスの人たちにはどこ吹く風かもしれない(が、私はそうであってほしいと思っているから、私の考えることにはいわゆる「確証バイアス」がはたらいているかもしれない)。しかしそれでも、ネット上で、英語圏からフランス大統領選挙を見ていて非常に目立つ奇妙な現象があるということは、それなりにまとめて書きとめておく意味があるだろうと思う。とりわけ一度は――特に「Web 2.0」ともてはやされた時代(イラク戦争の時代)に――大まかにいえば「ネットで人々が発言することは、世界をよくすることだ」と信じる側にいた人々は(私もそのひとりである)、現在、「ネットで人々が発言する」ことが当たり前になったあとに何が起きているかを改めて直視する必要がある。自分に直接は関係のないトピックならば、その「直視」も余計な先入観なくできやすいだろう。そして多くの日本語話者にとって、フランス大統領選挙は「自分とは直接関係のないトピック」の最たるものだろう。

フランスの大統領選挙第一回投票が行なわれた4月23日は、英国系ウォッチャーにとっては何より「セント・ジョージの日」(イングランドの守護聖人の日)であり、今年はロンドン・マラソンの開催日でもあり、「北ロンドンは赤い」方面にとってはFAカップの準決勝でマンチェスター・シティとの試合が行われる日でもあった。そのため、私の見るTwitterは大変にごちゃごちゃしていた。

それらの中からかいつまんではりつけておこう。









「聖ジョージ」はイングランドだけのものじゃないとやんわりと主張する駐英スペイン大使館のこのツイートが、なかなかパッシヴ・アグレッシヴでよい。カタルーニャ発祥で、本を贈る日として知られる「サン・ジョルディの日」は「聖ジョージの日」である。
the giving of books is a more recent tradition originating in 1923, when a bookseller started to promote the holiday as a way to commemorate the nearly simultaneous deaths of Miguel Cervantes and William Shakespeare on 23 April 1616. Barcelona is the publishing capital of both Catalan and Spanish languages and the combination of love and literacy was quickly adopted.

https://en.wikipedia.org/wiki/Saint_George%27s_Day_(Spain)#Catalonia

※1923年だとリベラの軍事政権でカタルーニャは抑圧されてた時代ですよね(ソース)。そういう中で「出版」のイベントをやるということは、単なる「商売」だけではない側面もありますね。

で、「聖ジョージ」とロンドン・マラソンのツイートが一段落して、日本時間で晩御飯の時間になったころ、フランスではお昼ご飯の時間帯だなと思いつつ、UKのTrendsにも入ってきていたフランスの選挙のハッシュタグ、#JeVote を見てみたら、えらいことになっていたのである。




この珍妙なツイートのキャプチャを取っておけばよかったが、そのときは「見なかったことにしよう」としか思わなかった。そのくらい、見た瞬間に何重にもうんざりした。おそらく、Brexit関連の画像だ(Brexitに続くフランス、Frexitを主導するルペンという画像)。

そのあと、サッカーの試合の実況の傍らで見てみた「私は投票する #JeVote」のハッシュタグの画面は、やはり、「アメリカのトランプ支持者」であることをアカウント名などで強調したユーザーが英語で投稿した「ルペン支持」のメッセージで埋まっていた。

ああ、これは例によって「ノイズにしかならない、無視すべきアカウント群」(例えば「イリノイ州在住、二児の母。スポーツ大好きです。トランプ支持」みたいなプロフィールで、フォローが15K、被フォローが15Kとかいうセレブじみた数値を持っているアカウントなど)が大量に書き込んでいるのだろうなと思っていたところ、Vocativでアナリストの仕事をしているJacob Steinblattさんが次のような分析結果をツイートしていた。#JeVoteのハッシュタグの分析結果だ。



ツイートの埋め込みでは画像が小さくて見づらいので、再掲しておこう。

C-GLYiaXoAAkY8w.jpg

※クリックで原寸表示。

図の左半分がルペン支持のクラスタのようだ。ここに挙がっているアカウントのうち、MLP_Officielがルペン本人、FrenchForTrumpは「トランプを支持するフランス人」(中の人たちが本当にフランス人なのかどうかは確認のしようがないが、そういうアカウントがある)、WikileaksはWikileaksだが、あとはアメリカ人によるアメリカ人のためのアカウントだ。ArmyOfKekってのは例のミーム化したいやらしいカエル周辺の「ネット上の冗談」から始まった流行のひとつで、「SJW(ソーシャル・ジャスティス・ウォリアー)と戦うKek教信者の軍団」のようなもので、ほかは関わりあうと厄介そうなオタク臭漂うトランプ支持のニュースウォッチャーのようなアカウントや、米国とは関係ないトピックにもがんがん割り込んできてトランプの宣伝をやかましく繰り返しているテネシーのアカウント。個人的にはあんまりうるさくてノイズにしかならないのでミュートしてあるアカウントが複数あり、私のフィルターバブルの中にはこれらのアメリカンのアカウントの発言は入ってきていないが、同じ性質の発言は見かけている(いちいち保存はしていないが)。

というか、そもそもアメリカ人はフランス大統領選挙の投票権を持っていないはずなのに、なぜ #JeVote のハッシュタグに大量にアメリカ人の投稿が集まるのか。米大統領選のときに #IVoted(私は投票した)というハッシュタグが生じるが、そこに外国人が大挙して押し寄せ、英語やスペイン語のように米国で広く使われているのとは別の言語でツイートしまくったりしないだろう。それとも#JeVoteに投稿しているアメリカ人は、たった2語のフランス語が読めないのか。あるいは読もうとしないのか。(なお、フランスの選挙情報サイトのURLが https://je-vote.fr/ で、#JeVoteというのは非常にオフィシャルな感じのするハッシュタグである。)





モリエール条項なんてものを作って「わが国の公共工事に携わる者は、わが国の言語を使え」と強要することを歓迎しつつ、ハッシュタグで "I'm with her" と英語を使うのが、イマドキの「愛国者」とは、フランスもずいぶん変わったものだ。 (・_・)















これらネット上に流れる「ルペン支持のミーム」を、ジャーナリストのDustin Giebelさんが紹介し、背景を解説するなどしている。彼のTLをまとめておこう。








「今回の選挙ではこういう単純なボットを前ほど見かけないな。アバターはかわいい女の子の写真で、10月にツイッターをはじめ、アメリカ・ファーストのハッシュタグを使いながら、やたらとフランスのことばかりツイートしているボットの例」とDustyさんが紹介しているアカウントについて調べたのがEleventhさん(リートスピークは入力が面倒なので平文に改めた)。



このEleventhさんの指摘は、Googleに "butterfly notes twitter" と投げただけで、裏が取れた。この「バタフライ・ノーツ」というかわいい女の子のアカウント(に見えるもの)は、以前はFreePepesとして活動していたことは確かだ(Pepeというのは、例のミーム化した気持ち悪いマンガのカエルのこと)。以前の投稿では人と議論するなどしているので元々はbotではなかったと思われるが、botではないにせよ、アカウントを取ったのはalt right界隈のキーボード・ウォリアーだろう。

butterflynotesontwitter.png

……と思ったら、こういうことが行なわれている。(これらのアカウント群は削除済みのようだ。)




こういうアカウントについて、Dustyさんは「3時間で35件くらい見つけた」と言っている。ものすごい件数。見つけたらミュートするなどしていてもきりがないはずだ。


そういったアカウントのツイートの内容について:


フランスからも報告が入っている。ルモンドの記者、サムエル・ロランさん。




Natalia Poklonskaya氏の顔写真は、アメリカの極右・ネオナチのアカウント(「ホワイト・ジェノサイド」というそのまんまのアカウント名。私は通報&ブロックしてある)もアバターに使っている。

さらに別のアカウントの例。「3件目。毎度毎度、若い女性の顔写真をアバターにして、ツイート頻度が高く、スローガンとハッシュタグがはっきりしている」





Eleventhさんは、Botアカウントをずっとウォッチしてきたようで、下記のような2年前のしっかりした記事を紹介してもいる。(これ、シリア、ウクライナ関連で私もフィードしたかもしれない。)



ルペン応援のツイートのことに話を戻そう。アメリカが活動時間帯に入ったとたんにTLの流れが高速化したと報告するDustyさんと、「ほとんど英語ですね」というFerikさんとの会話。






「Brexitとトランプだけで両方とも英語圏。オーストリアやオランダではそういうことは起きなかった」……あたしと同じこと思ってる人がいたー(って、そりゃいるよね)。

そしてDustyさんも「JeVoteやJeVoteMarineのハッシュタグに大量投稿しているのはほとんどが英語話者」と観察結果を報告。これに、「オランダ(の選挙)でも同じことが観察された」というリプライ。








さらに、Dustyさんが参照しているツイートをたどっていったら昨年12月〜のこのような報告のスレが。「FBでクローズドな場で、ルペン支持者がフランスの選挙に備えてミームを用意している」。そうやって準備したのを、今せっせと大量投稿してるんすな、「フランス初の女性大統領」のためと信じて、誰も見ていやしないのに。










ああ、「フランスのパトリオット」がツイートしている英語ハッシュタグの、ロマン主義絵画のようなミームが(これ、英国のネオナチの作品だと思う。作風が……)。


下記のBuzzFeed記事は私も読んでTwitterにフィードしてある。





過去ログから現在のツイートに戻る。「英語でツイートしたって、効果なんかあるのだろうか」という疑問を抱えながらのDustyさんの観察報告。












このように、Twitterでフランスの有権者たちが使うために作られた#JeVoteのハッシュタグは、4 chanを根城にするトランプ支持者たちのミーム発表会場のようになってしまい、まったく役に立たなくなっていた。

以前、欧州の都市で何か事件があったときに大都市の公共交通がストップしてしまい、「帰宅難民」化した人たちに向けて都心部の住民たちが「よければうちに寄ってください。ソファでよければ寝るところありますよ」というような呼びかけをするために自然発生的にできたハッシュタグがCNNか何かの大手ニュースで紹介され、早速アメリカから「感動した!」「すばらしい!」といった「個人の感想」が大量に寄せられて、地元の人々のためのツイートが押し流されてしまうといったことが発生したが、悪意・作為の有無は別として、よく似た現象だと思う。

いずれにせよ、JeVoteのハッシュタグの中身があまりにすさまじいので、呆れ果てながら私は次のようなことを思った。


この時点で、出口調査の結果にせよ開票途中の結果にせよ、マクロンが1位ということが報じられていた。#frenchelectionのハッシュタグは英語圏の報道機関が速報で使っており、#JeVoteよりはましな状況だった(が、こちらもやがてalt-rightのミーム画像に埋められていった)。










この数値(「ルペンが25%でトップ」)、私は見なかったのだが(同時進行でサッカーのニュースやブログ読んだりしてたので、フランスの選挙については見てる範囲が限られていた)、いったんそういう数値が内務省から出たことは確かなようだ。開票が早く終わる非都市部の結果が先行で発表されていたのだろう。




上のツイートを投稿したのはちょうど前項で触れたマクロンのスピーチが始まったところだったが、このころには、#frenchelectionのハッシュタグもalt-rightの投稿があふれかえっていた。




前項で見たが、こういう「ネット上の動き」は、「一部のネットユーザーの悪ふざけ」や「集団暴走」ではなく、組織的な工作活動である。そういった点について、DustyさんのTLから(彼はウクライナ情勢が専門のジャーナリストである)。






ルペンがプーチンから大金を受け取っているという報道がフランスであったのが2014年なら、フランスの有権者はみな、それを知っているだろう。だが、英語圏ではそのことはほとんど語られていないのではないか。「語られていない」というか、報道記事があっても「MSM」の記事は読まない層が「ハッシュタグでルペンを応援しよう」ということをやっているのではないか。

"le pen putin 2014" で検索したら、すぐにNYTの記事が見つかった。

French Far Right Gets Helping Hand With Russian Loan
By SUZANNE DALEY and MAÏA de la BAUME
DEC. 1, 2014
https://www.nytimes.com/2014/12/02/world/europe/french-far-right-gets-helping-hand-with-russian-loan-.html?_r=0
France’s far-right National Front party has taken an $11.7 million loan from a Russian bank to help finance various campaigns − money, officials said, party representatives were unable to obtain from any French or European bank, though they spoke to a dozen.

In the meantime, Jean-Marie Le Pen, the founder and retired leader of the party, has also taken a separate $2.5 million loan from a holding company belonging to a former K.G.B. agent, according to a published report.

Officials of the party said the $11.7 million loan would be used to help the National Front’s coming local and regional election efforts as well as a run for the French presidency by the party leader, Marine Le Pen. That campaign appears already underway, though the vote is still more than two years away.


「極右の台頭」という《物語》を私たちに語って聞かせようとしているのは、本当は誰なのか。私たちにそれを信じ込ませようとし、それを現実にしようとしているのは、誰なのか。

フランスは、それに抵抗するだろう。投票日直前にシャンゼリゼで警官が撃ち殺され、イスイス団が即座に(関係のない人物の名前を「実行者」として挙げた)声明を出すというショッキングな出来事があったパリは、こういう結果を出している。(ちなみに英語圏の報道ではシャンゼリゼの事件について、「大統領選に影響する可能性が高い」と喚き散らすものが目立っていた。)




パリにはマリーヌ・ルペンの影も形もない。

決選投票に進む2候補の最終的な得票率は、下記のようになった。集計途中よりマクロンが伸びている。







ベンさんのツイートにあるように、「2002年にルペン父が……」と言われても、15年も前の話なので、知らない・記憶にない方も多いだろう。




この一連のツイートのうち、メランションに関する部分は訂正しなければならないかもしれない。決選投票に進めなかった社会党(現政権)と共和党の二大政党は支持者に対し「次はマクロン候補を支持」と呼びかけたが、メランションは「決選投票では誰も支持しない」と述べた。


2002年のように「反FN」で一致団結することを拒絶するメランションの態度は「これだから極左は……」という反応を引き起こしているが、「極左、極右、中道」の言葉で語り続けようとすること自体をそろそろやめるべきだと思う。二大政党というシステムが瓦解したあとに残っている対立軸は「右」と「左」ではない。「エスタブリッシュメント」と「自称・反エスタブリッシュメント」だ。今、勢いが来てると波に乗っているのは「自称・反エスタブリッシュメント」の側で、「エスタブリッシュメント」とは、本当に「体制、権威」であるかどうかに関わらず、彼ら「反」の側がそういうレッテルを貼った人々だ。国立行政学院(ENA)出身で閣僚経験者であるマクロンを「エスタブリッシュメント」視すること(別の言葉でいえば「エリート」視すること)に、「右」も「左」もない。

そして既に、英語圏のトランプ支持のルペン応援団は動き始めている。ばかばかしさと危険度にさらに磨きをかけて。








(マクロン夫妻の「年の差」に怒る人たちは、ドナルド・トランプとメラニア・トランプには怒らないのだろうか)






フランスからは……






ネット上の「ルペン待望論」には根拠などない。そういう現実を作りたい人々が唱えている呪文がたくさん飛び交っているにすぎない。それには現実を動かす力などない。

しかし、それらの根拠のない呪文が無力というわけではない。それらはネットという情報空間を「信用できないもの」にしてしまう。それらはネット利用者をひたすら疑心暗鬼にしてしまう。それらは人々の分断の固定化と強化に寄与する。

3月の記事だが、バーニー・サンダース(彼の狂信的な支持者たちの繰り広げた修羅場は、実に醜かった)周辺についての調査報道。分量があるが、読む価値はある。




現実に起きていることとしては、まず、マクロン陣営へのサイバー攻撃。


The campaign of Emmanuel Macron, the favorite to win France's presidential election, has been targeted by a cyber espionage group linked by some experts to the Russian military intelligence agency GRU.

Feike Hacquebord, a researcher with security firm Trend Micro said he had found evidence that the spy group, dubbed "Pawn Storm", targeted the Macron campaign with email phishing tricks and attempts to install malware on the campaign site.

He said telltale digital fingerprints linked the Macron attacks with those last year on the U.S. Democratic National Committee (DNC) the campaign of presidential candidate Hillary Clinton, and that similar techniques were used to target German Chancellor Angela Merkel's party in April and May of 2016.

...

Russia denied any involvement in the attacks on Macron's campaign.

Security experts say Pawn Storm is known to let time pass before leaking stolen documents and that any hacking of Macron's campaign in recent months is unlikely to influence the run-up to the May 7 second round. But, if documents have been stolen, they could be used to undermine Macron's presidency should he win.

...

Pawn Storm, one of the world’s oldest cyber espionage groups, has also been called APT 28, Fancy Bear, Sofancy and Strontium by a range of security firms and government officials.

...

Pawn Storm has become widely known since 2014 for its increasingly brazen attacks against Western leaders, governments, militaries and industrial and media organizations.

Its origins date back a decade earlier to attacks on opposition activists in Russia and governments in neighboring countries such as Ukraine.

http://www.reuters.com/article/us-france-election-macron-cyber-idUSKBN17Q200


そして#SansMoiLe7Mai――「5月7日は私抜きで」というハッシュタグ。「マクロンもルペンもいやだから、決選投票をボイコットしよう」という呼びかけだ。具体例が英訳された形でBBCのTrending(「ネットの話題」のコーナー)に出ている。

Calls to boycott French election
http://www.bbc.com/news/blogs-trending-39692410

このハッシュタグが最初にどこから出たのかは記事に書かれていないが(記事にするならそれくらい調べて書いてよ……)、この「ボイコット」の態度はメランションの態度と一致する。それ以上はわからない。

そのうちに、このハッシュタグも英語のツイートで埋められるのだろう。


※この記事は

2017年04月25日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 12:00 | TrackBack(0) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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