「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2020年12月10日

英国での新型コロナワクチン認可と接種開始、そして誤情報・偽情報について。おまけに陰謀論ジョーク。

既に大きく報じられている通り、新型コロナウイルスのワクチンが、この12月2日に世界で初めて英国(UK)で認可(承認)され、早くも同月8日には実際に接種が始まった。今回認可されたのは、米ファイザー社と独バイオンテック社の開発したBNT162b2である。このほか、アストラゼネカ社やモデルナ社など複数のワクチンが開発され、実用化に向けて治験が進められているし、中国やロシアではまた別にワクチンの開発・接種が行われている。

英国では、薬などの認可は英国全体レベルで決定されるが、実際の医療行政はイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの各地域 (それぞれの地域のことはnationと呼ぶが、北アイルランドについては単独でnationとは呼ばない。理由は、以前から当ブログをお読みの方ならおわかりの通り) 別におこなわれ、今回のワクチン接種も地域別にどういう人を優先するかが定められている。イングランドでは入院中の高齢の患者さんが最優先とされ、初日は各地から高齢者の注射の映像が次々と届いた。最初に接種が行われたのは、イングランドのウエスト・ミッドランズ(バーミンガムのあたり)の都市、コヴェントリーの病院で、接種第一号となったのは、北アイルランドのエニスキレン出身で60年前からコヴェントリーに暮らしているマーガレット・キーナンさんという90歳の女性だった。今年はほとんど子供や孫に会えていないというキーナンさんは、接種翌日にはもう退院し、翌週の91歳のお誕生日は家族と一緒に迎えることができるという(注射してすぐに免疫ができるわけではないので、生活はかなり制限されると思うが)。ちなみにキーナンさんの次に接種を受けたのは、ウィリアム・シェイクスピアさんという80歳の男性で、お名前ゆえにTwitter上の英国圏では国語の時間の復習みたいになってた(シェイクスピアは英国では「国語の教材」である)。

全世界で156万人近くが犠牲となっている(9日の数値)このパンデミックを引き起こした新型コロナウイルスの症状が、初めて中国の武漢の医療現場で認識されてから1年経つか経たないかという段階で、ワクチンの開発から治験、接種までこぎつけたことは、「すごい」としか言いようがないことである。もちろんワクチンが実用化されたからといって、すぐにこのパンデミックが終わるわけではないけれど、これは確実に、「終わりの始まり」だろう。

とはいえ、このニュースで「よかった、もう終わったんだ」みたいなムードになったら一気に感染が拡大してしまうわけで、うちらにできることといえばこの何か月かと同じように慎重な行動パターンをとり続けることだけだ。ただし、今はもう、それが「いつまで続くのかわからない」という不安によって受け止められる事態ではなくなり、「いつかは終わる」という具体的な希望を抱いてもよくなったということだ。

しかしながら、このワクチンを最初に認可したのが英国だからといって、英国で閣僚がナショナリズムというかパトリオティズム丸出しになっているのは、正直、理解できない。このワクチン、開発にも製造にも英国はほぼ関係ない(開発がドイツの企業、製造が米国の企業で、工場はベルギーにある)。

最初にこのわけのわからないモードに突入していることを露呈したのは教育大臣のガヴィン・ウィリアムソンで、ワクチン認可についてLBCラジオで「わが国の医療監督にあたる省庁はフランスやベルギーやアメリカのそれよりずっと優れているから。なぜならばわが国は最も優れているから」という意味不明のたわごとを述べた

続いて、保健大臣のマット・ハンコックが、初のワクチン接種を受けて朝のTV番組で「イギリスに生まれてよかった」的なことを、涙を浮かべながら語った

ハンコックは自身、春に感染して、けっこうつらい症状を体験しているので、いろいろと思い出されたのかもしれないが、事実として、英国はこのワクチンにはほとんど何も関係していない。英国で開発が進められているのは別のワクチンであり、このワクチンは、単にいち早く認可しただけである。

ボリス・ジョンソンの保守党政権がここまでパトリオティズムの陶酔を煽動しているのは、Brexitがあってのことだろう(英国のEU離脱は、この12月末に移行期間を終える。つまり今度こそ本当に英国は欧州連合からexitする)。「わが国は欧州とは違うのである」ということを言いたくて言いたくてたまらない心理状態なのだろう。実際にはこのワクチンを開発したのは、アメリカの会社とドイツの会社で、ワクチンそのものも国外から(というかベルギーの生産拠点から)運ばれてきたものだというのに。

ともあれ、そういう的外れな方向で熱狂的なムードの中で始まったワクチン接種プログラムは、2日目にはもう特にニュースになることもなく淡々と進められていたように見えた。「え?」という話が流れてくるまでは。

たまたま見ていた画面内に流れてきたのがアメリカのAP通信のフィードだったのでこれをRetweetしたのだが:


重大なアレルギー反応を起こしたことがある人は、ファイザーのワクチン接種を受けるべきではないと英当局、医薬品・医療製品規制庁(MHRA)が述べた、というのである。接種を開始したあとに。

APの記事には、確かに:
As is common with new vaccines the MHRA have advised on a precautionary basis that people with a significant history of allergic reactions do not receive this vaccination after two people with a history of significant allergic reactions responded adversely yesterday.

と書いてあり、"precautionary" と "after" の2語で脳がバグってしまった。

ワクチンにはアレルギーという問題が必ずあるわけで、こんな注意喚起は当然ワクチン接種開始前になされていると思っていた。季節性インフルエンザなどの予防接種を受けるときだってアレルギーの有無は聞かれる。というか、何であれ、投薬の際は必ず聞かれる。湿布薬のような外用薬でも聞かれるはずだ。

そんな当たり前すぎる手続がすっ飛ばされていたのは、大臣が「イギリスに生まれてよかった」とTVで涙ぐむレベルでパトリオティズム煽動があるような熱狂のせいなのか何なのか、わけがわからない。

報道によると、アレルギー反応が出たのは、マーガレット・キーナンさんやウィリアム・シェイクスピアさんのような高齢の入院患者ではなく、最優先で接種を受けた医療従事者だったという。

このLBC記事より:
It is understood that both the staff members had a significant history of allergic reactions - to the extent where they need to carry an adrenaline auto injector with them.

They developed symptoms of "anaphylactoid reaction" shortly after receiving the vaccine and both have recovered after the appropriate treatment.

https://www.lbc.co.uk/news/people-history-allergic-reactions-warned-covid-vaccine/

つまり、アドレナリン(エピペン)の注射器を持ち歩いているくらいに深刻なアレルギーを抱えるNHSスタッフ2人が、接種を受けてすぐに「アナフィキラシー様の反応」を示した(anaphylactoidとanaphylaxisの違いについては、少々難しいけれどこちらを参照BBC記事の "an anaphylactoid reaction... is not the same as anaphylaxis which can be fatal" はあまり厳密ではないみたいです)。2人とも適切な対処により、回復しているという。っていうかエピペン常備してる人にワクチンの注射って……。

そして、このLBCの記事でも、あるいはほかの媒体の記事でも同じ記述があるのだが:
This means that anyone scheduled to receive the vaccine on Wednesday will be asked about their history of allergic reactions.

https://www.lbc.co.uk/news/people-history-allergic-reactions-warned-covid-vaccine/
※強調は引用者による

未来時制? 「水曜日の接種の際は確認します」って?

世界に先駆けて新規ワクチンを一般に導入するに際し、最初の接種者を選ぶときに、アレルギーの有無を確認しないすばらしい英国。

((( ;゚Д゚)))

ただし、現在これとは別のワクチンの治験に参加している方や、インフルエンザの予防接種を受けた方は、注射する前にアレルギーの有無の確認があったとのことなので、この雑さっぷりは、ファイザー社のこのワクチンについてのみ起きた特異な事態であると考えるのが妥当であろう。

なぜそういうことが起きたのかはこれから発表か報道(あるいは調査報道)があるだろうが、推測するに、このワクチンの導入は治験やインフルのワクチンなどとは別枠で進められており、そこでいわゆる「縦割り」の問題が生じて、必要な手続きが共有されていなかったということがありうるのではないかと思う。

それにしたって、アレルギーの有無を確認するなんてことは、セットメニューや機内食で紅茶にするかコーヒーにするかを聞くのと同じくらい必須なのではないかと思うが。

いずれにせよ、ここでやらかしておけば、このあとはまあ大丈夫だろう。アレルギーの方もすぐに回復したようでよかった。高齢の方にそういうことが生じなくてよかった。

一方で、「世界初のワクチン接種でアレルギーが」ということから早とちりしたのだか何なのだか、とんでもない誤情報が流れているようだ。

「2人にアレルギー反応が見られた (developed/suffered an allergic reaction)」を「アレルギーで2人が死んだ」と読むおっちょこちょいな人は、書いてあることを書いてある通りに読む訓練が必要である。それ以前に、アレルギー反応やアナフィキラシー・ショックが出たからって必ず死んでしまうわけではないという常識も必要かもしれない。

だが、このような誤情報は、必ずしも、そういうおっちょこちょいのうっかりさんの誤解が元になるとは限らない。悪意をもって情報を歪める人は、実際にいる。特にTwitterなどのソーシャルメディアは、歪められた情報も真正な情報と同じように飛び交う場であり、そういう場を使うならば、使う人それぞれが慎重に真正な情報を見分ける(歪められた情報を食わされないようにする)しかない。

まず大前提として、「アレルギー反応で人が死ぬことがある」は、「アレルギー反応で人は(必ず)死ぬ」という意味ではない。誤情報・偽情報を含めてセンセーショナルで極端な話が飛び交うなかでは、そういう基本をいちいち確認することが重要である。

なぜそういうことがいちいち必要かというと、単に記述だけでは判断できない場面もあるからだ、。パニクったような状況で、危機感の表明のつもり、あるいは危機意識の喚起のつもりで、例えば「デマは人を殺しうる」のかわりに「デマは人を殺す」と言い切ったほうが何か自分の気持ちを言い表す上で《正しい》ような気がするとかその程度の文体論的なことで、厳密でない記述が横行することはありふれている。だから、目の前に「〜は殺す(〜で人が死ぬ)」と書かれた文があっても、その文脈をちゃんと読んで、実は「〜は殺しうる(〜で人が死ぬことがある)」の意味ではないかどうかを確認する必要がある。よくある例でいえば、「トリカブトの毒は人を殺す」と「スズメバチの毒は人を殺す」の違いだ。(後者が「殺しうる」だということを私は小学生の時は知らなかった。今も、今年アメリカで「アジアの殺人バチ」と騒いだのを聞いて恐怖に震えた人たちは知らずにいるかもしれない。実際にはスズメバチに刺された人が必ず死ぬわけではない。)

それから、情報の受け手として重要なのは、opinion(筆者の意見)とfact(客観的事実)の区別をつけること。両者は完全に分かれているわけではなく、factを的確に伝達するためにopinionをまぶすことも普通に行われるのだけど、「デマは人を殺す」式の情緒に訴える強いことばは、大抵の場合、opinionである。「デマは人を殺す。だから〜だ」の「だから〜だ」を言うための導入部として、強い言葉を持ってきているわけだ。

人間が書くものだから、誰が書くにしたってそういうレトリック的なことは付きまとう。だからこそ、Twitterのような場では、最も重要なのは、ソースがあっての発言かどうかである。さらにはそのソースが「信頼されている情報源」かどうか。

その「信頼されている情報源」そのものを疑え、という、いわゆる「陰謀論」思考の人たちも世の中にはいるし、そういう人たちのことを私は変えられるとは思っていない。けれど、「陰謀論」思考にはまっていない人たちを、そういう人たちがまき散らかす「陰謀論」」言説から守るために小さな役割を果たすことはできるんじゃないかと思っている。というか、果たさなければいけないんじゃないかということを、この1か月、米大統領選後の日本語圏の惨状を見て、ひしひしと感じている。

とはいえ、それについて詳しいことを今すぐ書けるわけではない。とりあえず、下記リンク先を見るなどしておいていただければと思う(2016年のドキュメントだが、2020年12月の今もアクセスできる。内容は更新停止されているので個別のデータとしては古くなっているかもしれないが、導入部で説明されている基本は変わっていない):



これとはやや違う話になるが、米NBCのリチャード・エンゲル記者が「アレルギー持ちなのでワクチン接種ができないと言われて帰されている高齢者がいる」と報告しているツイートについているリプライを見て、異様だと感じてしまった。エンゲル記者は「ワクチン拒否(陰謀論)」については何も言っていないのに、リプライでその話をし始める防御的な反応が多すぎる。「ワクチンが原因でアレルギーになるわけではない。あなたのツイートはワクチンへの不安をあおることになる」みたいな反応だ。「ワクチン接種」と「ワクチン拒否(陰謀論)」の二項対立が支配的な場所にいて、その中にどっぷりひたっていると、何を見ても陰謀論につながるように見えてくる、ということだろう。日本語圏でも「ニセ科学批判」や「歴史修正主義批判」の文脈であったこと。部外者と認識されている者の発言は何でもかんでもとりあえず「ニセ科学」側、「歴史修正主義」側と決めつけてかかってこられるという経験は、私もしている(そのため、私には言及することもできないネット上の大物がいたりする。一方的に私のことを誤解しておいて、「誤解させたお前が悪い」という態度で私に対して「言及禁止」を言い渡した大物様がいらっしゃるのだが)。

「アレルギーの問題があるなんて言うとワクチン拒否につながってうぎゃーわー」と反応する以前に、初めて導入するワクチンを接種する人々のアレルギーの有無を確認していなかったシステムの問題を心配した方がよいと思うのだが、パニクっている人に何を言っても通じないだろう。

他方、いわゆる「ブリティッシュ・ユーモア」はこの状況下でも健在だ。

ワクチン接種を受けた4人目のヴェラ・ドブソンさん(88歳)がITVニュースのインタビューで「ときどきどこにいるのかわかんなくなることがあるんですよ、お店に買い物に行って、帰り道でわからなくなっちゃったりね。でも今日ワクチンの注射をしてもらったから、マイクロチップも入ったでしょ。これで私がどこにいるかはビル・ゲイツさんが把握、ということになりますでしょ」

(・_・)

……というのはもちろん、ツイート主のトム・ペックさんのジョーク(ブリティッシュ・ユーモア)なのだが:

(「4人目のヴェラ・ドブソンさん」は実在しない。)

乗っかる人もいるし:


いろんな人が釣られているみたいだけど、こんな大物が釣れたそうで:


(・_・)

ダレン・グライムズのこれがトム・ペックさんの「ネタ」でないことを確認するために、一応本人のところでね。


※ダレン・グライムズは20代の保守党活動家。米国のトランプ共和党周辺について詳しい人には「英国版のベン・シャピロみたいな存在」といえばわかっていただけるかと。


Keep Calm and Carry on 2021 Calendar - Workman Publishing
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なお、冒頭で「ドイツのバイオンテック社」と書いたが、この会社名、日本語ではなぜか「ビオンテック」という表記になっている。原綴ではBioNTechなのだが、ドイツ語版ウィキペディアでも「バイオンテック」と発音記号が書かれているし、ニュースの音声でも「バイオンテック」だ。下記映像の冒頭で確認できる。



※この記事は

2020年12月10日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼















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