「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2021年07月26日

都教委のサイトと外務省のサイトで、イスラエルの首都がなぜか「エルサレム」ということにされている件。

イスラエルの首都はどこか、と聞かれたらどう答えるだろうか。私は「テルアビブ(テルアヴィヴ)」と答える。だが日本国政府はどうやらそうではないらしい。それに気づいたのは、先週木曜日、7月22日の夜のことだった。

順を追って書き記しておこう。この日、19時から21時の予定で、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所に事務局が置かれている「イスラーム・ジェンダー学と現代的課題に関する応用的・実践的研究」によるオンライン研究会、「パレスチナのちいさないとなみ―写真と文学・映画から」が、Zoomを利用して、開催された。成蹊大学の嶺崎寛子准教授の司会で、前半は京都大学の岡真理教授による「パレスチナの人々―文学と映画から」、後半はパレスチナ現地を深く知る写真家の高橋美香さんによる「パレスチナのちいさないとなみ―写真から」という二部構成で、最後に参加者との質疑応答が行われたあと、東京外国語大学の黒木英充教授の締めの言葉、という流れだった。

岡教授のお話は、語ること・書くこと・伝えることと、それを受け取ることについて、今のこの状況(特に今年5月のガザ攻撃後という文脈)の中で何が行われ、どういうことが進行しているかを具体的に示し、一本の筋を通してくれるようなものだった。特に最後に紹介された "We Are Not Numbers" (私たちはただの数字ではない)というサイトの取り組みは、Twitterでのパレスチナ人たちの英語での発信と同様に、フォローしていきたい。語られなかったものが語られるようになったということの意義は、これから具体的に見えてくると期待したい。「期待」というより「希望」か。

高橋さんのお話は、西岸地区の人々、特に女性たちの等身大の姿――という常套句しか思いつかない自分の頭を殴りたいが、私の頭は昔のテレビではないし、殴ったらよりよくなるわけではないから殴らない――を生き生きと伝えるもので、日本でぼーっと過ごしている私たちの立場からいえば「声なき者」にしか見えない「現地の人々」に、私たち日本語話者に聞こえる「声」を与えるものだった(高橋さんの柔らかい、フレンドリーな語り口の役割は、とても大きいと思う)。特に「もうひとり、妻を持ってもいいんじゃないか」的な態度を取り始めた夫を家からたたき出したおかあちゃんの話は笑った。まるで往年の橋田寿賀子ドラマになりそうな話だ。

そのあとの質疑応答も、「Zoomの向こう側にいる人たちレベル高すぎ」と驚嘆するよりなかったのだが、何より驚いたのは、黒木教授が述べられたことにだった。





これがあまりに衝撃的だったので、Zoomのイベントが終わってすぐに、自分で調べてみた(→そのときのTwitterのスレッド)。そうしたら、この衝撃の「イスラエルの首都はエルサレム」説を唱えているのは、都教委(東京都教育委員会)だけではないことが確認できた。具体的には、日本国の外務省のサイトがそう言っているのだ。ほら、このとおり。

israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments04c.png
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/israel/data.html#section1
(※画像はクリックで原寸大表示になります。以下同)

外務省のサイトは、イスラエルの首都をエルサレムとした記述に注釈をつけていて、その注釈で「日本を含め国際社会の大多数には認められていない」と書いている。つまり、日本国が認めていないことが、日本国政府外務省のサイトに既成事実として掲載されている、ということになる。

何を言っているかわからないと思うが、私もわからない。

というわけで、こちら方面には常識だが、一応確認しておこう。エルサレムを「イスラエルの首都」だと主張しているのは、イスラエルとそれを支持する国々くらいで、国際的には認められていない。その中で、イスラエルはいわばゴリ押しで既成事実を積み重ねている。英語ブログの方で何度か取り上げた(→【パレスチナ、ブリン村へのイスラエル違法入植者の攻撃】や、「『イスラエルによる占領』とはどういうものか、ひとりの八百屋さんが撃ち殺された事件を通じて」を参照)、ヨルダン川西岸地区(ガザ地区じゃないほう)のパレスチナ人(イスラエル国はこの人々のことを「パレスチナ人」と呼ぶことを拒否し、「アラブ系イスラエル人」と呼んでいるが、それ自体、とんでもないことである。何しろパレスチナ人の中には、例えばアフリカンやクルド、つまり「アラブ系」ではない人々もいるのだから)への暴力、つまり「ハマスのロケット」のようには注目されない、イスラエル側からの暴力は、そういうコンテクストの中で生じている。

一方で、国際的に了解されているのは、「イスラエルの首都はエルサレムでなくテルアビブである」ということである。それが今、というか2017年にドナルド・トランプのアメリカが「エルサレム」との主張を支持して以降、形骸化しつつあるのではないかという懸念を、多くの人が持っている。一応、お手軽にウィキペディアからだが、現状認識のベースとなる文を引いておこう。必要がある方は、ウィキペディアのページで閲覧すればそれぞれの記述のソース(出典)が明示されているので、そちらに当たられたい。
イスラエルはエルサレムが自国の「首都」であると宣言しているものの、国際連合など国際社会はこれを認めておらず、イスラエルの首都はテルアビブであるとみなしており、パレスチナ自治政府は東エルサレムをパレスチナ国の首都と主張している。イスラエルと国交を持つ諸国も、大使館や領事館はエルサレムでなくテルアビブに置いてきたが、2017年にアメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都であると明言し、2018年5月にアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転させた。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%82%B5%E3%83%AC%E3%83%A0



さて、22日のオンラインイベントでの黒木教授のご発言のところから、もう一度たどり直してみたい。まず、黒木教授がおっしっていた都教委のサイト「東京都オリンピック・パラリンピック教育」。「児童・生徒向けコンテンツ」と銘打ってある。桜アイコンに「日本人としての自覚と誇り」とかあるが、ともあれ、各国紹介のコーナーは右上の「世界ともだちプロジェクト」にある。

israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments01.png
https://www.o.p.edu.metro.tokyo.jp/

ここでこの「世界ともだちプロジェクト」に進むと、ページの下半分が「国・地域別の各学校取組紹介」になっていて、そこに「アイウエオ順で探す」のリストがある。

israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments02.png
https://www.o.p.edu.metro.tokyo.jp/friend-project

まず、これがどういう内容のサイトなのかを確認したいのだが、そういう場合、当方としてはチェックするのは当然あの島だ。

israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments03.png

カーソルを合わせて「アイルランド」をクリックすると……ふふふ。「グレイト・ブリテン」(つまりブリテン島)ではないのに「ブリテン」であるあの北東の一角と、その他の地域を分けるボーダーがくっきりと! これが今、Brexitをややこしいことにしているアイリッシュ・ボーダーである。

israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments03b.png
https://o.p.edu.metro.tokyo.jp/friend-project/europe/ireland

……などということは単なる余談だが、アイルランドのこの地図は外務省のサイトにあるものと同じだ。

israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments03c.png
https://mofa.go.jp/mofaj/area/ireland/index.html

準備運動はここまでにして、ここでイスラエルを見てみよう。するとびっくり。思わず♪I can't believe the news today, I can't close my eyes to make it go away♪と頭の中で歌ってしまったくらいびっくりした。

都教委: https://o.p.edu.metro.tokyo.jp/friend-project/europe/israel
israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments04.png

MoFA: https://mofa.go.jp/mofaj/area/israel/index.html
israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments04b.png

両者の地図同じですよ。つまり、都教委が外務省と違う地図を出しているわけではない。(確認のためとはいえ、同じことを二度言っているので、小泉進次郎になった気分である。キリっとした顔で)

そして外務省もイスラエルの首都はエルサレムとしていて、同時にイスラエルの首都をエルサレムとした記述に注釈をつけていて、その注釈で「日本を含め国際社会の大多数には認められていない」と書いている。

israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments04c.png

さらにまた、Zoomのイベントで黒木教授は、「都教委の五輪・パラリンのページでは、なぜかイスラエルがヨーロッパに入っている。子供と話したら、サッカーでそうなってるということだが」という内容のことをおっしゃっていたのだが(確かにイスラエルはUEFA加盟してるし、Eurovisionにも参加している)、その件も確認してみよう。

都教委は確かに「ヨーロッパ」の扱いをしている:
israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments05.png
https://o.p.edu.metro.tokyo.jp/friend-project/europe/israel

一方、外務省は「中東」だ:
israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments05b.png
https://mofa.go.jp/mofaj/area/middleeast.html

これはひょっとしたらIOC(国際オリンピック委員会)で「イスラエルはヨーロッパ」という扱いなのかも、と思ったが、IOCでは世界を地域に分けるという考え方はしていないようだ。委員の一覧は、委員の選出年順にソートされていて、その委員がどの国の人かは、書き添えてはあるけれども重視はされていない(五輪の理念上は当然のことである)。各国・地域のオリンピック委員会の一覧&リンク集のページも、国・地域名の英語表記のアルファベット順で、地域別にはなっていない。

さて、一方でパレスチナは、都教委・外務省それぞれどう扱っているか。まずはそれぞれのインデックスページを見てみよう。前者は50音順で後者は地域別のページを参照しているから非対称なのだけど、どちらも「パレスチナ」でエントリがあることが確認できる。

都教委: https://o.p.edu.metro.tokyo.jp/friend-project
israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments06.png

MoFA: https://mofa.go.jp/mofaj/area/middleeast.html
israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments06b.png

そして、都教委は「アジア」に、外務省は「中東」に区分けしている。どちらも首都はラマッラ(ラマラ)としている。

都教委: https://o.p.edu.metro.tokyo.jp/friend-project/asian/palestine
israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments07.png

MoFA: https://mofa.go.jp/mofaj/area/plo/index.html
israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments07b.png

https://mofa.go.jp/mofaj/area/plo/data.html#section1
israel-parestine-maps-tokyo-jp-governments07c.png

さらに、黒木教授がおっしゃっていた「ガザ」の名称の件だが、確かにイスラエルの地図のほうにあって、パレスチナのほうにはない。

外務省のサイトにある他の国の地図で、隣接する領域の主要な地名が書き込まれているという例は、私はちょっと思いつかない。アイルランドで見ても、北アイルランド(英国の一部)の首都(キャピタル)であるベルファストは、アイルランド(共和国)のほうには書き込まれていないし、境界線(ボーダー)的に非常にセンシティヴな位置にあるデリー/ロンドンデリーも書き込まれていない。ただ単に「ダブリン」と、首都に印があるだけである。

というわけで、外務省のイスラエル/パレスチナの地図はもろもろ意味がわからない。前にチェックしたのはもう10年くらい前になるが(仕事での資料作りで)、そのときはこうではなかったと思う。

何だろう、これは、ということで、とにかく確認できた事実をここに書き留めておくこととしたい。


【補記】ところで、外務省がやっているように、ボーダーにかっきり区切られているアイルランドの26州を「アイルランド共和国」ではなく「アイルランド」と呼ぶのは、どうなんでしょう。私は違和感があるんですが。「アイルランド」をそのように固定化する意図は? という意味で。

※この記事は

2021年07月26日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 17:20 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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