この件、何より必要なのは、原文(英語)でケンブリッジ大学出版局(Cambridge University Press, CUP)のステートメントを読むことです。英語報道ではpull out, remove, blockといった表現が錯綜していて、正確に何があったのか、どういうことが行なわれたのかがよくわかりません。ましてやそれが日本語に翻訳されるとますますわけがわからなくなります(変な例しか思いつかないのですが、911陰謀論で "pull it" というこなれた英語表現の意味をめぐって話が混乱したことを想起していただければと)。
CUPのステートメントへも下記でリンクしていますので、各自、リンク先でご確認ください。
日曜日(20日)には中国の検閲対象となったジャーナル、『チャイナ・クオータリー』の編集長や、検閲対象とされて中国国内からはアクセスできないようにされた論文の著者(研究者)のインタビューも出ています。それも下記にリンクしてありますので、各自、リンク先でご確認ください。
なお、本稿については、リンク先をお読みにならない場合は、SNSやはてブでのコメントは、ご遠慮いただきますよう、お願い申し上げます。
何があったのかについては:
Cambridge University Press blocks readers in China from articles
Richard Adams Education editor
Friday 18 August 2017 19.14 BST
https://www.theguardian.com/education/2017/aug/18/cambridge-university-press-blocks-readers-china-quarterly
Cambridge University Press has blocked readers in China from accessing hundreds of academic articles – including some published decades ago – after a request by Chinese authorities, arguing that it did so to avoid its other publications from being barred.
The publisher confirmed that hundreds of articles in China Quarterly, a respected scholarly journal, would be inaccessible within China, after a letter from the journal’s editor protesting against the move was published.
“We can confirm that we received an instruction from a Chinese import agency to block individual articles from China Quarterly from within China,” CUP said. “We complied with this initial request to remove individual articles, to ensure that other academic and educational material we publish remains available to researchers and educators in this market.”
※以下、Seesaaさんで提供されているツイート埋め込み機能を使うので、少々読みづらいと思いますが、ご寛恕ください。
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
Cambridge University Press accused of 'selling its soul' over Chinese censorship https://t.co/ap54jB9BKC (続) at 08/20 17:47
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
この件、CUPのステートメント https://t.co/4rRItMfXy4 ←発言するならこれを(ちゃんと)読んでから。 at 08/20 17:50
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
この件、「ケンブリッジ大出版局がやられたようだな」「ククク、奴は……」まで思いついたんだけど、あとが続かない。 at 08/20 17:55
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
CUPのあのステートメント、めっちゃ苦しいもんなあ……。英国のアカデミックな界隈で同じようなことは起きたことがあるかもしれないが(カダフィ政権時のリビアについてなど)ポジティヴ情報ばかりを書くというhalf truthの手法だったのではないか。ジャーナル記事のブロックではなく。 at 08/20 17:56
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
Cambridge University Press blocks readers in China from articles https://t.co/7hKduMXUJv これが初報。8月18日。中国国内からCQの記事にアクセスできなくなっているとの報道。 at 08/20 18:04
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
記事末尾。「海外留学したあと中国に帰国し、研究を英語の資料に基づいて行なわなければならないという中国人の学者が大勢いる」。国民が自分たちの言語で自国の歴史を見ることができなくなるという過激な修正主義の横行。これが「経済大国」で進行している。 at 08/20 18:11
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
Cambridge University Press censored content after China told it to https://t.co/qdGRF7vH5z 検閲対象のジャーナル、CQの編集長Tim Pringleの18日付エディトリアル・ボード宛メール at 08/20 18:20
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
中国からのアクセスがブロックされているアーティクル一覧: https://t.co/nA9dkQH44A (「削除されている」わけではなさそう。CUPのステートメントではblock, removeと2種類の表現が使われているが) at 08/20 18:23
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
Cambridge University Press censorship 'exposes Xi Jinping's authoritarian shift' https://t.co/TXaGd914Qi 20日付。CQ編集長インタビュー。 at 08/20 18:31
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
あと、CUPがあっさりCCPの要求に応じたことについて激怒している研究者の James Millwardさん(米ジョージタウン大、論文が1件ブロックされている)のインタビュー。「CUPは『CQは一括購読契約なので全部を読むか、一切読まないかのどちらかだ』と言うべきではなかったか」 at 08/20 18:39
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
承前: 「CUPは、要求を飲まなければ報復されると決めてかかったのだろう」。「中国の指導者たちが直接命令を下したとは思えない。現政権になってから中国を包んでいる政治的な気候に反応した下級官僚による指示ではないか」(ジョージタウン大のジェイムズ・ミルウォードさん) at 08/20 18:50
nofrills / nofrills/新着更新通知・RTのみ
RT @AnnaLiAhlers: A note to @CambridgeUP @chinaquarterly by concerned authors: https://t.co/sQP3NTdw5q at 08/20 18:53
ここでまた当初のCUPのステートメントに戻りますが:
“We can confirm that we received an instruction from a Chinese import agency to block individual articles from China Quarterly from within China,” CUP said. “We complied with this initial request to remove individual articles, to ensure that other academic and educational material we publish remains available to researchers and educators in this market.”
https://www.theguardian.com/education/2017/aug/18/cambridge-university-press-blocks-readers-china-quarterly
※出典が孫引きですみません。CUPのページは閉じてしまってて、今開いているタブがこれだという以外に理由はありません。
このくだり、ポイントは、to ensure that other academic and educational material we publish remains available だと思うんっすよね。
これは、「中国の人々にこれらのマテリアルがavailableである状態を保ちたい」と読めるのですが、要は、「中国の人々にこれらのマテリアルを買ってもらわないと、CUPの経営的に影響が大きい」ということではないかと。
ケンブリッジ大学出版局といえば、学者さんにとっては学術誌や専門書なのかもしれませんが、学者さんよりさらに多数のユーザー、つまり大きなマーケットなのが、一般の英語学習者なんですよね。
ケンブリッジ大学出版局は、英語の学習教材が事業の大きな柱です。
英国に留学した人が多く受験する「ケンブリッジ英検」も、英国の大学や大学院に留学するときに受験する「IELTS」もケンブリッジで、これらの検定試験のための教材はCUPが出してます。
http://www.cambridgeenglish.org/
中国人の英語学習者というマーケットを失うことは、CUPにとっては避けねばならない大打撃でしょう。おそらくそこで脅しめいたものがあったか、「大人の判断」があったかではないかと思います。
つまり、先日のApple社によるVPN appsの件と同じようなことではないかと。実際CUPのステートメントで用いられている用語にもそういう事情は現れていると思いますが。
いずれにせよ、AppleにせよCUPにせよ、あるいはほかの企業にせよ、(´・_・`)
21世紀がこんなにショボい時代になるとは、15年前の私は考えてもいませんでした。いや、6年前だって。
Update: 主に中国を専門とする研究者や人権活動家たちから次々と非難の声があがり、CUPはほどなく方針を転換した。
How bitter for those of us who are CUP authors & believed we published with a noble institution. https://t.co/c32WgPoaOm
— Terry Halliday (@HallidayTerry) August 20, 2017
My open letter to @CambridgeUP Univ Press about its censorship of @chinaquarterly . I don't pull punches. https://t.co/0t6x8S7d4C
— James Millward (@JimMillward) August 19, 2017
Cambridge University Press will change their policy on China censorship. Announcement to come later today. 🌞 h/t @limlouisa @hofrench
— Greg Distelhorst (@gregdistelhorst) August 21, 2017
Cambridge University Press reverses China censorship move https://t.co/MqzrSBqDLI
— BBC News (UK) (@BBCNews) August 21, 2017
China Quarterly Editor's statement: Cambridge University Press to unblock censored material today. pic.twitter.com/5GwnpnNVj3
— The China Quarterly (@chinaquarterly) August 21, 2017
その後、二度目の検閲要請が来ているが、それはつっぱねているようだ。
Cambridge University Press Refuses to Comply With Second Chinese Takedown Request https://t.co/Y2KrWPoTNM
— Michael Ron Bowling (@mrbcyber) August 25, 2017
#China #Cambridge Censorship Storm Continues .@CDT .@hrw .@hrw_chinese https://t.co/ZoPIw7Qunb
— Sophie Richardson (@SophieHRW) August 28, 2017
万が一、CUPが中国を出禁になったら、そのときにCUPを支えるべきはうちらだ。個人的には英語教材はOxford派なんだけど(マイケル・スワン)。 (^^;)
English Grammar in Use Book with Answers and Interactive eBook: Self-Study Reference and Practice Book for Intermediate Learners of English Raymond Murphy Cambridge University Press 2015-07-30 by G-Tools |
English Pronunciation in Use Elementary Book with Answers and Downloadable Audio Jonathan Marks Cambridge University Press 2017-04-27 by G-Tools |
※この記事は
2017年08月21日
にアップロードしました。
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