「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2016年07月30日

飲食店従業員が「研修」のために呼び出されたら、イミグレが待ち構えていて……ということがあったあとの波紋

今週半ば、Twitterで #BoycottByron というハッシュタグがUKのTrendsに入っていたことがあった。何気なく見てみると、「バイロン」というのはチェーン展開している高級ハンバーガー・レストランで、そこで働いている「移民」たちが「研修」と称して声をかけられ、指定の場所に行ってみたらイミグレ(出入国管理当局)に捕まえられた、ということが起きていた。

おそらくそのようなことはしょっちゅう起きていて、ニュースにもならないし、それどころか人々の話題にもなることはない(「明日は自分かも」という立場の人々を除いては)。今回「バイロン」の件が話題になったのは、Twitterを見てわかった限りでは、「イミグレに捕まえられた『移民』は南米から来た人々で、そのためスペイン語のメディアで報道があり、そこから英語圏に入って、"No one is illegal" のスローガンに共鳴する人々によって、『どうせ、就労許可がない人々の足元を見て安い賃金で使ってきたのだろうに、イミグレと手を組んで従業員をわなにかけるなど、言語道断』ということで『バイロンをボイコットせよ』というハッシュタグができた」という経緯のようだった。つまり、スペイン語の報道がなければ英語圏に情報は流れていかなかっただろうと思われる。英国内で、英国政府によって行なわれていることであっても。

これはもちろん、日本でも同じことが言える。よほどひどいこと……本当に、ものすごくひどいことでも起きない限り、うちらの投票で決められた議会から選ばれた大臣が責任者となって、うちらの税金で運営されている政府(法務省)が管理・運営している牛久などの施設でどんなことが起きているかは、支援者のブログなどをチェックしている人たちはある程度は知っていても、日本国民の多くは知ることすらない。芥川賞候補者ともなった在日イラン人作家(もちろん、最初から日本語で書いている)、シリン・ネザマフィの小説『サラム』(留学生文学賞受賞)に、通訳者として難民申請に関わった人の視点で詳細が描かれているが、この小説だって「誰もが読んでいる」とはいえない。
4163284109白い紙/サラム
シリン・ネザマフィ
文藝春秋 2009-08-07

by G-Tools


ともあれ、英国での「バイロン」レストラン・チェーンの件は、そのように、スペイン語圏の報道から英語圏Twitterに入ったあとで、報道機関が取り上げ始めたようだった。スペイン語メディアの編集長にインタビューなどした映像報告もある:



そして、今週半ばのこのニュースのあとでどうなったかが、金曜日の晩(現地時間)に出たガーディアンの記事で報じられていた。

Most of those arrested at Byron burger chain have been removed from UK
Lisa O'Carroll, Friday 29 July 2016 17.33 BST
https://www.theguardian.com/uk-news/2016/jul/29/most-of-those-arrested-at-byron-burger-chain-have-been-removed-from-uk

この記事、私が見たとき(日本時間で土曜日の午後)には、ガーディアンのUK版のトップページに文字だけのヘッドラインで出ていたのだが、その後1時間かそこらして現地が朝を迎えたころには、もうトップページから消えていた。ガーディアン編集部が「あまり注目される必要がない」と判断しているのだろうと思う。記事自体の形式も、分量はあるけど「ベタ記事」的というか、ウェブ版のガーディアンが力を入れている記事のように「記事内での過去記事へのリンクに加え、左サイドに写真入りで過去記事へのリンク」という誘導が行なわれているわけでもない。記事ページ下部に自動で表示される「関連記事」に過去記事が2件、写真つきで出ているだけで、タグも大雑把に「イミグレ&アサイラム」が設定されているだけである。



記事の内容:
The Home Office confirmed that 25 of those arrested in the operation on 4 July on suspicion of immigration offences “have now left the UK, either voluntarily departed or been removed”. It said the rest were “having their cases progressed by Immigration Enforcement”.

Earlier this week the Home Office revealed that people from Brazil, Nepal, Egypt and Albania were among the 35 rounded up in the raid.


ホームオフィス(内務省)は、通例、「個別事例についてはコメントしません」と対応するはずだが、今回国外退去(強制的・自発的)になった人々の国籍について具体的に明らかにしているようだ。(あるいは今回のケースのような事例では「個別事例についてはコメントしません」以外の対応をするというプロトコルがあるのかもしれないが。)その記事もまた興味深いので、関心がある人は見ておくとよいと思う。
https://www.theguardian.com/uk-news/2016/jul/27/immigration-raid-on-byron-hamburgers-rounds-up-30-workers

つまり、バイロン・レストランの側では、「移民」就労者を集めた「研修」という口実が偽りのもの(「わな」と言えるもの)であったかどうかという点については反応しないという。

Byron confirmed it facilitated the raid at the Home Office’s request but refused to respond to claims that it set up staff meetings on the false pretence they were for health and safety training.

It said: “We can confirm that several of Byron’s London restaurants were visited by representatives of the Home Office. These visits resulted in the removal of members of staff who are suspected by the Home Office of not having the right to work in the UK, and of possessing fraudulent personal and right to work documentation that is in breach of immigration and employment regulation.”

It said that the Home Office acknowledged that it had complied with its legal responsibilities as an employer but it had been shown “false/counterfeit documentation” by those at the centre of the alleged immigration breaches.

“We have cooperated fully and acted upon the Home Office’s requests throughout the course of the investigations leading to this action, and will continue to do so.”

...

A Home Office spokesperson said: “Immigration enforcement officers carried out intelligence-led visits to a number of Byron restaurants across London on 4 July, arresting 35 people for immigration offences. The operation was carried out with the full co-operation of the business.”


なお、ビジネス街で配布されているCity AMという媒体では、「偽造書類の横行」を理由に、このような手法を正当化する論説が出ている(雇う側が偽造書類だとわかって雇っていれば違法行為となるが、逆に言えば偽造書類を見抜けなかった場合は違法ではないというのが前提)。
This is why Byron Hamburger's immigration scandal backlash isn't fair
http://www.cityam.com/246470/byron-hamburgers-immigration-scandal-backlash-fair


FTでも「ほかにどうすることもできなかった」という論説がある。(閲覧できない場合は、見出しをGoogle検索して、そこから飛ぶとよいです。)
In defence of Byron
http://ftalphaville.ft.com/2016/07/28/2171187/in-defence-of-byron/
Immigration laws are complicated and ugly things. In the case of the UK burger chain Byron, they are very complicated, and very ugly.

...

It’s unsurprising that people are outraged. At its heart, this is the story of 35 people who were trying to build a life in the UK and have now had that opportunity taken away from them. Their crime of working illegally − and the current prime minister Theresa May did change it into a crime − was driven by understandable motivations.

That said, it is difficult to see any legal course of action Byron could have taken that would have either helped these people, immigrants more generally or, of far less importance, its reputation. ...


インディも、何かとっちらかったように見える論説(社説)を出しているが、趣旨はFTの上記論説と同じだろう。
The campaign to boycott Byron is a case of misplaced anger – there are better targets for ire over workers' rights
http://www.independent.co.uk/voices/editorials/boycott-byron-burger-illegal-immigrants-arrested-trap-home-office-immigration-rules-a7160746.html


iNewsの論説のほうがインディより明確だ。
Don’t grill Byron burger for government’s cheap-as-chips immigration tactics
https://inews.co.uk/opinion/dont-grill-byron-burger-governments-cheap-chips-immigration-tactics/
The thinking behind the Byron plan is that most migrants living illegally are discovered not at the border, but after they have crossed it. The government may lack the tools to know where they are living or working when a travel or work visa expires. So the strategy is to find ways to expose them when engaged in everyday tasks.

That means managing immigration on an administrative level. The aim, in part, is to discourage illegal migrants by making it harder for them to work.

This means bringing in checks such as requiring people to show proof they are lawfully permitted to reside in the UK when applying for a job, rent a property, open a bank account or obtain a driver’s licence. The idea was that such everyday tasks as using a bank or driving a car would become too difficult to make life in the UK feasible for illegal migrants. Eventually, they would be found out and subsequently removed.


もちろん、偽造書類で就労していた人々は、本人はこういうことになる可能性があるということは十分にわかって就労していたはずだ。でも本当にそれだけなのかどうか……雇う側もわかっていたのではないか、という疑問は、いつまでも残るだろう。それは「疑問」というより「不信」と呼ぶべきかもしれないが。

究極的には、個々人の消費者のレベルで、そういう「ひっかけ」みたいなことをしてるかもしれないチェーン店でメシ食って、美味いですか、ということになると思うのだが、「ボイコット・バイロン」のハッシュタグの賛同者の多くが肉は食わない場合(ヴェジタリアンやヴィーガンの場合、あるいは健康上の理由から赤身の肉は食べないようにしているといった人々である場合)、そもそもあまり意味がない。そして、そうである可能性はけっこう高いと思う。ガーディアンの記事には緑の党の人がコメントしているが、緑の党の支持者・賛同者はヴェジやヴィーガンがものすごく多い。

というか、ゲイ・カップルが子供を(養子にするのではなく)作ることについて疑問を呈したドルチェ&ガッバーナに対し、エルトン・ジョンなどが「ボイコットしてやる!」と言い、D&Gの店の前にプラカードを持った人たちが立つ(だが、彼らはそもそも、D&Gで買い物などしていたのだろうか)、というのにちょっと似ていると思う。

でもガーディアン、「D&Gボイコット」騒動は、ものすごく熱心に伝えてたんだよね。んでTwitterはしらけてた。「そんな店でそもそも買い物できねーし」っていう。

こんなところにも、「分断」がある、っていう。

ちなみに、バイロン・レストランが従業員研修の必要に迫られていたということは確かだろう。イミグレに捕まった35人のうち25人が国外退去になったことを報じるガーディアン記事内に引用されているバイロン本社から各店長へのメールに、食品衛生のチェックで大きな問題が出ている、といったことが説明されている。

むしろ、そんなところでメシ食いたいか、という話になるかもしれない。



追記:

※この記事は

2016年07月30日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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