「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2016年07月18日

今度はバトンルージュ(米ルイジアナ州)で警官が銃撃され、右翼は勝手にBLMと関連付けて騒ぎ立てている。

1つ前のエントリと同じ書き出しだが、すさまじい勢いで次から次へと大変なことが起きていて、何一つ追いついていない。今日はこうなっている。



17日(日)の朝、アメリカで警官が銃撃され、3人が死亡。事件があったのはルイジアナ州バトン・ルージュだ。当初、銃撃犯は3人いて、1人が死亡し2人が逃げていると報じられていたが、最終的には銃撃犯は1人であったと結論された。

下記は、active situationが続いていたときのUSA Todayによる解説のスライドショー。



――と書いて、「つい先日、バトン・ルージュという地名と、服部君に言及したな」と思い出しはしても、具体的にどういうふうに書いたのかがはっきりと思い出せない。普段の自分であれば前後の文脈を含めて難なく思い出せるレベルで「つい先日」のことだが、そんなことをいちいち記憶していたら新しい情報の入る場所がなくなるようなペースで、大きなことが起きている(とか書くと『ムー』とか『TOCANA』が大好きな人が寄ってくるんだけど、話しかけないでね、あたし、そういうの嫌いだから)。

ともあれ、バトン・ルージュについて書いたのは9日の、ダラスでの警官銃撃事件についてのエントリだった。Black Lives Matter (BLM) のデモが行なわれていたときに、その近くから警官を標的に銃撃が行なわれ、12人が撃たれて負傷し、5人(全員警官)が死亡したという衝撃的な事件だが(でもフランスのトラック暴走テロとトルコのクーデターで、そんな「衝撃」はもう消し飛んでしまったよね)、このBLMのデモを引き起こした「警察による非武装の黒人の殺害」が発生したのが、ミネソタ州のファイルコン・ハイツという町と、ルイジアナ州のバトン・ルージュだった。

バトンルージュで殺されたアルトン・スターリングさんは、コンビニの前でCDなどを売っていて警察に職質され、どういう理由でか警官に組み伏せられて、撃たれた。この2人の警官が「いわくつき」だったことも、スターリングさんが殺されてほどなく、広く報じられていた。





ルイジアナ州バトンルージュとテキサス州ダラスは、近くはないが、米国の感覚では遠くもないだろう。両都市間の距離は約440マイル(700km強)で車で6〜7時間。東京と岡山くらいだ。




「バトンルージュは私の故郷。ダラスは現在の居住地」という人の言葉(と絵文字)。




さて、バトンルージュで一体何があったのかをフォローするには、信頼できる報道機関のLive blogなどを見るのが一番である。たとえば英BBCのページはここ。米国でもオンライン版新聞として展開しているガーディアンのページはここ。ほか、米国の報道機関も、ABCやCNNなどナショナル・メディアも、地元のメディアもlive blogの形式で細かく報道している。私は自分がなじんでいる(見やすい)ので、BBCやガーディアンを見ている。

そうしながら、ときどきTwitterで現地大手メディアのフィードを見ている(普通のワード検索画面でも、アバターを見て、個人のアカウントっぽいものは見ないでスルーするようにすれば、大手メディアだけを拾うことも可能。けっこうストレスかかるけど)。




容疑者が1人とわかったあと、すでに死亡しているその容疑者の名前が報道されたときのBBCのLive blogより:



どういうことが起きていたのかについて、最終的にactive situationではないと宣言される1時間以上前の警察の発表内容を、ガーディアンのライヴ・ブログから引用(ただしこれは、当初「銃撃犯が複数いる」とされていたときのもの):
Police describe timeline

At about 8.40am, “a guy carrying a weapon, carrying a rifle, [was] walking in that particular area”of the convenience store, Edmonson says.

“At approximately 8.40am officers observed an individual wearing all black near a beauty supply store,” he says of the initial report. About two minutes later shots were fired, he says. “At approximately 8.44am reports were received of officers down on the ground. At 8.46am reports were received of a suspect wearing all black standing near the car wash.”

“Officers responded, engaged the suspect, and the suspect died at the scene.”

Multiple officers were taken to the hospital. Three died from injuries – two from Baton Rouge police, and one 45 year old sheriff’s deputy.

Two deputies were injured, as was an officer, and one of those three is in critical condition. Sheriff Sid Gautreaux says the community is grieving. “As law enforcement we are a family, and we stand here together, as you can see. But the number one priority is the protection of our community.”

https://www.theguardian.com/us-news/live/2016/jul/17/baton-rouge-police-officers-shooting-louisiana?page=with:block-578be552e4b08239dbab7b80#block-578be552e4b08239dbab7b80






Twitterは、見るアカウントを絞り込まずにただワード検索するだけでは、政治的な発言をすることが目的の人々がわあわあわめき立てているだけで情報として中身のないプロパガンダが多すぎて、役立つ情報を見つけるだけで無駄に消耗する。下記に例示してあるもの(エイミー・メック)程度なら普段は難なくスルーできるのだが、こう立て続けにひどいことばかりがあって消耗していると、スルーすることもストレスが大きすぎてたまらない。確かに、主義主張が異なれども「武装主義」を旨とする集団が「共闘」するようになったら厄介だ。しかし、ここでエイミー・メックが例示している写真は、「武装主義」の人たちではない。メックは単に「黒人とイスラム教徒が私たち白人を脅かす!」という脅威論をばら撒いているだけだ(通常運転だが)。




実際、事件が発生してすぐ、まだ何もわかっていないときから、「Black Lives Matterの連中だ!」という言いがかりは、Twitterにたくさん流れてきていた。

twblmdiss.png


それに対する、BLMの運動内外のまっとうな人々からの発言もTwitterにはたくさんあったが、「BLMの連中だ!」と叫んでいる人々のエコー・チェンバーの中にいる人には、そんなのは聞こえないだろう。

バトンルージュのBLMのリーダー、DeRayさん(ダラスでの事件後のBLMのデモで逮捕されていたが、24時間以内に釈放されている):



ほか……











この「警察と有色人種の間のネガティヴなやり取りを、マスコミは過大に取りあげる」という指摘は重要な指摘だ。「過大に hype」というのは何も大げさなことではない。派手な見出しがなくても、センセーショナルな絶叫レポートがなくても、「また黒人が」とか「また黒人を」というトーンがあれば十分だ。むろんそれは、必要な「事実の指摘」でもあるだろう。けれど、「ほかのメディアが同じように取り上げている中で、自分のメディアのニュース映像を見てもらう/文字で書かれた記事を読んでもらう」ためというのもあって、どこもかしこもボリューム・レベルが11になっている。

Stephen Crowderやポーラ・アブドゥルの下記の心境は、多くの人に共有されているのではないか。






だがもう、「分断」はそんな程度の「共有」ではいかんともしがたいところまで来ているだろう。





イスイス団などいわゆる「イスラム過激派」のテロが起きるたびに、「なぜイスラム教徒はイスラムのテロを非難しないのか」というスローガンの大合唱が起きる(さすがにそろそろ、そのスローガンも言い飽きてきた様子だが)のと同様に、「なぜ黒人は(あるいはBLMの参加者は)黒人による警官襲撃を非難しないのか」という修辞疑問のスローガンが、そろそろ、何かあるたびに響くようになるだろう。これは修辞疑問なので、実際にBLMの人々が警官殺害を非難していようとお構いなしに唱えられる。そして唱えられ続けることによって、あたかも「BLMの人々は警官殺害を非難していない」かのような「現実」の認識が形成され得る。大変に危険なことだ。

ただ、ここで、「差別されているマイノリティたる黒人は絶対的な正義だ」などという子供じみた短絡は、絶対に避けなければならない。しかし実際にはそのような短絡をドヤ顔でやってみせる人がいる。すでに元発言が消されているが、@ZackFord氏の発言を批判している下記の発言を参照。







私が、progressiveを自称する人々の主張になじめないのは、あの人たちが頻繁に表明するあまりに単純明快な二元論とパターン思考ゆえだ。たとえば「LGBT差別は悪」→「LGBTを差別しないのは絶対的な正義、LGBTを差別しない人々は絶対善」という思考(イスラエルのpinkwashingはそれを利用した心理作戦である)。それがここでも遺憾なく発揮されているわけだ。

かといって、そういうのを「テロリストの味方だーーーーっ」と寄ってたかって非難してる人たちはいいのかというと、そういうことでもない。そういう二元論ではない。

個人にできることといえば、個々の発言について、非難すべきは非難するということ程度だろう。その点、上記引用ツイートで@ryantoverstreetさんのやっていることは最大限のレスペクトに値すると思う。

さて、ここでもうひとつ、認識しておかねばならないこととして、「黒人の過激派」がいるという事実がある。つまり警官の殺害を喜び、「警官をもっと殺せ」と煽動しているような人たち。

下記は@bakedalaskaさんの画像つきツイートのキャプチャ。

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また、Twitterのワード検索で表示されたので、次のアカウントの存在も知ったが、You reap what you sowと謳うこのアカウントは、まごうかたなき過激派である。(「差別されている側の武力行使は正当な闘争」という人たちにはあがめられるだろうが……私は2011年夏のロンドン暴動を正当化した日本語圏の言説を、絶対に忘れない。その中心にいたbcxxxが私に対して「ギャングの組織的略奪だからといって、何なのか」と言い放ったことも)



このアカウントがヘッダーに使っている写真はブラック・パンサー党のものだが、オリジナルのブラック・パンサー党は1982年に解散しており、現在、その名をかたっているニュー・ブラック・パンサー党(発祥の地はダラス)は、オリジナルとは異なり「反ユダヤ主義陰謀論」がコアのひとつだったりして、SPLCなどから「ヘイト団体」と位置づけられている。そのニュー・ブラック・パンサー党もTwitterにアカウントを持っているが、まあ、何というか、あんまり強烈でないことを「言論の自由」の範囲で「党公式アカウント」として行なっているという感じ。過激な煽動を行なっているのは、上にキャプチャを挙げたような関連団体かシンパと思われるアカウントだ。

Twitter上では、そのニュー・ブラック・パンサー党の支部がバトンルージュに開設されたばかりだということに注目する発言も、いくつかあった。ただしそれは、銃撃犯が1人と確定される前、銃撃犯の身元などが確定される前の発言であり、発言者には偏りがある。




その後、結局は1人しかいなかった銃撃犯はGavin Eugene Longという人物だと確定された。







ギャヴィン・ロングについてはすでに、いくつかの反政府集団とのかかわりがあったとの報告が出ている。これからもっと多くのことが明らかにされるだろう。

そして、もっと多くのことが明らかにされる前に、右翼、特にトランプ支持者のエコー・チェンバーでは、「Black Lives Matterというテロ組織」というのが、セットフレーズとして繰り返されるだろう。何度でも、何度でも、それが「事実」として認識されるまで。

今一度、確認しておく必要があるのではないかという言葉を、John Haltiwangerさんが書いている。



そして、BBCニュースでコメントしていたという一般女性のこの言葉。



これに喜んでる人、いるんだろうね。アメリカという「銃社会」での「アナーキズム」を喜んでる人が。



フランスのニースでトラックで群集に突入して80人以上も殺した人物が「非常に急激に過激化した」というフランス政府当局者の見立てが正しければ、つまり精神的に弱っている状態の人、ヤケクソになっている人が、ふと見かけた過激主義者・テロ組織の言葉や映像などで「そうだ、これだ!」と思って何かを「決行」してしまうという形での「テロ」だったとすれば、同じような形の暴力が「銃社会」のアメリカで広まったらどうなってしまうのだろう。

米当局は、「イスラム・テロ」はマークして追跡しているかもしれない。ホワイト・ナショナリズムやブラック・ナショナリズムの過激派集団でも追跡は行なわれているだろう。だが、そういった集団と特につながりのなかった個人が、日本でいう「駅で刃物を振り回す」ように行動したら……

アメリカで、「オープン・キャリー」(銃が外から見える形で持ち運ぶこと)が許可されているところでも、この事態で動きはあるという。(でもたぶん、何も変わらない。そのくらい、「銃ロビー」のヒステリックな反発は強い。)








このあとにオバマ大統領のスピーチを貼りこみ。→済























「Black Lives Matterは暴力はもうやめようという呼びかけとして始まった。それは今も変わらない」と、BLMリーダーのDeRayさん。




「わたしたちがほしいのはただ平和だけです。法執行機関の人であれ一般市民であれ、人々に向けられるありとあらゆる種類の暴力を拒絶します」と、バトンルージュで「CDを売っていただけで」警察に殺されたアルトン・スターリングさんのご家族。



ダラスでもバトンルージュでも、とんでもない警官はいるだろう。しかし銃撃犯は、その警官を特定して銃撃し、殺したわけではない(もちろん、特定して攻撃していればよいということではない。ただその「ターゲット・キリング」という手法そのものについて、アメリカという国家は、今は何も言えないだろう)。例えば2012年のウィスコンシン州でのシーク教宗教施設銃撃事件は頭の悪いネオナチが「ターバンを巻いた南アジア人」を集合的に標的にした大量殺人事件だった。ダラスやバトンルージュの銃撃犯は、それと同様に、「警官」という集合名詞を相手に攻撃しているだけだ。そこにあるのは、おそろしいほどの「個」の無視である。







※この記事は

2016年07月18日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 08:50 | TrackBack(1) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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米ルイジアナ州バトンルージュの警官銃撃容疑者は、自分は「集団ストーカー」の被害者だと信じていたようだ。
Excerpt: 「反撃だ」とか言ってた、なんてのは当たり前すぎてニュースにもならないと思うんだけど、それでいいらしい。 米ルイジアナ州バトンルージュで警官が銃撃を受けて3人が殺された事件で、現場で射殺された容疑者は..
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2016-07-19 12:27

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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