続く8月第4週は、犠牲者が出たという話は聞かなかったものの、やはり「テロ」やそれに類する事件が、立て続けに複数個所で起きた。23日(水)の夜にオランダのロッテルダムで行なわれる予定の米バンドAllah-Lasのライヴに対して何かが行なわれるいう情報をつかんだスペイン当局からオランダ当局に連絡があり、結果、ライヴは中止となった(このときに、たまたまそのライヴハウスの近くを「ガスボンベを積んだ車」がふらふらと走っていたため、運転手のスペイン人が逮捕されたので情報が混乱し、Twitterなどでは「欧州のシェンゲン・エリアをdisる会」みたいなBrexit支持のアカウントなどが根拠も示さず自分たちの主張をわめきたてていたが、その車はライヴの中止とは無関係であることが判明している)。この事件では翌24日にはロッテルダムからあまり離れていないブラバント州の町で、22歳の容疑者が逮捕され、さらに2人目の容疑者も逮捕されたが、その後起訴されたとかそういう報道は私は見ていない。そもそも「Allah-Lasという名前のバンドに脅迫」などという事実があったのかどうかも判然としない。スペイン当局がオランダ側に緊急事態を告げるきっかけとなったのはチャットアプリTelegramの投稿で、Telegramはイスイス団メンバーやその支持者が使っていることで有名ではあるが、イスイス団以外の一般の人々も普通に使っている。
His arrest had followed a tip-off by Spanish police on Wednesday afternoon who said they spotted a message on the Telegram chat-app about a possible terror attack, two Dutch newspapers reported, citing unnamed sources.
...
Dutch media said the message appeared to have been posted online by the suspect, with some newspapers suggesting it may have been a prank which backfired.
...
The 22-year-old suspect, identified by Dutch media as Jimmy F., was arrested during a pre-dawn raid on Thursday in a small village 40 kilometres (25 miles) south of the bustling port city where US rock band the Allah-Las was due to play on Wednesday.
"The decision to cancel the Allah-Las concert was mainly based on one chat message," the authoritative NRC daily reported.
...
--- Police quiz suspect as questions loom over Rotterdam gig threat
26 Aug 2017 01:13AM (AFP)
http://www.channelnewsasia.com/news/world/police-quiz-suspect-as-questions-loom-over-rotterdam-gig-threat-9158340
というわけで、ロッテルダムのこの事件(というか「騒ぎ」)は、おそらく前週のスペインでのテロを受けた過剰反応だろう(その過剰反応をさらに大きなものとしたのが、「ガスボンベを積んだ車が標的のライヴハウスの周囲にいた」という要素だったのだが、結局それは事件とはまったく無関係だった。ただソーシャル・ネットで人々が「かんべんしてくれよ」とか「世界はいつからこんなふうになってしまったのか」とかいった感情の言葉をやり取りする際に、恐怖の増幅剤として作用したという点においては、「騒ぎ」には関係があった)。私自身も、そのタイミングでは気が抜けない理由があったため、欧州情勢ウォッチについては「念のため」とか「大事をとって」というモードに入っていて、自分でも過剰反応していたのではないかと思う。
そのように「水曜日に何だかわけのわかんないことがあったな」という週も終わりにさしかかり、英国では8月最終週のバンク・ホリデー・ウィークエンド(音楽のレディング・フェスが行なわれる週末)に入ったころ、またほぼ同時に「テロ」の発生が伝えられた。1件はベルギーの首都ブリュッセル、もう1件は英国の首都ロンドンである。
結論を先に書けば、ブリュッセルのほうはもう驚くこともなくなってしまった「ありがち」なパターンのテロ事件だということがその場でわかった。一方のロンドンの事件は、当初は「過剰反応」に思えたのだが、そう思えたのは実は当局が情報をコントロールしていたからで、事態が落ち着いたあとに明らかにされた情報を見る限り、かなりシリアスなことになっていた(いる)のではないかと思われる。以下、その詳細。
まずブリュッセルのほう。
Brussels attack: Man shot after stabbing troops https://t.co/rRnATqpniG ベルギー、ブリュッセルで刃物男が兵士2人を襲って撃たれ搬送先病院で死亡。男は30歳で連邦検察局によると「テロ行為で知られた人物ではない」
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 25, 2017
が、男は兵士に襲い掛かりながら「アッラー・アクバル」と叫んでいたと検察。この事件はテロ事件として扱われている。現場はブリュッセル中心部。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 25, 2017
この事件については、かなり早い段階で、イスイス団の犯行声明が出された(例の「イスイス団の兵士」という文言での声明がAl-Amaqによって投稿された)。
BREAKING: #ISIS 'Amaq Reports #Brussels #Belgium Knife Attacker is a 'Soldier of the Islamic State' https://t.co/bC3bOFMNG2 pic.twitter.com/9NDG3830ex
— SITE Intel Group (@siteintelgroup) August 26, 2017
BBCの記事によると、兵士に襲い掛かり、その場で撃たれて病院で死亡した容疑者はソマリア出身で1987年生まれ。2004年にベルギーに来て、5年後(2009年)に難民認定を受け、2015年に市民権を取得してブリュージュに暮らしていた。ごく最近の犯罪歴(暴行など)はあったが、テロに関連する活動では知られていなかった。事件時、偽物の火器とクルアーンを2冊所持していたという。
30歳で、13年も前にベルギーに来ていることを考えると、この容疑者が過激化したのはベルギーに来たあとだろう(ソマリアで過激思想にはまって、スリーパーとして欧州に送り込まれたというよりも)。ベルギーは、今更説明を必要とする人などいないだろうが、欧州大陸のイスラム過激派の中心地となっている。
ブリュッセルではこの6月にも、鉄道駅をボムった男(36歳のモロッコ人)が兵士に射殺されている。
http://www.bbc.com/news/world-europe-40352351
続いてロンドンのほう。こちらは、後から見れば、上に述べたロッテルダムのケースとは逆に「過剰反応」を引き起こさないように入念に情報が操作されていた。だから、この下に事件発生後のツイートを時系列で貼り付けるが、最初のほうはあとから判明した事実とは全然違う話になっている。これは英国ではときどきあることで、そのことについてもいろいろ思うところはあるが、そこまで書いてるゆとりはない。
事件が起きたのはバッキンガム宮殿に続く大通り(The Mallらへん)で、この通りは特に規制もなく普通に人々が歩いている通りなので(車も通れる)、何か騒ぎになっているのに気づいた通行人が何人か、現場の様子(といっても夜間で、パトカーがたくさんいることくらいしかわからない)を撮影してネットにアップしていた。報道機関もそういう映像を使っていた。
Two police officers have been injured near Buckingham Palace in an attack by a man with a knifehttps://t.co/hdGYmEJyr1
— ITV News (@itvnews) August 25, 2017
Video: @RachKing93 pic.twitter.com/va8TDJMD0F
警察の最初のプレスリリース:
Officers are on scene at the Mall o/s Buckingham Palace. A man has been arrested on suspicion of GBH and assault on police
— Metropolitan Police (@metpoliceuk) August 25, 2017
BBC Newsのテレビでの第一報:
BBCの最初期の報道(今は文面が変わっているかもしれない):
Police injured outside Buckingham Palace https://t.co/WUU9OxIupd ロンドン、バッキンガム宮殿の前で刃物男が警官2人に切りつけて逮捕された件。負傷した警官はいずれも軽傷でその場で手当てを受けただけ(病院には行かず)。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 25, 2017
バッキンガム宮殿の件、BBCよりITVの記事のほうが詳しいです(目撃証言など)。 https://t.co/pdEwjPLqmv そうとう大きな刃物を持っていた様子。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 25, 2017
Terror probe as man with weapon arrested outside Buckingham Palace https://t.co/WUU9OxIupd 時間経過して詳細判明。発端は職質。金曜夜8時過ぎに宮殿に至る通りの「制限区域」に停まっている車の…
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 26, 2017
…車の中に大きな刃物があるのを認めた警備の警官が、車の中にいた男に職質しようとしたことで、一般の通行人も注目するような騒ぎとなった。男は26歳で、取り押さえられるときに警官2人の腕に軽微な怪我を負わせ、自身も軽い怪我。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 26, 2017
軽微な怪我を負わせ「GBHで逮捕された」というのがよくわからないのだが、この記事にはそれに加えて「テロ法での逮捕 arrested on suspicion of GBH and assault, and under the Terrorism Act」とある。テロ法何条かは不明
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 26, 2017
https://t.co/PkNgH8VKWh 警察のプレスリリースにもテロ法の何条での逮捕かは書かれていない。いずれにせよ、ほぼ同じタイミングで起きたブリュッセルの事件と異なり、「男が警官(ブリュッセルでは兵士)を襲った」ということではない。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 26, 2017
警察のプレスリリースを素直に読むと、The Mallのところに停められている不審車両に対する職質→もみあい→警官2人怪我(軽微な怪我)→GBHとassaultで車両内の男を逮捕→その後、テロ法でも逮捕。容疑者は病院での治療を経て今は「ロンドン中心部の警察署」に身柄拘束。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 26, 2017
「ロンドン中心部の警察署」はいつもの場所だろうが、こういうときは名前出さないんだっけ。そういうことを調べようと思って検索したら、写真家が撮影した内部写真が出てきてびっくりした(そんなものがあったとは)。2011年 https://t.co/45roo0AFoi
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 26, 2017
しかしこの話が、事実とは全然違っていたことがやがて明らかにされた。
BBC News - Buckingham Palace suspect was brandishing 4ft sword, police say https://t.co/WUU9OxIupd 当初の話と全然違うじゃない O_O 必要があって情報コントロールしてたんだろうけど
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 27, 2017
Driver "reached for a 4ft sword" & "repeatedly shouted Allahu Akbar" - Met Police on Buckingham Palace incident https://t.co/fnubGSa9II pic.twitter.com/lYMFlMUHgY
— BBC News (UK) (@BBCNews) August 26, 2017
まず、怪我した警官の人数が2人と言われていたのが実は3人で、怪我はしたが病院に行くほどのものではなかったと言われていたのもウソで、2人は手や腕に切り傷を負って病院に行っている。そういうことならGBHでの逮捕は疑問の余地はない。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 27, 2017
また、容疑者の車は変な場所に停まっていたのではなく警察車両に向かって突進してきている。容疑者は「4フィート」もの刃物で切りかかってきており、その際「アッラーアクバル」と叫んだとも伝えられている。たぶんウエストミンスター宮殿警備の警察を標的とした襲撃だったのだろう。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 27, 2017
となると、ほぼ同じタイミングで起きていたブリュッセルの兵士襲撃と、中身もほぼ同じということになるかもしれない。ブリュッセルの事件(容疑者射殺)は容疑者はソマリと伝えられているが、ロンドンのほうはそういった情報がBBC記事には出ていない。こちらは容疑者起訴時にわかるだろう。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) August 27, 2017
この事件では、このあともう1人が逮捕されている。
Second man arrested over alleged terror incident near Buckingham Palace. The 30-year-old was held in west London https://t.co/4l928FiFwF
— BBC Breaking News (@BBCBreaking) August 27, 2017
ただし、28日(月)夜(日本時間)になっても、ロンドンの件で「イスイス団の兵士が」云々の声明が出たという情報は見ていない(SITE Intelligenceでチェックしている)。
ちなみにバッキンガム宮殿は英女王夫妻の居城であるが、事件当時は王族はここには誰もいなかった(女王夫妻は夏は決まってスコットランドに滞在)。ロンドンでは、ウエストミンスター橋での車暴走テロがあったときに、容疑者が国会議事堂の敷地内に入ろうとしたということで「民主主義への攻撃っ!!!!!!!!!!」といううっとうしいほどの過剰反応があったが(IRAが首相官邸に迫撃砲を撃ったこととか、INLAが議事堂の駐車場内で議員の車に爆弾を仕掛けたこととか、保守党の党大会会場にIRAがボムを仕掛けて起爆させたこととかに比べたら、1台の車に乗って刃物男が突撃を試みたことは、どうしたって小さなことにしか見えない。そういう「経験」や「歴史」を売りにしてきたのが英国だったんだけどねえ)、今回の宮殿前の事件では「王室への攻撃」という過剰反応を起こさないように注意を払っているように見えた。が、情報操作そのものがそういった過剰反応抑制を目的としていたのかどうかはわからない。
そしてこういうことがあると、保守党の緊縮策での「警察の人員カット」への批判がなされる(最近こういう批判については、「労働党側」「保守党側」は関係なくなってきているように思う)。
Government police service cuts criticised by Former Senior Met Police Officer reacting to the Buckingham Palace incident pic.twitter.com/DxOh9aBNAV
— Sky News (@SkyNews) August 26, 2017
ロンドンの件は、容疑者が起訴され次第また、Twitterにメモっていこうと思っている。
※この記事は
2017年08月28日
にアップロードしました。
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