「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2016年08月29日

いわゆる 'alt-right' がメインストリームの話題になっている。「トロール」とあわせて。

「インターネット・トロール」……北欧神話の「トロール」(「悪鬼」のようなもの)に語源があるという「ネット上の『荒らし』」が、米誌TIMEの8月29日号のメインの記事になっていた。今はもう号が変わってしまったかもしれないが、先週、私が調べもののために出向いた英語圏の雑誌をたくさん所蔵している図書館や、TIMEを置いている書店の店頭では、これが「最新号」だった。図書館ならバックナンバーに入ったあとも閲覧はできるし、ネット書店では普通に購入することもできる。メインの記事は、一部、ネットでも読めるようにはなっているが、記事も図版なども本誌でないと見られないものもあったので、図書館で読むだけ読んできた私も買おうと思っている。この号の目次はこちら(誌面・ネット購読でしか読めないリビア情勢についてのJared Malsinの記事など、この号は読むところは多い)。

B01KNC0XN8Time Asia [US] August 29 2016 (単号)
Time Inc. 2016-08-23

by G-Tools


ともあれ、で、実はこの号を買ってからブログに書こうと思っていたのだが、それではいつになるかわからないので、TIMEの「トロール」の記事を受けてBBC News Magazineの記事が出ていることと合わせて、ざっと書いておこうと思う。

参照先の記事は:
How Trolls Are Ruining the Internet
Joel Stein @thejoelstein
Aug. 18, 2016
http://time.com/4457110/internet-trolls/

Trump’s shock troops: Who are the ‘alt-right’?
By Mike Wendling, The Briefing Room, BBC Radio 4
26 August 2016
http://www.bbc.com/news/magazine-37021991

まず、alt-right (alternative right) という、ええと何だろう、「社会的集団」と言ってよいのかな……ともあれ、この人たちは、要は「(リアル世界で集ったりするというより)ネット上で、ネット上の各種概念を使って活動する右翼」なので、日本語で概念をストレートに表せば「ネット右翼」なのだが、「ネット右翼」という語はまた別の意味合いを持っているので使わない。日本語圏での論説は、私は手が回らないのでGoogle検索の検索結果画面しか見ていないのだが、町山智浩さんは「オルタナ右翼」という訳語を使っておられる。私個人としては、「オルタナ」というカタカナ語には、"イコール「反ネオナチ、反ファシズム」" のイメージがとても強いので(20年モノの刷り込みゆえ。例えば下記。歌詞はこちら)、ここではalt-rightと英語のままにしておく。



いずれにせよ、alternative (オルタナ) とは、「mainstreamとは別にあるもの」のことである。「オルタナ」というカタカナ語が日本語の語彙に(おそらくかなり限定的に、ユース・カルチャー、サブ・カルチャーの文脈で)入ってきたのは、1990年代初めに、それまでは「ジャンク」とか呼ばれてたような音楽が、主にNirvanaの大ヒットと「シアトル・シーン」への注目に顕著なようにレコード業界的に「売れるもの marketable」として扱われ、当時の売れ線だった "mainstream rock" (ボンジョビとかミスター・ビッグとかブライアン・アダムズとか) を聞かない層が聞く "alternative rock" と位置づけられ……ってそんなことは今はどうでもいい。ともあれ、「オルタナ」とは「メインストリームとは別の動き」のことだ。したがって、alt-rightというのは、「メインストリームの右翼(右派、保守派)」とは別の右翼(右派、保守派)ということである。ウィキペディアには、発祥の経緯が次のように説明されている(原文には出典リンクが細かく添えられているので、原文をご参照されたい)。
Etymology:

In November 2008, Paul Gottfried addressed the H. L. Mencken Club about what he called "the alternative right". In 2009, two more posts at Taki's Magazine, by Patrick J. Ford and Jack Hunter, further discussed the alternative right. The term's modern usage, however, is most commonly attributed to white nationalist and self-described "identitarian" Richard B. Spencer, president of the National Policy Institute and founder of Alternative Right.

https://en.wikipedia.org/wiki/Alt-right#Etymology


引用部分末尾の Alternative Right はリンク先をご参照いただきたい。1978年生まれで、白人優越主義者のリチャード・スペンサー(「イスラム脅威論」でパメラ・ゲラーと組んであれこれやってるロバート・スペンサーではない)という活動家が2010年代に開始したオンライン言論の場の名称である。


で、そのalt-rightについてTIMEの記事では次のようにまとめられている(太字は引用者による)。
... trolling has become the main tool of the alt-right, an Internet-grown reactionary movement that works for men’s rights and against immigration and may have used the computer from Weird Science to fabricate Donald Trump.

The alt-right’s favorite insult is to call men who don’t hate feminism “cucks,” as in “cuckold.” Republicans who don’t like Trump are “cuckservatives.” Men who don’t see how feminists are secretly controlling them haven’t “taken the red pill,” a reference to the truth-revealing drug in The Matrix. They derisively call their adversaries “social-justice warriors” and believe that liberal interest groups purposely exploit their weakness to gain pity, which allows them to control the levers of power. Trolling is the alt-right’s version of political activism, and its ranks view any attempt to take it away as a denial of democracy.

http://time.com/4457110/internet-trolls/


……とまあ、いかに相手の神経を逆撫でするような「罵倒の言葉」を「相手に対する『レッテル貼り』」に使い、定着させていくかということに既にたいへんな労力が傾けられているのだが、ネット、特に個人個人が(「いただいたお便りの一部を掲載する」という編集者のいる媒体を通じてではなく、個人が直接)好きなように発言できるソーシャル・ネットが普通に使えるようになった現代では、その「労力」は実は大してかからない。現に、こうしてTIMEのような大手メディアが、「彼らの独自の用語法」をこうして紹介している(TIMEの記事でこれらの用語法を掲載することは、alt-rightとはどのような人々なのかを解説するジャーナリズムとして不可欠なことだが、それは同時に、彼らにとってはoxygen of publicityとなる)。

BBC News Magazineの記事では、彼らalt-rightがどのようにソーシャル・ネットを使っているか、さくっと言及されている(太字は引用者による)。

Iain Davis, who lives in Surrey and runs several alt-right social media accounts, says the movement includes a whole range of people, from libertarians, men's rights activists, Christians and traditionalists - as well as neo-nazis.

http://www.bbc.com/news/magazine-37021991


つまり、1人が複数のソーシャル・メディアのアカウントをやっている。それは、例えば「FacebookとYouTubeとTwitter」というように、別々のプラットフォームでアカウントを持っているということかもしれないし、「Twitterで複数のアカウント」を持っているということかもしれない(同じ人が個人アカウントとグループのアカウントを別々に運営することは、Twitterではよくある)。どのような形であれ、ソーシャル・メディアが一般的になって1人でいくつものアカウントを使えるようになった後は、ウェブサイトやブログ、あるいはメーリング・リストで「自分のアカウントは1つ」でやっていくのと比べ、拡散・波及の範囲を広げる上でどのくらいのリソース(労力、時間、資金)が必要かということで(特にすぐに目に見える範囲での)大きな違いが出ていることは、個人サイト→ブログ→SNSのアカウントというようにそのときどきに合わせてネット上の発言の場を確保してきた人なら実感されているだろう。

特にTwitterのような「短文のみ」の場は、「文脈が共有できない」ということが逆に一種の「強み」になり、文脈を超えて「発言のみ」が広く共有される。例えば、宗教に対して極めて否定的な立場をとり、普段はリチャード・ドーキンスの発言などをばりばり引用しまくっている人が、たまたま見かけたニュースに基づき「宗教は克服可能であり、克服されるべきである」との趣旨で「キリスト教徒とイスラム教徒が手を取り合っている」という写真をツイートした場合、それが「堅固な信仰を持つ者同士だからこそ、わかりあえるのだ」という(一方的な)解釈と共感から、爆発的にRTされることになる、ということもありうる。そのような「文脈の共有の不在」は、まともな議論・まともな言論からは歓迎されないはずなのだが(文脈が共有されていないと、解釈次第でどんどん話がすりかわってしまい、何について議論しているのかわからなくなる)、alt-rightのような「いまどきのネット上の運動」は、「文脈の共有なんかなくってもいいんだよ、言葉さえ広まれば」ということで動いているように見える。「言葉さえ広まれば」というか、「その言葉が喚起する感情さえ、煽ることができれば」というか。

上で参照したTIME記事に含まれているような「口汚い罵倒」は、その「感情の共有、感情の煽動」において極めて有効なツールとなる。基本的に、「敵」を罵倒することは、「味方」を結束させる。(その「罵倒」のための言葉が、《意味》らしい意味を失って、ひとりぷかぷかと漂い出すまでは……そうなったらその言葉は、もうかつてのようには有効ではない。日本語の今の「ネトウヨ」はそうなっていると思う。)

いわゆるalt-rightは、その「罵倒による感情の共有」のピークが来ているところだろう――今年の大統領選挙に合わせて。

As a disparate, mostly online phenomenon that lacks a cohesive structure or any sort of central organisation, it's tough to pin down. But observers of the movement - both critics and supporters - agree on a few things.

The alt-right is against political correctness and feminism. It's nationalist, tribalist and anti-establishment. Its followers are fond of internet pranks and using provocative, often grossly offensive messages to goad their enemies on both the right and the left. And many of them are huge supporters of Donald Trump.

http://www.bbc.com/news/magazine-37021991


さて、TIMEの記事では、トロールの親玉(英国人)が「Twitterの恒久的アカウント取得禁止」という合衆国憲法修正第一条的に異例の措置を取られたきっかけとなった「映画ゴースト・バスターズのリメイク版のキャストへのネット上の嫌がらせ」(メインのキャストが「全員女性」となったリメイク版で、黒人女性コメディ俳優にオンライン・アビューズが集中的に浴びせられた。その俳優は以前にも同様の嫌がらせの対象とされていた)のことが詳しく述べられているが、同様の「映画というポップ・カルチャーに対する白人優越主義からの『オルタナティヴ』な意見申し立て(というか暴論)」がソーシャル・ネットで「組織化」というか「モブ化」することで行なわれた例は、『ゴースト・バスターズ』の前にも既にあった。2015年12月公開の『スター・ウォーズ』の新作だ。それについては既に書いている。

2015年10月20日 話題の新作映画のボイコットを呼びかけるハッシュタグは、少人数でヘイトスピーチを増幅させる装置だ。
http://nofrills.seesaa.net/article/428177297.html

Vox.comでは、「ツイートの羅列」というSalon.comとは別のアプローチで、いい仕事がある。手早くよくここまで書いたと思う。書いたのはGenevieve Koskiさんで、Vox.comに入ってまだ2ヶ月もしていない(今年8月下旬に入ったと書かれている)。Twitterは@genevievekoski.

How 2 racist trolls got a ridiculous Star Wars boycott trending on Twitter
http://www.vox.com/2015/10/19/9571309/star-wars-boycott

ギネヴィア・コスキさんがさかのぼってみたところ、当該のハッシュタグは2人が頻繁にやり取りするなどしているうちに増幅されていたことが確認できたという。

……

ギネヴィアさんの記事は続く。ハッシュタグが、少数の賛同者の間でのやり取りによってトレンドして、彼らの小さな輪の外に出ると、彼らのメッセージに反対する人たちの目にも留まり、「とんでもないことを言っている」というような批判的なツイートが増える。そうして言及数を増やしながら、ハッシュタグは批判の声だけでなく元々のメッセージをも拡散していく。

……

「スター・ウォーズ新作ボイコット」のハッシュタグが拡散したことで、実際に、大元のアカウントは大喜びしていることをギネヴィアさんは指摘している。そうしながら、「こう書くことで、私もまた、彼らの望みどおりの情報拡散に寄与している」とも述べている。

http://nofrills.seesaa.net/article/428177297.html


2016年8月にTIME記事などで報告されているような「トロール」行為については、今読み返してみたら、2015年10月のこのブログの記事でけっこう書いてあったので、そちらをお読みいただきたい。

なお、2015年10月のこのブログの時点でのメモは:


このあとに、ドナルド・トランプがほんとにシャレにならない存在、つまり共和党の大統領候補になったし、alt-Right系的な動きはアメリカの外、例えばEUレファレンダムに際してのBrexit論者の一部でも確認された。英語圏以外でも、オーストリアの大統領選挙で既存の二大政党候補が決選投票に残れず、極右(故ヨルグ・ハイダーの自由党)の候補と、緑の党系左翼フリンジの候補の決選投票で、後に司法が「やり直し」を命じるほどの僅差で極右候補が負けるということもあった。

そうして迎えた8月後半に、上述のTIMEの記事が出て、それを受けてBBC New Magazineの記事が出た。また、その間に、ヒラリー・クリントン(米民主党大統領候補)がスピーチの中でalt-rightに言及した。

まだこの先、「話題」は続きそうではある。

※この記事は

2016年08月29日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 23:00 | TrackBack(0) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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