実際、「まだ死ぬような年齢ではないスポーツマンの突然死」のニュースはときどきある。競技中・トレーニング中の事故よりもむしろ、「気づかれないままだった心臓疾患」など、病気によるものが多く感じられる(実際に多いかもしれない)。2012年に試合中に倒れたフットボーラーのファブリス・ムアンバは、まさに「奇跡的」に死の淵から生還したが、ヴィヴィアン・フォエ、アントニオ・プエルタ、松田直樹など、記憶にあるだけでも何人ものプレイヤーが試合中・練習中に病気のために倒れて亡くなっている。
だが、今日の「スポーツマンの突然死」のニュースは、試合中でも練習中でもなかった。アイルランドのラグビー、マンスターのヘッド・コーチであるアンソニー・フォーリーが、試合のために訪れていたパリのホテルで突然亡くなったという。42歳だった。
Munster head coach Anthony Foley dies suddenly https://t.co/Bm16DMqSpB pic.twitter.com/2MQ80kfCHJ
— RTÉ Rugby (@RTErugby) October 16, 2016
私はラグビーのことは何も知らないので、取り急ぎWikipediaを見てみると、アンソニー・フォーリーは1973年生まれ。リムリック(リマリック)の出身で、小さなクラブを経て1995年に「マンスター Munster」のプレイヤーとしてデビュー。後にチームのキャプテンとなり、2008年に引退。1995年から2005年までの10年間はアイルランド代表でもプレイし、1995年のワールドカップ南アフリカ大会(前年に釈放されたネルソン・マンデラを軸にした物語がクリント・イーストウッドによって映画化された大会)で日本との試合に出場していたという。その後は代表入りしたりしなかったり、しても出場したりしなかったりしているが、2000年代に3度にわたって代表チームの主将をつとめている。2005年の6ネイションズでの対ウェールズ戦を最後に代表から引退し、2008年に現役引退した後、2011年からマンスターのコーチの一員となって、2014年に同ヘッドコーチとなった。そして2016年10月16日(日)に行なわれる予定だったチャンピオンス・カップの試合(対Racing 92)のために訪れていたフランスのパリのホテルで死亡しているのが発見された。ご家族にもチームにも、またアイルランドのラグビー界にとっても、世界のラグビー界にとっても、どれほどショックなことかと痛ましく思う。死因などはまだわかっていない。今日予定されていた試合は、後日改めて行われることになった。
アイルランド・ラグビー協会のステートメント:
“It is with deep regret that the Irish Rugby Football Union and Munster Rugby must advise of the passing overnight of Munster Rugby head coach Anthony Foley, at the team hotel in Paris,” the official statement read.
“Munster Rugby management are liaising directly with Anthony's family and will provide them with any assistance and support required.
“The IRFU and Munster Rugby pass on our deepest sympathies to all of Anthony's family and friends and ask for privacy for the family at this sad time."
http://www.rte.ie/sport/rugby/2016/1016/824493-munster-head-coach-anthony-foley-dies-suddenly/
さて、英語の話。"the Irish Rugby Football Union and Munster Rugby must advise of the passing overnight of Munster Rugby head coach Anthony Foley" の部分……あれこれフレーズが長すぎるので単純化すると、"we must advise of the passing of Anthony" となるが(もっと単純化すると、"we must advise of Anthony's passing")、このadviseについてである。
adviseという英語の語は、「アドバイスする」というカタカナ語が完全に日本語の語彙に取り込まれており、しかもそれに相当する漢語(「忠告する」、「忠言する」」)があるし、何より中学・高校で誰もが習っているためにかなり馴染み深い語だが、馴染み深いがゆえにイメージが固定化されていて、本来の英語での用法がわかりづらくなっている。
「アンソニーの死去をadviseする」とか言われても、直感的にわかりづらいだろう。
adviseには、「忠告する」という意味ももちろんある。The doctor advised my father to quit smoking. のような、いかにも参考書に出てきそうな例文は、実際に英語圏でも普通に使われている「生きた英語」である。
一方で、"we must advise of the passing of Anthony" のようなガチの「生きた英語」は、「日本人が習う英語」には入ってきづらい。
このadviseは、役所などからの通達やビジネスでのやり取りで頻出で、「知らせる」という意味である。同義語はinform, notify, tellなど。一般的な学習用の英和辞典にも語義の解説はちゃんと出ている。Weblioで「新英和中辞典」や「Eゲイト」の語義解説を参照できる。
http://ejje.weblio.jp/content/advise
なお、dictionary.comでも確認できるが、このadviseの用法は「他動詞」の場合だ。
http://www.dictionary.com/browse/advise
verb (used with object)
...
3.
to give (a person, group, etc.) information or notice (often followed by of):
The investors were advised of the risk.
They advised him that this was their final notice.
だが、"we must advise of the passing of Anthony" は、他動詞の形式になっていない。これは、"we must advise you of the passing of Anthony" の you が欠落しているのではないかと思うが、dictionary.comを見る限り、自動詞の場合にこの「伝える」の用法があるとは明示されていない(自動詞は「((withを伴い)) 相談する」の意味、というようなことが書かれている。ちなみにBritish Dictionaryによるとこれは「米用法」でしかも「古い」らしい)。コウビルドでも、目的語が欠落してofが来ている用法は取り上げられていないようだ。
http://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/advise
というわけで、ちょっとメモっておくことにした。
なお、「"advise" は『忠告する』という意味だから、"tell" よりも弱い表現だ」といったイメージが日本語圏にはあるし、自分でも感覚的にはどうしてもそう感じてしまうのだが、それは誤った印象である。「通達する」の意味の "advise" は、実際、かなり堅苦しく、場合によっては威圧的に聞こえる。
Collins COBUILD Advanced Learner's Dictionary by G-Tools |
※この記事は
2016年10月16日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。