McGuinness: there was no need for Bloody Sunday inquiry
http://www.guardian.co.uk/politics/2008/mar/19/northernireland.northernireland3
まず記事の書き方に苛立ち。冒頭のパラグラフ:
The most expensive judicial inquiry in British history - to establish why paratroopers shot dead 13 unarmed protesters in Derry on Bloody Sunday in 1972 - is privately regarded by Sinn Féin as an unnecessary concession by the British government, according to Tony Blair's former chief of staff.
ブラッディ・サンデーのインクワイアリ(サヴィル・インクワイアリ)のこととなると、すぐに「巨額の費用を要している」という話ばかりだ。だから何なのだ。30年近くも放置していたのは誰だ。インクワイアリの最終報告書までこんなに手間取っている(したがってその分の費用もかさんでいる)のは何が根本的な原因なんだ。証言者の保護やらヴィデオリンクやら、通常のインクワイアリよりずっとカネのかかることになってしまったのは、何が原因なんだ。
で、「シン・フェインがそれを必要ないと考えていた」ということと、「史上空前の費用を要したインクワイアリ」を並べて書くことの意味は何なのだ。
そして、マーティン・マクギネス? 彼が何かをどのように考えていたからって、何なのだ。
マーティン・マクギネスは、1972年1月30日のあの事件のときは、デリーIRA(Provisional IRA)のコマンダーだった。だから、自分(たち)に都合の悪い話が出てくることは望んでいなかっただろうし、自分が証言席に立つことも望んでいなかっただろう。(結局証言席には立ったのだが、それはそれでいろいろあったなあ。)
だから、マクギネスが「インクワイアリなくってもいいんじゃね? とりあえず英国政府が謝罪すれば」と考えていたというのは、別に驚きではない。ニュースでもない。
しかしガーディアンは、ジョナサン・パウエルの本を紹介する大型連載で、いちいちそのことを本から抜粋してみせるのだ。アホか。(しかしこれでも、現在の英国のナショナル・ペーパーのなかでは、NIについてはガーディアンがまだまし。)
そしてガーディアンがいちいち抜粋を掲載しているとかいうこと以前に、マクギネス。
マクギネスは「シン・フェインの政治家」なのだが、このコンテクストでは「当時、デリーのIRAコマンダーだった人物」として見ざるを得ない。
あのときに射殺された13人は、IRAのメンバーではなかったのに、英軍に射殺され、「IRAのメンバーだった」ということにされた。死者の家族らが求めている「真相」とは、「軍は暴徒にまじっていたIRAから攻撃されたから反撃したのだ」という大本営発表が嘘であることを英国政府が事実として認めることであり、同時に、彼らは「IRAのテロリスト」ではなかったということが事実として公的に認められることだ。
そういうときに、「当時、デリーのIRAコマンダーだった人物」が「英国政府の謝罪が必要だ。しかしインクワイアリはなくてもよい」ということを、政治家として言うか。しかも英国政府の最上層部とサシで話し合える立場で。
マクギネスが「IRAのマウスピース」であることは驚きではない。しかし、マクギネスのこれは、ブラッディ・サンデーがIRAにハイジャックされてしまっていたことを明確に示していて、そのことが(もちろん知ってはいたけれども)、ものすごくいらだたしい。
さらにいえば、事件当時のデリーの「IRA」は、OfficialとProvisionalでガチガチやり合っていた。英軍からの発砲で何人かが倒れたあと、ロスヴィル・ストリートのハイライズから英軍を銃撃しようとしたガンマンは、Officialのメンバーだった(その「ガンマン」は、マーゴ・ハーキンの『デリー・ダイアリー』で、その現場に立って、ハーキンに直接「説明」をしていた)。
しかしProvisional IRAは、事件の影響で大幅に人員を増やした。デリーの公民権運動が最も望んでいなかった展開だが、PIRAにとっては悪い展開ではなかった。13人の犠牲で、大勢の「義勇兵」が獲得できた。それがPIRAにとっての「血の日曜日」だ。
あの日に殺された人たちの家族や友人たちにとっては、「英軍/英国政府」という壁と「IRA」という壁があった。それを崩してサヴィル・インクワイアリの実現にこぎつけたのは、IRAの「テロ/恐怖政治 terror」によって「事実」を諦めなかったデリーの人たちの功績だ。
彼らもまた、直接銃撃を受けていなかった人であっても、いろいろな形で「事件」と関わることを余儀なくされ、あの「事件」でいろいろなトラウマを背負った。撃たれて倒れた人を救出したくても銃弾が降り注いでいるのでどうしようもなかった(「見殺し」にした)人も、インクワイアリで証言席に立っている。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/in_depth/northern_ireland/2000/bloody_sunday_inquiry/752084.stm
ああ、このタイミングでマーゴ・ハーキンのドキュメンタリーをもう一度ちゃんと見たい。(展開が早すぎて、中身が濃すぎて、消化しきれなかったので。)
あと、ガーディアンの記事でデイヴィッド・トリンブルが「マクギネスの口からそういう発言があったとは、驚きだ (I am astonished that we have that comment from Martin McGuinness)」と述べているとあるけれども、白々しく見えてしょうがない。「ナショナリスト、リパブリカンの人たちが要求したインクワイアリに、シン・フェインのナンバー2からこのような発言があったとは、驚きですな」というトーンが。
同時に、ジョナサン・パウエルの暴露本に対しては反応しないとしているシン・フェインの白々しさ、パウエルのNI和平暴露本から抜粋されるのがシン・フェイン関連の部分ばかりであることの白々しさ(元々、パウエルの本がユニオニスト方面のことではなく、シン・フェインとのことばかりについて書かれているのかもしれないけれど)。
そろそろ、ヘソで沸かした茶が飲み頃だ。
※この記事は
2008年03月20日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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