「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年03月12日

イラン人19歳男性、英国へ送還へ(記事リンク集つき)

【注意】この件では何かする前に必ず、tag: 「難民申請却下事例」にて、最新の記事をご確認ください。3月15日朝の時点での最新記事は下記。
http://nofrills.seesaa.net/article/89499338.html




ここのところ立て続けに、「移民」や「入国管理」をめぐって、英国から、とても労働党政権だとは思えないようなニュースが伝えられている。昨日は、ロード・ゴールドスミスが5ヶ月間のレビューの後、「学校で国家元首への宣誓を」という提案をしたという正気の沙汰とは思えないニュースがあった(記事はガーディアンだが、スコットランドのことは少し触れられているものの、根本的には「英国の国家元首への宣誓」が問題であるはずの北アイルランドについては何も書かれていない)。EU外から英国に来ている人たちを対象とした「ポイント制度」も始まった。(これ、日本人にも影響は大きいんで何か書きたいとは思ってるのですが、なかなか。。。)

「宣誓」を主張しているロード・ゴールドスミスといえば、イラク戦争開戦時のアトニー・ジェネラルで、あの「開戦こそが正しい」論を法的に「正当化」した中心的な人物であり、トニー・ブレアの盟友であり、まあこうなってくると今の「労働党」は「労働党」ではなく「ニュー・レイバー」なのだ、というわかったようなわからないようなことを言ってみないと釈然としない。何つーか、ピストルズがNo Future For Youと歌ってから30年後にこうなってくるとは、というか。

難民申請を却下された2人のイラン人をめぐる問題は、英国のそういう流れの中で起きている。

この人たちの件で、今日の昼ごろ(日本時間)にUK Gay Newsに新たな記事が出ているのをGoogle News UKで見つけた。Google Newsには他にも多くの記事が出ている。(何か、顔写真出してる英国のメディアもあるんだよね。彼がイランに送り返されないという保証はおろか望みすらないときに、ちょっとそれどうなの、と思うのだけど。もはや「英国政府はメディアが書けば方針を変えるかもしれない」というのは幻想にすぎないということが、40歳女性の再申請却下の件で証明されているわけで。)



Gays in Iran: Lib Dems Attack Home Office While Peers Quiz Government
Mehdi turned away by the Netherlands
http://www.ukgaynews.org.uk/Archive/08/Mar/1201.htm

まず、本題とはあまり関係のないところで。先日40歳の女性がまたもや難民としてのステータスを得られなかったことについて、英国のナショナル・メディアではインディペンデントしか伝えていなかったのだが、インディペンデントは英国では(より正確には「ブリテンでは」)2005年の総選挙以降はLib Dems (Liberal Democrats) に非常に近い新聞、といってよい存在になっている。19歳男性の件で一生懸命に動いている議員は、欧州議会議員も英国会議員もLib Demsの人たちのようだ。なお、Lib Demsは決して「小政党」ではないが、労働党と保守党の「二大政党制」を崩すまでにはいっていない規模・勢力の政党である。

では、本題。

Gay News UKの記事ページで大きく見出しになっているのは、「LibDemが内務省に激しく反論し、上院では政府の方針に疑問が噴出」といったこと。その下に小さく見出しになっているのが、19歳男性がオランダで難民申請を却下されたという内容。

で、「英国内で誰がどうした」という話の前に、19歳の男性がどうなったのかを、Gay News記事から抜粋しておこう。なお、彼がどうなったのかについては、BBCにもざっくりとした記事が出てはいる(Gay Iranian man loses asylum plea, Tuesday, 11 March 2008, 16:40 GMT)。BBCが彼について記事にしたのは、3月6日の「今日の新聞」のところでインディペンデントの報道について触れたのを除いては初めてだ(BBCサイト内検索の結果)。
The Dutch authorities have rejected his claim under the 2003 Dublin Regulation and speaking in The Hague yesterday, a Dutch government spokesperson said that 19-years-old Mehdi would now be sent to the UK, the first European country he entered.

...

Dutch Democratic MP Boris Ham is reported to have asked the deputy justice minister Nebahat Albayrak to discuss the matter of Mr. Kazemi with the UK authorities in a bid to prevent a deportation to Iran.

http://www.ukgaynews.org.uk/Archive/08/Mar/1201.htm

つまり、オランダ当局は、2003年ダブリン条約(規定)を根拠として19歳男性の難民申請を却下した。昨日(11日)ハーグにおいてオランダ政府スポークスマンが、彼は最初に入国した英国に身柄を送られることになる、と述べた。また、オランダの国会議員のボリス・ハムさん(民主党)が、オランダ司法省のジュニア・ミニスターであるNebahat Albayrakさんに対し、19歳男性の件について、イランへの送還を防ぐ方向で英国の当局としっかり話し合ってもらいたいと要請した。

つまり、事はオランダから英国に移った(もしくは、すぐにも英国に移る)ということだ。

なお、Yahoo Groupのほうには、オランダ司法省のNebahat Albayrakさんへのメールの送り方のインストラクションがある。私も取り急ぎ簡単な文面(英文)で要請を送っておいた。要点だけ、2〜3文で。送信窓口のインターフェイスがオランダ語なのでちょっと手間がかかるが(Dutch-Englishのオンライン辞書は検索すればすぐに見つかる)。→数時間後、中身を人が見てくれたと思しき内容の、英文の「受け取りました」という返事が来ました。オランダ政府すげぇ。
http://groups.yahoo.com/group/gayasylum/message/467

英国での議員への要請については:
http://groups.yahoo.com/group/gayasylum/message/465
(英国在住者向け。)

これと同時に、英国ではLib Demsが政府に働きかけをしている、というのが大きな見出しの内容。

具体的には、11日の夜に、Lib DemsのLGBTイクオリティ・グループ(DELGA: http://delga.org.uk/)がステートメントを出し(→ステートメント本文@delga.co.uk posted at 11.27.24pm UTC Tue 11th Mar 2008)、内務省はイランでは同性愛の男性や女性は逮捕や処刑の危険があるのだと認識すべきだ、と語った。DELGAのステートメントには、「イランに戻されれば処刑されると恐れている19歳男性のオランダでの難民申請が通らなかったことに落胆している (disappointed)」、「必要とされているのは、英内務省がLGBTのイラン人は逮捕や処刑の危険にさらされていると認識することだ」、「セクシュアル・アイデンティティが原因で拷問や死の危険性にさらされている人に対し、その人が誰であれ、難民申請を却下するということは、英国政府のLGBT問題への取り組みは――そして国際的な人権問題への取り組みは――甘いと言わざるを得ない」などとある。

Gay News記事の地の文には、19歳男性が英国で難民申請を却下され、アピール(異議申し立て、抗告)も通らなかった、と書かれている (An earlier claim for asylum in the UK has already been turned down, as was an appeal.)。んー、アピールの話は初めて聞くような気がする。CNNの記事を見ると、オランダでは「申請→アピール」をしているというのだけど…… (Kazemi's initial appeal for asylum in the Netherlands, made in October, was rejected. He then appealed unsuccessfully to a regional court in December. His last appeal was to the Council of State in January.)。
http://edition.cnn.com/2008/WORLD/meast/03/11/iran.asylum/

で、Gay Newsの記事は、この下は11日の英上院での話。内務省のスポークスマンであるロード・バッサム(Lord Bassam of Brighton)が上院議員に次のように語った、とのこと。
"I can assure the noble Lord that the United Kingdom Government are committed to providing protection for those individuals found to be genuinely in need, in accordance with our commitments under international law. Asylum applicants have access to the independent appeals process through the courts.

「上院のみなさまに申し上げます。英国政府は真に必要としていると判断された場合には、国際法に基づき、庇護を与えるよう取り組んでおります。庇護申請者は法廷を通じてそれぞれ異議申し立てができるようになっています。」


「異議申し立ての制度」があることと、それが通るかどうかということは、もちろん別である。これを読んでたら、何だか、「イランの刑法には確かにかくかくしかじかとありますが、実際に適用されているとは認められないわけでして」という内務省の言い分をジョークに仕立てたもののように思えてきた。「その制度はあるが、実際の適用はそんなに簡単なものではない」という点で。(頭の中でこの「ロード・バッサム」という人がジョン・クリーズになるよ。)

ロード・バッサムのこの答弁に対し、質問に立ったLord Roberts of Llandudnoは「まったく不十分な答えだ」とし、「イランがイスラム共和国となって以来、4000人の同性愛者が処刑されていると人権団体は報告している」と述べ、さらに「あなたは政府に代わって、同性愛者であろうがなかろうが、誰かを迫害され拷問され処刑されるであろう国に送還することはない、と断言するのか」と問うた。

これに対しロード・バッサムは、挙げられた数字について目にしたときには「重大な懸念」を覚えたと答え、「イランについては、外務省が常々懸念を表明している」といったことを述べた。

はっはっは。ロード・バッサムが「内務省」の人である場合、彼は「政府の」人ではあるが、「外務省」の人ではない。話をすりかえやがって。内務省と外務省の利害が一致していないことなど、アホにもわかるっての。外務省は「民主主義だ自由だ人権だと叫ぶ英国のくせに、かわいそうな同性愛者を守ることもできないなんて」と言われることを歓迎しない。

ロード・バッサムの答弁でもう1箇所取り上げておこう。彼は「BIA(入管)がイラン人の同性愛者をイランに戻す場合は、必ず、その人物が保護を必要としてはいないということで納得している。イランに戻しても完全に安全であると確信しない限り、強制的に送り返すようなことはしていない」と述べた。

じゃあ、どうやったらその危険性を納得してくれるのか? モルドバで警官が「お前の家を燃やしてやる」と脅すのは「保護しなければならない」ケースで、イランで10代の男の子が同性愛行為を理由に逮捕されて処刑された、あるいは処刑されたかもしれないということは、そうではない、というのだから本当にわけがわからない。

まあ、イミグレってそういうもんだけどね……日本人で20代で女性の場合、ちょっと長期の予定で行けば「お前はこっちで男と結婚して居つくつもりだろう」という疑いをかけられ、そのつもりはないと「悪魔の証明」を強いられることもよくある話。そういうケースでもイミグレは言うのだ―― unless we are satisfied 「私たちが納得しない限りは」。

閑話休題。

上院では、上院議員として自身が同性愛者であることをオープンにしている2人の議員のうちのひとり、ロード・アリ(Lord Alli)が――やっとこっち側にLib Demじゃなくて労働党が出てきた――、イランでは同性愛は違法であり、死によって罰されることがあると指摘、そして次のように続けた。
"The Home Office's position is that gay people can return to Iran safely, provided that they are 'discreet'.
「内務省は、『おおっぴらにしない discreet』限りは、同性愛者はイランに戻っても安全であるという立場だ」

"Heaven knows what that means. Does the Minister agree with his department's advice that it is safe to send gay men to Iran if they are discreet? What action will the Minister take if that advice proves wrong and this young man is executed for being gay?
「ではそれはどういう意味なのか。(閣外)大臣は、おおっぴらにしない限りは同性愛男性をイランに戻しても安全であるとの役所のアドバイスに賛成しておられるのか。そのアドバイスが間違っていると判明し、この青年が同性愛を理由に処刑された場合、大臣はいかなる行動をおとりになるのか」


ロード・アリのこの質問に対し、ロード・バッサムは「仮定の話はできない」と返答し、「私たちが安全だと感じているから送還する」、「安全ではない場合に送還することは正しいことではないと考えている」と述べた。(何だか、「イラクのサマワは戦闘地域なのかどうか」をめぐるやり取りを思い出させますなあ。)そして、「送還に際しては十二分に気をつけており、過去においてそのようなやり方で非常にうまくいっていると申し上げたい」とも。

それから、Lib Demの長老であるロード・エイヴベリが質問に立ち、政府は、新聞報道などで同性愛者であることが知られている人(19歳男性だけでなく、40歳女性についても)をイランに戻すことが安全だと考えているかと問うた。また、オランダやドイツのポリシーを一般化し、欧州連合全体で同性愛者の送還を一時停止するのによい機会となるのではないか、とも問うた。

これに対し、ロード・バッサムは、政府は「こういったケースの対処には極めて慎重である」と答え、ロード・エイヴベリの質問は同性愛者の人権について重要な点をついている、と述べた。

一瞬「お」と思わせておいて、次は「しかし……」なんだろうな、どうせ。

記事の最後にあるロード・バッサムの言葉は以下の通り。
"We follow that very carefully when we give detailed consideration to these cases. They go through a rigorous appeals and court process. Obviously we have to follow and respect the integrity of that process."


えっと、ロード・エイヴベリの質問に対する回答としてこれを読んでも、意味がわかりません(回答になっていない)。記事の書き方の問題かな、となると議事録をちゃんと見ないといけないんだけど……この件についての上院の議事録(2008年3月11日)は下記。ざっと見た感じ、記事の書き方の問題ではなさそうだけど。
http://www.publications.parliament.uk/pa/ld200708/ldhansrd/text/80311-0002.htm#080311102000005

あとは今日の大手メディアの記事の見出しとURLだけ:

Gay student 'faces death' after Iran return (the Times, UK)
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/middle_east/article3531630.ece

Gay Iranian man loses asylum plea (BBC News, UK)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7290330.stm

Gay Iranian teen loses asylum appeal (CNN, USA)
http://edition.cnn.com/2008/WORLD/meast/03/11/iran.asylum/

Dutch court rejects appeal by gay Iranian man (Radio Netherland)
http://www.radionetherlands.nl/news/international/5680726/Dutch-court-rejects-appeal-by-gay-Iranian-man

Dutch court rejects gay Iranian's asylum appeal (ABC, Australia)
http://www.abc.net.au/news/stories/2008/03/12/2187023.htm?section=justin

Dutch Court Nixes Gay Asylum Seeker Bid (AP)
http://ap.google.com/article/ALeqM5j5UfQYfY5XoO-2njsl6MPpO0_XPwD8VBG1985

Gay teenager faces return to Iran after Dutch ruling (the Independent, UK)
http://www.independent.co.uk/news/uk/home-news/gay-teenager-faces-return-to-iran-after-dutch-ruling-794463.html

Gay teenager is facing gallows as his asylum (the Times, UK)
http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/news/world/middle_east/article3531630.ece

Gay Iranian Fights For Asylum In Europe (CBS News, USA)
http://www.cbsnews.com/stories/2008/03/12/world/main3927899.shtml

Lib Dem MP to back gay Iranian (PA, UK)
http://ukpress.google.com/article/ALeqM5h8dtDH2TH2UmfBE7sBgnBO18FhCg

・・・ガーディアン。。。

※この記事は

2008年03月12日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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Weblog: に し へ ゆ く 〜Orientation to Occident
Tracked: 2008-04-03 19:50

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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