数日前、アイルランドの国営メディアで、"Anger at IRA celebration in Stormont" などという記事を見たのだが、今度はBBCに、DUP is planning an event to celebrate the role of the SAS during the Troubles という内容の記事が出た。
つまり、ストーモントの議場のあるあの壮麗な建物で、シン・フェインはIRA義勇兵マレード・ファレルを記念するイベントを行なうといい、DUPは北アイルランド紛争でのSASの役割を記念するイベントを行なうという。
ちなみに、マレード・ファレルを殺したのはSASである。彼女が殺されてもの3月6日で20年になる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mair%C3%A9ad_Farrell
マレード・ファレルは1988年3月6日、ジブラルタル(英領)で、ショーン・サヴェージ、ダニー・マッカンとともにSASによって射殺された。3人ともIRAのメンバーで、射殺されたのは「まさにリモートコントローラで爆発物を爆発させようとしていたので」との説明だったが、死体は起爆装置のリモートコントローラなどは持っておらず、彼らの車には爆薬などもなかった。まあ要するに、スパイ小説じみたshoot-to-killだったのだろう。リパブリカンというかナショナリスト地域には彼女を描いた「戦争捕虜」の壁画がある(今もあるのかどうかは調べていない)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Operation_Flavius
彼ら3人のIRA義勇兵は、IRAによって戦死者として扱われた。3人はベルファストのミルタウン墓地に埋葬されたが、埋葬のときに数千人という参列者の中にいたジェリー・アダムズらシン・フェイン指導部を狙って、悪い意味で頭がおかしいロイヤリストが手榴弾やらピストルやらで単独襲撃をぶちかまし、シン・フェイン指導部やIRA指導部は無傷で、一般の参列者3人が死んだ。この頭がおかしいロイヤリストがマイケル・ストーンなのだが、それは前に書いたのでここでは略。
で、Operation Flaviusことジブラルタルでのshoot to killから20年となる今年、シン・フェインがストーモントの建物の「ロング・ギャラリー」でマレード・ファレルを記念するという提案をし(3月7日は国際女性デーであるが、ファレルは女性闘士の鑑と賞讃された人物であり、それがシン・フェインのこの提案の背後にあるらしい)、これにファースト&副ファーストミニスターのオフィス(いわば「首相官邸」)をウォッチするアセンブリ議会の委員会の委員長であるUUPのダニー・ケネディが嫌悪感を示し、ファレル追悼イベントを阻止しようとしている、というのがRTEの報道。
http://www.rte.ie/news/2008/0223/northpolitics.html
で、シン・フェインに対抗するつもりなのだろうが(限りなく不毛だ)、DUPはジェフリー・ドナルドソンを立てて、「SASのやってくれたことを記念するイベント」をストーモントでやろうとしているが、ストーモントの管理者側としては困惑というか、そういう状況にあるらしいというのがBBCの報道。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7262313.stm
これでどっちかのイベントにゴーサインが出たら、あっという間に元の木阿弥になる危険性すらあることなので笑っていられないのかもしれないけれど、正直、あまりの不毛さに笑うしか反応ができないので困る。
最も不毛な部分をBBC記事から:
Assembly member Jeffrey Donaldson is making the DUP application. He said Sinn Fein's plan should not go ahead.
"I believe we should celebrate the lives of role models but who in their right mind could view a terrorist who was prepared to kill innocent men, women and children as a role model?
"That is not the image we want to portray to our children as we build a peaceful and prosperous Northern Ireland," Mr Donaldson said.
"However, it is right and proper that we should celebrate and commemorate our armed forces who stood against terrorists such as Farrell."
そんなに「国際女性デー」の記念で女性を讃えたいのなら、そして「ロールモデル」を讃えたいのなら、北アイルランドに「平和」をもたらし、北アイルランドをpeaceful and prosperousな場所に転換していく上で非常に大きな役割を果たした故モー・モーラムを讃えておけばいいのに。
彼女の語録より:
http://politics.guardian.co.uk/politicsobituaries/story/0,1441,1552395,00.html
"You bloody well get on and do it. Otherwise I'll head-butt you."
To Gerry Adams
"Fuck off."
To Ian Paisley in 1997
この笑いのセンス、すてきなロールモデルじゃないか。
※この記事は
2008年02月25日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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http://sluggerotoole.com/index.php/weblog/comments/mccann-donaldson-farrell-and-the-sas/
結局は「売り言葉に買い言葉 tit for tat」で「どっちもどっち tit for tat」でファレルの記念もSASの記念も行なわれないだろうというのだけれど、コメント欄がかなりスゴいことになっている。というか、私はこれまでに何度、こういうコメント欄をスラオさんで見ただろう……2004年とか2005年に。
私としては、「どっちもどっち」というか、「IRA義勇兵を記念します」に対抗して出されたのが「SASを記念します」であった、という時点でもう涙目。紛争、終わってないじゃん。。。という意味で。