「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年02月25日

闇の奥に当たるかもしれない光/あれは「戦争」とは呼ばせないという論争(決着済み)

2007年に個人的に最もがっくりきたニュースは、検察が、パット・フィヌケン事件で誰も起訴しないという結論を下したことだった。パット・フィヌケンは1989年2月12日に自宅に乱入してきたロイヤリストによって家族の目の前で射殺された弁護士だが、この事件の背後にはロイヤリストの武装組織と治安当局のいわば「特別な関係」があったのだが、検察の起訴断念によって「本当に何があったのか」が明らかになる可能性がほとんどなくなってしまった。

だが、The Consultative Group on the Pastの仕事を伝える2月22日のBBC記事によると、少しはその可能性が生きていると考えてよさそうだ。むろん、法的な場で誰かの刑事責任を問うということはもうありえないのだが。

Troubles group meets MI5's chief
Last Updated: Friday, 22 February 2008, 18:57 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7259854.stm

記事によると、The Consultative Group on the Pastの議長をつとめるDenis BradleyとLord Robin Eamesが、金曜日にロンドンでMI5長官と会い、「北アイルランド紛争」でMI5がどのような活動をしていたのか、その詳細を明らかにするよう求めたと考えられる、とのこと。グループ側からのステートメントなどが出ているわけではないので(グループ側では「MI5長官と会談の事実」を公表しているだけで、詳細は明らかにしていない。いろいろとセンシティヴな話だからこのことには何も問題はない)、BBC記事も「伝聞」みたいな感じで書かれているが、内容的には正確なものだろう。

ただ、どこまで「期待」できるかはちょっとわからない。テクストから読めるのは、「MI5がどこまで明らかにするか」だから。1月にこのグループの活動の方針や目的について書いたときに、PSNI(現在の北アイルランド警察)の身の入らなさかげんに乾いた笑いしか出てこなかったことを思い出す。
They met the Director General of MI5 in London on Friday afternoon to discuss how much it is prepared to reveal.


MI5はロイヤリスト武装組織ともリパブリカン武装組織ともつながっていた。1998年8月15日のオマー爆弾事件でも、Real IRAとMI5との妙なつながりがあったことは確実だ。(今月東京で開催された北アイルランド映画祭で上映された『オマー』というドキュドラマではその点をはっきりと描いていた。)

The Consultative Group on the Pastは、「紛争」のプレイヤーすべて――UVF, UDA/UUFなどのロイヤリスト武装組織、IRA, INLAなどのリパブリカン武装組織、そしてRUC(警察)、英軍、英情報局――に、真実を明らかにするよう求め、働きかけを行なっている。

ブラドレイ、イームズ両議長は、この2月には既に、UVF(昨年5月に活動停止を宣言)の指導部と会い、どのような協力が得られるかを話し合っており、BBCが言うに「現在の焦点はIRAにある (The focus is now on the IRA)」。

IRAなどリパブリカン側は、英国政府と英治安当局に、北アイルランド紛争でどのようなことをしていたのかを正確に明らかにするよう求めている。(今年の2月に「ジェリー・アダムズの運転手がスパイだった」ことが明らかになったのも、何かこういう「真相究明」の取引の結果かもしれない。)

ブラドレイ&イームズのグループは、既に、IRAの爆弾攻撃や銃撃で亡くなった人の家族や親族らと話をしており、次はIRAの指導部と直接会ってどのような協力を得られるかを話し合うことになっている。

今年の夏にはこのグループによる「紛争の残したものと向き合うために」というような報告書が出されることになっている。(その前にブラッディ・サンデーのサヴィル報告書が出てくれないと、順番が違うんだよなー。)

こうやって、少しずつ「歴史が歴史になる」のだろう。忘却される前に記録されて。たとえその「犯罪」が、政治的な取引や決定のために、「犯罪」として扱われることがなくても、「歴史」は記録することで残ってゆく。それを「とてもポジティヴな何か」だと認識してしまうのはどうか、という話でもあるが、少なくとも「ネガティヴな何か」ではないだろう。

一方で政治の話。

2月18日付でBBCが、「北アイルランド紛争」を「戦争」と位置付けないということが北アイルランド議会で決定した、と報じた。

Troubles 'not war' motion passed
Last Updated: Monday, 18 February 2008, 19:48 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7249681.stm

この「戦争 war」の定義も非常にめんどくさいのだが、要はリパブリカン側の用語である――「植民地主義の圧制」に「抵抗」する「戦争」である、と。(アイルランドと北アイルランドがこんなに面倒なことになっていなければ、「独立戦争」と呼んでもよかっただろう。)

一方には、「戦争ではありません、犯罪です」という主張がある。(「犯罪」ということばではピンと来なければ、「テロ」に置き換えてもOKだ。)「主張がある」っていうか、英当局やユニオニストにとっては「あれは犯罪である」が基本的主張である。彼らの立場では、デリーなどでIRAが警察にかわって治安権限を握っていたことも「秩序を壊す犯罪」だ、という。

ブラドレイ&イームズのグループがこの1月に「あの紛争は実は戦争だった、ということを検討している」と報じられ、「戦争ではない」派の頭目であるDUPが、「北アイルランド紛争は戦争ではない」という議決をストーモントで主導した。

いや、正直あれが「戦争」だったのかどうかは、歴史の専門家が研究などのフィールドで決めることではあっても、政治家が議決できるようなものではないのではないかと個人的には思うのだけれど。

で、ストーモントの議場ではDUPとシン・フェインが激突することとなり、最終的には46対20でこの動議は可決された。

DUP側(Mervyn Storey議員)は「IRAのあれは戦争ではなかった。戦時国際法を無視していたのだから」と言い(非対称戦争のすべてをこれで語られたら大変にめんどくさい)、「彼らにはセクタリアンな殺人という罪があり、民族・人種に基づいた殺人という罪があり、政治的暗殺の罪がある」と言い(DUPがこういえるのは、彼らは「テロ組織」との関係は組織としてはないから)、"Mr Speaker, they fought a seedy, grubby, sectarian terrorist campaign - nothing more and nothing less." と語った。(これ、日本語にしちゃうとどれほど語気が強かったのかがわからなくなるので英文のままで。)

一方のシン・フェイン側(Jennifer McCann議員)は、「紛争の始まりについてまったく異なった見方」があると述べた。

この点については、私はユニオニスト側がstate of denialにあると思っている。まったく、「包囲の心理 siege mentality」というのは厄介なものだ。

そしてシン・フェインの議員は、「『戦争』は終わったのだ」という言い方がかなり最近に用いられたことを例としてあげ、また、「(ブラドレイ&イームズのグループの)政治的利害にかなうのであれば、『戦争』ということばを用いていただいても問題はない」との考えを示した(のだが、ここで何も "like a scene from Fawlty Towers, 'don't mention the war'" なんていわなくてもいいと思う)。

そして同議員は、「親しい人を亡くした人にとっては、conflictと呼ぼうがwarと呼ぼうがtroublesと呼ぼうが同じである」とも述べた。

それ自体は「絶対的に正しい」といってもよいくらいだ。だが心のどこかで、シン・フェインが言うな、とも思う。パラミリタリーの「戦死者」を讃える儀式にトップが出ている政党が、こういうことを言うな。

そして、DUPと同じく「戦争ではない」派のUUPは「歴史を書き直すことはできないのだ」と述べ(そこまで大きな物語なのかどうかは別途検討の必要があるだろう)、ナショナリストで武装闘争をまったく支持してこなかったSDLPもまた、「戦争」と位置付けることを拒否した。ただしSDLPはDUPの動議は過去に対する歪んだ見方を示すものであるとして動議に賛成することを拒否、「どっち側もおかしい」と述べた。

「紛争」の構図において唯一「どちらか側ではない立場」の政党であった/であるアライアンスのTrevor Lunn議員は、どちらの側の政治家もバランスを欠いており、過去と向き合う能力がない、と述べた。そして次のような、核心ズバリの一言も。
"The real issue here Mr Speaker is we have parties that are so entrenched in division that they can't even deal with the tragedies of the past 30 years without dividing it up," he said.


なお、この記事のDUPとシン・フェインの部分を読んで私が思い出したのは、シン・フェインの議員の発言にあるフォルティー・タワーズではなく、モンティ・パイソンの「アーギュメント」スケッチである……とかなんとかいってみちゃったりなんかして。
A: Look, let's get this thing clear; I quite definitely told you.
M: No you did not.
A: Yes I did.
M: No you didn't.
A: Yes I did.
M: No you didn't.
A: Yes I did.
M: No you didn't.
A: Yes I did.
M: You didn't.
A: I Did.
M: Oh look, this isn't an argument.
A: Yes it is.
M: No it isn't. It's just contradiction.
A: No it isn't.
M: It is!
A: It is not.


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# 正直、オチがあんまりにもあんまりだと自分でも思う。

※この記事は

2008年02月25日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 19:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
The Consultative Group on the Pastについてのアップデート:
State 'let innocent people die'
29 May 2008
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7424668.stm
Posted by nofrills at 2008年05月30日 12:00

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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