「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年02月19日

イアン・ペイズリー・ジュニアの辞任と「伝統的ユニオニストの声」

さて、フィデル・カストロが引退を宣言したところだが、いかにアディダスのジャージを着ていようとも見るからに弱っている「コマンダンテ」と同じ1926年に生まれたイアン・ペイズリーは、引退する気配がない……と書きたいところだが、風向きがほんの少し変わってきた。といってもイアン・ペイズリー本人に何かがあったわけではない。何かがあったのは、息子のイアン・ペイズリー・ジュニア(以下、この稿では「Jnr」)だ。月曜日の夜中(というか日付が変わった後)、JnrがNI自治政府の大臣職を辞したという報道があった。

Paisley Jnr resigns as minister
Last Updated: Monday, 18 February 2008, 16:54 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7250877.stm

Paisley Jnr quits after months of pressure
Tuesday, February 19, 2008
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/politics/article3445124.ece

Paisley Jr resignation raises questions over father's future
James Sturcke and agencies
Monday February 18 2008
http://www.guardian.co.uk/politics/2008/feb/18/northernireland.northernireland

ガーディアンは少し煽りすぎだと思うが (^^;)、まあ、そういうことになりかねないことは確かだろう。

Jnrは1966年生まれの41歳、お父ちゃん(以下「ビッグ・イアン」)がフリー・プレスビテリアン教会を創設してから15年目に生まれたペイズリー家の末っ子だ。ビッグ・イアンの教会に属し、ビッグ・イアンの政党(DUP)に属し、2007年5月の北アイルランド自治政府再起動に際しては、the Office of First and Deputy First Minister(国の政府でいえば「首相官邸」)のjunior minister(閣外大臣)の職についた(→過去記事)。

だが自治政府再起動からまだ何週間というときに、セイモア・スウィーニー(Seymour Sweeney)という不動産開発業者(お金持ち)とJnrとの間に贈収賄の関係があるのでは、という疑惑が浮上した。ジャイアンツ・コーズウェイの観光センターの建設計画に際し、Jnrがスウィーニーに便宜を図るように動いたのではないかという疑惑が出て、さらには、ブッシュミルズで地域行政とほかの業者には建築許可を与えなかったのにスウィーニーには許可を与えて家を建てさせ、それをJnrが購入した、とのかなり怪しい事実が判明した。さらにJnrの選挙区にあるオフィスをめぐる不動産疑惑も、BBCが報じたことで浮上した。

2008年1月には、シン・フェインとのパワーシェアリングに結局納得いかなくてDUPを離党し、新党 "Traditional Unionist Voice (TUV)" を結成したJim Allister MEPが、NIで開催されているオートバイレース大会をめぐってごにょごにょしてたんじゃないですかという話を(Jnrはグッドフライデー合意でも労働党と通じて何かやってたでしょ、という話とセットにして)持ち出してきた。それでもJnrは「間違ったことはしていない」と反応するにとどまった。

しかし、つい先日行なわれた地方議会補選で、DUPが議席を取れなかった(UUPが議席を保持した)ことが影響したのかしてないのか、まったくよくわからないけれど、Jnrは唐突に辞意を表明した。後任が決まり次第、閣外大臣の職を辞する。

辞任の表明でも、Jnrは「間違ったことはしていない」と主張している。(ベルテレさんによると、単独で辞意表明を宣言し、DUPの人は誰もJnrのそばにいなかったそうだが。)
"I can't express strongly enough that I am not going because of some hidden or some revealed wrongdoing," he said.

"The past 10 months have not been without controversy," Mr Paisley said.

"Personal criticism, unfounded allegations, innuendo and attacks on me personally (have been) followed by ombudsman's reports that have cleared me.

"The criticism has been a distraction and has got in the way of the activities of this government and importantly it has gotten in the way of the activities of my political party."

http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7250877.stm

一言でまとめれば「政敵にはめられた」という話なんでしょうかね。別の言い方をすれば「政治を混乱させた責任を取って」(→ see Peter Robinson's comment on the BBC)。いずれにせよDUPの党内事情でJnrを看板に据えておくのは得策でないという判断になったようだけれど、DUPといえばビッグ・イアンで、Jnrはビッグ・イアンの実の息子で、80歳を超えたビッグ・イアンの後継者としてはまったく申し分のない人(<皮肉です、念のため)だったのだし、これは展開のしかたによっては、何か危ない方向(今のDUPよりもっとずっと強硬な、かつてのDUPのようなTraditional Unionist Voiceのような政党が、ワーキングクラスの間で支持を広げる、など)に向かうかもしれない。

今のNI自治政府は、議席獲得数に応じて各政党に閣僚の席が配分される「全部与党」のかたちで「野党」が存在しない。「ユニオニストの不利益」になる(と見られている)ことを、「ユニオニストとナショナリストがパワーシェアリングしている政府」はやるかもしれない。そのときに、「(既存の)ユニオニスト政党」は「ユニオニストたち」の支持を集めておけるのかどうか。

# 何か、似たようなことを昨日も書いたな。。。ナショナリストの側で。
http://nofrills.seesaa.net/article/84692395.html

それと、ガーディアンが煽っている「最大の問題」は、疑惑の不動産業者とつながりがあるのはJnr個人ではなく、ペイズリー父子だ、という点だ。つまり――ビッグ・イアンは30年の紛争の後に手にいれた「ファースト・ミニスター」の座を死守できるのか?! 次回をお楽しみに!……ということだが。

どうでもいいが、英国政府のNI担当大臣、ショーン・ウッドウォードのコメントが何かどっかズレまくってて(これじゃまるで「お悔やみ」だ)、モー・モーラムからピーター・ヘインまでの「ピースプロセス」時代のNI担当大臣たちとは全然反応が違うなあと感慨しきり、である。
SHAUN WOODWARD, NORTHERN IRELAND SECRETARY

"On the public front it is obviously a matter for the DUP and obviously a matter for the Executive and Assembly.

"But on a private front I think one also has to acknowledge that, for the Paisley family, it is a very difficult time.

"These matters are always very, very hard and for them, a family who has given a huge amount to Northern Ireland, my thoughts are also with them."

http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7251403.stm


ちなみに、一連の報道で一番笑ったのは、スラオさんのエントリにつけられたコメントの18番目である。"to spend more time with my family" というのは、政治家や政治家側近が辞めるときによく使う「理由」だが(ブレアの片腕のアレスター・キャンベルしかり、米大統領の報道官の……誰だっけ、まあいいや、しかり)、Jnrの場合は "to spend less time with his family" である、と。

※この記事は

2008年02月19日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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