「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年02月11日

【詳細】運転手よ、お前もか。

10日に各メディアの報道が出揃ったところで、9日に記事のURLだけメモった件の詳細。

シン・フェインの要人、特にジェリー・アダムズの車を運転していたロイ・マクシェイン(Roy McShane)が、英当局のスパイだったことが判明、本人はベルファストを脱出し当局の保護下にあるらしい。この「英当局」は北アイルランド警察(RUC, 現在のPSNI)ではなくMI5らしい。また、彼は「運転手」といってもただの運転手ではなく、武装ボディガードでもあったわけで、シン・フェインのトップの身の安全ということに関してはかなりセンシティヴなことを知る立場にあった。

というわけで、「シン・フェインに激震走る――浸透どこまで」とでも書きたいところだが、当のジェリー・アダムズが淡々としているので、そう書いたら「嘘」になりそうだ。

Sinn Fein President shrugs off concerns of British spies working for the party
http://www.belfasttelegraph.co.uk/breaking-news/ireland/article3418630.ece
Gerry Adams has said he's not concerned about the possibility of more British spies working within party.

The Sinn Fein leader insisted today that his party is secure, despite revelations that his former driver was working under cover for intelligence services in the UK.

ジェリー・アダムズは、シン・フェイン内部でほかにも英国のスパイが活動しているのではないかという可能性について懸念はない、と述べた。運転手だった人物が英国の情報当局のスパイとして活動していたことが露見したにも関わらず、彼は、党は安全であると強調した。


ロイ・マクシェインがスパイだったことが判明し、北アイルランドを離れたという事実は、金曜日にシン・フェインが明らかにした。各報道によれば、シン・フェイン側はマクシェインの身の安全については極めて楽観的である。(数ヵ月後に射殺体で発見されないことを祈る。)彼がいつからスパイとして活動していたのかは、記事では明らかではないが、80年代からということのように読める。

英メディアの報道は、どこもかしこも、基本的にSinn Feinに対してサポーティヴではないので(いつもと同じく)、事実の把握には、そういう「色」を排除して単に事実だけ読むことが必要になる。その前提で、最も充実した(なおかつ「煽り」が「事実」と峻別しやすい)記事はテレグラフだと思う。

Gerry Adams's chauffeur outed as informer
By Tom Peterkin, Ireland Correspondent
Last Updated: 1:14am GMT 10/02/2008
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2008/02/09/nspy109.xml

シン・フェインが当局に浸透されていたということを問題の中心とし、マクシェインの人物像を紹介しながら手堅くまとめているのはタイムズ。

From The Times
February 9, 2008
Roy the Rat - driver for Gerry Adams, spy for MI5
David Sharrock, Ireland Correspondent
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/politics/article3338091.ece

またシン・フェイン内部のスパイについての解説として充実しているのは、アイリッシュ・インディペンデント。(UKのインディペンデントにも同じ記事が出てるかもしれない。)

British spy was 20 years with Sinn Fein leader
By JIM CUSACK
Sunday February 10 2008
http://www.independent.ie/national-news/british-spy-was-20-years-with-sinn-fein-leader-1286373.html

最も淡々としているのはベルファスト・テレグラフの下記記事(ベルテレさんは細かい記事を何本も出している)。シン・フェインができるだけダメージを軽減しようとしていること(play downしようとしていること)がはっきりとわかる。まあ、実際にそんなにたいした話ではないのかもしれないが、それは判明したのが今だからそう流せるというだけかもしれない。(もしそのときにその場でそれが暴露されていたら、英国およびアイルランド共和国とシン・フェインとの接触が断たれるなどして、かなりひどい事態になっていたかもしれない。)

Adams' driver was a spy
Saturday, February 09, 2008
by Claire mcNeilly
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/article3416528.ece

これらのほか、9日にBBCとガーディアンの記事を、URLだけメモってあった。

Sinn Fein driver revealed as spy
Last Updated: Friday, 8 February 2008, 17:44 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7235364.stm

The leader, his driver and the driver's handler: chauffeur revealed as MI5 agent
Henry McDonald, Ireland correspondent
Saturday February 9, 2008
http://politics.guardian.co.uk/northernirelandassembly/story/0,,2255101,00.html

これらの記事を見たときは、BBCの異様に淡々とした文面とマクシェインの顔写真(出すなよ)で構成された記事と、ガーディアンのヘンリー・マクドナルドらしいテンションの高い煽り記事とのギャップが何ともいえなかった。

以下、各メディアの記事から細かいことを多少。まずはアイリッシュ・インディペンデントから。
http://www.independent.ie/national-news/british-spy-was-20-years-with-sinn-fein-leader-1286373.html

ロイ・マクシェインがアダムズの運転手として常にそばにいるようになったのは1980年代半ば。「アーマライトと投票箱」ポリシー(武装闘争と政治的地位の確立の両輪作戦)を掲げたアダムズがシン・フェインの党首になったのが1984年だから、シン・フェインが武装闘争一本やりの方針から公式に転換した時期からずっと、マクシェインはアダムズのそばにいた、ということになる。

そしてこのことは、「20年前からのアダムズの個人的な側近が少なくとも2人、つまりロイ・マクシェインとデニス・ドナルドソンが当局のスパイだった、ということを意味する」。

「個人的な側近」が数十人もいればそのうちの2人がスパイだったって「そういうこともある」という話になるかもしれないが、いくらなんでもそんなにたくさんはいないだろう。当局が、シン・フェインの党首、というかリパブリカン運動の最重要人物の周辺にそれだけのスパイを確保できていたということを考えると、うむー。

アイリッシュ・インディペンデントの記事によると、マクシェインもドナルドソンも、1980年代以降、ロニー・フラナガン(RUCのスペシャル・ブランチのトップを経て、のちにRUCのトップになった人物)のもとで、RUCスペシャル・ブランチにスカウトされてダブルエージェントとなったIRA内部のスパイの一部であると考えられる。RUCのスペシャル・ブランチにスカウトされたスパイは、MI5のハンドラーが動かしていた。フラナガンによるスパイ作戦は非常に深いものだったが(リパブリカンにもロイヤリストにもモールを入れていた)、今になってようやくその一部が表に出てきている。

ちなみに、フラナガンはRUC/PSNI(北アイルランド警察)を退いたあとも順当に出世して、今は英国全体の警察のトップ (Her Majesty's Inspectorate of Constabulary) である。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ronnie_Flanagan

北アイルランド関係では、1972年のブラディ・サンデー事件のときに陸軍パラ部隊の上層部にいたマイク・ジャクソン(同事件で「射殺されたのはテロリスト」とのでっち上げを行なった張本人)が後に陸軍参謀長となっている。北アイルランドで汚いことをできた人物がものすごい勢いで出世するのが英国、ということだろう。(皮肉)

また、マクシェインがスパイだということがわかった経緯については次のような説明だ。
Suspicion appears to have fallen on Mr McShane, 58, and some of the other drivers from top Sinn Fein figures two or three years ago. In September 2004, a number of bugging devices were discovered at Sinn Fein's head offices on the Falls Road in Belfast and in a car used by Mr Adams.

It is believed that there was a "security audit" and Mr McShane and a number of others were moved away from driving and body guard duties. In the past 18 months, Sinn Fein said that Mr McShane had been driving a taxi in west Belfast.

つまり、2004年9月にシンフェインの本部やアダムズの車から盗聴器が次々と発見され、そのことでマクシェインを含む何人かの運転手にスパイの疑いが浮上、党はマクシェインらを職務から外した。ということは、マクシェイン本人はこのときから「アダムズの運転手」ではなくなっていたのだろう。この1年半はベルファストでタクシー運転手をしていたとシン・フェインは説明している。(「この1年半」ということは、2006年半ばから、ということになる。ちなみにシン・フェインが警察への協力という方針に公的に転換したのが2007年1月。)

2004年9月の盗聴器発見ということだが、その前、2002年10月にはいわゆる「ストーモントゲイト」がありNIアセンブリーがサスペンドされ(ストーモントの北アイルランド議会内でシン・フェインがスパイ活動を行なっているとの疑惑。のちにその事実はなかったことが判明)、「和平プロセス」がリスタートされている。2003年にはアダムズの側近というか党の要職にあったFreddie Scappaticciが、コードネーム "Stakeknife" というスパイだったことが特定されている。で、アイリッシュ・インディペンデントの記事は最後に、「昨日、ベルファストのリパブリカン筋は、マクシェインとスカパティッチは仲がよかったと主張している」と書いている。

なお、アイリッシュ・インディペンデントの記事は、マクシェインが知りえたアダムズの行動予定のなかには、「IRA停戦につながることになったアイルランド共和国との秘密会合も含まれている」としている。共和国のことが書かれているのは、アイルランド共和国の新聞だからだろう。実際にはその時期には英国政府側との秘密会合も行なわれていた。

アイリッシュ・インディペンデントの記事には、現在のMI5(つまり英内務省)とPSNIの情報収集の職域分担についても少し書かれている(前者は「政治的」な情報収集を行ない、後者は「通常の」警察分野のことを行なっている。つまり「テロ」はMI5が、「犯罪」はPSNIが担当している、ということ)。

とまあ、これだけでオナカイッパイだが、次はテレグラフ。
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2008/02/09/nspy109.xml

マクシェインの年齢について、このテレグラフ記事には「58歳」とあり(ほかの記事では「60代」というものもあった)、彼が「ネズミのロイ(Roy the Rat)」と呼ばれ、ベルファスト西部のフォールズ地区(リパブリカンの本拠地)の出身であることなども書かれている。元々はベルファストのTurf Lodge地区のIRAのメンバーだったそうだ。

いつからインフォーマーであったのかについては「何年間も(for a number of years)」とあるだけだが、時期的には、「1998年のグッド・フライデー合意の前の慎重さを要する交渉の時期」とある(普通に読めば、これはGFA前のIRA停戦の時期のことだ。1994年の停戦が一度破棄されてロンドンのカナリー・ウォーフがやられているのだが、その時期ももちろん含まれるのだろう)。

マクシェインは、デニス・ドナルドソンとは違って、大物というわけでもなく、したがって彼が「英国のイヌ」であったことでの衝撃はドナルドソンのときほど大きなものではない、とテレグラフは伝えている。ドナルドソンがスパイだったことがわかったときには、「あれほどの重要人物までスパイだったのなら、誰がスパイなのかわかったものではない」というムードだったのだが、今回はそうではない、ということだろう。また、彼は何年か前から疑惑の対象になっており(アイリッシュ・インディペンデントの記事にある「盗聴器事件」のことだろう)、シン・フェインにとっては特に驚きをもたらすものではない、とも。

それでも、運転手であり武装ボディガードであった人物が、当局から金をもらってリパブリカンの最有力者についての情報を流していたことについては、フォールズ地区ではショックが広がっている。彼がよく飲んでいたフォールズ地区にあるIRAの投獄経験者のクラブでは、ある飲み仲間は「俺はうさんくさい奴だと思ってたからな、昔っから」と言い、別の人は「あいつにはどこか変なところがあるなと思っていた。このあたりにはもう二度と顔を出せなくなったな」と言う。また別の人は、「地域全体がショックを受けているが、(IRAの)最上層部の何人かはこうなることを知っていたのではないか」と言う。それでもマクシェインがいきなり消されるといったことにならなかった、というのが行間に読み取れる。実際、IRA(Provisional IRA)がまだ活動中だったならば、マクシェインは逃げる前に消されていただろう。

で、シン・フェインは「マクシェインは何年も前に職務から外されていた」(=「われわれはわかっていた」)とか、「彼は仮にベルファストに戻ってきて安全である」(=「IRAはもう人を撃ち殺したりしません」)とか言っているが、ジェリー・アダムズは10日にダブリンでの党所属アイルランド下院議員との会合(議題が「リスボン条約」ってのが何ともいえない)でこの件についての質問を避けられないだろう、とテレグラフは見ている。この点について、テレグラフはembarrassingという言葉を使っているのだが、アダムズのことだからまた禅問答じみたやりとりで何とかするのだろう。(でも実際に、これはembarrassingだよね。)

一方、一連の事態について、SDLPのAlex Attwood議員(NIアセンブリー)は、「シンフェインやProvos (Sinn Fein and other parts of the Provisional movement) への警察・軍・情報部の浸透がいかに深く、どのくらい上層部まで達していたのかを知る必要がある。治安当局とリパブリカン武装組織、また治安当局とロイヤリスト武装組織との間の癒着(collusion)について、全貌を知る必要がある。そして、そういった関係が人命という点でいかなる代償を要したのかを知る必要がある」とコメントしている。

9日に映画『オマー』を見てきたところだから、これはずっしり来る。
http://nofrills.seesaa.net/article/83246942.html

一方でDUPのジェフリー・ドナルドソンMP(出た!)は、「マクシェイン氏が保護されているというのが事実であるならば、理由の説明を求めたい。また、Provisional IRAから、あるいは非主流派リパブリカン(other republican elements)から何らかの脅迫があったのかどうかについても説明を求めたい」と述べている。やや遠回しだが、「やっぱIRAって活動してんじゃないの」というDUPの見方が根底にある。こういうのがあるから、シン・フェインが「戦争は終わったんですよ (Let's face it, the war's over.)。だからマクシェイン氏はベルファストに戻ってきても安全です」とか言ってるのだろう。(普通に考えて「安全」なわけないじゃん。「安全」を「ベルファストで拉致され拷問された挙句射殺されないこと」と定義するのなら別かもしれないけど。)

さらに、もう一方の当事者である警察は、コメント拒否。(笑)

というわけで次にタイムズ。内容はテレグラフとあまり違わないのだが、マクシェインがゴルフ好きで、アダムズらの取材に来た記者とゴルフの話をしていたとか、彼が住んでいたフォールズ地区の構想住宅(Divis Tower)は屋上に英軍の監視所があったとかいった細かい話があるのと、末尾に「スパイ一覧」があるのがマニア向け。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/politics/article3338091.ece

記事末尾の「スパイ一覧」の内容:
デニス・ドナルドソン Denis Donaldson
シン・フェインの最上層部のひとり。2005年にスパイであったことがわかり党から追放。2006年4月、ドニゴールの人里離れた別荘で射殺。

レイモンド・ギルモア Raymond Gilmour
1970年代と80年代に、IRAとINLAに浸透。82年に姿をくらまし、現在はイングランド南部で生活していると考えられている。

ボビー・クイグリー Bobby Quigley
1970年代と80年代にスパイとして活動。マーティン・マクギネスがIRAの活動に関わっていると主張した。その後マクギネスは一度も起訴されていない。(注:マクギネスがデリーIRAの上層部だったことは事実。)

ショーン・オキャラハン Sean O'Callaghan
シン・フェインのruling councilの一員であり、同時にアイルランド警察のスパイだった。彼の活動により、7トンの武器輸送が摘発された。現在はロンドン在住。(この人は身を隠してもいないし、それどころか「テロ専門家」としてテレビに出てたりします。)
http://en.wikipedia.org/wiki/Sean_O'Callaghan

エイモン・コリンズ Eamon Collins
1980年代にIRAについての情報を流し、1998年に "Killing Rage"(←リンク先はインタビュー記事。とてもよい)という本を出し、1999年に刺殺された。(注:タイムズ、字数が少なかったのかもしれないがまとめすぎ。ウィキペディア参照。)
http://en.wikipedia.org/wiki/Eamon_Collins


で、以上「英国側」のスタンスの報道を並べたのだが、ナショナリスト側のスタンスでの報道はSlugger O'Tooleにクリップされている the Irish News や the Irish Times の記事を参照。
http://sluggerotoole.com/index.php/weblog/comments/he-was-sidelined-to-the-point-of-being-removed-from-any-work/

The Irish Newsの記事のクリップを読むと、マクシェインは、階層はfoot-soldierだったにせよ、相当筋金入りのリパブリカンだといえそうだ。活動歴は長いようだし(「72年のブラディサンデーをきっかけとして」とか「80年のハンストで触発されて」とかではないみたい)、服役は経験していないか、あるいは経験したとしてもほんの少しだそうだが、1973年のニーダーマイヤー事件(西ドイツ人のビジネスマンがIRAに誘拐され殺害された事件)に関わっており、80年代は nutting squad(IRAのInternal Security Unitのこと)のメンバーで(これはテレグラフかタイムズにも書いてあったかも)、これがスパイに浸透されているとの疑いが濃くなって1989年に解散、ユニットのメンバーがシン・フェイン指導部の警護に回された(って、その判断はどーよ……)。

もうひとつ、スラオさんにクリップされている、the Irish Times の Gerry Moriarty による記事から:
This latest revelation should not destabilise the current regime at Stormont, but it will upset ordinary republicans, causing them to wonder what the "war" was about, was the IRA leadership really in control, who was genuine, who was a "tout".

今回の件でストーモントの政権がゆらぐことはなかろう。しかし一般のリパブリカンは混乱し、あの「戦争」はどういうものだったのか、IRAの指導部は本当に事態をコントロールしていたのか、誰が本物で誰が「イヌ」だったのか、といったことについて疑問に思うようになるだろう。

the Irish Times の記事は、そのことがシン・フェインにとって何を意味するか、という方向で書かれているのだが、問題はそれだけではない。「北アイルランド紛争」とは一体何だったのか、特に英軍が介入したあとの「紛争」が、本当はどのような姿をしているのか――「一般のリパブリカン」ではなく、「一般の人たち」にとって最も重要なのはそれだ。

最後に最もうんざりすること。

スラオさんがクリップしている the Irish Times の記事にもあるが、the Consultative Group on the Past(「過去に関する諮問協議会」)の Dr Robin Eames and Denis Bradley が、スティーヴンス・インクワイアリの持っている資料を見せられて唖然としているそうだ。

IRA spy row deepens
Henry McDonald
Sunday February 10 2008
http://www.guardian.co.uk/politics/2008/feb/10/devolution.terrorism1
Northern Ireland's Truth Commissioners have been shown three filing cabinets containing details about British state agents working inside the IRA and other republican organisations, The Observer has learnt.

Dr Robin Eames and Denis Bradley were shown the material during a recent visit to detectives from the Stevens Inquiry in London, which for nearly two decades has been investigating collusion between the security forces and paramilitary groups.

...

The Church of Ireland Primate and the ex-priest were unavailable for comment this weekend. So far they have refused to comment publicly about any of their findings. However, sources close to their inquiry told The Observer that both men had been shocked about the depth of penetration of the republican movement.

They have been stunned by how many agents the RUC and MI5 had inside the Provos,' one source said yesterday. 'When they were in London, they were shown three cabinets of files on the use of republican agents alone.' ...

まず、記録が残っているものだけで(<ここ重要)「ファイルキャビネット3つ分」という資料の量に唖然とする。それが全部、IRAなどリパブリカン武装組織(INLAなど)の内部で動いていた英国のエージェントの詳細についてのものだというからますます唖然とする(ロイヤリスト側での工作について含めたら、こんな量ではすまないだろう)。そして、イームズもブラッドレーも、リパブリカン運動(IRAやINLAなどのこと)への浸透の深さにショックを受けている、という。

この2人がショックを受けるほどの深さというのはどのくらいなのか。

5秒くらい考えて、頭の中に自然と浮かんできたイメージが下記。


Bad Brainsではありません。現在ロンドンでの展覧会展示中のマレーヴィチ。

スティーヴンス・インクワイアリはこの20年近くにわたって、治安当局と武装組織とのつながりのことを調べてきた。一度資料庫が謎の「火災」(後に放火と断定)にあっている。何度か報告書が出ているが、最新の報告は2003年かな。
http://cain.ulst.ac.uk/issues/collusion/chron.htm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/2956337.stm



スラオさんのエントリのコメント、15個目がスゴい。ページに貼ってあるGoogle Adsenseが(以下、適当に日本語訳):
国際問題に関心がありますか?
MI6で働いてみませんか? 言語分野で人材募集中です
(ここにURL)

だったそうです。(私が見ると、「ベルファストで最も快適なホテル」などの広告なのですが。)よりによってこのエントリでMI6の求人というのは、ちょっとやばいと思います。

※この記事は

2008年02月11日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 20:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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