http://www.niff.jp/how%20yoon%20lec.htm
ちゃんと読んでちゃんと紹介したいと思っていたのだけれど、そうこうしているうちに時間が過ぎてしまったので、「ちゃんと」は諦めてURLだけ貼っておく。
「北アイルランド紛争」については、日本では「IRAの(イングランドでの)爆弾テロ」以外はほとんど何も伝えられてこなかった。ブラディ・サンデー事件を「IRAのテロ」だと思って人がいても不思議ではないくらいに何も伝えられてこなかった。「カトリック系住民とプロテスタント系住民の対立」という簡略化された説明から、「宗教の違いによる紛争」、「宗教紛争」といった受け取られ方さえあった。尹さんのレクチャーはそういうところを補ってくれるだろう。映画祭で何か映画を見る前にご一読を。
尹慧瑛さんは『暴力と和解のあいだ』というすばらしい本を書かれた研究者さんだ。今回の「映画祭」のプログラムには、この本で対象となっている「プロテスタント側」を描いた映画が入っている(「眠れる野獣」など)。とても貴重な機会だと思う。
![]() | 暴力と和解のあいだ 北アイルランド紛争を生きる人びと 尹 慧瑛 法政大学出版局 2007-04 売り上げランキング : 297268 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
↓以下に2月9日朝追記あり。
尹さんのレクチャーの終盤に、北アイルランドへ新たにやってきた「移民」についての言及があります(「『ポスト紛争』社会としての北アイルランド」の節、およびその直前のパラグラフ)。
http://www.niff.jp/how%20yoon%20lec.htm
2月7日付けBBC NI記事では、「外国語」を使う小学生が「50パーセント近く」増加している、と報じられています。
Rise in foreign language pupils
Last Updated: Thursday, 7 February 2008, 17:07 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7233403.stm
少し細かく記事を見てみると、この4年で親の移住にともなって北アイルランドに来る子供(彼らは母語が英語ではない)の数が劇的に増えており、その数は昨年は3,911人だったのが、今年は5,665人である。
3,911人にせよ、5,665人にせよ、日本の感覚ではそんなに大きな数字には見えないかもしれませんが、北アイルランドは総人口が170万人くらい(2001年センサス)(今はもっと増えていると思います)なので、相対的に大きな数字であると言えます。
ただ、記事にも明示されていますが、これらの「移民」は、多くが「東ヨーロッパ」の人たちです。つまり、「EUの拡大にともなう新たな労働力の流入」です。(これだけでも、いかにも「英国の仕事は英国人に」という主張の人たちをエキサイトさせそうです。)
「北アイルランド紛争」が終わったことで、ある意味新たな「フロントライン」になったかに見える「移民」(の/をめぐる/を受け入れる側の問題)には、ブリテン島への「移民」と同様の「旧植民地がルーツ」の「移民」のほか、「EU域内の移動の自由」と「EUの東方拡大」による「移民」があります。北アイルランドは単純労働を多く必要とする産業が多く、英語を話したり書いたりする必要のないそういった職場に、拡大EUからの(つまり「旧共産圏」からの)働き手が多くやってきているということが伝えられています。また、例えばポーランドは伝統的にカトリックの国で、警察がポーランドからの人を職員として採用しては「カトリックの雇用比率が上昇した」と発表しているなど、やけに「英国」らしい、都合のよい話もあります。
で、「旧植民地」系の「移民」(インド亜大陸系の人たちや香港などからのチャイニーズの人たち)に対するヘイトクライムは、私が日々ニュースを読み始めたころには存在していました。それに加えて、新たにやってきた「拡大EU」系の「移民」へのヘイトクライムもある。(ちなみに、北アイルランドのプロテスタント系武装組織は、C18などブリテンの極右組織とつながっているし、ああいう「我が民族の優越性」思想における「アイルランド人蔑視」は、そもそもが「大英帝国」のアイルランド政策の所産でもあり、また「紛争」においていろいろな要素と結びつきながら、大きな役割を果たした。)
2007年3月のストーモント・アセンブリー(北アイルランド議会: Northern Ireland Assembly)の選挙では、昔の北アイルランド議会(Stormont Parliament)の時代を含めてはじめて、「エスニック・マノリティ」の議員が誕生しています。
http://nofrills.seesaa.net/article/35601889.html
アライアンスからは中国系のAnna Loさんが立候補し(South Belfast)、当選した。エスニック・マイノリティの人がストーモントに議席を得るのは初めてである。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/6431557.stm
北アイルランドには中国系やインド亜大陸系のコミュニティがあり、最近ではEU新加盟国(旧東欧圏)から働きに来ている人たちも多いが、彼らエスニック・マイノリティに対する暴力的な事件はけっこうたびたびニュースになっている。Anna Loさんが「プロテスタント対カトリック」の構図とはちょいと距離を置いてきたアライアンスから立候補して当選したということは、108人の議員の中のたった1人のことではあるけれども、「政治が正常化している」ことを表していると思う。
(なお、アセンブリー議会選挙の選挙権は、英国籍もしくはアイルランド国籍保持でない人にも与えられていた。BBCの記事によると「25カ国の国籍保持者が選挙登録をした」とのことである。)
また、2005年08月12日に「紛争の一部であるヘイト・クライム」と、「紛争とは別の次元のヘイト・クライム」について少し書いているのをそのまま貼り付けておきます。
http://ch00917.kitaguni.tv/e173998.html
■北アイルランド:sectarian violence and other possible violence
北アイルランド,Co. Antrimの村,Ahoghillで,カトリックの人たちの家屋が火炎瓶で襲撃されるなどした。
Attacks prompt fire blankets move
http://news.bbc.co.uk/1/hi/northern_ireland/4135412.stm
Last Updated: Tuesday, 9 August, 2005, 16:41 GMT 17:41 UK
北アイルランド,Co. Ballymena,Ballymena市近郊のHarryvilleでカトリックの教会が襲撃された。
Church attack 'linked to parade'
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4138540.stm
Wednesday, 10 August 2005, 16:50 GMT 17:50 UK
Co. Antrimは,CAINにある地図によると,プロテスタントが人口の50〜70%。Co. Ballymenaは,同じくCAINにある地図によると,プロテスタントが人口の70〜100%。(それでも,これらの地区のカトリック人口は漸増している。これがプロテスタント=ユニオニストにとっての“脅威”である,というのが「北アイルランド問題」の根幹のひとつ。)
ちなみにCo. AntrimもCo. Ballymenaも,現在のMPはDUP。Co. Ballymenaを含む選挙区は,DUP党首のイアン・ペイズリーの選挙区。今年の総選挙では,ペイズリーは54%以上を得票している(投票率61.7%。次点はSFの候補だった)。
Ballymenaのカトリック地域では,今週火曜日にナショナリスト(カトリック系)のパレード(1971年のinternment導入をcommemorateするもの)が行われ,ロイヤリスト(プロテスタント系)が抗議行動をするなどしていた――この抗議行動は,騒乱には至らなかったけれども,機動隊が出動している。
カトリック教会襲撃は,このパレードをめぐる緊張と関係があると警察は見ている。つまり,いわずもがなだけど,ロイヤリストの犯行でsectarian violenceである,という可能性が高い,ということだ。
ユニオニスト政党UUPのMPは,"I am absolutely disgusted by this latest attack on a place of worship. This type of behaviour has no place in our society"(信仰の場にこのような攻撃があったということに非常に怒りを覚える。私たちの社会においてこのような行為は許されない)とコメントし,Antrimでの襲撃について,"mindless thugs"の犯行であるという,極めて強い言葉で非難している。
基本資料であるCAINの無味乾燥な表をじっくり見ている。解説記事より雄弁だ。(統計数字と歴史年表があればいいはずなのだ,本来は。)
これとは別に,先週末行われたゲイ・パレードについての記事。
Northern Ireland's gays march on
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4739815.stm... the hugely outnumbered Stop The Parade (STP) activists stood their ground, bearing witness with dignity to their Christian faith in the teeth of what, for them, is a celebration of sin.
So strong has their feeling been that this year they tried to have the Pride march banned through Northern Ireland's Parades Commission - a body more used to causes coloured Orange and Green, not Pink.
Their bid was rejected but the application made a live issue of an established event, publicising "sensitivities" around the Pride that its organisers had barely noticed in past years.
"It had become more of a carnival, more of a party, but now it has almost turned on its head and become political again," Belfast Pride's Andi Clarke told the BBC News website.
"Because there is opposition, people are actually getting up and saying 'No, hang on, there is a case here, people are not going to be suppressed anymore, not here in Northern Ireland in 2005'.
...
「政治的であるというよりはむしろお祭り」になっていたのに,組織化されたパレード反対運動が,政治的なパレードを許可したり禁止したりする権限を持っているコミッションにゲイパレードを禁止するよう訴えかけたことで,ゲイパレードが再び政治的なものになってしまった,とパレード運営者は語る。One thing you hear repeatedly among the local gay community is that the Pride is one of the few genuinely cross-community events in Northern Ireland, transcending barriers between Protestants and Catholics.
北アイルランドでプロテスタントとカトリックの間の壁を超えたクロス・コミュニティのイベントはそんなに多くなく,ベルファスト・プライドはその数少ないもののひとつであると地元のゲイ・コミュニティの人たちはよく言う。
But there is also a perception that the easing of the Troubles has led to a search for new scapegoats. "The old sectarian tensions aren't an excuse anymore," said Andi Clarke. "I feel people are channelling their anger to the ethnic minorities, to sexual minorities instead."
しかし,the Troubles(=「カトリックとプロテスタント」の軸での武力をともなう衝突)がおさまったことで,あらたなスケープゴートを探すようになってきているとの見方もある。パレード主催者は「宗派間の緊張はもはや口実にならなくなっていて,人々は怒りの矛先をエスニック・マイノリティやセクシャル・マイノリティに向けるようになってきているのではないかと感じられる」と語る。
Many believe the term "gay" was coined as a happy abbreviation for Good As You - something the BBC News website put to STP's Jonathan Larner.
"I most definitely do not regard myself as any better than a homosexual on a moral level - Good As You is quite correct," he replied.
パレード反対団体のひとつであるSTP(stop the parade)のラーナー氏は,「gayとはgood as youのことだと言いますよね」とのBBC記者の言葉に「good as youですか,なるほど。確かに私は,モラルのレベルにおいて同性愛者より自分が勝っているとは思いません」と答えた。【うわー。。。ニック・グリフィンとかがこういう感じだよね。】
His group's aim, he said, was to make gay people aware of the Bible's teachings on homosexuality and their "need of repentance from sin and faith alone in Jesus Christ". STP was, he said, "pigeon-holed as hateful and homophobic" but, in the view of Christians like himself, "the far greater hate would be shown by staying at home and doing nothing".
ラーナー氏の団体の目的はゲイの人々に聖書のおしえに気づかせることである,と氏は語る。また氏は,STPは「憎悪を抱いている」というレッテルを貼り付けられるが,自分のようなクリスチャンから見れば,「家にいて何もしないほうがよほど大きな憎悪を示している」のだと語る。【「憎悪」hatredという語の解釈をめぐるゲームにしたいのか? 前者の「憎悪」は「ホモセクシュアル排斥」,後者の「憎悪」は「神への反抗」(<新約聖書)。】
"To us the sexual gesturing, nudity and innuendo are post-watershed [late evening TV] stuff and not acceptable," Jonathan Larner said.
「私たちにとっては受け入れがたいものです」とラーナー氏は語る。【だから反対運動を組織化している,と。で,「私たち (us)」って誰?】
――記事はこの後,ベルファスト・プライドはラーナー氏の言うようなthe sexual gesturing, nudity and innuendoではないということを行間に漂わせた記述(プライドのサイトで写真を見れば,そんなに強烈な服装の人はいないということがわかります。というか「文化祭」っぽい)の後,欧州各地での様子を説明。
いわく,ドイツのケルンではパレードには強烈な服装の人もいたが,通りにいた人々は特段の反応はしていなかった。このように,モダンなヨーロッパではゲイの人々はコミュニティの一部として受け入れられ,ほかの人たちとは異なったように,かつ同等に暮らしていける。しかるに,リガ(ポルトガル)やブカレスト(ルーマニア)では激しい抗議が起こり,ワルシャワ(ポーランド)ではパレード自体が禁止された(が結局パレードは行われた)。モスクワ(ロシア)では2006年に初のゲイパレードが行われようとしているが,市長はこれを禁止する構えである。
【つまり,近代化されたところではさらりと流されるのに,そうでないところでは抗議運動があったり行政が禁止したりする,ということ。これは遠まわしに,「北アイルランドのプロテスタント勢力=キリスト教原理主義勢力」への批判をしている箇所だろう……“近代化された”英国であるはずなのに,と。】
"Society is finally being trained that discrimination is unacceptable, that we live in a very diverse world and that people need to accept others," Andi Clarke said.
パレード主催者は「社会はようやく,差別は許容されないものなのだということがわかりつつある。私たちの暮らす世界は多様性の世界であり,他者を受け入れなければならないということがわかりつつある」と語る。
As the balloons drift out over the Irish Sea, this year's dispute in Belfast may be remembered for one positive aspect.
During the Parades Commission's mediation, the Pride committee sat down for talks with the Christian protesters - a first according to both sides. If they did not reach much agreement, at least the flags and placards were down.
今年のベルファスト・プライドは論争となったが,ひとつ明るい材料を残した。コミッションでの仲裁の際に,パレード主催者がキリスト教(の信仰に基づく)抗議者たちと同じ場で話をしたのである。両者とも,これは今までになかったことだと述べている。合意に至ったとはとても言えないが,抗議のプラカードや旗は降ろされた。
PIRAの武装闘争終結宣言で,「カトリックかプロテスタントか」が終わろうとしているときなのだが(一部でそれに対する抵抗があるのが,冒頭のCo. AntrimとCo. Ballymenaでの襲撃だろうと思う),状況は,決して楽観的ではいられない。
「ゲイかヘテロか」「白人か有色人種か」は,実は北アイルランドではかなり前からある。13 January, 2004にはBBCに,Race hate on rise in NIという記事が出ているので参照されたい。
一例としては,ベルファストのチャイニーズ&フィリピーノのコミュニティに極右のスローガンとスワスティカがスプレーで描かれたこともあったし(2004年),ベルファストでの人種差別・同性愛差別の襲撃は週に5件以上起きているという統計も出ている(2004年)。2004年10月には,ベルファスト南部にチャイニーズ文化センターが作られたが,そのときには何者かによって,このエリアに住み働いているチャイニーズは,『このコミュニティのブリティッシュネス(Britishness)をだめにする』と書かれたビラがまかれた。(BBC記事)
このとき,極右政党DUP所属のカウンシル議員は「地元の人々が反対しているのだから,別な場所を選ぶべきでしょう」とコメントしている。(上記BBC記事参照。)
「民意」というかぶりものを着けた,何らかの意図。
■参考:
Belfast: Christian Anger Over Gay Pride Parade
Agnosticism/Atheism Blog
http://atheism.about.com/b/a/182181.htm
この記事はかなりすばらしいツッコミ具合である。
■追記:
2003年12月25日にここでBNPについて書いてました。
それから、つい昨日(2月8日)の「ヘイト・クライム」のニュース:
Gay couple is 'being forced out'
Last Updated: Friday, 8 February 2008, 06:51 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7234009.stm
デリーの Creggan 地区に住んでいる年輩の男性カップル(ひとりは身体が不自由)が、「出て行かないと家に火をつけてやる」と脅され、Rainbow Projectが非常に憂慮している、という報道。「出て行かないと家に火をつける」云々は、「紛争」の文脈でも、あるいは2000年代のロイヤリストの内紛の文脈でも、多く発生した脅迫です。
それと、かすかではあっても「紛争」のコンテクスト(それ系武装組織の犯罪行為をめぐる争い、など)にあるのか、単純な「ヘイト」なのかわからないけれど、トラヴェラー(アイリッシュ・ジプシー)の男性が、出産間近の妻と幼い子供の目の前で、乱入してきた男たちに鉈や手斧で惨殺された、という事件。これもつい数日前(2月7日報道)。事件に関連してデリーで3人逮捕されているとも(続報@8日によると、このうち1人は釈放され、別の2人が逮捕された)。
Pregnant wife sees husband killed
Last Updated: Thursday, 7 February 2008, 19:57 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7232668.stm
※この記事は
2008年02月08日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【todays news from uk/northern irelandの最新記事】
- 【訃報】ボビー・ストーリー
- 【訃報】シェイマス・マロン
- 北アイルランド自治議会・政府(ストーモント)、3年ぶりに再起動
- 北アイルランド紛争の死者が1人、増えた。(デリーの暴動でジャーナリスト死亡)
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (2): ブラディ..
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (1): ディシデ..
- 「国家テロ」の真相に光は当てられるのか――パット・フィヌケン殺害事件に関し、英最..
- 北アイルランド、デリーで自動車爆弾が爆発した。The New IRAと見られる。..
- 「そしてわたしは何も言わなかった。この人にどう反応したらよいのかわからなかったか..
- 「新しくなったアイルランドへようこそ」(教皇のアイルランド訪問)