昨年11月にデリーで発生した警官銃撃事件で身柄を拘束され尋問を受けた「非主流派リパブリカン」のひとりで、Real IRAの政治組織である32CSMの主要メンバーであるガリー・ドネリーのインタビュー。「ある日曜紙」のインタビューの内容を、29日付でデリー・ジャーナルがまとめている。
http://www.derryjournal.com/politics/Provos-shouldnt-exist-anymore-.3720749.jp
しばらく前に私がふざけて書いた「ケータイ小説風」と合わせてどうぞ。
記事要旨:
Published Date: 29 January 2008
Location: Derry
Provos shouldn't exist anymore - Derry dissident
「Provisional IRAはもはや存在すべきではない」とデリーの非主流派リパブリカン語る
非主流派リパブリカンの主要人物であるガリー・ドネリーは、ある日曜紙のインタビューで、「もはやProvisional IRA(IRA暫定派、いわゆる『IRA』)はもはや存在すべきではない」と語った。
ドネリーは、クレガン出身で、2005年のデリー市議会選挙で無所属で立候補するも落選したことのある、32CSM【注:詳細は下に】の主要メンバー。
インタビューでドネリーは、アイルランドにおける英国の支配に「武装して抵抗する」ことを自分は支持している、「それは正当なもの(legitimate)だ」と述べた。
「もはや、PIRAは存在すべきではない。(今のPIRAは)何のための組織なのか。(P)IRAは、アイルランド内の英国と戦うために設立されたものである。IRAの設立の主旨を無視するのであれば、存在すべきではない(解散すべきである)。」
あー、ちょっと一息。
昨年7月末で、英軍は「オペレーション・バナー」を終結させ、兵員を撤退させた。つまり、仮に北アイルランドの英軍を「外国の占領軍」と位置付けるにせよ、「legitimateな抵抗」をするにも、もはや相手がいなくなっている。確かにPIRAは何のための組織なのかわからない。だが、Real IRAだって何のための組織なのかわからない。そして、Real IRAが何のための「武装闘争」をしているのかはわかると仮定しても(つまり、それが「統一アイルランド」のための闘争であると仮定しても)、誰に対する闘争をしているのか、私にはさっぱりわからない。いや、彼らが北アイルランド警察を「英国の勢力」と見なしていることは知っているが、だからといって警察官を銃撃するようなことが「正当な武装闘争」かというと、意味不明としか言いようがない。
というか、彼らのやりたいことは「アイルランドの統一」なのではなく、「武力によるアイルランドの統一」なのだ、というふうにしか読めない。「軍事的解決などというものは存在しない (There is no miitary solution.)」ということばは、イラクやアフガニスタン、パレスチナやレバノンだけでなく、北アイルランドについても言われてきたことばなのだが(何しろ英国防省の公式の報告書もそういう調子であったのだし)、このハードコア・リパブリカンの辞書には、「解決」というものは「軍事的」なものでなければならない、とでもあるのだろうか。
で、その「武装闘争」のターゲットが、最近では「大規模な小売店舗(IRAの定義では『経済的標的』になるのだろうが)」だったり(焼夷性爆発物による放火攻撃)、「カトリックのくせに北アイルランド警察の一員になった人物」だったりする。むろん、報道されるのは実行された攻撃だけで、実行されていない攻撃のなかにはもっといろいろなターゲットへの攻撃があるのだろうが。
……などということは、「紛争」とは直接関係のないよそ者が、こんなところで言うまでもないことだ。
続き。
ドネリーは、PIRAはシン・フェインの指導部によって「ぼろぼろにされてしまった」と語った。「昔は『銃弾1発たりとも、爆薬1オンスたりとも渡さない "not a bullet, not an ounce"』【注:IRAのスローガン。参考記事@2005年】と言っていたではないか。(しかし、シン・フェインの指導部の推進した「和平プロセス」で、PIRAは武器を放棄したのだから)多くのリパブリカンは騙されたということに気付いている。」
"not a bullet, not an ounce" というスローガンは、象徴的であるからこそスローガンになっていたはずだ。しかし彼にとっては、そのスローガンの言う内容が「目的」になっているようだ。
とすれば、もはや「政治的主義主張」ではない。Real IRAは、その意味で、「政治的暴力」の主体ではなく(つまり、「テロリスト」ではなく)、「爆弾魔」とか「銃火器不法所持」とか、そういうものに限りなく近づいている。
# というところであまり脈絡なく思い出したのだが、UDAから追放された元幹部が自宅で射殺されたときに、警察はそれを「テロリズム(政治的暴力)」としてではなく、「犯罪」として扱っていた。
ドネリーは、Real IRAとContinuity IRAは、武装闘争において「団結すべき」だと述べている。「そうするのが当然のことだ。団結することには強さがある。」
「リパブリカニズムがひとつにまとまるのを見たいと思っている。グループが2つあるよりも1つの方が効率的だ、その方が理にかなっている。」
なんかもう、読んでてムカムカするし、日本語にする価値もないという気が1文字ごとに増すばかりだったのだけれども、「ケータイ小説風」とかいうフザけたことをやっておいて、こういう直接のことばをスルーするのもいかがなものかと自分でも思ったので、デリー・ジャーナルという地域新聞のウェブサイトで紹介されていた機会に、一応、ということで。
なお、デリー・ジャーナルの記事には、ドネリーは "the 32 County Sovereignty Committee" の主要人物だとあるが、CommitteeではなくMovement、つまり "the 32 County Sovereignty Movement" のはず(Committeeは旧称)。これ、正直わけわからんのですが(デリーの新聞でも混乱している、というのは、むしろ「ああ、よかった」という感じだ)、politics.ieのwiki辞典の記事がクリア。(グッドフライデー合意のときにシン・フェイン内部で「合意反対派」として結集したのが "the 32 County Sovereignty Committee" で、後にシン・フェインから離脱して "the 32 County Sovereignty Movement" と改称した。)
ちなみに、32CSMであれ32CSCであれ、"32 County Sovereignty" というのは、「アイルランド島全体の32州はひとつの国である」という認識/主張を示す。もっと簡単にいえば「統一アイルランド」である。彼らはアイルランドの南北分断に反対する立場(「北アイルランドは英国の一部である」という立場の反対)の中でも最もハードコアな一派であるが、数でいえばシン・フェインとは比べ物にならないほど小さな勢力のはずだ(正確な人数などは発表されていないが)。
※この記事は
2008年01月31日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【todays news from uk/northern irelandの最新記事】
- 【訃報】ボビー・ストーリー
- 【訃報】シェイマス・マロン
- 北アイルランド自治議会・政府(ストーモント)、3年ぶりに再起動
- 北アイルランド紛争の死者が1人、増えた。(デリーの暴動でジャーナリスト死亡)
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (2): ブラディ..
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (1): ディシデ..
- 「国家テロ」の真相に光は当てられるのか――パット・フィヌケン殺害事件に関し、英最..
- 北アイルランド、デリーで自動車爆弾が爆発した。The New IRAと見られる。..
- 「そしてわたしは何も言わなかった。この人にどう反応したらよいのかわからなかったか..
- 「新しくなったアイルランドへようこそ」(教皇のアイルランド訪問)