「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年01月23日

ガセネタの流し方@デイリー・メイル流

少し前のことになるが、デイリー・メイルのデマ報道の余波の実例として、メモ。自分もヘッドラインだけ読んで、それが「デイリー・メイルによると」だということを知らずに、事実だと思い込んでいたので。(実際にメイルの記事を読んでいたら、事実を伝える記事の形式になっていないから、「これは事実ではない」という方向で見ていただろうけれども。詳細後述。)

J・デップさんの寄付は誤報 美談の英小児病院が否定
2008年01月19日00時44分

 米人気映画俳優ジョニー・デップさんが、英国の小児病院にひそかに大金を寄付していたとの報道について、寄付を受けたと伝えられたロンドンの小児科専門病院グレート・オーモンド・ストリート病院は18日までに、寄付の事実はないと否定した。……

 15日付の英紙デーリー・メールは、デップさんが映画撮影のため家族とロンドンに滞在中、娘(8つ)の急病を救ってくれた同病院に100万ポンド(約2億1000万円)を寄付したと報じていた。(時事)

http://www.asahi.com/culture/update/0119/JJT200801180003.html


このデイリー・メイルの「報道」の元記事は:
Johnny Depp's £1m gift for Great Ormond Street, the hospital that saved his daughter's life
By RICHARD SIMPSON
09:28am on 15th January 2008
http://www.dailymail.co.uk/pages/live/articles/showbiz/showbiznews.html?in_article_id=508227&in_page_id=1773

これに基づいた別のメディアでの「報道」の例は、下記など:
http://www.earthtimes.org/articles/show/174274,johnny-depps-token-of-gratitude-to-london-hospital-worth-2-million.html
Britain's Daily Mail reports that Depp visited the hospital personally just one day after winning a Golden Globe for the Best Actor in a Motion Picture Musical or Comedy. His daughter Lily-Rose was admitted to the hospital in March last year after she developed kidney failure following an E.coli infection.

↑すっかり《事実》として扱っている。

デイリー・メイルの記事の冒頭:
Johnny Depp secretly visited Great Ormond Street Hospital yesterday to donate £1 million of his own money to thank staff for saving his daughter's life.

He arrived unexpectedly at the London children's hospital where eight-year-old Lily-Rose was treated last year when her kidneys failed.

記事はこのあともずーっと続いているが、「娘が入院していた病院に100万ポンドを寄付していた」という《事実》についての記述は、これだけしかない。

通常ならば、この後の部分で「病院関係者のコメント」とか「デップのマネージメントのコメント」などが続くはずであるが、そういうものは一切ない。

後続の部分:
Last week he invited five Great Ormond Street doctors and nurses to the party for the London premiere of his film Sweeney Todd.
↑これは「スウィーニー・トッド」のプレミア試写会のときの《事実》だが、「デップが寄付をした」ことの根拠にはならない。

And on November 29, unknown to the public, Depp spent four hours at the hospital telling bedtime stories to patients dressed as Captain Jack Sparrow after having his Pirates Of The Caribbean costume flown over from Los Angeles.
↑11月29日にデップが病院を訪れて朗読会を行なった、というのが《事実》だとしても、それはデップとこの病院のつながりの深さを示すだけで、「寄付」の事実の根拠ではない。

In March last year, Lily-Rose spent nine days at Great Ormond Street after E.coli poisoning led to the failure of her kidneys. ...以下、娘の病気についての説明の記述。Sweeney Todd撮影中に滞在していたリッチモンドの家で感染したようだ、感染後容態が重くなり、映画の撮影は中断された、デップはこのときのショックを「ほんとうに恐ろしいことだったが病院がすばらしい医療をしてくれた」と語っている、など...

Disney, which made the Pirates Of The Caribbean films, will also today donate £10million to Great Ormond Street, which needs to raise £170million in five years to re-develop two-thirds of the hospital site.
↑ディズニーがこの病院に1000万ポンドを寄付、という《事実》と、病院が1億7千万ポンドを必要としているという《事実》。これを「デップが出演しているパイレーツ・オヴ・カリビアンを制作したディズニーは」と書くことには、「デップが多額の寄付」という根拠もありもしないことを《事実》として固める効果。

Meanwhile, ...以下、唐突に、Sweeney Toddのティム・バートン監督がついにヘレナ・ボナム・カーターと結婚へ、という話が記事の最後まで。


「スクープ」の第一報の段階でならこういう書き方の記事はどのメディアでもありがちだとしても、この記事のように、記事の中に具体的な根拠の示されないような記事は、はじめっから信用するものではない。特にそれがデイリー・メイルとかザ・サンのようなものである場合には。

比較材料として、ディズニーの寄付を報じるthe Evening Standard (the Daily Mailと同じグループだけれども) の記事:
http://www.thisislondon.co.uk/standard/article-23432472-details/Disney+helps+Great+Ormond+Street+with+%C2%A310m+fundraiser/article.do
Great Ormond Street Hospital has enlisted the might of Walt Disney and his characters to help it raise £10 million.

The trust today signed Disney's biggest charity deal outside the US and received an initial £1 million. Under the deal, Great Ormond Street could feature in Disney films, television shows and theme parks. Cartoon characters will be used to promote the trust and convince people to donate. Almost 70 years ago Walt Disney signed his first deal with Great Ormond Street to buy the animation rights to the Peter Pan story - bequeathed to the hospital by its author JM Barrie. Today Disney's current president, Robert Iger, handed over the first £1 million donation as children at the hospital learned to draw the popular cartoons.

The money raised will go towards building a new wing that will include a Disney "interactive" zone with moving cartoon characters to entertain patients.

Mr Iger said: "We will use our business, its workforce and its much loved characters in support of this world-class hospital."

A fundraising website has been set up and the first 50 people to donate will get a rare Peter Pan lithograph from the Walt Disney studios in California.

Speculation was growing about the role of actor Johnny Depp in the hospital's fundraising plans.

引用文中で太字で示した箇所のように、《事実》として固まっているもの(書類にサインしたこと、社長がコメントしていること)がはっきりと書かれている。

なお、この記事では「ジョニー・デップの寄付」のことは、"It was claimed that ..." で書かれているのだが、そのすぐあとに "But a spokeswoman said: 'That is incorrect.'" とある。

まあ、ディズニーとこの病院との歴史的な関わり(ピーターパンの権利をめぐって)があるところに、病院の財政的苦境と、ディズニーの商業的思惑がうまく重なって、「ディズニーの巨額の寄付」が実現したことは間違いはないが、それについて、ディズニーの大ヒット映画の主演俳優であるジョニー・デップが何か役割を果たしたのかどうかは不明だ。

にしても、この病院とディズニーとの関わりの「秘話」みたいなところ (Almost 70 years ago Walt Disney signed his first deal with Great Ormond Street to buy the animation rights to the Peter Pan story - bequeathed to the hospital by its author JM Barrie.) はかなりおもしろい。



「デップが寄付」のデマ報道に似たような事例として、「英国ではサンデーエクスプレスが13日、昨年11月にウガンダ開催の英連邦会議で、エリザベス女王を狙った爆弾テロが未然に阻止されていた、と報じた。犯行グループはアルカイダ系の過激派とされ…」という報道(朝日新聞)があった(2008年1月13日)。これはさすがにネタ元が「サンデーエクスプレス」という時点で危険なにおいが充満しているのだが、案の定、BBCでは報じていない(→BBCは、そういう発言があったかどうか、発言内容は虚偽でないかどうかなど、事実としての裏取りをちゃんとやる)。

以下、自分のはてなブックマークから。
http://www.express.co.uk/posts/view/31296/Plot-to-kill-Queen-foiled
追加日 2008年01月13日
Google Newsで"Queen plot al qaeda"で検索して、見事にサンデーエクスプレスだけ。しかもSEの記事が出て13時間も経過している。本当にそのようなことがあったのなら、メイル、テレグラフが書かないのが意味不明。

http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2008/01/13/nqueen213.xml
追加日 2008年01月14日
んー、テレグラフは「話半分」だな。/BBCはまだ。


日本の新聞各社さんは「エクスプレスによると」なんていう物悲しい記事を書かないようにしていただきたいと思う。「ネタ元がメイルやサン」はさすがに見慣れてしまったが、「ネタ元がエクスプレス」ってのはほんとにひどすぎる。

自称、"The World's Greatest Newspaper" であるところのエクスプレスについては:
http://en.wikipedia.org/wiki/Daily_Express
The Daily Express is a conservative, middle-market British tabloid newspaper.

「百科事典」らしく押さえた記述になっているけれど、右翼(外国人排斥など)で、ダイアナ謀殺論とかも大好き。

この新聞の社長、リチャード・デズモンドは中卒でソーシャリストで、お下劣エロエロ系タブロイドのStarの社主だったという経歴のかなりおもしろい人物。書くことに根拠があるかどうかは、インパクトがあるかどうかの次だ、という考えの持ち主のようで、そういうことがわかっててエクスプレスを読むならそれはそれでいいと思うけれど、このタブロイドの書くことを「英国での報道」としてフラットに受け止めるのは、根本的に痛い茶番だし、それ以上に危険だ。

※この記事は

2008年01月23日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 07:36 | Comment(0) | TrackBack(1) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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想像上のチャーチル
Excerpt: 笠原十九司さんの「南京事件論争史」(平凡社新書、2007年12月刊)を読み始めた。副題に「日本人は史実をどう認識してきたか」とあり、「明白な史実がなぜ問題とされるのか。否定派のトリックを衝く、『論争』..
Weblog: 壊れる前に…
Tracked: 2008-02-05 00:20

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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