「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2007年12月04日

今度はナショナル・アンセムに「問題」との指摘が。

「国旗にウェールズが入ってないのってどうよ」問題が(なぜか日本で)やたらと盛り上がったばかりだが、今度は国歌、今度はスコットランド。

いやもうUnited KingdomのUnityについてのテレグラフの記事は、「テレグラフも好きねぇ」で流しておけばいいのだが――おそらくスコットランド人が率いる労働党が必死に「ユニティ、ユニティ」と連呼するのを見てニヤニヤしている保守党、ということだと思うので――、これは単に好奇心を満たすものとしてもおもしろいので。

National anthem 'could be anti-Scots'
By Gary Cleland
Last Updated: 1:03pm GMT 03/12/2007
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2007/12/03/nanthem103.xml

ブレア退陣までアトニー・ジェネラルだったロード・ゴールドスミス(ブレアの盟友)が、現在はa citizenship reviewを担当していて(←すみませんが、具体的に何のことかわからないし、調べている労力が惜しいので、英語のままで)、それで「UKの国歌の歌詞に問題あり」と指摘した、との報道。

探してみたらPA(通信社)の配信記事もあった。
http://www.guardian.co.uk/uklatest/story/0,,-7121781,00.html
これによると、Sky Newsでの発言だとのこと。

ともあれ、ロード・ゴールドスミスが指摘しているのは、まず歌われることのないすごく後ろのほうの歌詞が、「1つのまとまりとしての連合王国」という点ではよくない、と――具体的には、スコットランド人はいい顔をしない内容である、ということだそうだ。

テレグラフの記事から:
He said that there were problems with some of the later verses of the anthem, which refer to "rebellious Scots" being crushed.

Lord Goldsmith said: "Part of it is not actually that inclusive, but that's if you go on to the later verses.

うははは。また「我が国の歴史と伝統」しか言うことのないような人たちが「ゆきすぎたポリティカリー・コレクト」と憤激しそうなことを。(笑)

UKのナショナル・アンセムは、あの有名なGod Save The Queenである。……と、ここで歌詞を参照しようとen.wikisourceを見たが、その「問題」の箇所がない。「そんなはずは……」と思って履歴をさかのぼると、今年の10月19日にそれを含む部分が削除されている。ははは。(^^;)

そういうわけで「問題」の箇所をまたここに引っ張り出してくるのも気が引けるのだが、資料ということで引用せざるをえない。
Lord grant that Marshal Wade
May by thy mighty aid
Victory bring.
May he sedition hush,
And like a torrent rush,
Rebellious Scots to crush.
God save the Queen!


en.wikipediaによると:
http://en.wikipedia.org/wiki/God_Save_the_Queen#British_lyrics
この箇所は18世紀半ば、ジャコバイト鎮圧のときに付け加えられたもので、短期間であったとはいえ、よく歌われたのだそうだ。ただし「英国の国歌の歌詞」の定本と見なされるもののひとつであるthe Gentleman's Magazineの歌詞には含められていなかった。そして、18世紀終わりにこの曲が「連合王国の国歌」となったときには、この歌詞は消えていたらしい。

じゃあなぜロード・ゴールドスミスが2007年にこの部分のことを取り沙汰しているのか、といったことは謎である。たぶん英国人に聞いてもわからないと首をひねるか、ものすごく話が長くなるか、歴史の講釈を聞かされるか、とんでもないホラ話を聞かされるか(sense of humourの名の下に!)のいずれかだろう。

しかし血なまぐさいことよのぅ。。。第一、ジャコバイト(カトリック)の反乱なら、対立軸は「プロテスタントとカトリック」であって、「イングランドとスコットランド」ではないだろうに、そこであえて「スコットランド人」というシニフィアンを持ってくる、という挑発っぷり。さすがは俺様帝国だ。(正直、今の合衆国よりよほど俺様メンタリティだからね、第二次大戦までのイングランドは。)

英国はフランスに対して、冗談半分であれ、「お約束」であれ、「とりあえずけなしておく」ということをときどき(ORひんぱんに)行なってきたのだが、その際にトピックとなったもののひとつが「フランスの国歌の歌詞がやたらと血なまぐさい」ということだ。

だが、「スコットランドの反乱者を」のくだりとか見ちゃうと、「ひとのこと言えないじゃん」としかいいようがないというか、フランスは「立ち上がる民衆」というロマンティシズムがあるけれども、イングランド/英国は「反乱者どもを鎮圧する国家」、むしろ「テロとの戦い」であって、ロマンティシズムのカケラもないじゃん。

6番とは異なり、今でもときどきは歌われるらしい2番でさえこの調子だ。
O Lord, our God, arise,
Scatter thine enemies,
And make them fall
Confound their politics,
Frustrate their knavish tricks,
On thee our hopes we fix:
God save us all.

「連中の政治を混乱させ、連中の狡猾なトリックを滞らせたまえ」なんて、ねぇ、あまりに露骨。

まあ、そんなことはどうでもいい。

というわけで、ロード・ゴールドスミス(<イングランド出身)が、アンセムの歌詞の「スコットランドの反乱者どもを叩き潰せ」の部分はよろしくないのではという指摘をしたのだが、首相官邸は「貴重なご意見ありがとうございました」で右から左へ受け流しているらしい。テレグラフから。
But last night, Number 10 made clear that Lord Goldsmith's plan was not backed by Gordon Brown, himself a Scot representing a Scottish constituency. ←この箇所、テレグラフはおもしろがりすぎである。

A Downing Street spokesman said: "This does not reflect the Government's views.

"We are proud of our national anthem and the traditions it represents."

ダウニング・ストリートのスポークスマンは、ここまで中身のない返答をする才能があるということはわかった。

一方で、保守党の人もキィキィ言っているらしい。
Lord Goldsmith's suggestion also brought an immediate rebuke from a Tory MP who warned that such a change could lead to the "unravelling all sorts of things".

Andrew Rosindell, MP for Romford in Essex, told the Daily Telegraph: "I don't think we need to change the national anthem. It's an historic anthem."

この議員さん、1966年生まれとそんなに年でもないが、何度か立候補しては落選を繰り返して(しかもグラスゴー選挙区で擁立されたことがあるそうだが、スコットランドで保守党の候補かぁ……にやにや)、2001年に初めてエセックス州の選挙区から当選した。このときに自分の飼い犬(ブルテリア)にユニオン・ジャックの服を着せて、選挙運動で連れ歩いたらしい。このときに完全に劣勢に立っていた保守党のなかで最高の結果を出した同議員は、順調に階段をあがり、現在はOpposition Whip(<日本語でどういうのか知らないので英語のままで)だそうだ。

で、そういう人が "It's an historic anthem." (これは歴史的なアンセムである)として「一切の変更を認めない」と強硬な姿勢を示している連合王国の国歌だが、実はそうがっちがちに固められたものではない。
http://en.wikipedia.org/wiki/God_Save_the_Queen
The authorship of the song is unknown, and beyond its first verse, which is consistent, it has many historic and extant versions: Since its first publication, different verses have been added and taken away and, even today, different publications include various selections of verses in various orders.

曲を書いたのが誰なのかはわかっていない。また、1番はしっかりと歌詞が固まっているが、そのあとには幾多もの歌詞があり、それらは歴史的なもので現在は消えてしまっている。最初に出版されたあとに多様な歌詞が付け加えられ、また削除されている。こんにちでさえ、この版はこの歌詞、あの版はあの歌詞というようになっており、歌詞の順番も一定しない。

保守党の議員が言うhistoricの意味がわからなくなってくる。(「伝統、伝統」とうるさい人のいう「伝統」とか「歴史」が、実はごく曖昧にしか定義されていない、というのはよくあることである。)

っていうかリキテンシュタインの国歌が同じメロディだし。
http://en.wikipedia.org/wiki/Oben_am_jungen_Rhein

と思ったら、「同じメロディ」がこんなにもあった。(^^;)
- My Country, 'Tis of Thee; patriotic in the United States, sung to the same music.
- Oben am jungen Rhein; national anthem of Liechtenstein, sung to the same music.
- Heil dir im Siegerkranz; national anthem of the German Empire from 1871 to 1918, sung to the same music.
- Molitva russkikh; considered to be the first Russian anthem, sung to the same music.

http://en.wikipedia.org/wiki/God_Save_the_Queen

ドイツはつながりがある(18世紀には同君連合だったし、ドイツはハノーヴァー朝、つまり現在のウィンザー朝の出身地)。リヒテンシュタインはドイツからこのメロディを受け継いでいるのかなあと思う。でもロシアは……なんだろう、わかりません。ナポレオン戦争が関係してるっぽいけれども。

ところで、このアンセムは、今は国家元首が女性だからGod Save the Queenだけれども、男性が元首の場合はGod Save the Kingとなる、というのは誰でも知っている話。さしもの保守党も「歴史と伝統がどうのこうの」を根拠に「変更はならぬ!」と主張はしないのがこの点だ。

それはそうと、スコットランドといえば、つい数日前、「えええええーーー」と驚愕する記事を見た。スコットランド民族党(SNP)が、地方行政レベルで、保守党との協力を一定範囲で解禁したそうだ。(正確には、「あらゆる団体・個人との協力は、党執行部の承認を受けて、行なっていくこと」としたのだそうだ。そして「あらゆる団体」は保守党を除外しない。)

SNP approves working with Tories
Last Updated: Saturday, 1 December 2007, 17:15 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/7122304.stm

SNPは、サッチャー政権下で保守党との協力を全面禁止していた。今回の解禁でスコットランド自治議会には特に大きな影響はないにせよ、地方自治体レベル(市議会とか)での協力が行われていくことになる。

地方自治体の議会の議員は比例代表制で選ばれるようになっていて、現在、議会は多くの政党の議員で構成されている。このため、1つの有力な党が議会をコントロールするという形ではなくなっているので、現実的に、「あの党とは絶対協力してはダメ」ということはできなくなった、という事情のようだ。

SNPと保守党といえば常に対立しているもの、という前提は、少しだけかもしれないが、崩れたことになる。うむー。


※この記事は

2007年12月04日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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