kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2007年11月21日

紛失した2枚のディスクと、人口の4割の個人情報

まったくもう、どこの何がどうなってこうなったのか。

英国で、育児手当受給者2500万人分の個人情報(受給者本人・子供・配偶者/パートナーの住所、氏名、性別、生年月日、銀行口座情報、国民健保番号)が入ったディスク(記録メディア)の紛失というとんでもなく大規模な「データ流出」が起きて大騒ぎになっている。

問題のディスクは、先月18日にいつもどおりに役所から役所に送る際に行方がわからなくなった。しかもデータをディスクに焼くのは規程違反であった上に、ディスクの中身の保護はパスワードだけ(データが暗号化されていなかった)。さらには、送る際に書留の扱いがされていなかった(こういうのを送るのは郵送ではなく、役所間の書類などのやり取りのための専用のクーリエ便ではあるが)。今年だけで既に3度、このようなディスクのやり取りが行なわれていたという。

これは個人情報保護法違反で、発送元の役所(HM Revenue and Customs:歳入関税庁)の長官は、発覚後すぐに引責辞任した。ホワイトホールでは信頼のあつい人だったそうだ。

現在もロンドン警察が捜査しているが、ディスクがなぜ消えてしまったのか、ディスクはどこにあるのかなどはわかっていない。ダーリング財務大臣によると、今のところ特に被害の報告はない。だが、第三者が銀行口座に直接アクセスすることは難しいにせよ(PINやら何やらあるので)、その口座番号でクレジットカードや携帯電話を契約するなどのことはできてしまう。紛失した2枚のディスクに入っているデータは、詐欺師にとっては喉から手が出るようなものだろう。それに子供の個人情報は、なるべくなら秘匿しておきたい性質のものだ。

とりあえず何がどうなっているのか、どうすればよいのかについてのまとめ的な記事は:
Q&A: Child benefit records lost
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/7103828.stm

to doの一番重要な部分だけを抜粋すると:
・銀行口座に変な動きがないかどうかを確認すること。変な動きがあればすぐに銀行に連絡をすること。
・子供の名前とか生年月日などの安易なパスワードを設定している場合はすぐに変更すること。
・郵便物の紛失、心当たりのない請求などには特に気をつけること(など、常識的な対処)。

HMRCのヘルプラインの番号:0845 302 1444

2500万人分のデータというと、ざっと東京都の人口の2倍、というか英国の人口がだいたい6000万人だから総人口の4割超だ。この規模の大きさたるや、どんぶり勘定しただけでもぞっとする。

数年前から、英国政府は国民全員にIDカードを発給することを計画しており、おそらくサイバー犯罪対策には熱心に取り組んでいるのだろうと思う。でも今回のこのものすごい規模のblunderは、スーパーハッカーやクラッカーがキーをかしゃかしゃ叩いているサイバーワールドで起きたことではなく、物理的に形のあるディスクの紛失、それも作業がルーティーン化しているところでありがちな手続きの省略(「手抜き」ともいう)が原因で起きたことだ。

英国ではメディアの調査取材でときどき「記者があえて誰かに成りすまして成功するかどうかをみる」という企画があるのだが、何年前だっけな、黒髪で目の不自由なデイヴィッド・ブランケット大臣(当時内務大臣だったと思う)の個人情報を使って、金髪で目に特に問題はない記者が、「デイヴィッド・ブランケット」名義のID(パスポートか何か)を取得できてしまった、ということがあった。当時既に労働党政権は「国民全員にIDカード(国民総背番号制)」のプランを打ち出していて、「にせブランケット」の件で「無理無理」という反応と嘲笑を、広い範囲から買ったのだったと記憶している。

だが、今回のはそれをはるかにしのぐ重大事態だ。

BBCのご意見投稿の下記の投稿がすべてを言い表している。
Added: Tuesday, 20 November, 2007, 23:16 GMT 23:16 UK
(Rachelさん)
... I certainly will never have an ID card, I would not trust any government agency to look after any more personal details about my family and I.
IDカードなど絶対に持ちません。私や家族の個人情報をこれ以上役所に任せるなど、できません。

Added: Tuesday, 20 November, 2007, 23:16 GMT 23:16 UK
(Sarahさん)
I cannot believe this. I shred all personnal information, I check my statements, I am vigilant when it comes to identity fraud so what happens, the government that I did not elect hands out more than enough of my personal information for anyone to steal my identity. This is more than a fiasco, how many more times do we have to hear about governmental - mistakes (edited here)! ...
信じられない。私は自分の個人情報が記載されているものは何でもシュレッダーにかけているし、銀行の残高などは確認しています。個人情報を盗んでなりすまされてはたまらないので。なのにこれですか。私が票を投じてもいない政府が、私の個人情報を、はいどうぞと差し出した。こんなことをされては誰でも私になりすますことができてしまう。これはただの「大失敗」ではありません。まったく、いつまで政府の失敗とやらの話を聞かされなければならないんでしょう。

Added: Tuesday, 20 November, 2007, 23:09 GMT 23:09 UK
(Ashleyさん)
... How can we possibly trust this government with anything anymore? ... Surely no one can have any confidence left in this government and its ability to fulfil its primary obligation, which is to protect the citizens of this country.
この政府を、これ以上、信頼できるはずがありません。どんなことに関しても信頼などできるはずがない。この政府への信頼が少しでも持てる人など、もういません。この政府が何をおいてもまず為すべき義務、つまりこの国の市民を守るという義務を果たす能力があると思える人なんか、もういません。

日本国民としては、長年にわたる「消えた年金」とか、長年にわたる「原発のトラブル隠し」とか、何年も放置された「フィブリノゲンを投薬された人のリスト」とか、いろいろと思い当たるフシがある。で、「政府・与党への信頼が地に落ちた」というのは、日本では「最大野党に政権担当能力があるか否か」という(何だか聞かされているこちらが「この国はどこの一党独裁国家ですか、都合のいいときだけドイツの大連立の話などして」と絶望しながら恥ずかしくなってくるような)ハードルがあるのだけれども、英国の場合は保守党と労働党の二大政党が入れ替わりながら政権を担当してきたわけで、つまり、ゴードン・ブラウンの労働党上層部は今ごろ、「やっぱり最初に思いついたとおり、11月初めに解散・総選挙しておけばよかった」と思っているに違いない。

だいたい、HMRCとNAOがデータをシェアするというのは問題ないんだろうか。

ガーディアンから。

Lost in the post - 25 million at risk after data discs go missing
Patrick Wintour, political editor
Wednesday November 21, 2007
http://politics.guardian.co.uk/homeaffairs/story/0,,2214459,00.html


このように、見出しのすぐ下のリード文に、「保守党はこの紛失事件でIDカード構想は死んだ」と書いているが、実際にはそんな程度の打撃では済まないだろう。

トニー・ブレアは国民と国会議員を欺いてイラク戦争を行ない、ゴードン・ブラウンは国民の半数の個人情報を紛失。「それでもまだ保守党よりは労働党がよい」と考えてくれる人たちは、単に数として、そう多くはないだろう。

この事件は、これまでのどんなスキャンダル(イラク戦争、ブレアの不動産取引、マンデルソンの贈収賄、立証されなかった党への寄付金と上院の議席の関係、etc, etc)や失策よりも、ずっとダイレクトな形で、有権者を怒らせてしまった。

実際にミスをおかしたのは、あまりに英国らしい仕事っぷりの下っ端職員であったとしても、よもや労働党は「職員が悪い」(≒「社保庁が悪い」)で逃げ切れるとは思っていないだろう。何しろこれまでの蓄積があるのだ。サッカーなら、とっくに累積警告でサスペンドになってる。(ネヴィル兄→不注意なバックパス→ロビンソン→イレギュラーバウンドで空振り→ゴーーーーール!を思い出した、唐突に。)

ブラウン政権になってからは、「嘘つきは辞めろ」みたいな空気はかなりおさまっていたけれども(ゴードン・ブラウンも「嘘つき」のひとりであるにも関わらず、ね。あと、ブレアがあんまり派手すぎたので、ブラウンは「まじめな人だし、仕事をちゃんとやってくれそうだ」みたいな受け取られ方をしていただけだと私は思っている)、9月末にサブプライムローン関連でノーザンロックで取り付け騒ぎがあったときにBoEが£25bnの緊急融資を行なったことで、まああれはブラウン政権に直接の責任があるかないかといえばないのだろうけれども、かなりの打撃を食らっている。

で、ノーザン・ロックといえば、ガーディアン記事によると、財務省は今回の個人情報紛失事件で、ーザン・ロックに起きたような取り付け騒ぎが各銀行に起きることを最も懸念している、という。ガーディアンがこう書くのは、「労働党政権を潰せ」の情宣ではないので(テレグラフとかメイルがそう書いてたら「なるほど、情宣ですね」と思うだろうけど (^^;))、ネガティヴ・キャンペーンだとは思わないのだが、そういう方向で作用することは避けられないだろう。「うちの家族の個人情報が危ないってのに、大銀行の心配ですか、そうですか」っていう反発は、この場合、ないほうがおかしい。

そして、ダーリング財務大臣は「極めて重大なミスだ」と謝罪はしているが、「政策の失敗ではない」として辞任を拒んでいるというが、正直、いつまで持つかという空気を感じる。BBC記事参照。

Pressure on Darling over records
Last Updated: Tuesday, 20 November 2007, 23:57 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/7104840.stm

再度、ガーディアン記事に戻って要点だけメモ:
・今回の件での損害については、ロンドン警察とIPCC (the Independent Police Complaints Commission) が調査中。

・これとは別に、independent government inquiry が、PricewaterhouseCoopers(監査法人)のチェアマン、 Kieran Poynterによって行なわれる。

・HMRCの発送担当者は、NAOに荷物が届いていないのは郵便ストのせいか、NAOのオフィスの移動のために配達が遅れているのだろうと考え、上司に報告しなかった。(でも役所間の荷物の配達は、郵便局ではなく、TNTという宅配業者がやってるらしいんだけどね、BBCによると。まったくひどい仕事っぷりだ>担当者。)

・HMRCの発送担当者が上司に報告したのは、発送から3週間後、11月8日だった。(あー、なんかこれ、デ・メゼネスさん射殺事件のときに、事件後24時間たってようやく警視総監の耳に入った、というのを思い出すなあ。)

・財務大臣の耳に入ったのは11月10日で、大臣は報告を受けてから30分後にはブラウン首相にこの件を伝えた。

・財務大臣が国会に報告したのは11月19日で、これについては大臣は、銀行が不審な動きを監視するための時間を要求してきたためでもある(partly due to banks requesting time)と説明した。

・行政のデータの取り扱いについてのインクワイアリの責任者であるRichard Thomas (the information commissioner) は、ガーディアンに対し、インクワイアリ当局の役所への立ち入り検査の権限をもっと拡大する必要があると語った。トマス氏は、手続きの無視には刑事罰を求めているが、「もう1年も前からこういう危険については警告してきたのに。今回のことで政府全体が本気になってくれないと困る」と述べた。

・トマス氏の見解では、「今回のことで恐ろしいのは、法律、内規、手続といったものがあっても、それらを遵守させるものはなにもない、ということ。だからこそ私たちのような外部の調査当局者が抜き打ちで調査を行なったりできるようにしてもらいたい」。(つまり、お役所の仕事は、どんなに杜撰で手抜きであっても罰則がないし、調査するにもいつでも好きなときに調査に入れるわけではない。)

・保守党の影の内閣の財務大臣であるGeorge Osborneは、今回のことを「破滅的 catastrophic」ということばで語っている(最上級だ)。そして、ブラウン首相はヴィジョンの追求はやめて、現実をちゃんと見るべき(get a grip)と述べ、「政府に対する国民の信頼、政府の情報保護の能力への信頼は潰えた」との見解を示し、これでIDカード案は「完全に終わった nail in the coffin」との意見を述べた。「全個人のアイデンティティについての情報を蓄積しておいてもそれを外部に流出させてしまうようでは、IDカードなど無理だ」。

# 「保守党ならIDカードの個人情報管理もうまくやります」っていう方向に行く可能性は、なくはないけれど、低いと思う。何しろ「IDカード導入」を推進しているのは労働党なのだから。(まったく、どっちが「保守党」でどっちが「労働党」なのか、わけわからん。)でもどこで急展開があるか、まったくわからないんだよね。

なお、議会で財務大臣からこの件を聞かされた議員たちは、ぽかーんとしてしまったらしい。ここ数日「何かあったらしい」という話は出ていたが、まさかここまで大規模なものとは誰も考えていなかったそうで。

で、こういう話ではまず第一にチェックしたいボリス・ジョンソン(保守党)のブログだけど(この人は、こういう話を「読ませる文」で書くのが、天才的にうまい)、この件についての更新はまだ。たぶん、どう書いたらいいかについてチーム・キャメロンで戦略を練っているのではないかと思う。
http://www.boris-johnson.com/

ガーディアンのジョナサン・フリードランドはさっそく、Discgateなる呼び名を使っている。(現時点で、この呼び名を使っているのはフリードランドのこの記事だけ。<Google Newsの検索結果より。)
http://politics.guardian.co.uk/columnist/story/0,,2214433,00.html

ちょっと引用:
Loyalists [Loyalists? Shouldn't this be "Apologists" instead? - Ed] say that this was the kind of human error that could have occurred under any government, but this episode cannot be brushed aside so blithely. It matters deeply because once a government loses its reputation for competence, it starts losing its claim on power. That's especially true of Brown, whose political persona for the last decade has been built on his perceived capability. Never mind that he couldn't do small talk or grin on TV, at least he was competent. If that goes, Brown does not have much else left. Note the weekend opinion poll that found that Brown's job approval rating has plunged from plus 30 last month to minus 10 now.

そうなのよね、現在の英国の保守党とか労働党は、米国の共和党とか日本の自民党、公明党のようには、「何があっても支持」という層が厚くない(組織宗教のバックとかないし)。そこにこの失態では、ほんとに、ねぇ。

「仕事ができる」はずのゴードン・ブラウンのこの失態、いやほんと、ネヴィル兄(ディフェンダー)→ロビンソン(キーパー)のオウンゴールみたいなオウンゴールかもしれない。

※この記事は

2007年11月21日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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