ジャッキー・スミス内務大臣にFAXを送ったあとで支援者宛てに送信した「FAX送信済。幸運を祈る」という2行のメールに、Friends of Pegah Campaign名義で29日朝に返事のメールが来ていて、そこでとりあえず送還という線は消えたということを知らされた。以下にそのメールの内容を(「とりあえずモデル・レターをコピーしてFAXして連絡先にI send the faxと連絡したら、なんか英語で返事のメール来たけど読めない」という方は参照してください)。あと、いろいろ補足。
と、本題に入る前に少し。
月曜日、安倍改造内閣発足のテレビニュースを見ていて、今度法務大臣になった鳩山邦夫議員がマスコミのカメラの前で就任コメントの原稿を読んでいる(あれは「スピーチ」じゃない)光景を少し見た。新大臣は「外国人の犯罪」がどうのこうの、と言っていた(あと「凶悪化する少年犯罪」云々ってのもあった)。テレビの前の私は、新大臣の最初の発言がこれかよ、と唖然。
実際にうちらがテレビのニュースで毎日1件くらいは見る凶悪犯罪(殺人、強盗など)の犯人は「外国人」ではないことがほとんどであるにも関わらず、今度の法務大臣は「外国人」というカテゴリと「犯罪」という事象をあらかじめ結びつけて考える人なのかと。何が「人心一新」なんだか、きぃきぃ。
で、あらかじめそういうふうに「外国人」の「イメージ」とやらをセットすることに何ら抵抗を覚えない「わが国」の政治家たちと官僚たちの「難民申請者」への態度は、今回の英国内務省のペガーさんに対する態度よりもっとひどいか、あるいは少なくとも同程度にひどい。
しかし、そういうことを平気で言う人物を国会議員として選挙で選んだのは自分たちだ。(まあ、本音では「私はあんなのに投票してない」と思ってるわけだが。)よその国でのできごとについて「ひどい」といって署名とかやるのであれば、自分たちの国でのできごとについても、そういうことをやっていかないといけない。「やる」以前に知らないといけない。
当方のエントリをご紹介いただいた「馬骨亭日乗 la dua」さんのエントリから、「多文化・多民族・多国籍社会で『人として』」さんの「難民の命。世界陸上の舞台裏」というエントリに飛んで、そこで2000年代に日本で起きたあるイラン人同性愛者の難民認定却下の事例について、非常に読みやすくまとめられた文書を読んだ。
2007年06月15日
シェイダさん難民認定裁判が残したもの
http://blog.livedoor.jp/pinktri/archives/2007-06.html
(稲場雅紀さんによる)
また、イラン人難民申請者ではないが、2005年1月にこのようなことがあったことも忘れてはならない。当ブログ@旧URLから:
かみくだいて書けば,「マンデイト難民」とは,UNHCRが,法的根拠により迫害の危険を“認定”した人たちのこと,である。UNHCRが「この人は難民である。貴国は難民条約により,この人を保護しなければならない(mandate; obligation)」と,“認定”した人々のことである。
そしてそれは,1951年難民条約――国際法に拠る“認定”である。
そういう人たちを,日本国政府は,「超過滞在者」として国外退去処分・強制送還した。1月18日のことだ。
マンデイト難民のstate of originへの強制送還は,前例がない。日本が前例を作った。
http://ch00917.kitaguni.tv/e113639.html
UNHCRのサイトから:
http://www.unhcr.or.jp/protect/committee/06.html
国連フォーラム、2005年9月の「勉強会」:
http://www.unforum.org/lectures/8.html
日本は難民条約 (参考P3) に加入している。経済難民と難民条約が定める難民の根本的な違いは、自発的に国境を越えたのか、十分な恐怖があって逃げざるを得ない人びとなのかの違い。難民定義に相当する者に対しては、締約国は“庇護”しなければならないという義務があり、これをノン・ルフールマン原則という ( 迫害されるかもしれない地域に追放・送還しない原則 ) 。よって、十分な恐怖があったために逃げざるを得なかったアフガニスタン難民は、日本が庇護する義務があった。……
日本に来る難民は、その多くが、「不法滞在者」と呼ばれることになってしまい、強制収容所に入れられてしまう事も多い。今年入管法が改正されるまでは、難民申請したからといって合法的に滞在することはできなかったからだ。今年法改正がされ、難民申請者が、申請中に合法的に滞在できる可能性ができた。改正自体は大きな前進だが、この可能性は非常に厳しく扱われており、未だ状況は非常に厳しいまま。
以下、本題。ペガーさんの件について。
なお、うちに来ていたメールは、ペガーさんブログに掲示されているものとは少し文面・内容が違う(私のメーラのタイムスタンプでは、日本時間29日05:02着である)が、たいして違いがあるわけではない。
ペガーさんブログ、またはうちのブログを含むいくつかのブログを見てモデルレターをコピペしてFAXを送信し、Friends of Pegah Campaignに「FAX送りました」と連絡した人は、私のところに来たのと同じ文面のメールを受け取っておられるのではないかと思う。以下、対訳で示す。
Thank you very much for your support for Pegah.
ペガーさんへのご支援、ありがとうございます。
After a meeting with Pegah's MP, Richard Caborn, this morning and submissions to the Border & Immigration Agency by her legal team also today, we are satisfied that legal and political representations are now fully underway, and all current deportation orders against her have been removed.
今朝、ペガーさん(が暮らす地域選出)の下院議員、リチャード・カーボーンと面会し、また本日弁護士チームが入管当局(Border & Immigration Agency)に(書類を)提出し、これで法的にも政治的にも着々と手続きが進んでいるということになります。また現在彼女に対して出されている送還命令はすべて解除(removed)になりました。
We hope you will all understand the very sensitive nature of the immediate situation. We now have to wait and until we know what the outcome of these representations is likely to be, we feel that further publicity would not necessarily be helpful in Pegah's case.
状況は非常に微妙なものであるということをご理解いただけますようお願いいたします。今は次の展開を待つ時であり、上記手続きがどのようになるかがはっきりとわかるまでは、ペガーさんの場合、これ以上の広報(publicity)は必ずしも助けになるものではないだろうと考えています。
We will, of course, let you know of any significant developments as soon as we can. We are intensely grateful for all your exceptionally hard work on Pegah's behalf, your support has been essential and we would not have arrived at this position without it.
何か大きな動きがあればもちろんできる限り早急にお知らせします。ペガーさんに代わって皆さんが本当に大きな尽力をしてくださったことにたいへんに感謝しています。皆さんの支援は今回のことに欠かせないもので、ご支援いただけていなかったらここまでこれなかったと思います。
Many, many heartfelt thanks
本当にどうもありがとうございました。
Friends of Pegah Campaign
というわけで、当面、支援者からの進展報告はないと思われ。実際、非常に微妙な段階に入っているし。うちら外野にできるのは、当面はここまでだ。とりあえず、ペガーさんの無事をひたすら祈るのみ。
それと、「イランの同性愛」というものを語るときに絶対に気をつけておかなければならないのは、「その情報は正しいのかどうか」がよくわからないままに広がることがありがちだということである。
「ペガーさん強制送還反対」ブログが、30日付けで、「ゲイジャパンニュース」さんの関連記事をリストにしておられるが:
http://pega-must-stay.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_1747.html
このリストのなかに「コラム:イランに関する論争(2006/08/29)」という記事がある。
http://gayjapannews.com/news2006/news317.htm
これは絶対必読。少し引用させていただく。
そんな中、人権団体Human Rights Watch(HRW)のLGBT人権プロジェクトの責任者、スコット・ロング氏は、GayCityNews(www.gaycitynews.com) に以下のようなコラムを寄せた。コラムの中でロング氏は、事実こそがイランにおける人権侵害と戦う武器であり、LGBTイラン人たちが、他の国の人々の活動のために危険にさらされることがないよう、自制した活動を行っていかなければならないと述べている。
「イランのLGBTたちの人生が、西側諸国の見知らぬ人たちの議論のために、危険にさらされるようなことがあってはならない。LGBTイラン人たちは、政治からもミサイルからも守られてはいないのだ。……
ここでHRWのロングさんが述べておられることは、ほんとに重要なことだ。イランの外の人間が動いたら、動いた本人たちは「私たちは何かをした」という気持ちを得られるけれども、その満足感は、必ずしも、イラン国内のLGBTの人たちの安全を意味しない。「イランってとんでもない」という言説が「無責任な、裏づけのない噂話」のように広がることは、単に「事実」を尊重する立場からも、人々の安全を最優先で考えるべきとの立場からも、避けねばならない。
上記のGJNのコラムに出てくる「ダグ・アイルランド氏」は、多くの有名な新聞や雑誌などに寄稿している米国人で、2004年8月からブログを書いている。私もこれまで特にイラク戦争関係で彼の記事を参照したことがある。アイルランド氏には私は敬意を抱いているが、しかしそれでも、彼の文章から、彼のことを「ジャーナリスト」ととらえてよいのだろうかと感じたことはある――むしろ「アクティヴィスト」ではないのか、と。
で、私は基本的に「アクティヴィスト」の言説からは距離を置くように努力している。ある程度、読むことは読むが、距離は置いているつもりである。これは北アイルランドについて、特にIRAについて調べ始めたときにかなり翻弄された経験に根ざしている。(「IRAの武装闘争はテロではない」系の言説があるのよー。んで、そういう英語の言説をそのまま日本語にしちゃってる例もある。一方で「テロリストはIRAだ」という、UDAやUVFおよび警察や英軍を無視した言説もある。)
さて、GJNのコラムでは、HRWのロング氏はアイルランド氏をかなり厳しく批判しているが、このコラムから読み取るべきはそれではなく、イランの言葉ができない者が「イラン」について情報を入手しようとする場合に頼らざるを得ないソース――主に英語のソース――が、それ自体、実は不確かで根拠が薄いということがよくある、ということだ。
そしてイランの場合、悲しいことに、ネット上で読むことのできる情報すべてにバイアスがかかっていると考えてかかってもよいくらいの状況にある。1979年の革命(王制転覆)以降の米国との敵対関係において、英語でなされたイランについての言説で何が「反イラン目的のプロパガンダ」で何がそうでないのか、見極めることはそんなに簡単ではない(「イラン」でピンと来なければ、この数ヶ月の英国での「ロシア」に関する報道を参照のこと。ロシアからのカウンターも含め、何がプロパガンダで何がそうでないのか、見極めが非常に難しいということは簡単にお分かりいただけると思う)。そして私にはそれを見極めるまでの能力はない。
ないけれども、明らかに「プロパガンダ」でないものがあれば、それについてはできる限り触れていきたいと思う。
HRWのロングさんの言葉を、今一度、確認しておきたい。
もし我々がイラン政府に挑戦するのならば、我々は、真実を武器に戦わなければならない。拷問の十分な証拠と、「大虐殺」などという感情的な非難を使わずに、可能な限り自制した行動で戦っていかなければならない。……
我々には議論が必要だ。私たちは事実を見極め、我々の活動をどこに向けていくべきかを話し合わなければならない。平和が不安定なバランスの上で成り立っている状況で、LGBTイラン人の人生と命を、我々自身の戦いの材料にすべきではない。
■英国政治ネタ:
Friends of Pegahのメールにある「リチャード・カーボーン」さんはこういう人:
http://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Caborn
1943年10月生まれ。バックグラウンドはばりばりの労働者階級で、所属政党は労働党(<これはシェフィールドだから言わずもがなですが)。1983年から今までずっと、シェフィールド・セントラル選挙区で議員として選ばれているベテランで、いくつものマラソン大会に出場していて、シェフィールド・ユナイテッドのサポ。これまでに要職を歴任、特にブレア政権ではスポーツや文化・メディア関連でminister(閣外大臣)をつとめた。2018年のサッカーW杯招致活動のリーダーとなる。党内では「オールド・レイバー」と言える存在で(Benninteだそうで)、南アのアパルトヘイト問題に積極的に取り組んできた労働党議員のひとりで、ANC支援のチャリティ・コンサートを主催したこともあった。(Hain the Painと少し似てますな。いや、Hain the Painのほうがもっと過激か。)ブレア政権では副首相だったジョン・プレスコットに非常に近い人だったとのこと。
議会での投票履歴を見ると:
http://www.theyworkforyou.com/mp/richard_caborn/sheffield_central
Benniteだったとはいえ、ブレア政権で主要な決議でrebelったことはない。イラク戦争賛成、対テロ法賛成、IDカード賛成、トライデント賛成。ついでに、キツネ狩り禁止法賛成、ゲイ・ライツ賛成(Civil Partnershipのことと思われ)。
シェフィールドについては、最もお手軽なところでは、映画『フル・モンティ』を参照。
フル・モンティ ロバート・カーライル トム・ウィルキンソン マーク・アディ 20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント 2004-04-02 by G-Tools |
※この記事は
2007年08月31日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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