http://www.indymedia.org.uk/en/regions/sheffield/
【目次】
■英国内務省の判断の根拠となる文書にはどう書かれているか:
■英国内務省の「イランでは同性愛者への迫害はない」との判断の根拠は何か:
■正直、イランはどうなのか:
■「死刑」と英国:
■補足:
1つ前のエントリの【目次】
■現状どうなってるのか:
■英国での報道はどうなのか:
■ペガーさんの件での「問題」は何か:
■ペガーさん強制送還問題の要点:
■ペガーさん強制送還問題の経緯:
■ペガーさんの難民申請が認められなかった理由は何か:
■英国内務省の判断の根拠となる文書にはどう書かれているか:
実際、日本でも法務省によって、イラン人の同性愛者の男性について同様の判断が為されている(→参照)――「イランでは同性愛者は迫害されていない」との前提で判断を下している。
一方で、ペガーさんのケースについてのUKインディメディア記事などには、英国の内務省は「イランでは同性愛者は迫害されている」と認識しているというように書かれている。これは確かに嘘ではないのだけれども、微妙ではある。インディメディアはアクティヴィスト向けメディアなので、「内務省は迫害の事実を把握していながら強制送還する」と非難する調子で書いているのは別にかまわないのだが、事実としての正確性という点でいうと微妙だ。端的にいえば、問題は文書のどこを見るかの話で、私が実際に当該の内務省の文書を見た限りでは、内務省は個別の迫害の事実を把握してはいるが、広範な迫害があるとは認めてはいないのだ。
まず、英内務省が「イランでは同性愛者は迫害されている」と認識していることは、UKインディメディア記事では下記のように示されている。
http://pega-must-stay.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_0759.html
Home Office officials dealing with Pegah's have ignored their own Home Office guidance: "Where an individual claimant demonstrates that their homosexual acts have brought them to the attention of the authorities to the extent that on return to Iran they will face a real risk of punishment which will be so harsh as to amount to persecution s/he should be granted refugee status as a member of a particular social group." - Home Office, Iran Operational Guidance, 27 February 2007.
この、Home Office, Iran Operational Guidance, 27 February 2007というのは、内務省(Home Office)の公式の文書(職員のマニュアルというか、指針を示したもの)で、下記で誰でもダウンロードできる。
http://www.ind.homeoffice.gov.uk/documents/countryspecificasylumpolicyogns/iranogn?view=Binary
で、この同じ文書に、インディメディア記事などに引用されているのとはちょっと違うことも書かれている。しかもそっちのほうが重み付けされた記述になっている。
なお、この文書は次にあるように、イランから英国に来て英国で難民申請を行なう人について、その申請を認めるか否かの判断基準とするための文書である。内容としては、イランの政治状況、人権状況がまとめられたものである。
This document evaluates the general, political and human rights situation in Iran and provides guidance on the nature and handling of the most common types of claims received from nationals/residents of that country, including whether claims are or are not likely to justify the granting of asylum, Humanitarian Protection or Discretionary Leave. Caseworkers must refer to the relevant Asylum Policy Instructions for further details of the policy on these areas.
--- Introduction, Home Office, Iran Operational Guidance, 27 February 2007
さて、本題に移ろう。焦点となるイランでの同性愛行為については、この文書の項目3.9にまとめられている。この項目にざっくり目を通してみたのだが、「イランで同性愛者が迫害されているとよく言われるが、実際にはそこまでの状況ではないない」という線でまとめられている。結論部の3.9.14に、「同性愛者だからといって迫害されるという状況はないが、個別のケースとしては死刑になることもあるので、慎重に判断されたい」といったことが書かれているのだ。(太字、斜体は原文ママ、下線は引用者による。)
3.9.14 Conclusion. Various recent convictions have highlighted the issue of homosexuality in the Iranian penal system however it is difficult to know for what "crime" the authorities were punishing those concerned. Whilst it is accepted that there is discrimination against gay men and lesbians in Iran it is not accepted that there is systematic repression of gay men and lesbians, although there are individual examples of severe punishments which are a feature of Iranian law being carried out. Each case will need to be considered on its merits and in light of the country information. Where an individual claimant demonstrates that their homosexual acts have brought them to the attention of the authorities to the extent that on return to Iran they will face a real risk of punishment which will be so harsh as to amount to persecution s/he should be granted refugee status as a member of a particular social group. In addition gay right activists that have come to the attention of the authorities face a real risk of persecution and should be granted asylum as a result of their political opinion.
大学受験とかで英文を読む訓練をした人なら、この文(パラグラフ)で最も重要な情報が含まれている文は下線を補った箇所、すなわちit is not accepted that there is systematic repression of gay men and lesbians「同性愛者に対するシステマティックな抑圧があるとは考えられていない」の部分であることがすぐにわかるだろう。パラグラフ全体としては、「イランで同性愛だからといって即迫害されるというのは事実として認められないから、『私は同性愛者なのでイランでは身の安全が保障されません』と難民申請してくるケースでは、慎重に対処されたい」ということを内務省職員に指示しているのだ。
しかるに、ペガーさん側は、「彼女は自分が同性愛者であることを公にしており、当局も彼女が同性愛者であることを把握している(恋人が逮捕・拷問・死刑宣告されたときに当局はペガーさんの身柄を求めており、父親を拘束し拷問するということまでやっていたのだから)」ことを根拠として、上に引用した同文書3.9.14の Where an individual claimant demonstrates that their homosexual acts have brought them to the attention of the authorities to the extent that on return to Iran they will face a real risk of punishment which will be so harsh as to amount to persecution s/he should be granted refugee status as a member of a particular social group. (個別の申請者が、自身の同性愛行為が当局の注意を引き、イランに戻れば現実に懲罰、それも訴追といった厳しい事態の対象になるとの危険があるということを示す場合においては、特定の社会的集団の一員として難民認定されねばならない)に該当する、と主張している。
推測だが、ここでもめてしまっているのは、ペガーさんが「イランのレズビアン」としてイラン国内で表立って活動したことがないからだろう。仮に彼女がイランにいたころに「同性愛者の権利(ゲイ・ライツ)」の団体で活動していたり、あるいは新聞や雑誌のインタビューを受けていたりといったことがあったのなら、当局は確実に「不道徳な反革命主義者」としてペガーさんの身柄を求めていたのだと、誰の目にも明らかに立証されうる。(イミグレがああなのは、「当局が追っていた」事実とその理由との間に、絶対に異論の余地のない因果関係を求めるからだ。まったくイミグレってやつは、日本人女性がヒースローで「英国人の友達の家に泊めてもらう」とか言ったら即座に「そのお友達と結婚して住み着くつもりだろう」と疑ってかかるくせに、きぃきぃ、である。←余談)
なお、ペガーさん自身が同性愛者ということを明らかにしていたし、彼女のことを伝える記事はイランの言葉にも翻訳されていたから、彼女が同性愛者であるということは広く知れ渡っている。つまり、彼女は「クローゼット」に戻ることができる状況にはない。仮に当局が彼女の身柄を追っていた理由が「同性愛」とは関係のないものだったとしても(その可能性は、伝えられていることから考えて、非常に低いと私は思うが)、今イランに戻された場合、彼女が「ふつうの女性」として当局から手出しされずに生活していけるとは思えない。
■英国内務省の「イランでは同性愛者への迫害はない」との判断の根拠は何か:
では、上記文書における「同性愛者だからといって迫害されるという状況はない」との結論の根拠は何か。この点で特に注目に値するのは3.9.4である。
However strict though the legal position is, expert opinion consulted by the Canadian Immigration and Refugee Board states "... in practice (homosexuality) is present, and has been in the past, for the most part tolerantly treated and frequently occurring in countries where Islam predominates... In practice it is only public transgression of Islamic morals that is condemned, and therefore Islamic law stresses the role of eye-witnesses to an offence."
すなわち、「カナダの入管が話を聞いた専門家はこう述べている」として「実際には迫害と呼べる状況はない」という話が提示されている。もう少し詳しく書くと、上記パラグラフは「法的には厳しいスタンスをとっているが、専門家は、イスラム圏では同性愛は存在しており寛容に扱われているし、シャーリア法では証人による立証が必要なので、と語っている」という内容だ。(←日本語化が粗すぎますんで、引用とかあんまりしないでください。)
この「専門家」というのがどのような立場の人なのかについてはこの文書中に明示されていないためわからない。この記述自体の出典はCOIS Iran Country Report October 2006 Section 21 であると示されているが、このCOISなんちゃらという文書もまた英内務省の資料である(COISはCountry of Origin Information Serviceのこと)。つまり、これもまたHOのイミグレが使うための資料としてまとめられたものだ。DLは下記から(MS Word文書)。
http://www.homeoffice.gov.uk/rds/country-reports-iran.html
で、このCOISの資料が、見かけ上は「2006年の資料」なのだが、上記発言は1998年2月の、カナダの入管当局の文書からの引用である(文書そのものと文書末尾の「ソースマテリアル一覧」を参照すれば誰でも確認できる)。つまり、発言主が誰であるにせよ、1998年2月以前の話だ。
2003年2月に国連安保理で「イラクは大量破壊兵器を持っている」というトンデモが「真実」として米英によって披瀝されたころ、英国が作った資料が湾岸戦争のころ(1991年)の状況について書かれた論文に基づいていた(っていうか丸写しだった)のを思い出す。
しかも引用されている専門家のコメントは、「イスラム圏では (countries where Islam predominates)」という話でしかなく、シーア派原理主義国家のイランはちょっと違うんじゃないのかという疑問が当然浮かぶわけだが、イミグレはそういうことはあまり気にしないものらしい。こっちとしてはそこを気にしろよと思うのだが。
この件に限らず、「最新の状況」というものは多くの場合において「公式の資料」には反映されておらず(むろん例外もあるが。「テロ警戒レベル」とか「大きな経済危機」とか「クーデター」とか)、「公式の資料」というものは常に「ちょっと古い」のだが、それにしても、1998年のコメントを2006年にそのまま印刷して「公式の資料」として依拠すべきものと位置付けているのは、あまりに乱暴だと私は思う。
■正直、イランはどうなのか:
私はイランについて直接知っているわけではないが、年表の類を見ればわかるようなことだけでも書いておく。まず大前提として、イランが「イスラム共和国」になったのは1979年である。
COISの資料にある発言が為されたであろう1998年、イランの大統領はハタミである(在任1997年8月〜2005年8月)。ハタミの前はラフサンジャニである。ハタミの後が、現在のアフマディネジャドである。
http://en.wikipedia.org/wiki/President_of_Iran
ラフサンジャニであれハタミであれ、今のアフマディネジャドとは全然方向性の違う政治家、つまり「改革派、リベラル」というか、そういう人たちだった。それでもシャーリア法はそれ自体が同性愛行為を禁止しており、ある意味「放置しておいたらしめしがつかないから」ということかもしれないが、同性愛行為を理由とする処刑は行なわれてきた。
したがって、「ハタミ政権のころは安全だったのに」という話では決してないが、それでも、アフマディネジャドのような煽動政治家がトップになったということを2秒くらい考えてみるだけでも、昔の話を現在にそのまま当てはめて考えることはできないはずだ。
というわけで、ちょっとGoogle News英語版で拾ってみた記事。別に、このようなことはハタミ政権のころにはなかったのではないかということが言いたいわけではないが、「最新の状況」の一例として。今年の8月6日のcanada.comが、イラン系カナダ人の女性同性愛者(1979年の革命で亡命した人で詩人、著作家)にインタビュー取材したイランのメディア(改革派の新聞)が、イラン政府によって発行禁止処分をくらっていることを報じている。
http://www.canada.com/topics/news/world/story.html?id=11bccbe7-4274-40e9-8f15-45df4476f0f3&k=39534
"The main reason for the ban was an interview with a counter-revolutionary who promotes immorality," Alireza Malekian, the director of press in Iran's culture ministry, told the state-run IRNA news agency. "This person is a known element who even promotes immorality in her cyber publication."
イラン文化省の報道担当者が、国営メディアに、「あの新聞を禁止したのは、不道徳を呼びかける反革命主義者【訳注:革命でカナダに亡命した女性】とのインタビューを行なったためだ。この人物は、ネット上でも不道徳を呼びかける要注意人物として知られている」と語っている。だが、canada.comの記事によると、インタビューの内容は彼女の詩などについてのものだったとのこと。
つまり、イラン政府、というかアフマディネジャド政権としては、インタビュー取材に応じたこの人のことを「芸術家」ではなく「同性愛という不道徳を広めるために活動している人物」として考えている、ということだろう。
この件は「現在のイラン」についての実態をよく示していると私は思う。少なくとも、現在こういう事実はあるのだ。
しかし、そこは英内務省のお役所仕事、特にこの件についてでなくても、「改革派」と呼ばれた人たちが政権を担っていたころのことを(それもソースも発言内容もイマイチはっきりしないものを)「ものすごい保守派」の政権の現在にも、そのまま額面どおりに当てはめて考えるのだろう。宗教(モラル)と政治が一体化しているということの意味はもっとよく考えるべきなのに。
(なお、英文のブログなどを見たところ、イラン国内に「二丁目」に相当するような場所もあることを根拠として「迫害などない」ということが述べられていることがあるが、そういうことよりも、同性愛行為(sodomy)を理由として死刑という法的判断が下されていることにこそ注目すべきであろう。イランにある「二丁目」はただの「歓楽街」ではなく、「人権運動の場」である。)
■「死刑」と英国:
言うまでもないことだが、英国は欧州連合(EU)加盟国である。そしてそのEUでは:
死刑廃止に対するEUのコミットメントは、2000年12月のニース欧州理事会(EU首脳会議)で宣言されたEU基本権憲章でも再確認されています。EU基本権憲章には、すべての人が有する生命に対する権利と死刑の禁止が盛り込まれています。
「あらゆる人は生命に対する権利をもつ。何人も死刑を求刑され、または執行されてはならない(第II条2)。何人も、死刑、拷問又はその他の非人道的もしくは尊厳を冒すような処遇もしくは刑罰を受けるであろう重大な危険がある国へ、退去、追放または引き渡されてはならない(第II条19)」
http://jpn.cec.eu.int/union/showpage_jp_union.death_penalty.php
この「EU基本権憲章」の条文は下記(日本語の下に英語であります):
http://www.max.hi-ho.ne.jp/nvcc/FE5.HTM
背景解説は下記に(いずれも翻訳・執筆は日本福祉大学の福田静夫さんによる):
http://www.max.hi-ho.ne.jp/nvcc/FE4.HTM
英文から引用しておくと、
Article 19
Protection in the event of removal, expulsion or extradition
1. Collective expulsions are prohibited.
2. No one may be removed, expelled or extradited to a State where there is a serious risk that he or she would be subjected to the death penalty, torture or other inhuman or degrading treatment or punishment.
英国でのブログなどを見ていると、ペガーさんの件は、「同性愛者の権利の問題」としてとらえられると同時に、この点でとらえられていることがわかる。
記憶がイマイチ不確かなのだが、英国人がグアンタナモに連れて行かれたときに(マイケル・ウィンターボトムの映画『グアンタナモ The Road to Guantanamo』を参照)、アメリカの軍事法廷では死刑もありうるとの観点から批判があったと思う。
なお、憲章の第18条が「亡命する権利」についてである:
Article 18
Right to asylum
The right to asylum shall be guaranteed with due respect for the rules of the Geneva Convention of 28 July 1951 and the Protocol of 31 January 1967 relating to the status of refugees and in accordance with the Treaty establishing the European Community.
第18条 亡命の権利(right to asylum)
亡命の権利は、1951年7月28日のジュネーヴ会議の諸規則、および難民の地位に関する1967年1月31日の会議録に適正に留意し、EC創立条約にしたがって、保障されなければならない。
■補足:
上で参照したHome Office, Iran Operational Guidance, 27 February 2007のなかに、もう1箇所、同性愛について言及されている部分があるので、補足として引いておく。
http://www.ind.homeoffice.gov.uk/documents/countryspecificasylumpolicyogns/iranogn?view=Binary
3.6 (項目番号)
Christian converts(キリスト教に改宗した者)
3.6.10
Iran is a place where people generally face few problems as long as they exercise a degree of discretion and engage in activities behind closed doors and within their own four walls. Many people for example drink alcohol, practise homosexuality and practise their religious faith after conversion without ever facing difficulties from the authorities. However, if a person who converted abroad walked down central Tehran wearing a cross, he or she would certainly experience difficulties. S/he may not be at risk if s/he keeps a low profile.
【3.6.10 の大意】
イランでは、慎重に行動し、なおかつ行動の場所が自宅でありさえすれば、一般的に、人々が問題に直面することは少ない。例えば多くの人たちが、当局からの関与なく、飲酒、同性愛行為、イスラム教以外の宗教行為を行なっている。しかしながら、外国で改宗した者が十字架を身につけてテヘラン中心部を歩いたりしていれば必ず大変なことになるであろう。目立たぬようにしていれば危険はない。
この状態について「信仰の自由」という観点で論議したらどうなるだろうか。
なお、イランにおける同性愛については
http://www.asylumlaw.org/legal_tools/index.cfm?category=299&countryID=233
http://www.asylumlaw.org/legal_tools/index.cfm?category=300&countryID=233
の資料も参照のこと。(2番目のリンクの一番下には、Links: として、今年2月にカナダのCBSで放送された、Out in Iranというタイトルの「イランのゲイ・ライツ活動家」のレポートがある。このレポートについては、余裕さえあれば、別項にまとめたいと思う。)
私もほとんど目を通せていないのだが(多いので)、下記のImportant perspective from INSIDE Iran - Rex Wokner 08/06/06は、どう読み解くべきかについても非常に興味深い。テヘランで編集されている「存在を秘密にするゲイ雑誌」の編集者からの英文メールだとのこと。
http://www.asylumlaw.org/legal_tools/index.cfm?category=300&countryID=233
少し引用:
Let no one claim there is not homophobic oppression in Iran. Every LGBT Iranian is at potential risk of arrest, imprisonment, flogging and execution. Avoiding such a fate requires leading a double life and hiding one's sexuality. Even though there are secret gay parties and magazines, we are all at risk. Great discretion is the only thing that keeps many of us from the jails of the authorities -- and worse.
この文書は、「イランの人権状況は少しずつであるがよくなってきている」と説明しながら、2005年7月に恐ろしい方法で公開処刑された2人の10代の同性愛男性(処刑時の写真がネット上に出回っていたが、ありえん高さのクレーンで吊っていた)の処刑の理由は同性愛行為ということで間違いないだろうと語り(当局は別の理由をくっつけたらしいが、他の事例で当局が適当に罪状を作って処刑していることも同じ文書で報告されている)、イランのLGBTが本当に恐怖から解放されるようサポートを与え続けてほしいと訴えかけるものである。
ペガーさんの件では、とりあえずは28日の強制送還のとりあえずの延期、もう少し長期的には送還の差し止めと難民認定を望みたい。しかし、より重要なのは、イランの人が性的指向を理由に国外亡命を考えるなどということがなくなる方向で事態が動くことである。とにもかくにも、性的指向が刑罰の対象になるという法律が変わる/変えられることを心から望む。
最後に、英国のイミグレ政策についてゲイ・ライツおよび人権活動家であるOutRage!のPeter Tatchellの至言を引いておく。
http://commentisfree.guardian.co.uk/peter_tatchell/2006/12/labours_asylum_shame.html
The Home Office acts as police, prosecutor, judge and jury. Justice is non-existent for many asylum claimants.
警察としての役割を果たすのは内務省、検察としての役割を果たすのも内務省、また裁判官や陪審員の役割を果たすのも内務省である。つまり、多くの難民申請者にとって、ジャスティスなどというものは存在していないのだ。
※この記事は
2007年08月28日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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今回縁があって、昨日はイギリス大使館と外務省に行く行動に参加しました。
よその国の法規はわからないし、情報が少ないので困ってましたが、nofrillsさんの記事で頭を整理できそうです。どうもありがとうございます。
昨日の行動については、オーマイニュースと朝日新聞神奈川版に載りました。
ペガーさん強制送還問題についての詳細な解説・分析、感服しました。(1)(2)とも拙ブログでTBさせていただきました。
ふたしかな知識・情報での感情に走った支援活動(それも真剣な善意から来たものですが)が批判を受けがちな中、これだけの客観的データを提示してくださったnofrillさんの功績は、とても大きいと思います。とにかく、ありがとうございました、お疲れ様でした。
りょうたさん、コメントでははじめましてですー。(←上からの流れの語尾)
朝日新聞神奈川版の記事は「ペガーさん強制送還反対」のブログに:
http://pega-must-stay.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_676f.html
オーマイスパゲッティ・・・じゃなかったオーマイニュースの記事は:
http://www.ohmynews.co.jp/news/20070827/14483
どちらの記事にも紹介されている尾辻かな子さんのコメント、「英国とイランの2国間問題ではなく、人権問題」、これが核心だと思います。内務省の判断の核心の部分では、彼女のセクシャリティの是非はまったく関係ないし、是非ではなく彼女のセクシャリティ自体もあまり関係がない(内務省は、彼女のセクシャリティについての判断はしていない)。彼女がキリスト教に改宗していたらどうだったか、という問題のように私には思えます。(「テヘランでも目立たないようにしてればOK」というイミグレは、果たして彼女の申請を却下していたかどうか。)
英国のイミグレについてはいろいろとひどい話を聞いていますし(難民認定は日本ほどひどくはないんですが、ごく普通の入国が……あと、法律が大きく変わったことでできると思っていた手続きができなくなって申請却下、オーバーステイで強制送還になった事例もあるし)、本をまとめたときに入管法の要点には一通り目を通していますんで(99年のもので、今とはかなり違うんですけど)。たぶんそういうことをやってる日本語話者はあまりいないと思うので、国際人道法とかの観点からはもっと書くべきことがあるだろうというツッコミが入ることを承知で、自分にできる範囲で書きました。
USのNGOが2005年の外相発言を引っ張ってくるというすばらしい技を見せているようなので、これもご参照ください。NEW YORK, August 28, 2007の記事です。
http://www.ukgaynews.org.uk/Archive/07/Aug/2801.htm
She points out that in 2005 the then British Foreign secretary stated that "[t]he signs of slight improvement in Iran's human rights record we saw after Khatami was first elected in 1997 have not been sustained" and acknowledged this fact "as a matter of profound concern for the British Government."
→彼女(NGO代表)は2005年に当時の英外相が「1997年にハタミ氏が最初に大統領に選ばれて以降はイランの人権状況は少し改善の兆しを見せていたが、それが続いていない」と述べ、この事実を「英国政府にとって甚大な懸念事項」と考える、と述べていることを指摘した。
この発言はジャック・ストローによるものです。ストローは政界入りする前は人権関係の弁護士(バリスター)。しかし今回のこの件で、2005年当時のこの発言を引っ張ってくるとは! (核開発と、バスラなどイラク南部へのイラン工作員の潜入が英国にとって大きな問題と見なされていたときの外務大臣の発言です。ついでにいうとアフマディネジャドが「まぼろし」論をぶちあげていた時期と合致するかも。当時私は本気で、数ヶ月内にもイランに爆弾が落とされることになるのではと懸念していました。)
USのNGOが英内務大臣に送ったレターの全文:
http://www.iglhrc.org/site/iglhrc/section.php?id=5&detail=768
# Foreign SecretaryをForeign Ministerと表記しているのはご愛嬌。
※英国では、ministerというと大臣の下の役職のことになるので注意。
http://nofrills.seesaa.net/article/22650663.html
それと、全然関係ないんですが、ジャック・ストローが外相の座から下ろされたときにイランのメディアでこんなことがあったなぁという過去記事:
http://nofrills.seesaa.net/article/24631978.html
なお、私個人はホモセクシュアリティやバイセクシャリズムを迫害しないということが、「西洋的価値観」として、イランのような国の上に振りかざされることはまったく望んでいません。(イランの原理主義者は「堕落した西側の云々」というかもしれないけど。)それは、「西洋」のものではなく、イランのゲイ雑誌編集者の書簡(本文の「補足」のところ参照)にあるように、「普遍的な価値観」だと考えています。
http://nofrills.seesaa.net/article/40998488.html
ヴェネツィアがペガーさんの身柄引き受けに積極的ということを報じるこのこの記事の最後:
She is due to leave the UK today, but campaigners are hopeful that British authorities may again delay her deportation.
「今日英国を出発することになっているが、支援者らは英国当局が今回もまた送還を延期するのではと希望を抱いている」
現時点ではこれが最新の記事であるらしいです。(この件ではGoogle Newsも記事掲載という点ではイマイチ信頼できそうにないのですが、Google newsでこれが最新。Indymediaシェフィールドでも新情報なし。)
この記事が出て以降は新記事が何もないようなので、とりあえず寝ます。
また新しい情報をいろいろと、ありがとうございました。
昨夜は随分遅くまで起きてニュースを待っていらしたんですね。僕はもっと早くに挫折して寝てしまいました(笑)。
イミグレの返答が出るまで数日の様子見、らしきことを、支援ブログは言っていましたね。
>「二国間の問題ではなく人権の問題」(by尾辻さん)>ホモセクシュアリティやバイセクシャリズムを迫害しないということが、「西洋的価値観」として、イランのような国の上に振りかざされることはまったく望んでいません。「普遍的な価値観」だと考えています。
これ、まったくその通りですね。素人の私見ですが、とにかく(同性愛に限らず)なんらかの正当な理由で「送還されれば生命と安全が保障されない」人を守れるか、そのためのルートとシステムが機能しているか、という問題だと思いました。
内務省(日本だと法務省ですね)やイミグレの論理やシステム、条約難民の条件の難しさ、国際情勢の影響と色々問題はありますが、不当な迫害の危険のある人間は保護する(まさに普遍的な価値観)ニュートラルな姿勢が、少なくとも難民条約加盟国からは明示されて欲しい、と思います。ドリームかもしれませんが。
イタリアのお陰でペガーさんの身の安全はとりあえず保障されそうですが、UKが同性愛者難民強制送還の先例を増やすというのは、できれば起こって欲しくないなと思います。
> 昨夜は随分遅くまで起きてニュースを待っていらしたんですね。
実際には経緯から九分九厘「延期」を確信していたので寝ても大丈夫だったのですが、インディメディアなどで「BAにFAXを」の呼びかけが出たら突撃だと思って、BA6633便の出発予定時刻2時間前まで一応待機してました。蒸し暑いやら何やらでどうせ寝付けなかったし。月食見たかったなぁとか思いつつ。(東京はその時間帯の空はものすごい稲妻でしたが。)
> イミグレの返答が出るまで数日の様子見、らしきことを、支援ブログは言っていましたね。
議員が出てきて弁護士チームも積極的に動き出したので、手続き的には今後は、収監施設から身柄解放→トリビューナル、という方向に行くと思うのですが、とにかく、一刻も早い身柄解放を望みたいです。彼女の精神状態が危ないということは断片的な記述からも伝わってきます。英国では難民申請却下で収監されて自殺した事例があったし。
と思ったらざくざく出てきますね。まず
http://ukiuki.way-nifty.com/hr/2007/08/2007_3.html
経由で「同性愛者のイラン人が英国で難民申請を拒否され自殺 2005/04/25」
http://gayjapannews.com/news/news74.htm (日本語)
それから、(以下は英語)
Asylum seeker's suicide tragedy
21/11/2006
http://www.rochdaleobserver.co.uk/news/s/520/520136_asylum_seekers_suicide_tragedy.html
Asylum seeker suicide: 'depressed and preoccupied'
By Rosie Wild
27 October 2005, 12:00pm
http://www.irr.org.uk/2005/october/ha000040.html
Asylum detainees 'suicide risk'
Last Updated: Sunday, 5 February 2006, 01:05 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/4673556.stm
Asylum seeker's suspected suicide investigated
ANDREW DENHOLM
Mon 26 Jul 2004
http://news.scotsman.com/topics.cfm?tid=33&id=853072004
というように、ネットで検索すると、どんだけ出てくるんだというほど、報道記事がヒットします。
※日本でもこういうことはあります。新聞などで報道はされていないかもしれないけど、タリバン政権下のアフガニスタンから逃げてきたアリジャンさんが、著書で自殺未遂のことを書いています。
http://www.alijane.org/
> 不当な迫害の危険のある人間は保護する(まさに普遍的な価値観)ニュートラルな姿勢が、少なくとも難民条約加盟国からは明示されて欲しい、と思います。
まったくその通りです。このまま進むと、最悪の場合、「○○属性だから」という理由で人々が殺されるといったことに対する「西側」の態度は、「親西側」の「活動家」たちの保護(例:南ベトナムの難民の事例)と、「人道的軍事介入」と呼ばれるものだけ、などということになりかねない。「難民認定も外交だから国益を考えてやるのは当たり前」といった正当化のための理屈をこねる以前に守るべきものがあると私は強く信じています。
> UKが同性愛者難民強制送還の先例を増やすというのは、できれば起こって欲しくないなと思います。
しかも労働党政権ですからね、保守党ではなく。英労働党には、これ以上私を絶望させないでおいてもらいたいと思っています。