「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2007年08月19日

「スコットランド独立」の脅威論@日本語報道記事でお茶吹き大会か?

Yahoo! Japanから時事通信の記事を読んでお茶吹いたので、スコットランドで研究しておられる加藤さんのブログにすっ飛んでいってみたら、やはり早朝(現地時間)からお茶吹いておられる。ビバ、お茶吹き。すでに「大会」の様相を呈していると言っても過言ではあるまい。実に、加藤さんと私だけでも地球のあっちとこっちであるのだから「世界大会」である。参加者募集中。(<うそ。)
http://d.hatena.ne.jp/britishstudies/20070818

時事通信の記事は、ネタ的には「スコットランド独立論」および「連合王国解体論」。具体的には、SNP(Scottish National Party)が「スコットランド独立に向けた住民投票案を提出した」こと(<このカギカッコ内の「〜に向けた」がそもそも怪しい。せめて「〜の可否を問う」とすべきである)。(<読み返せばこの時点でオフサイド・フラッグなのだが、ともあれ。)

問題の記事:
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070818-00000073-jij-int
スコットランド独立に現実味?=住民投票案で議論再燃−英
8月18日15時0分配信 時事通信

 【ロンドン18日時事】……略……「独立は非現実的」と見る向きもあるが、長期的な可能性は否定できず、「連合王国の解体」は絵空事ではなくなってきている。
 独立を党是とするスコットランド民族党(SNP)を率いるサモンド首相は14日、「スコットランドの未来を選択する国民的対話」と題した49ページの政策報告書を大々的に発表。「『変化がない』というのはもはや選択肢ではない」とし、独立の是非を問う住民投票の2010年までの実施を目指すと意気込んだ。

話を始める前に、BBC記事:
SNP outlines independence plans
Last Updated: Tuesday, 14 August 2007, 12:31 GMT 13:31 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/6944934.stm

SNPの「国民的対話(a "national conversation")」についての事実、他政党からの反応などは、このBBC記事を参照。このBBC記事を参照すれば以下に書くことは必要もないかもしれないが、この「よくわかってないけどとりあえず一種の脅威論」みたいな日本語の報道記事の文体はやっぱり気になるんで。

なお、私はスコットランドについてはほとんどわかってないので、以下は多少トンデモである可能性も否定できない。トンデモだった場合にはコメントでご指摘を。

時事の記事は、ワタシ的には「……絵空事ではなくなってきている」までは単にニヤニヤさせられただけだが(時事通信の「英国」についての報道ではこういうのが案外多かったりする。何年か前に保守党の議員が持論の「BBC民営化論」を述べただけで「BBC解体は絵空事ではなくなってきている」という方向で報じていたのも確か時事通信だったのではないか)、「政策報告書を大々的に発表」のところで盛大にお茶吹き@1回目。しかも14日の出来事が記事になってるのが18日だし。。。ほんとに切迫した話ならもっと早く出すでしょうに、何か文体だけは切迫してるし。げほげほ。(文体だけ見てると、バスクかコソヴォの話かと。)

SNPはいわゆる「独立論」の政党であり、なおかつ、今年5月の選挙でスコットランド自治議会(Scottish Parliament)の第一党になって党首のアレックス・サモンドがファーストミニスター(首相)となった。SNPは絶対多数は取れていないのだけれども(<ここ重要)。で、今回、第一党が所定の手続きのとおりに(いわばdue processですよね)「政策報告書」を発表した。そのことは「大々的に」という言葉で表現すべきことだと時事通信の記事を書いた人は考えているらしい。(後から振り返ればこれが「遂に来たそのとき」になるかもしれない、という考えなのだろうか。)

また、SNPが今年5月の選挙で単独過半数を取っていたのなら「スコットランド独立に現実味?」と書くことはできるだろうけれど、SNPが取ったのは全129議席のうち47議席に過ぎない。(前回から20議席積み増ししていることは事実で、これは「大躍進」と言えるけれども。)第二党であるLabour(労働党)との議席数の差はわずか1(労働党が46議席)で、以下、保守党が17、LibDemが16、その他が3議席。つまり、ふつーに考えれば、「独立」に「現実味」なんかありませんってば、といわざるを得ない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Scottish_Parliament_general_election%2C_2007
(なお、この議席数については、開票が少しごたついたこともあって「陰謀論」もあるのですが、それは無視します。)

というのは、独立論を打ち出しているのはSNPだけで、合計79議席を押さえているLab, Con, LibDemの主要政党は、連名で「わたしたちは反対します」って文書を出してるのだから。連名の「反対」文書が出されたのはSNPが文書を出した前の日(13日)。下記BBC記事参照。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/6944185.stm

つまり、数字だけ見ても(=「政治的駆け引き」といった要素をまったく見さえしなくても)、「スコットランド独立」というのをイシューとした場合、スコットランド・パーラメント(自治議会)は「反対」が圧倒的多数(少なくとも79:緑の党と無所属の議員については、単に私が調べていないので知らない)、「賛成」はSNPの47のみ。(しかも、「独立論」のSNPはLibDemとさえ連立が組めず、スコットランド議会は第一党が過半数を持たないままで政権担当党となっているのが現状。)

時事通信の記事からは、そのことがまったく読み取れないだけでも「問題」なのに、「大々的に発表」とかって書かれても、と思う。っていうかほんとに「このままだと連合王国が解体する」とでもお考えなのでしょうか。そういうのを「脅威論」と言うんではと私は思いますが。

記事の最後の「〜と意気込んだ」についても、サッカーの試合の前にもく使われるマスコミ語ですねぇ、というか、お茶吹きポイント@2回目というか、吹いたお茶を布巾で拭き拭きしてたのにまた吹いてしまうというか。

そして、あははあははと力なく笑いつつ、今読んだのは何だってんで再読してみると、第一段落の最後が
「独立は非現実的」と見る向きもあるが、長期的な可能性は否定できず、「連合王国の解体」は絵空事ではなくなってきている。

「長期的な可能性」を否定できる人は誰もいないと思うよ、この先200年とか300年とかのスパンで見るなら、と、吹いてしまったお茶を淹れ直しつつつぶやくしかない。だってほら、「ゆくかわのながれはたえずしてしかももとのみずにあらず」とか「ばんぶつはるてんする」とか、古来からいろいろ格言、金言があるじゃないですか〜。

ていうか何この無駄に危機感をあおりたがってるみたいな文体は。

こんなことは、ゴードン・ブラウンがUKの首相になるってことで事前に根回し根回ししていたころ(今年1月ごろ)からさんざっぱら聞かされて(読まされて)いるのだが、2代続けて「スコットランド人の/スコットランド出身の」首相をいただくことになってしまった(ついでに脅威論的に補足しておくと、閣僚にも「スコットランド人」は多く、かつてイングランドを破壊しようとしたIRAの政治組織であるシン・フェインの「シンパ」だった者すらいるのだ!)UKで、政権与党である労働党は、イングランドのナショナリズム(「イングランド独立論」未満:「イングランドの自治議会」設置を求める系、主に保守党、なぜならば保守党はイングランドでしか優位に立てないという現実を知っているから)を横目でにらみつつ、「イングランドだのスコットランドだのウェールズだの言ってる場合ではない、時代は今ブリティッシュ」みたいな、Britishness言説を「大々的に」(笑)展開していたわけだ。そのなかでも、「長期的な可能性」を完全に否定していた人は、私のいる限りではいなかった。200年とか300年とかのスパンで見れば、だけどね。

しかも今年は偶然にも、イングランドとスコットランドのユニオン(連合)が法的に成立した「1707年連合法(合同法) Acts of Union 1707」からちょうど300年にあたる。マスコミでもいろいろ記事が出てたけど、それは基本的には「(近い将来の)スコットランドの独立に現実味」という話ではなく、「これまでの300年を振り返る」という話であり、なおかつ、「今年は自治議会選挙ですが」という話であった。時事通信の記事を書いた人はそういうコンテクストはご存知ないか、ご存知だったとしても踏まえていないかだろう。

なお、「連合王国の解体」というフレーズは、1970年代のスコットランド・ナショナリズムの文脈で用いられたもので(このころにはスコットランド独立運動の「武装闘争」もあったこんな計画も当局は警戒していたそうであるが、同時に「すべては当局の陰謀」という説もあったりで、素人は手を出せない分野)、簡単に言えばアジ演説のサウンドバイト(日本語でいえば「ワン・フレーズ(・ポリティックス)」)である。詳細は加藤昌弘さんのエントリを参照。(質としては、「文明の衝突」みたいなフレーズということでいいのかな。)

私の把握している範囲では、今年1月、つまり5月の選挙の数ヶ月前に、当時「次期労働党党首/首相最有力」であったゴードン・ブラウン(スコットランド人)が、「連合が危機にある」という言説を持ち出してきていたのだが、それはマジで言っていたわけではなく、5月の選挙対策だった。つまり、スコットランド議会で労働党が現状を維持するためには、「最大のライバル」であるSNPを牽制しておく必要があったのだが、SNPと労働党の最大の違いといえば「独立論」であり、「このままSNPを勝たせたらUKの連合が危ない」という内容の脅威論系アジ演説をぶちかました。いもしない「敵」をでっちあげて、しかもブラウンはブレアほど自己陶酔できないからだと思うが、何かどこかが「浮いている」言説になっている。(当時これ読みながら "Pathetic!" というのはこういうときに使う感嘆句だよなぁと思ったものだ。)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/6258089.stm
"It is very important to recognise that Britishness and Britain itself is not based on ethnicity and race," he said.

"It is founded on shared values that we hold in common: a commitment to liberty for all, a commitment to social responsibility shown by all, and a commitment to fairness to all."

He said there was now a dividing line in Britain which pitted "those of us who are prepared to support the shared values of the union" against "those who are prepared to play fast and loose with the union and put the whole future of the union at risk".


なお、「連合王国の解体」をめぐる保守党筋の言説としては、ガーディアンのCiFにノーマン・テビット元下院議員が書いてるのが見つかった。これはこれで強烈なアジ演説だが(反マルチカルチュラリズム、反労働党)、「〜と意気込んだ」と言いたくなるような調子なので、一応見ておいてもいいかもしれない。
http://commentisfree.guardian.co.uk/norman_tebbit/2007/05/leader_song.html
※この人は、一言で言えば、昔ながらの保守党政治家、英国の右翼。移民嫌い、アイリッシュ嫌い、同性愛者嫌い、EU嫌い、etc。1984年のIRAのブライトン爆弾テロで夫人を下半身不随にされた。en.wikipediaを今見て初めて気づいたのだけど、この人ワーキングクラス出身なんですね(で、元々上流・中流階級だった人より先鋭的)。1931年生まれ。



スコットランドが「自治議会」を持つに至ったのは、1997年9月のレファレンダムの結果であるが(UKとして見れば「ブレアの労働党の地方分権政策」の一環として語られることも)、このころの空気については、杉本優さんのサイトを参照。特に下記の2本のエッセイを参照。(杉本さんが当時大修館書店の『英語教育』誌に連載なさっていたコラムが再掲されている。)

「スコットランドの総選挙」
http://www.koiwascotland.plus.com/scot/japanese/fu05050.html
http://www.scotlandjoho.com/scot/japanese/fu05050.html
「自治議会と2人の女性」
http://www.koiwascotland.plus.com/scot/japanese/fu05060.html
http://www.scotlandjoho.com/scot/japanese/fu05060.html

なお、Massie池田さんのサイトによれば、「自治」を決定したレファレンダムが行なわれたのは、「97年9月11日,700年前にWilliam WallceがStirling Bridgeの戦いでイングランドを破った日」だそうである。うはっ。
http://square.umin.ac.jp/~massie-tmd/devolution2.html

そういうシンボリックな日付に行なわれたレファレンダムが、「独立」ではなく「自治」についてのものだった、ということ自体が、「スコットランドの独立」が「絵空事」かどうかを雄弁に語っているように私には思える。つまり、連合(United Kingdom)とEUという「現実」の中で、ナショナリストの「物語」にどこまで人々を動かす力があるか、ということを。

これは北アイルランド/アイルランドにもある程度は言えていることだ。今年のアイルランド共和国の総選挙にかなりの「意気込み」で挑んだシン・フェイン――南北にまたがる政党で、北では政権を担う一翼である――が、前の選挙より議席数を減らすという惨敗に終わったことは、ネオリベ的経済の成功の中ではシン・フェイン的な「ナショナリズム」は主要な問題にはならなかった、ということを示していると私は思う。

※この記事は

2007年08月19日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 08:41 | Comment(2) | TrackBack(0) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はてなブックマークでお茶を吹いておられると知り飛んできました。早速もの凄い勢いで関連記事を提示しておられて、こちらでは違う意味で茶を吹きました(笑)。SNPがLibDemにも連立を断られ、今回の政策白書でも「should be withdrawn」なんて足蹴にされているのを見るとさすがにホロリときましたが、それが現実なのでしょうね……。ともあれ、「脅威論」とは的確な表現です、舌を巻きました。
Posted by かとう at 2007年08月19日 09:13
>かとうさん、
あらまあ、ものすごい勢いで飛んでいらしてくだすって。さぁさ、まずは座ってお茶でも。ちょうど飲み直しをしていたところですのよ、ほほほ。え? 「おちゃ」じゃなくて「おちゃけ」でしょうって? 聞こえない聞こえない。

アホ話はさておき、BBCの記事を見ると、最も激しくこき下ろしているのはLabourというよりLibDemなんですね。切ない。。。LibDemは酒の問題で失脚した前のケネディ党首(アイルランド系スコットランド人)はSNPとけっこう仲良くしていた記憶があるのですが。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/6944934.stm

個人的には、「連合王国の解体」という話は、「アイルランド問題」に最終的な決着をつけてからにしてほしいと思いますが(別の島であり、元々が植民地である)、人為的に南北に分断されたアイルランドも結局そのまま、グダグダで既成事実追認が短期的には落としどころのようで(「過激派」を対決させ和解させることを優先したから)、「問題」の根本の解決は華麗に先送りされてますし。まあ、一応「将来的には南北統一についてのレファレンダムをすることもひょっとしたらあるかもしれない」ということになってはいますが。

しかしスコットランド・ナショナリズムについての記述は、書くのも読むのもほんとに難しいですね。だからこそ、今回の時事通信記事のように「ネタ」的に扱ってもらいたくはないものです。
Posted by nofrills at 2007年08月19日 11:53

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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