kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=


2007年07月20日

ロシアが英国の外交官4人を追放&米国が「法の支配」を語る



英国とロシアの外交舞台で進行中の件が、「そっちがその気ならこっちもやるからねっ」な局面を迎えた。英国がロシアの外交官4人を国外追放としたことに応じて、ロシアが英国の外交官4人を国外追放とした。当該の外交官の出国までの猶予は10日間。

Russia expels four UK diplomats
Last Updated: Thursday, 19 July 2007, 17:23 GMT 18:23 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/6906481.stm

ロシア側から:
... foreign ministry spokesman Mikhail Kamynin said Moscow would not apply for any UK visas for Russian officials.
ロシア外務省のスポークスマン、ミハイル・カムイニン氏は、英国に対しロシア政府関係者のヴィザを申請しないと述べた。

He said: "The position of the Brown government is not based on British common sense and reasoning."
「ブラウン政権の立場は、英国のコモンセンスと理性に基づいたものではない」
※おっと、こんなところでもBritishnessですか。。。

At the Moscow news conference he added: "The measures declared by London recently makes co-operation between Russia and the UK impossible... in the war on terror."
「英国政府がとると宣言した措置は、テロとの戦いにおけるロシアと英国の協力を不可能にするものである」

プーチンはけっこう余裕。
President Putin added later: "I think relations between Russia and Britain will develop normally because both countries are interested in this."
どなたか、これ↑の意味がお分かりのかた、いらしたらコメントお願いします。thisの指示対象がわかりません。「ロシアも英国も『これ』両国間の関係を発展させていくことに関心があるのだから、両国間の関係は通常に進展していくだろう」。→コメントで教えていただいたので取り消し線を引き、加筆しました。(加筆した結果の文が若干トートロジーになっていることについてのツッコミはなしの方向で。詳細はコメント欄参照。)

"It is necessary to measure one's actions against common sense, respect the legitimate interests of partners and everything will be all right. I think we will overcome this mini crisis."
「一方の行動については、常識と敬意と、相手の当然の利益とに照らし合わせて判断することが必要であり、そうであればすべて問題なくいくであろう。私としては、このほんの小さな危機は乗り越えられると考えている」

プーチンは「ほんの小さな危機」とレッテルを貼ることで英国にプレッシャーをかけているようだが(まさか事態を軽く見ているわけではなかろう)、ロシアがここで「テロとの戦い」(<英国の政治では既に死語)を持ち出してきたということは、これまでの事実がどうであったかということは別として、この問題が「英国とロシア」の間で収まらなくなるという可能性を示唆している。

そろそろ「ツンデレ」とか言っていられなくなってきたかも。(まあ、最終的には「デレ」の局面が訪れるにせよ。)

というわけで、「テロとの戦い」の本陣から、コンドリーザ・ライスのお出ましです。

US Secretary of State Condoleezza Rice said earlier: "This is an issue of rule of law to our minds, not an issue of politics."

"It is a matter of Russia co-operating fully in what is simply an effort to solve what was a very terrible crime committed on British soil."

つまり、「米国としてはこれは法の支配の話であり、政治の話ではないと認識している」。そして「英国の領土で実行された恐ろしい犯罪を解決するための取り組みに、ロシアが完全に協力するかどうかの問題である」。

んー、ちょっとこれだけではわかりません。「政治の話ではない」というこの認識は完全に筋が通っていると私は思うけれど、抽象的過ぎて意味がわかりません。というかBBCのライティングの順番からしてわかりづらいのですが。Condoleezza Rice said earlier というののearlierのタイミングがわからないと、「米国の国務長官が発言」ということの意味がわからない。ライスのこの発言は、ロシアが外務省のスポークスマンの発言として「対テロ戦争に協力しない」と言い切った前なのか、後なのか。また、ライスの発言に「対テロ戦争」云々が含まれていたのか、いないのか。ライスの発言にある「法の支配」と「政治」は、それぞれ何を指すのか。逆に言えば、ロシア外務省のいう「対テロ戦争での協力」は、「法の支配」なのか「政治」なのか。

ふつーに考えれば「対テロ戦争での協力」は「政治」なんですが、そもそも「対テロ戦争」というのは「法の支配」の話のはずで、その「法」の枠組をぐちゃぐちゃにして「政治」にしてしまっているのは米国なので(日本が「憲法」を無理に解釈して米軍支援で自衛隊を送ったことを見ても、「法」の話ではなく「政治」の話になっているわけで)。(^^;)

米国務長官の発言は究極的には「ロシアは政治問題化したいようですが、それはどうでしょうね」という内容だと思うのだが、ライスが何を以て「政治」と言っているのか。例の「西側のダブルスタンダード」が「問題」になりかねない(もうなってると思うけど)局面だけに、こういう抽象的な物言いをされると、ねぇ。

で、BBCよりもガーディアンの記事のほうがコンテクストが明確なのでガーディアンを参照。この記事を書いているのはいつものルーク・ハーディング(最近ちょっとタブロイド的筆致が目立つ)ではない。

4.45pm update
Russia responds in kind to diplomat expulsions
James Sturcke and David Batty
Thursday July 19, 2007
http://www.guardian.co.uk/russia/article/0,,2130225,00.html

記事は
第1パラグラフで「ロシアが英国の外交官4人を追放する」という事実の提示
第2〜5パラグラフで英外務大臣の反応
第6〜7パラグラフで経緯説明
第8〜9パラグラフでロシア外務省の発言
第10パラグラフで影響は限定的であることの説明(一般の旅行客や商用で訪問する人には影響しない)
第11パラグラフでそもそもの発端となったリトビネンコ事件の復習
第12〜13パラグラフで米国の反応
第14パラグラフで英国政府の非公式見解
第15〜22パラグラフで関連する複数の話
第23パラグラフで外交官追放はスパイ騒動のあった96年以来だとの話
最後の第24パラグラフでロシアの法的判断
という構成になっている。

第2〜5パラグラフ(英外務大臣の反応)で重要なのは、ミリバンド外相がロシアの措置について "completely unjustified" というかなり強い表現を使って反応していること(ただしunacceptable系の「全面対決」の表現ではない:「デレ」の余地)、それから「国際社会」を持ち出していること。
"We are much heartened that over the last 36 hours, across the international community, European countries, the EU as a whole and the United States should have put out such positive statements about the need to defend the integrity of the British judicial system.

"That is something that we will be taking forward with the international community over the next few days and weeks."

【大意】(誤訳あるかも)
「この36時間、国際社会をとおして、(つまり)欧州各国、欧州連合、米国が、英国の司法制度がしっかりしたものであるということを守らねばならないという点につき、あのように前向きな声明を出してくださいました。今後数日、数週間、わが国は国際社会と共同してこの点についてさらに推し進めていく所存です」

ミリバンドは外務大臣語をしゃべっているが、要するに「英国には欧州と米国がついている」と宣言しているわけだ。ロシアは憲法でロシア国民の引き渡しをしないと決めているのだから、本来話はそこで終わりのはずだが(ロニー・ビッグスのときに英国とブラジルがどう交渉したかを参照)、それでは済まされないというわけで英国が一歩踏み込んだ、そのときに「欧州も米国もうちらの味方」という事実を作って「国際社会」を持ち出してきた。

つか、バイラテラルで解決しろよと思うのだが。「国際社会」じゃなくて二国間条約で犯罪人引渡しを取り決めればよくね?って話じゃないのか? 今回の事件についてはこれから条約を作って遡及して適用はできないにせよ。

第8〜9パラグラフ、ロシア外務省の発言で重要なのは、「英国がやったからこちらも」という部分(これは形式的にも必要だと思う)と、そこから話が一気に飛んでの「テロとの戦い」の話。
The foreign ministry spokesman Mikhail Kamynin saying the expulsions were a response to the "unfriendly" actions of the British government. The British stance made it "impossible" for the countries to cooperate in the fight against global terrorism, Mr Kamynin said.

"The decision of the Brown government is not based on common sense or on reason. The demands on a sovereign country to bend its constitution because of a crime by one person is unreasonable," he said.

(なお、ガーディアンは正式にwar on terrorという言い回しを捨てたようでfight against global terrorismと表しているが、これはこれで「翻訳のズレ」が生じているのではないかという気がする。ロシアにとってのterrorはglobalなのかどうか。チェチェン独立派を「グローバル」というのなら、80年代のIRAやETAだって「グローバル」だったと思うのだが、IRAやETAは「政治」の舞台ではそのような位置付けはほとんどされていない。なぜなら、ぶっちゃけ、アメリカには関係がなかったから。)

「テロとの戦い」の話とは別に、「ある主権国家に対し、ひとりの人物の違法行為を理由として憲法を曲げろと要求することは理にかなっていない。英国政府の決定は常識的でもなく合理的でもない」とのロシア外務省の意見は、これはこれでまともな主張であると思う。そういうときのために二国間での犯罪人引渡し条約があるんではないか。

しかし「テロとの戦い」の話はどこから出てきてどこに行ったのだろう。

そこで重要になってくるのが米国の反応だ。第12〜13パラグラフ:
The US secretary of state, Condoleezza Rice, insisted that Russia should not be isolated but urged the Kremlin to endorse the extradition request.

"There is nothing to gain by the isolation of Russia and the strategy that has been ongoing since the collapse of the USSR, [namely] to bring Russia more and more into international institutions that are founded on democratic principles, is the way to bring Russia on," she told Sky News.

【大意】
ライス国務長官は、ロシアは孤立すべきではないと主張し、クレムリンは引渡し要求に応じるようにと述べた。「ロシアの孤立で得られるものは何もなく、ソ連崩壊以後続けられてきた、民主的原理に基づいた国際的機関にロシアをいっそう深く結びつけようとするストラテジーこそが、ロシアを向上させる」とスカイ・ニュースで述べた。

・・・いかん、物言いがインテリすぎる上に抽象的すぎてさっぱりわからない。ロシアはロシアの憲法を守りルゴボイの引渡しを拒否することによって、国際的に孤立する、ということ? さすがにそんな飛躍はしないよね、いくらアメリカでも。

犯罪人引渡しが拒まれた例としては、英国で大列車強盗をしてブラジルに逃げたロニー・ビッグス(数年前、年を取って身体も弱ってさびしくなったことで、英国に戻り、現在服役中)の事例があるし、IRA関連でも何かあったよーな気がするが、そのときに「国際的孤立」の話にまでなっただろうか。答えはノン。

しかし、ガーディアンに引かれているライスのこの発言と、BBCにあるライスの発言をつき合わせると、米国は「英国の司法」こそが「法の支配」であり、ロシアの憲法はそのためなら破ってよい、むしろ破るべき、と言っている、ということに・・・なるよね? 

というか、ロシアの憲法はどこまで犯罪人の外国への引渡しを禁じているのかを確認しないと。。。条文を求めてぐぐる。あった。
http://www.servat.unibe.ch/law/icl/rs00000_.html
Article 61 [Extradition]
(1) The citizen of the Russian Federation may not be deported out of Russia or extradited to another state.
(2) The Russian Federation guarantees its citizens defense and patronage beyond its boundaries.

うはー。これは全面的にノンだ。これじゃ二国間条約もダメってことになる。

英国はそれをわかっていて「ルゴボイ引渡し要求」を出し、さらには「外交官の追放」を行なっているのであり、ということはですねー、うーん、何をどう計算してんだ? 挙句「国際社会」を持ち出して?

さらに、BBC記事にあるライスの発言のthe rule of lawというのは、彼女の言うことをそのままたどると、ロシアの憲法をlawとしない方向で、という話? まさかね。

ダメだ、全然わかりません。発言の裏にあるロジックも見えない。

第14パラグラフにある「英国政府(首相官邸)の非公式見解」がひょっとしたらカギ。
Downing Street privately believes that the Russians could extradite Mr Lugovoi if there was sufficient political will. ...

ロシアの最高法規である憲法で禁止されている身柄引き渡しを、「政治的意思が十分にあれば」可能だ、とダウニング・ストリートが考えている。これがロジックかもしれない。でも意味がわからない(again!)。何だそのpolitical willというのは?

日本が自衛隊を海外に派遣させたようなことがpolitical willだということだろうか。

日本のことはさておき、よその国の最高法規を何だと思っているのだろう。

英国ってひょっとして立憲主義をわかってないんじゃないのか? マグナ・カルタの国が、法を超える何かを想定して「そこらへんに打開策が」とか言うか? 絶望した! 

(「あなたのおっしゃるそれは大陸のそれであって、Britishな立憲主義じゃなくってよ」とか言い出しかねないのが英国クオリティだったり。)

それとも、成文憲法のない英国にはわからないことなのだろうか。(<イヤミざんす。)むしろ、労働党が○○すぎるのだろうか。労働党の法解釈の質の悪さは2003年のイラク戦争前に露呈したのだが、ロシア共和国憲法第61条の "The citizen of the Russian Federation may not be deported out of Russia or extradited to another state." には解釈の余地すらない。どうしてもというならmayを曲解するしかない。(それだって、ロシア語では英語のmayとまったく同じ機能の助動詞ではなかろう。)

ガーディアンのライティングもひどい。すぐ上に引用した部分に続くのは:
Instead, Kremlin officials have encouraged the Russian media to blame Mr Litvinenko's death on the exiled Russian former oligarch Boris Berezovsky and MI6.

話が全然違う。orz メディアがどうとかいうことは、憲法と同列に並べられるべきではない。何がinsteadだよ。(こんなでも、ここしばらくのルーク・ハーディング特派員のライティングよりはましだ。)

いくらこの後にルゴボイのトンデモっぷりとベレゾフスキーの話を書きたいからって、このつなぎ方は立憲主義をなめてるとしか思えん。

ベレゾフスキーの件は第15パラグラフからの部分に入っている。詳細はBBCの記事とかで。なお、英国政府・外務省はこの件についてはルゴボイの引き渡し要求のコンテクストでは言及していないと思う。メディアが勝手に言及しているだけだ。ロシアのメディアが「ベレゾフスキー黒幕説」に勝手に言及しているように。(“西側”では「ロシアのメディアは国家の統制下にあり」といった前提があるのだが。)
Yesterday it emerged that British security services had thwarted an alleged assassination attempt on Mr Berezovsky by a Russian hitman. He was apparently tailed by British agents from the moment he entered the country.

Today, the head of the Metropolitan police, Sir Ian Blair, said he was "extremely satisfied" with the investigation into the alleged plot.

Speaking about the individual arrested by police, he said: "He is no longer in the country and there was a series of decisions which I was fully aware of and fully support."

Sir Ian said the police investigation into the alleged conspiracy had now "stopped".

つまり、ベレゾフスキーを殺すために英国に入ったロシア人がいたのだが、英国のエージェントが尾行して身柄を拘束し、既に英国外に身柄を移した(強制送還か?)。スコットランドヤードは詳しくは語っていないが、「もう大丈夫」とのこと。

ベレゾフスキーはガーディアンのインタビューで「革命」しかないと語った件でロシアが身柄を求めており、また、ブラジルでも資金洗浄で逮捕状が出た。数年前に日本の国会議員が別の国会議員によって「疑惑のデパートどころか疑惑の総合商社」と呼ばれていたが、ベレ氏の場合「疑惑の」何だろう。まあそんな感じ。でも英国の市民権を持っている。

それよりキナくさいのは:
It was confirmed by the Ministry of Defence today that RAF jets were scrambled on Tuesday after two Russian aircraft were spotted heading towards British airspace.

"Two unidentified aircraft came towards British airspace. They turned round before there was an interception and before they entered British airspace," an MoD spokesman said.

He confirmed that the two aircraft involved in Tuesday's incident had been Russian, and said there was "nothing to suggest this was linked to any other issues".

つまり、火曜日にロシアの航空機2機が英国の領空に向かっているのが発見され、英空軍がスクランブル発進していた。

ええと、手近の欧州地図見たんですが、ロシアから英国の領空まで飛ぶには他の国の領空を通過しないと無理ですよね(<変なことを書いていたらコメントください)。ミリバンド外相が「EUが、EUが」と言っているのはこれが関連しているのかもしれない。していないのかもしれない。

というわけで記事を見てきたわけですが、米英が自分たちに都合のよいように「法の支配」とか「国際社会」を持ち出すとろくなことにならないという事例が2003年から今に至るまで続いているわけで、2003年にはそれへのカウンターとしてロシアとフランスが一応は機能していたけれども、今回はロシアが当事者、フランスはサルコ、それだけでも十二分に気分が暗くなるところに、「わが国の憲法」と言うロシアが憲法で保障されている市民的自由に対してはものすごく威圧的に(強権的、とさえ言えるほどに)対処している、ということを見ると、「法」よりも「政治」が優先されるという「現実」がまた見えてきて、ウォトカでもあおってないとやっとれんな、という気分になるわけです。

さて、お茶でもいれましょ。

※この記事は

2007年07月20日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 10:07 | Comment(5) | TrackBack(0) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。たまにお邪魔して記事を拝見しています。

(引用)
President Putin added later: "I think relations between Russia and Britain will develop normally because both countries are interested in this."
※どなたか、これ↑の意味がお分かりのかた、いらしたらコメントお願いします。
(引用終わり)
私も自信がありませんが、おそらくはthis crisisのことだと思います。どちらかが黙殺しようとしているのではなく、両国ともこの問題の進展に関心を持って臨んでいるのだから、最終的には解決するだろう、というような意味に無理やり(笑)解釈しました。

それと、私もnofrillsさんと似たような気持ちを持っていると思いますが、米英の「発言の裏にあるロジックも見えない」ということなので、あえて米英の側に立って解説させてください。

(引用)
BBC記事にあるライスの発言のthe rule of lawというのは、彼女の言うことをそのままたどると、ロシアの憲法をlawとしない方向で、という話?
(引用終わり)
そういう話だと思います。より正確に述べるなら、common lawではないという立場なんでしょう。
文章を読んで、若干「法の支配」と「(形式的)法治主義」を混同されているような気がしたので失礼を承知で書かせていただきますが、法の支配とはcommon lawによる支配のことだとされています。
(わりとよく書けているwikipediaの記事
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%94%AF%E9%85%8D
対して法治主義、中でも形式的法治主義と呼ばれる考え方は、法律にさえのっとっていれば何をしても問題ない、という考え方で、例えばナチスドイツのニュルンベルク法などは形式的法治主義の好例だと思います。ユダヤ人差別は当時、合法ではあってもcommon lawに反していた、ということについては現在、反論する人は少ないのではないのでしょうか。
つまり、米英のロジックに即して理解するならば、ロシア憲法はcommon lawに反しているということなんでしょう。

一つの国家の中で正統だと認められている支配のあり方を、他国が人道や法の支配の概念を持ち出して否定することが許されるのかどうかは確かに論争のある問題で、私もイラク戦争には反対です。しかし、スーダンやジンバブエの現状を放置すべきかというと、そうは思いません。原理原則に頼らず、事例に即して慎重に判断していくしかないのではないか、と思っています。

ちなみに今回の件に関してはまだ判断を留保しています。基本的には犯罪者は犯罪を犯した土地で裁くべきなんでしょうが、逆にイギリスがロシアに対して違法行為をしているかどうか、よく知らないもので。Commonsでのミリバンド外相に対する質問で、「英政府も、ロシアで罪を犯し、ロシアから引渡し要求がある犯罪者をかくまっている」と主張していたMPがいました。ミリバンドは否定していましたが、どうなんでしょうね……。
Posted by タツヤ at 2007年07月23日 16:27
いつも勉強させて頂いていますm(_ _)m
メアドを掲載されてないようなのでコメント欄から失礼します。お読みになったら削除してください。

上で引用されてるプーチン発言における「これ」の指示対象は、より親切な(笑)現地メディアの英訳によれば、

"I think that Russian-British relations will be developed normally. We're interested in developing relations both from the Russian and British sides"

http://www.itar-tass.com/eng/level2.html?NewsID=11731226&PageNum=0

なんというか、少なくとも双方を等しく" "で括って扱うことには多少の違和感がありますが(笑)。

失礼しました。
Posted by hh at 2007年07月23日 17:23
> タツヤさん、hhさん
おふたかたのおかげでかなりクリアになってきました。ありがとうございます。thisについては、エントリ本文に加筆させていただきました。

BBC(上)とhhさんご提示のイタル・タス(下)を並べてみます。
"I think relations between Russia and Britain will develop normally because both countries are interested in this."

"I think that Russian-British relations will be developed normally. We're interested in developing relations both from the Russian and British sides"

どちらが逐語訳に近いのかはわかりませんが(何となくイタル・タスの方のような気はします)、意味はイタル・タスのほうがずっと明瞭ですね。BBCのthisはdeveloping the relations normally ということで考えれば、問題なく解釈できます。becauseが来ているので前後の文脈にthisを求めたくなったのですが、そうではなかった、ということですね。タツヤさんの解釈のように、solving this mini crisisとしても結局はdeveloping the relations normallyということになりますし、私も文脈からはそういうことだろうと思いはしたのですが、テクストにないことはわからないというのを前提にしないとぐだぐだになってしまうので、thisの指示対象を確認したかった次第です。

hhさん:
> なんというか、少なくとも双方を等しく" "で括って扱うことには多少の違和感がありますが(笑)。

同感です。BBCではbecauseを入れて文をつないでいるのでなおさらです。プーチンが元からそういうふうにしゃべっているかもしれないのですが。

(the) rule of lawについてはこのあとのコメントで・・・(長くなると投稿できないので)。
Posted by nofrills at 2007年07月24日 06:20
common lawについて。まず、タツヤさんのご説明と的確な資料提示に感謝します。「法の支配」と「法治主義」は確かに私は混同しています。より正確には、意図的に混同してみたのですが(ただ「悪法」の「悪」を定義するのがまたややこしいので、「シュタージ大活躍」的なもの、「形式的法治主義」は考えていないかも)、それを意図的に扱いきれるほどの基礎が私にはないので、特に後から読み返した場合、あるいは書いている最中でさえも、どこまでが意図的な混同で、どこからが自分にわかっていない部分なのかが自分でもわからなくなるという状態になっているのが正直なところです。(^^;)

> つまり、米英のロジックに即して理解するならば、ロシア憲法はcommon lawに反しているということなんでしょう。

やはりそういうふうに解釈するほかはないですよね。それはあまりに大げさなので、コンドリーザ・ライスの発言からそこまで読めるのかどうかわからなかったのですが(今もわかりません……)、とすれば、最大限に解釈した場合、ロシアに対して「法的な正当性を持たない『独裁国家』として見なすかもしれませんよ」というサインを送っているということにすら読めて、恐ろしいのですが。むろん、現実的には「ロシアに対して武力で」といったことは考えられませんけれども、the isolation of Russiaという言い方はあまりに強すぎると感じられるのです。ライスほどの立場にある人がなぜ、という。まさか「憲法を変えろ」という話ではないだろうに・・・と思ったらそうなの?!
http://www.afpbb.com/article/politics/2258567/1859240

一方のロシアの反応(「対テロ戦争に協力しない」という)を突き合わせると、何というか、両者の話がロジック的に飛躍しているのではないかという気もするのです。互いに何をどのような言葉で語っているのかを確認し合うという必要不可欠な作業が行なわれているのだろうか、と思う次第です。変なアナロジーですが、「お雑煮の餅」について話しながら、一方はそれが四角だと思っていてもう一方は丸だと思っている、ということになっていやしないかと。

この件、(the) rule of lawについて調べてみたら別なエントリを立てるべきと思われたので、あとで別のエントリを立てます。定冠詞の有無など、英語ならではの問題(国連文書の多言語翻訳で議論の的となることが多いという件)もあるようですし(いかにも「言語屋」な細かい話ですが)。

※あとタツヤさんへ、事務的なご連絡ですが、文中でURLの直後に半角のカッコがあった箇所でリンクがうまくいっていなかったので、そのカッコを全角に修正させていただきました。
Posted by nofrills at 2007年07月24日 07:54
もう1点。
タツヤさんのコメントから:
> Commonsでのミリバンド外相に対する質問で、「英政府も、ロシアで罪を犯し、ロシアから引渡し要求がある犯罪者をかくまっている」と主張していたMPがいました。

Commonsのハンサードを見てみました。ミリバンドによる「外交官追放」のアナウンスがあった日の7月16日に、Mr. Nigel Evans (Ribble Valley) (Con)(保守党のナイジェル・エヴァンズ議員)の質問がありますね。
http://www.publications.parliament.uk/pa/cm200607/cmhansrd/cm070716/debtext/70716-0005.htm
[quote]
He (a Russian journalist who telephoned Mr Evans) said he believed that there was a tit for tat: that the Russians had called for the extradition of people from this country and we had refused, and that they failed to see the distinction involved in this particular case. Will the Foreign Secretary comment on that?
[/quote]

ハンサードには名前は出てきていませんが、この質問に対するミリバンド大臣の答えに欧州人権法が出てくることからも、具体的にはアフメド・ザカーエフのことと思われます。また、ロシアが英国に対して敵対的な言動を表立ってするようになったのは、英国によるザカーエフの政治難民認定(2003年11月)の後のことだと私は記憶しています。
http://www.bbc.co.uk/radio4/today/reports/archive/international/zakayev.shtml

ザカーエフはチェチェン独立派の一員として戦闘や交渉を行なってきた人で、2000年に出国し、以降はチェチェン独立政府の代表として西欧で活動してきましたが、ロシア政府は「モスクワ劇場占拠事件の計画を知っていた疑い」や「独立戦争でロシア軍兵士を殺害した疑い」で逮捕状を出しました。しかしロシアは死刑制度が存続しており、欧州人権法では死刑制度が存続している国への身柄の引渡しは禁止されている。ロシアとしてはこの時点ですでに「法」の問題ではなく、チェチェン独立という「政治」の問題だと考えていたのかもしれませんが(「政治的に独立派をサポートしているから、法を都合のよいように利用している」など)。

ザカーエフとは別に、ボリス・ベレゾフスキー(お金をめぐる犯罪、「革命」発言)の件もあります。

※なんか、チェチェン戦争についてロシア政府を支持している人みたいに見えるかもしれませんが、私はそうではありません。むしろ逆で、特に2005年のアスラン・マスハードフの殺害は不法な暗殺だと考えていますし、「民主的」選挙で傀儡を大統領とさせたなし崩し的な「和平」はいわば恫喝によるものと考えています。

なお、ダルフールについては一連の襲撃・虐殺に英国の武器が使用されてきたわけで(今年の4月にも禁輸を破って英国から武器が流れていたことが発覚)、英国がすべきことの第一は「法」を取りざたすることではなく、武器の禁輸の徹底ではないかと考えます。
http://news.scotsman.com/uk.cfm?id=1327052004
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/africa/article1687275.ece

ジンバブエについては、十分な知識がないため自分では何か書けるほどに考えることができません。下記を読んでいろいろと知ることはできました(英メディアはプロパガンダの言説が比率として高く、今ひとつわからないことがあります)。
http://www.cafeglobe.com/news/worldnews/wn20070601-01.html
Posted by nofrills at 2007年07月24日 08:01

この記事へのトラックバック





【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

……全文を読む
▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼