「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2020年03月01日

学術的に確認はされていないことでも、報道はされていたということについてのメモ(新型コロナウイルスの「再感染」について)

※本稿の表題ですが、「報道があった」ことは「その事実がある」ことを必ずしも意味しないので、その点はよろしくお願いします。また本稿は、「報道があった」ことを盾に「その事実を認めよ」と迫るものではありません。むしろ逆で、「英デイリー・メイルなどタブロイドを鵜呑みにするな」と言いたくて書いたエントリです。

BuzzFeed Japanのこんな記事が話題になっている:
「新型コロナウイルスの再感染は致死的」医師の動画に批判、専門家「信用しないで」
https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/iwata2


この見出しがあまりにわかりづらくて、私は最初にTwitterでこの見出しを見たとき、どこかのまとめサイトだろうと思ってスルーしてしまったのだが、そんなことは本質的なことではなく、記事自体は、現在のこの「何もかもが不安と不信」というムードの中でひとつの明確な指針となりそうなものだから、読んでおくといいと思う(見出しについては本稿の最後で具体的に指摘する)。

分かりにくい見出しを整理すると、「新型コロナウイルスの再感染は致死的」と主張するビデオを自身のYouTubeに上げている医師がいて、そのビデオについて(その医師とは別の)専門家が「信用しないで」と評価し、内容を批判している、ということである。また、その医師のビデオはネット上でかなり流行っているらしい。私は見たことなかったが、BuzzFeed記事に埋め込まれている当該のビデオのキャプチャ画像を見れば、多くの人が「あー、このビデオ見たわー」となるのだろう。

記事の冒頭には次のようにある。(太字も原文のままで引用してある)
「新型コロナウイルスの再感染は致死的」。そう説明する現役医師の動画がネット上で拡散されている。感染症の専門家で神戸大学教授の岩田健太郎医師は「そういう事例の報告はない」「引用論文が明示されていないものは信用しない方がいい」と注意を呼びかけている。
https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/iwata2


そして記事の下の方には、岩田教授の発言として、次のようにある。
そもそも「2回感染した」という事例は、1度も確認されていない。検査で陰性になった後に陽性になったという人が、「2度目に感染したのか」はまだ謎なんです。

大阪の事例にしても、中国の事例にしても、陰性になったのは検査で見つけられなかっただけで、ずっと感染していただけなのではないか。再感染より「再燃」(いったん減少したウイルスが再び増加すること)の可能性の方が高いと考えています。

再感染が確認されていないということは、それが心不全を起こすということも当然確認されていない、ということです。


と、岩田教授は「1度も確認されていない」と言い切り、その後で陰性だった人が陽性になったのは「2度目の感染」なのかどうかは「まだ謎」、つまりまだ解明されていない(わかっていない)と述べている。これは非常にロジカルな言い方なのだが、「2度感染することがあると分かっていない以上、2度感染したという事例はこれまで確認されていない」というのは、やや人を食ったように感じられるかもしれない。要するに、「2度感染するなどということが本当にあるのかどうか、わかっていない」のである。

だから「2度の感染(再感染)」を前提として何かを語ることは、できないわけだ。

以下、BuzzFeedの神庭記者と岩田教授の話は、さらに別の側面へと発展していき、そのパートがなかなか読み応えがあるのだが、本稿ではそちらは扱わない。読めばわかるので、各自で、読んでいただきたいと思う。

本稿を書いているのは、ここで岩田教授によって批判されている医師のビデオにある「再感染で心不全」という話に、おやと思ったからだ。

私は医学は専門外だから、用語を正しく把握・記憶しているかどうかはわからないのだが、「再感染する」「心臓に影響が出る」といった話は、2月の間に何度か、Twitter上で英語で遭遇したことは確かだ。"infected again" とか "second infection" とか、"cardiac なんとか" といった単語でそういう内容のことが語られていた。それが気になったので、今回改めて検索して掘り出してみた。そういう報道があったということはこれで確認できると思う。

詳細を述べる前に念のために書いておくと、岩田教授がおっしゃる「確認されていない」は、医学的にそういう事実があるということが検証を経たうえで確認されていないということであり(つまり所定の手続きで確認されたと位置付けられる論文等が出ていない)、「メディアでの報道がない」ということは意味していない。だから、岩田教授の発言と、私が報道記事を見た(見つけた)ということは矛盾しない。「〜という事実がある」ことと「〜という報道がある」ことは必ずしもイコールではなく、「事実はあるが報道がない」ことも「事実はないが報道がある」ことも、ありふれている。「〜という報道があったのに、岩田先生はないと言っている」という疑問や不安を覚えている人には、何か発言する前に、まず前提として、このことを再確認していただきたいと思う。

というわけで本題だが、「再感染」云々の英語の記事フィードなどを見たときに控えておかなかったので、今回改めて "infection second time coronavirus" といったワードでGoogle検索してみると、近いところではアメリカのタブロイド、ニューヨーク・ポストの20日付記事が見つかる。「再感染 reinfection」と、見出しでも本文でも言っている。

Whistleblower doctors say coronavirus reinfection even deadlier
https://nypost.com/2020/02/19/whistleblower-doctors-say-coronavirus-reinfection-even-deadlier/
Chinese doctors sounding the alarm on the coronavirus say the illness could be even deadlier for patients who catch it again, according to a report.

The whistleblowing physicians working to fight the virus in Wuhan, the epicenter of the outbreak, revealed that medically cleared patients have been getting reinfected, the Taiwan News reported.

“It’s highly possible to get infected a second time,” one of the doctors, who declined to be identified, told the outlet.


NYポストのネタ元の「タイワン・ニュース」は1949年創刊の英語メディアだそうだ。日本語版ウィキペディアには「台湾本土派」なる説明がなされているが、台湾や中国に特段の興味を持っていない私にはこれが何のことだかわからない(調べたからわかるんだけど、ここでは必要ないディテールだから書かない)。中国と台湾という極めて政治的にセンシティヴな領域にかかわることで、そういう媒体の言ってることを「ソース」として参照することは、まあ、普通の感覚なら躊躇するだろう。多くあるソースのひとつとして参照するのならよいかもしれないが、このようにシングルソースで参照するのは、控え目に言って「危ない」ことだ。

実際、このメディアの他の記事を見てみると「人工ウイルス説」やら何やらが出てきて、ちょっとどうなの、という印象だ。

だが、そういうことはこの媒体が掲載している話を人々が信じることの妨げにはならない。むしろ、「ほら、やっぱり人工ウイルスなんだ」という方向に人々は傾くだろう。

「河童は実在するんだよ。だって東スポがそう書いてるんだもの」と言ったら笑われるだけだが、「人工ウイルスなんだよ。だって反中国共産党のメディアがそう書いてるんだもの」と言ったら、ドン引きする人もいるかもしれないが、うんうんと深くうなずく人もいる。

で、上記NYポストの記事は20日付だが、英語圏をざーっと見ている限り、この件について大手メディアが後追い報道しているということはなかった。10日経過しても大手が報道していないということは、裏づけがないと考えてよいだろう。

さらに、このNYポストより100倍くらい拡散力のある英国のゴシップメディア(ごくごくまれに、まっとうな報道が出ることがあるが、9割9分はゴシップと憎悪煽動と芸能ネタ)であるデイリー・メイルが、2月6日付で次のようなド派手な記事を出している。こちらは「再感染」を "get the SARS-like infection AGAIN" と、めっちゃエモーショナルな大文字使いで書き立てている。いかにもデイリー・メイルの書きそうな見出しだ。

Patients who have recovered from the killer coronavirus can get the SARS-like infection AGAIN, Chinese doctor claims
https://www.dailymail.co.uk/health/article-7973905/Patients-recovered-killer-coronavirus-infected-AGAIN.html

本文では、ソースとなる論文などを示さず、次のように書いている。
Patients who recover from China's deadly coronavirus are at risk or relapsing or catching it again, a doctor working in the outbreak has warned.

One of the riskiest elements of the coronavirus is that people have no immunity to it because it's completely new.

And although the body is able to become partly immune to some viruses – like flu – or almost completely immune to others – like chickenpox – reinfections do happen.


書き出し部分ではこのように "reinfections do happen" と断言しておきながら、その舌の根も乾かぬうち(2文先)ではメイルはこう書いている。
Dr Zhan Qingyuan said there is a 'likelihood of relapse' for patients who have recovered from the coronavirus.


"likelihood of relapse" は "reinfections do happen" と言い換えられるものではないと思うが、デイリー・メイルなので、こういうめちゃくちゃな論法は珍しくない(メイルはこうだから、信用しちゃいけないメディアとされている)。

さらにこのように「中国の医師の話」を書いたあとで、「英国の専門家は否定的」ということを、申し訳程度に書き添えている。
Experts in the UK told MailOnline it was unlikely that Dr Zhan's claim is true and that there is so far no evidence of people relapsing from the virus.


そしてそのあとは、それぞれの説の詳細を述べるセクションだ。まずは「再感染はある」ということを述べているセクションだが、ここではソースも示さずに、CGTN という報道機関が伝えたことを単に英語にして掲載している。CGTNは、調べてみると、「中央電視台」だCGTNのYouTubeチャンネルでCoronavirus関連の映像の一覧を見てみたが、reinfectionがタイトルに入った映像は見当たらなかった。続いて記事にある医師の名前で検索したら次の映像が出てきた。2月1日付になっているので、メイルが参照しているソースは間違いなくこれだろう。



そのセクションに続いて、英国の専門家が「再感染は考えにくい」と述べたうえで、「しかし100%ありえないとはいえない」という極めて常識的な見解を示していることを、「ありえなくはない」という方向に傾きをつけるような文体で書いている。

そのあとはもろもろ最新情報などが書かれている箇所なので、その下は読んでいない。

というわけで、「再感染」は6日に英デイリー・メイル、20日に米NYポストが伝えているのだが、他の、自然科学の分野の扱いがもっとまっとうそうな大手メディア(BBCとかガーディアンとかワシントン・ポストとか)が後追い報道している様子はない。つまり、「再感染」という事実が確認できるものが何もないのだろう。

以上が、先ほど下記のようにツイートしたことの中身である。






さて、上述したようなパニック煽動的なタブロイド報道が英語圏で話題になっていたとき、よりアカデミックな(専門的な)説明もまたネットでは取り上げられていた。それが下記だ。





COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスと心臓の関係について、気になる人は、専門家向けで難しいことは難しいが、英語が読める人なら読めなくはないので、このサイトをチェックしておくのがよいのではないかと思う。(きっとほかにもチェックしておくとよい専門サイトはあるのだろうが、私は専門外なのでたまたま検索で見つかるところしかわからない。)
Diagnostic and Interventional Cardiology magazine
https://www.dicardiology.com/



さて、冒頭で述べたBuzzFeed Japan記事の見出しについて。







当該の医師のビデオがネット上でかなり流行っているとのことで、BuzzFeed記事の見出しは「あー、あのビデオ、見た見た。ほんとかな。ほんとだったらこわいな」とうっすらとした不安を感じていたり、「デマを撒くな!!」と激怒していたりする人々にはピンと来るのだろう。

しかし私はそんなビデオが出回ってることも知らなかったし、そもそもYouTubeでニュースをフォローするという発想がないので(あんなん、日本語であれ英語であれ、「まとめサイト」と何も違わない)キャプチャ画像を見てもピンと来ず、「医師が……専門家が……」の見出しで何を言ってるかわからなかったのかもしれない。

※この記事は

2020年03月01日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 23:01 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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