英語冠詞大講座 猪浦 道夫 ディーエイチシー 2016-01-20 by G-Tools |
もちろん、積読技能は日々磨きをかけねばならないので、この本も積読中です。とはいえ、購入する前に都心部の大型書店で中を見て、第1章から第5章は「それかー」とか「そこかー」と言いながらノリノリで一気読みしてしまったので(といっても30ページ程度)、まったく手付かずというわけではありません。第7章も、すぐに必要としていたことが書かれていたため、早い時期に読んでしまいました。
目次は下記の通り。これよりもさらに細かい(小見出し入りの)目次が、版元のサイトにおいて画像で提供されています。(さらに、各章ごとの本文中の表&収録できなかった表もDLできるようになっています。)
第1章 序論―冠詞とは何か
第2章 冠詞が名詞に与える様々な情報
第3章 名詞の分類
第4章 名詞の4つの世界
第5章 名詞の各語形がもつ本質的な意味
第6章 不特定概念の名詞の分析
第7章 一般概念名詞の分析
第8章 特定概念名詞の分析
第9章 無冠詞名詞のまとめ
第10章 固有名詞と冠詞の徹底研究
第11章 「原則」を修正させるファクター
第12章 形態と統辞上の注意
Appendix 表
演習問題
https://www.dhc.co.jp/goods/goodsdetail.jsp?gCode=895210
目次の最後にちょろっと1行だけ出てくる「演習問題」が500題もあって、解答解説とあわせて本の厚さの半分を占めています。だから、全体で352ページの本ですが、読むところは180ページくらいです。180ページ程度、読み始めたらすぐに読めてしまうはずですが、何しろ中身が濃い。「怒涛の知識」な感じだから、勢いに乗って読んだほうが逆に頭に入りやすいかもしれないけど、年も年だし、昔のようには勢いに乗れない。
その濃い中身の本に何が書いてあるのか、10字以内でまとめよと言われたら(誰もそんなこと言わないけど)、「英語って、変だよね」ということです。すばらしい。そう言ってくれる本を待っている百万人(推定)にとっては必読の1冊。
著者の猪浦道夫さんはめっちゃたくさんの言語がおできになります。外大のイタリア語学科卒、同大学院ロマンス言語学研究科修了で、12ヶ国語の翻訳にたずさわり、7ヶ国語の語学研修講師ができるという方で、「ポリグロット外国語研究所」の代表を務めておられるということで、あたしなんざドジでノロマな亀でしかないという現実に秘儀「あー、あー、聞こえない」の術を駆使して立ち向かうよりないという感じですが、そういうパースペクティヴをお持ちの方が、英語の冠詞(および冠詞に必ずついてくる名詞……いや、主客が逆転してるか、名詞についてくるのが冠詞なので)について「ここが変だよ」と指摘してくださるので、「ですよねー」「なるほどー」「ですよねー」「なるほどー」連発で読み進めていくうちに、ああ、スッキリ!
……という1冊であることは確実なのですが、何せ積読技能研鑽のために完全なる「スッキリ!」を棚上げしている状態ですから(なお、「スッキリ!」を棚上げしているスペースは実在しません。本棚には空きはありません)、具体的にどこがどう、ということはまだ言えません。
だから、この本によって私の長年の疑問―― "I am an anti-Christ, I am an anarchist" であるときに、なぜ、"I wanna be anarchy" であり、 "I wanna be an anarchy" ではないのか――が氷解するのかどうかは、まだわかりません。(念のため、このような疑問を抱いているということは、「"an anarchy" であるべきだ」と考えていることを意味しない、ということを書き添えておきます。伝統的には、anarchyはmass-noun, つまり「不可算名詞」だからということになるのですが、実際には「可算名詞」としての用例もないわけではないんですよね。結局は「英米差」オチでも驚かないけど、その場合なぜ英米で分かれたのかという疑問が出てきます。ああ、きりがない。これが英語沼。)
というわけで全部読んだわけではないのですが、拾い読みしたところによると、「くっそー、なんでCity Bankは無冠詞なのに、The Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ, Ltdはtheがついてるんだよ」といった疑問について、江川の英文法ばりの「〜する場合もある」的解説で答えてくれていそうです。(そして2018年4月以降は、The Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ, Ltdからは定冠詞もコンマも消え、MUFG Bank Ltdになりました! もうね、わけわかんないから全部ローマ字にしてって感じ)
英文法解説 江川 泰一郎 金子書房 1991-06-01 by G-Tools |
ところで、この『英語冠詞大講座』はたいへんに有益な1冊なのですが、初学者――いや、英語に関しては日本では普通に公教育を受けてきた人の間には「初学者」はまずいないので、「初級者」か――には向いていません。自分で英文を書く人向け。
いや、単に「英文を書く」だけでなく、"I am musician in Japan" だの "Japan is one of a great country in Asia" だのといった、巷に氾濫している「通じればいいや」的な英文ではダメというまっとうな世界に身を置いている人向け。
むしろ、「あなたの英文はtheが多すぎ」とか言われたときに、「これについての論理的説明なんて、ないものねだりだよね……」と淋しい笑みを浮かべておふとんかぶって寝てしまう人向けです。
詳しい内容については、私が積読技能研鑽期間を終えて本を読了したときに、また書くことにしましょう。(何のフラグ)
なお、猪浦さんのこの本に関しては、「英語の話だけしてりゃーいいのに、イタリア語とか英語以外の言語について書いててムカツク、ひけらかしてんじゃねーよ」的な、なんかどうしようもないというか残念すぎる感想文がamazonなどの「レビュー」と称される欄に投稿されてたりしますが、英語についての本において英語以外の言語への参照がなされることを本気で「ひけらかし」と思うような人は、英語に絞って解説してる本を買って読んだほうがよいのではないかと思います。
例えば1990年代に出た正保富三先生の『英語の冠詞がわかる本』は、20年後の2016年に「改訂版」が出ています。
英語の冠詞がわかる本[改訂版] 正保 富三 研究社 2016-03-17 by G-Tools |
「改訂版」にはハリー・ポッターが入ったりしていることはもちろん、正保先生は日々「生きた英語」を眺めては傾向を観察されてきたようで(インターネットが使えるようになって1番喜んだのは「生きた英語」観察組ですよね。サブカルとかテキストサイトとかの盛り上がりは確かにあっただろうけど、本質的に、日本語圏に閉じた人たちはネットってものをフルには使ってないわけで)、「定冠詞は消えていく」ということについての新しい記述は楽しそうです。
ちなみに、正保先生はイギリス英語の方なので、例文がこちら寄りです。For he's a jolly good fellow.
いずれにせよ、英語の冠詞についてのこういう解説本を読んで「めんどくせぇ」とだけ思う人、苦痛に感じる人には、こういう本は向いていないだろうと思われます。「めんどくせぇ(にやにや)」という人には向いています。そう、学者・研究者や辞書屋、オタク、マニア向けなのです。
「めんどくせぇことはいいから、もっとざっくりと」と言う向きには、普通の文法書でいいんじゃないですかね。ロイヤルとか、あるいはもっと高校生向けの学習英文法参考書とか。
ロイヤル英文法―徹底例解 綿貫 陽 須貝 猛敏 宮川 幸久 高松 尚弘 旺文社 2000-11-11 by G-Tools |
総合英語Evergreen 川崎 芳人 墺 タカユキ いいずな書店RT 2017-01-01 by G-Tools |
アトラス総合英語 英語のしくみと表現―ATLAS English Grammar and Expressions 佐藤 誠司 長田 哲文 ロングマン辞書編集部 ピアソン桐原 2012-12-01 by G-Tools |
ジーニアス総合英語 中邑光男 山岡憲史 柏野健次 大修館書店 2017-10-11 by G-Tools |
夏バテと風邪でほぼ身動きが取れません。そのスキに、積読本を読みたい。そう思ってブログに書いてみました。これでまた1冊くらいは読むだろうと。
※この記事は
2018年08月17日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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