ホーキング博士は天才物理学者だそうだが、物理の素養がない私には何がどう「天才」なのか、実はわからない。信頼できそうな人たち&機関がみんな「ホーキング博士は天才物理学者」と言っているのでそれが前提になっている。個人的には、ALSという残酷な病で身体を動かす能力を奪われながら、テクノロジーを駆使し、思考を言語としてアウトプットできるのだということを示してくださった方というインパクトが何より鮮烈だ。そして、見た目では止まっているように見えても、人の中は、ものすごくたくさんのことが高速で動いているんだということについても……同じ病で早く亡くなったトニー・ジャット先生が、最後の何ヶ月かの日々の一部(ALSで自由を奪われた人の日常)をガーディアンを通じて公開していたが、それについて「ホーキング博士と同じ」ということで自分も理解がいったし、ジャット先生を知らない人にもわかってもらいやすかった。ホーキング博士が積極的にメディアなど公の場に出て発言していたことの意義は、その発言内容の意義とは別に、ある。それもとても大きな意義が。
そういった活動の一環、というか、英国外のうちらが「しまった、この人、イギリス人だった」と思ってしまうようなユーモア感覚を示す場として、ホーキング博士はTVのコメディにゲストとして出演したことがある。
英国では毎年春に、Comic Reliefというイベントが行われる。日本でいえば「24時間テレビ」のようなチャリティの風物詩で、お笑いの人を中心に、芸能界とメディア全体が赤い鼻をつけて盛り上がる。そのイベントの2015年のとき、BBCの連続コメディ番組Little Britainの「車椅子の人を介助するルー」のネタで、ホーキング博士が「介助される側」として出演した。ただし、そこはもちろん、ただ「介助される側」で終わりはしない。すごい展開を見せるクリップは必見である。英語わかんなくてもたぶん話はわかる。
LO RES - Comic Relief 2015 - Little Britain with Stephen Hawking from daffylondon on Vimeo.
そしてこの2年後、2017年(昨年)のがこちら。
Stephen Hawking's New Voice | Comic Relief Originals https://t.co/UViXRUm24y 去年(2017年)のコミック・リリーフ企画。「ホーキング博士が新しい声を探しています」ということで著名人の応募が殺到……しかし、というベタなコメディ。(・_・)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
一瞬出てくるビル・ゲイツと、けっこう長く喋ってるレベジェフ(ロシア人)のところがくせになるので注意。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
この「コメディ」に出てくる著名人については、検索すればいくつかの記事が出てくるが、下記が一番詳しかった。
http://pop.inquirer.net/2017/03/actors-auditioned-to-be-stephen-hawkings-new-voice/
私も全員はわからず(「米語で喋ってる女優さん」としか認識できない人がいる、など)、これを見て「ああ、なるほど」と思った。まあそんなことより、完全に真顔でリーアム・ニーソンが「持ちネタ」を惜しげもなく披露していることだけでも見る価値がある。
でも何よりわからなかったのが、最後だ。【ネタバレ回避のため背景色と同じ文字色にしておきます→】「誰、この、近所のストリートマーケットで『3つで2ポンドだよ』という呼び声の『3』を "free" と発音している露天の八百屋みたいな激烈コックニーさんは」【←ネタバレ回避策ここまで】と思ったのだが、上記pop.inquirere.netに「多分この人」としてリンクが貼られているから、各自確認されたい。この人のこういう喋り方は私はあまり聞いたことがなかった(出身がそうだということは知ってても)。
ともあれ、こういうのに積極に出てしまう「車椅子の天才物理学者」だったのだ。しかもめちゃくちゃ楽しそうに。
Galaxy Song Monty Python Live in O2 Arena Aka Steve vs. Brian https://t.co/ysNAVj4k9C 追悼の真顔大会をみなさん、さあ。 (・_・)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
モンディ・パイソンのこの映像(歌の歌詞はこちら)で、「どーでもいいようなことをぺらぺらぺらぺらとよくしゃべるね、お前さんは」とホーキング博士の車椅子になぎ倒されているのが、物理学者のブライアン・コックス博士(TVによく出ている科学者で、ヒッグス粒子発見のときはものすごい大騒ぎしてたんだけど、若い頃(90年代)はミュージシャンで、トニー・ブレアの労働党がテーマソングにした曲を出したバンドでキーボードを弾いてた)。
https://t.co/QNGX5iSymj ブライアン・コックス先生の追悼の辞。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
Sad to hear about Stephen Hawking. What a remarkable life. His contributions to science will be used as long as there are scientists, and there are many more scientists because of him. He spoke about the value and fragility of human life and civilisation and greatly enhanced both
— Brian Cox (@ProfBrianCox) March 14, 2018
— Rosie Richens #FBPE (@sarah_richens) March 14, 2018
ロンドンで開催された2012年夏のパラリンピックでは開会式に登場し、スピーチを行った(大学のサイトに文面あり)。元々傷痍軍人の活動として始められた「障害者スポーツ」(amputeeによるスポーツ)は、時代とともに拡大し――expandし――今もなお拡大し続けている。その「肉体の限界にとらわれない、人間としての可能性」を追求するという「人間性」を、ホーキング博士は見事に言語化していたし、見事に体言していた。
Prof.Stephen Hawking's words in Paralympics 2012 opening ceremony https://t.co/zX5zh2g7oZ 2012年、パラリンピック開会式(ロンドン大会)でのホーキング博士。
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
そしてお笑いのセンス。ちなみにそのニュースはこちら。これでまた何百万人もの女子のハートが壊れたんですが、その崩壊のエネルギーが世界に与える影響は……と質問したくても、もう質問できる博士はいない。
https://t.co/TdJoY7ubGZ そして、ゼイン・マリクが1Dを抜けたあとに行われたシドニーでのQ&Aセッションにおけるおもしろい回答。(ホーキング博士が亡くなったのがアインシュタインの誕生日で円周率の日だと言われてるけど、一方でゼインがジジ・ハディドと別れたというニュースがあった日でもある)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
ホーキング博士はALS啓発の「氷バケツ・チャレンジ」にも参加……ただし既にALSであるご本人が冷水をかぶるのではなく、お子さんたちを動員。ふつう、こういうことできないし、やらないっすよね。
Professor Stephen Hawking ALS Ice Bucket Challenge (Official Video) https://t.co/2XiYxc46Va 氷バケツチャレンジにも参加(というか代理の参加者を送った)
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
肉体を捨てたら、車椅子もコンピューター・スクリーンも不要になりますね。
From artist Mitchell Toy pic.twitter.com/MiDEEK4tMh
— Meg Stuart (@megstuart) March 14, 2018
— Dr Doom (@tw1tt3rman) March 14, 2018
みんなこんな感じで楽しく故人――止まったコンピューター――を偲んでいる。2015年のComic Reliefの(たいへんにきわどい)ネタにもあるが、ホーキング博士は宗教を信じていなかった。神も天国も、人間の想像力の産物であるとする立場だ。だが神の不在を証明することはできない。だから、Twitterにいる「神」のこの反応は、「わかってる」感がすごい。人が亡くなったときに意味も考えずに「ご冥福を」と言う人たちのわかってる度が0だとしたら、この「神」が100だろう。
I thought this was quite good. pic.twitter.com/FOvBR7akfd
— Pablo #FBPE (@BillyBigBoleaux) March 14, 2018
これこそが人間じゃないですかね。
'Remember to look up at the stars': the best Stephen Hawking quotes https://t.co/T1B1zupOA4 スティーヴン・ホーキング語録。英語の教材としても優良。「IQを自慢する奴は痛い」「神は存在しない。宇宙は誰によっても作られていない。誰も人の運命を方向付けない。天国も来世もない。だから…」
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
BBC News - Stephen Hawking dies aged 76 https://t.co/NZ06UjHxX8 スティーヴン・ホーキング博士死去。 pic.twitter.com/6xTfSkuTdq
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
modern cosmology's brightest star https://t.co/es0XYAKudj "For fellow scientists & loved ones, it was Hawking’s intuition & wicked sense of humour tht marked him out as much as the broken body & synthetic voice that came to symbolise the unbounded possibilities of the human mind"
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
Carl Sagan - 'A Glorious Dawn' ft Stephen Hawking (Symphony of Science) https://t.co/Hc4LKzQ1H9 2009年に作られたautotuneによる楽曲。米ポピュラー・サイエンティストの故カール・セーガンと、英宇宙物理学者スティーヴン・ホーキング。"A morning filled with 400 billion suns"
— nofrills/新着更新通知・RTのみ (@nofrills) March 14, 2018
— Denise O'Neill (@HappilyAgeing) March 14, 2018
A still more glorious dawn awaits
Not a sunrise, but a galaxy rise
A morning filled with 400 billion suns
The rising of the milky way
The Cosmos is full beyond measure of elegant truths
Of exquisite interrelationships
Of the awesome machinery of nature
I believe our future depends powerfully
On how well we understand this cosmos
In which we float like a mote of dust
In the morning sky
But the brain does much more than just recollect
It inter-compares, it synthesizes, it analyzes
it generates abstractions
The simplest thought like the concept of the number one
Has an elaborate logical underpinning
The brain has its own language
For testing the structure and consistency of the world
https://www.youtube.com/watch?v=zSgiXGELjbc
当ブログ、「訃報ブログ」化してきてますが、そうしたいわけじゃないです。うん、何とかしないとね。アイルランドの件とか書いておくといいんだけど、とにかくもうめんどくさいというかややこしくて。あと、何を書こうとしてもモンティ・パイソンのビデオの中のブライアン・コックス先生みたいにぺらぺらぺらぺらとどうでもよさそうなことをとうとうとしゃべってる感じになる。
※この記事は
2018年03月16日
にアップロードしました。
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