「ブラッドリー」は米軍人(情報分析官)で、イラク駐留米軍で仕事をしていて、米軍がイラクやアフガニスタンで何をしてきたかについての現場の記録や大量の外交公電、バラク・オバマが「閉鎖」を公約し、大統領に就任して最初に文書にサインしながら結局は閉鎖することができなかったグアンタナモ収容所での文書類など多くの機密ファイル(と機密指定されていなかった大量の文書)を、「レディガガ」と書いたCD-RWを使って、密かに持ち出した。持ち出されたそれらの記録や文書は、当時はまだ「内部告発サイト」だったウィキリークス(ダニエルもいた頃のことだ)に、匿名で送られた。送り主が誰なのかわからないそれらのファイルは、大手メディアのジャーナリストたちによる検証というプロセスを経て、ウィキリークスと各メディアで公開された。
2010年4月「コラテラル・マーダー」と題されたビデオ:
https://www.youtube.com/watch?v=5rXPrfnU3G0
※今から10年前、2007年7月12日にイラクのバグダード市内で武装勢力による米軍に対する攻撃が発生した直後、米軍ヘリが街路にいる非武装の民間人(うち2人はロイターのジャーナリスト)を標的として攻撃を加える一部始終を記録した軍のビデオ。当時、米軍が何かと連発していた「コラテラル・ダメージ」を皮肉って「実際のところ、殺人だ」というタイトルをつけたのはウィキリークス。
2010年7月「アフガニスタン戦争ログ」を報じたガーディアンのカテゴリー・ページ:
https://www.theguardian.com/world/the-war-logs
2010年10月「イラク戦争ログ」を報じたガーディアンのカテゴリー・ページ:
https://www.theguardian.com/world/iraq-war-logs
※このころまだザルカウィが "al-Qaida kingpin" と扱われてますね。2014年夏以降は「イスイス団のルーツ」となって、ザルカウィがAQとは常に距離を取っていたことが明確に説明されるようになってますが、この頃はまだ「ずっと前に死んだAQのテロリストの親玉」だったので。
2010年11月〜12月「米外交公電」を報じたガーディアンのカテゴリー・ページ:
https://www.theguardian.com/us-news/the-us-embassy-cables
「コラテラル・マーダー」の映像が公開されて1ヵ月もしないうちに、「ブラッドリー」は軍当局に身柄を拘束され、軍の拘置施設(刑務所)に入れられた。オンライン・チャットで自分がこれらの記録を盗み出したと語った相手が、司法取引によって、「ハッカー・コミュニティ」の中からFBIに情報をもたらすようになった人物だったのだ。
それから随分時間をかけて、当局は「ブラッドリー」を起訴し、軍事法廷で裁判を行なった。容疑の中には「スパイ罪」も含まれていたが、最終的には「スパイ罪」は無罪となり、情報を盗み出したことなどで有罪判決が下され、禁固35年というとんでもなく重い刑罰が言い渡された。
軍刑務所に拘束されている間に、「ブラッドリー」はGD(ジェンダー・ディスフォリア、性別違和)の診断を受け、当局には依然として男性扱いされながら、ホルモン投与など性別適合の治療を開始した。名前も「チェルシー」と改名し、「代名詞は女性形 (she, her, her, hers) を使ってほしい」という意思を表明した。
そのチェルシー・マニングが、2017年5月17日、釈放された。任期中、「内部告発者」への締め付けを強める一方だったバラク・オバマが大統領として最後にやった大きな仕事が、情報漏洩で有罪となったマニングの、あまりにも長い「禁固35年」という刑を、大幅に減刑することだった。
……ということについて、本人のツイートやニュースのフィードなどを中心に、一覧できるようにしてあります。
チェルシー・マニングが釈放された。
https://matome.naver.jp/odai/2149531902254898801
釈放後の彼女は、「気心の知れた友人たちと、おうちで乾杯〜」みたいな調子で、まるで「ベタなインスタグラマー」だ。
刑務所で自殺をはかったと報じられたこともあった。少なくとも一度は病院に運ばれもした。でも、彼女は生きている。生きて「ベタなインスタグラマー」のような投稿ができている。
chelsea manning being a normie instagrammer is the goddamn best thing
— merritt k (@merrittk) May 18, 2017
性別適合が進んでいる様子が如実にわかる写真(本人がアップしたもの)を見て、ほんとに、自殺してなくてよかったね、と思う。
チェルシー・マニングへの支援を目的とするコンピレーション・アルバムが出ています。試聴・購入(ダウンロード)は下記から。価格は25ドル。収益は100パーセント、チェルシーに送られるそうです。
https://hugsforchelsea.bandcamp.com/
チェルシーの友人でクイアのシンガーソングライターであるエヴァン・グリアが企画し、トム・モレロ、サーストン・ムーア、アマンダ・パーマー、グレイアム・ナッシュといったビッグネームのほか、Against Me!, Anti-Flagなどのミュージシャンたちが楽曲を提供、現時点で30曲以上が集まっていて、1曲目(曲じゃないんだけど)はREMのマイケル・スタイプによるイントロダクション(スピーチ)。
http://www.rollingstone.com/music/news/tom-morello-thurston-moore-contribute-to-chelsea-manning-comp-w482462
マイケル・スタイプのスピーチ。
エヴァン・グリアはガーディアンにOp Edを寄せてます。
I reflected in The @Guardian about what I learned from Chelsea Manning while fighting for her freedom https://t.co/WBW63xwVNR #ChelseaIsFree pic.twitter.com/R1JsQlYdVw
— Evan Greer (@evan_greer) May 18, 2017
もちろん、ネット上に展開されているのはこのようなうるわしい光景ばかりではありません。むしろこのような「あたたかな支援」を攻撃するような性質の毒々しい光景のほうが目に付きやすいかもしれない。チェルシー・マニングが「スパイ罪」で(起訴はされたが)無罪の判決を受けたということを知らないか、知らないふりをしている連中が、「売国行為をした人物をリベラルが歓迎しているが、じゃあトランプさんへの攻撃のことを説明してもらおうか」的なことを言っているとか(同時多発的に……あの人たちはFBなどで調整して同じ内容の意見を違う言葉で一気にネット上に放流するということをやってるので、今回もそうじゃないかなと思いますが)、(私は何でもかんでも「〜フォビア」と呼ぶ最近の風潮には強い違和感を持ってるのですがそれでも)「トランスフォビア」そのものとしか言いようのない言葉がはき捨てられているとかいうのが、ネット上の現実です。
それでも、そのことは、チェルシー・マニングの存在と、彼女への支援の存在を打ち消すものではありません。
※この記事は
2017年05月22日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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