「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2017年01月20日

「ポスト・トゥルース」に対処するには「ポスト・トゥルース」をぶつけてやるのが一番……なのか? 根拠のない出まかせで有名ネットメディアとその読者が爆釣

1年前の自分なら眉をしかめて見ていたであろう。今は「いいぞもっとやれ」と拍手喝采している。

1916年について書かれた「すべてが完全に変わった All changed, changed utterly」(イエイツ)という言葉がこの上なくふさわしい2016年を経て、私も変わった。自覚できるくらいに変わった。

そのことを思い知らされたニュース。

そのソースがBuzzFeedというのも、ああ、変わったな、というポイントのひとつなのだが(以前も書いたが、BuzzFeedというウェブ媒体は、BuzzとFeedという媒体名を見ればわかるとおり、元々は「ネット上に落ちているものを拾い集め、おもしろおかしく構成して、なるべく多くのクリックを稼ぐ」ことを徹底的にやって大成功した「パクリメディア」の代表格で、創設から何年もの間、基本的に、猫写真とか「初デートあるある」的な時間つぶしの読み物とか「くだらねぇ」と笑うためにやるクイズ・診断の類を見に行く先でしかなかった。シリアスな方向に展開しだしたのは、そうやって知名度を上げて資金を調達し、UK版を展開するなどして、FTなど一流メディアで仕事をしてきた実力あるジャーナリストを何人も引き抜いて「報道」部を作るようになった後のことだ。BuzzFeedに関する英語版ウィキペディアも、「沿革」のところに沿革を書いたセクションがないとかいう状態でずいぶん統制が入っているようだが、下の方にある「批判・議論」のセクションに2012年や2013年に何があったかが一応書かれている。ちなみにBuzzFeed UKの現在の編集長は、エドワード・スノーデンの「暴露」報道を行なったときのガーディアンUSのトップで、ほかにもガーディアンからジャーナリストが移籍している)、どうやらアメリカでの「ネット言論」界においてBuzzFeedは、先日の「トランプ・ロシア文書」の公開によって、完全に、「反トランプ」の急先鋒という地位を獲得したようだ。一方で、ネット上のトランプ応援団のメディアの中には、かつてBuzzFeedでコピペ切り貼りに笑えるGIFを貼り付けたような記事を書いてた人たちも入っているだろうし、何と言うか、こんなところで「諸行無常」っすか、という心境にもなる。

閑話休題。余計な話をする前に書こうとしていた「ニュース」というのは、下記である。「ポスト・トゥルース」がメタ化してえらいカオスだ。




BuzzFeed (US), いいぞ、もっとやれ。

……というわけでBuzzFeedが伝えているのは、あるスコットランド人が、陰謀論界隈では超有名サイトであるInfowarsに、自分が思いついた事実無根のでっち上げのガセネタを送ったらどかーんと掲載されてしまったというどうしようもない一件である。つまり、Infowarsは掲載する話(「情報」とも呼びたくない)について、事実かどうかの確認・裏取りなんかまったくやらない、ということだ。

それでもあの「メディア」を信じる人は大勢いる。認めたくないかもしれないが、その現実は認めなければ話が始まらない。あんな「メディア」が信じられているのは、「大手マスコミ、エスタブリッシュメントは信用できないから」だ。911以後(もう15年以上になる)、特にネットのように、開かれているようでいて実はタコツボという場において、そういう感情、そういう心理に大なり小なりさらされてきた人ならあの異様な空気感がわかるだろう。

一応注釈的なことを書いておくと、Infowarsの中心人物は「911陰謀論」のアレックス・ジョーンズで、最近の事件では「サンディ・フック小学校銃撃事件なんてなかった」(オバマと連邦政府が銃規制を実現しようとしてでっち上げた架空の事件で、報道に出てきて泣いていたのは遺族ではなく、遺族を演じた俳優である、というめちゃくちゃな主張)、「ボストン・マラソン爆弾事件はでっちあげ」(実はやったのはFBIで、俳優が負傷者のふりをしているとかいう「検証」がウェブ上で大々的に行なわれた)とかいうことを言っている。彼やその関係者がドナルド・トランプの応援でいかに大きな役割を果たしたかについては、アレックス・ジョーンズを昔から知っているジョン・ロンソンが電子書籍で書いている(ていうかジョン・ロンソンがジョーンズとそんなに深い知り合いだったとは、驚いた!)。Amazon Kindleでしか読めないが、単独で購入しても200円ほど、Kindle Unlimitedの読み放題に入ってもいるので、ぜひ読んでいただきたい。抱腹絶倒と苦笑いと貧血とめまいを一度に味わえるから。

B01LXOO7UQThe Elephant in the Room: A Journey into the Trump Campaign and the “Alt-Right” (Kindle Single) (English Edition)
Jon Ronson
2016-09-27

by G-Tools


BuzzFeedの記事を書いたジェイミー・ロスさんは、まだ若いジャーナリストだが、元々はBBCスコットランドの人(2014年9月のスコットランド独立可否レファレンダムのときに目立っていた現地のジャーナリストの一人)。その記事で伝えられているのは、グラスゴー在住でメディア関係者でも政治家スタッフでもなんでもない27歳の男性が、Infowarsの編集者(記事には名前が出ているが、Twitterで目立ってる「イケメン・アイコン」の彼)にTwitterのDMで「NBCのジャーナリスト」と名乗り、自分が思いついた架空の「スクープ情報」を送ったら、それがそのまま無検証で掲載されて、ネットでえらいバズってしまった、という話だ。

Markus Muir, a 27-year-old marketing professional from Glasgow, sent direct messages on Twitter to Infowars editor-at-large Paul Joseph Watson claiming BuzzFeed News and CNN were due to release harmful footage of Trump.

The report, which has now been shared over 15,000 times on Facebook, directly quoted the messages, which claimed the footage of Trump showed him using the n-word in a previously unseen outtake of The Apprentice.

Muir, who claimed in the messages to work for NBC, has revealed he was the single source for the report in the form of an account which he set up solely for the prank. He said Watson did not ask for any evidence that he worked for NBC or about how he gained the information.

https://www.buzzfeed.com/jamieross/this-guy-tricked-infowars-into-publishing-a-completely-fake


こんなん、1年前の私だったら「政治的にどういう方向性であれ、意図的にゴミを撒き散らかすのはやめろ」と憤慨していたに違いない。

でも今はそう思わない。「いいぞ、もっとやれ」と喝采している。決定的に自分の中で何かが変わったのだ。だって、「意図的にゴミを撒き散らかしている」度合いのひどさで言えば、ナイジェル・ファラージとかマイケル・ゴーヴとかボリス・ジョンソンとか、ドナルド・トランプのほうがもっと上だ。そしてその連中は「民主的な手続き(投票)」で勝利をおさめて高笑いがおさまらない状態で、ますます活発にゴミ撒き活動にいそしんでいるのだ。しかも合体している。



こうして私はこれから、英語で「シニシズム cynicism」と呼ばれる態度を、ますます自分のものとしていくのだろう。

BuzzFeedの記事から、もう少し。特に太字にしたところはホラーだ。

It was not until after the Infowars report was published that Muir contacted BuzzFeed News in New York and revealed his role in it. To verify his claims and view his messages with Watson, a reporter then met Muir in person in Scotland.

“I said I worked at NBC and couldn’t say any more,” said Muir. “It was only two direct messages and I thought he might ask for more confirmation. I went to bed, forgot about it, then I checked his feed on the train to work and it was just him saying there was huge news about to come out.

“I couldn’t believe it. It was a cut-and-paste job of what I said to him and it was all bullshit – I made it all up.”

...

In the message exchange with Muir, Watson pledged that Jones would pass on the information to “Steve B” or Steve Bannon, the former executive of Breitbart News who has been appointed Trump’s chief of strategy.

Muir said he watched in astonishment as the news spread on right-wing news outlets and social media profiles, sometimes with other false information – such as that it proves CNN owns BuzzFeed – added to his original lie.

https://www.buzzfeed.com/jamieross/this-guy-tricked-infowars-into-publishing-a-completely-fake


自分たちが信じている媒体に「書かれていること」「言われていること」は何でも信じるという人たちがいて、そういう人たちの間で、根拠があろうとなかろうと「書かれていること」「言われていること」は、どんどん拡散・増幅されていくのだろう。カルト教団とその信徒たちみたいなものだ。

そして、今日以降の世界の主導権を握ったのは、そういう人々である。

関連して:








ちなみに当方は、「トランプ・ロシア文書」についてはほとんど何も見ていない。もろに「MI6対FSB」の撃ち合いそのものの中に、いくらドアが開放されてて「どなたさまもご自由にご覧下さい」と立て札が立てられているからといって、観客・傍観者として入っていこうと思うほど、私は好奇心もメンタルも強くない。この文書のことは言及するだけでも「CNNを信じているバカ」などの罵詈雑言を頂戴することになると思われるので、一応、蛇足だが、書いておく。

一応、文書の性質についての説明だけは、ウィキペディアから引っ張ってきておこう。つまり、元々は #NeverTrump 陣営のやってた調査だということ。
The dossier was produced as one part of an opposition research investigation during the 2016 United States presidential election. The research was initially funded by Republicans who did not want Trump to win the Republican Party presidential primaries. After Trump won the primaries, a Democratic client took over the funding, and following Trump's election, Steele continued working on the report pro bono.

https://en.wikipedia.org/wiki/Donald_Trump%E2%80%93Russia_dossier

※この記事は

2017年01月20日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 15:00 | TrackBack(1) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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ケベックのモスク銃撃事件に関する「シリア人難民犯人説」というデマと、トランプ支持者界隈。そして、ボストン・マラソン爆弾事件のときの先例。
Excerpt: 1つ前のエントリで、1月29日にカナダのケベックで発生した極右過激派によるモスク襲撃(6人死亡、ほか負傷者多数)について書いた。襲撃者が「極右過激派のローン・ウルフ(組織という背景を持たない単独犯)型..
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2017-02-05 19:10

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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